4:ラインハルトの若き将
PV1000アクセス突破
これも読者の皆さまのお陰です。
これからもよろしくお願いします。
4月30日(日)14:00
春の陽気な日射しが差し込むなか、学園最大の競技場メインスタジアムに佇む影がふたつ。
「ステラ、どこからでもかかってきな。」
「カイト、それなら遠慮なく行かせて貰うわよ。」
この競技場は観客収容人数1500人を誇り、今はその半分ほどが学年や学科を問わず学園の生徒と先生によって埋め尽くされていた。ただの一年生二人の試合にここまでたくさんの人が駆け付けた訳を語るには少し時間を戻さないといけない。
4月28日(金)放課後
今週はミーティングで決めた行動方針に元で平日は授業をしっかりこなして、放課後はその復習に費やし、休日と言えど午前中は座学の復習をして、午後は各自の自由時間に当てていた。
「何だか物足りないのよね。カイトもそう思わない?」
「ステラもそう感じてたの。」
ここ最近何だか物足りない気がする。試験に向けて座学もしっかりやってるし、剣術の修練だって毎日やっている。本当に何が足りないと言うのだろうか?
「それで思うんだけど、私達って皆に教えることはあっても、授業以外で身に付けてるものが少ないんじゃないかって。」
「それがどうした?」
「ようは提案なんだけど、私と試合しない?」
そう言うことか、家を再興するために親父とじいちゃんに鍛えられた俺と魔法やめさせられて、無理やり槍術を叩き込まれたステラには、今の状況が物足りない。つまり、実践経験が少なくなっているというわけだ。
「別に俺はかまわ・・・・」
「二人ともちょっと待ったーー!」
別に校則違反でもないのに何で止められなきゃならないんだよ。
「いきなりどうしたのレインちゃん?」
「ちゃんはやめてって言ってでしょう。そんなことよりその話は別の部屋で聞かせて。」
ただ友達と試合するだけなのに学園長室まで連れてきていったい何にが始まるのだろうか?
「君らの試合が私達の知らないところで終わってしまうのはとても悲しいことだ。」
「はぁ。それが何か?」
出会っていきなり発せられた学園長の言葉の意味を一瞬で理解するのはとても難しかった。
「君ら二人は男女のトップなんだよ。そんな二人の試合が誰にも見られないまま終わってしまうよりかは、これがが今年のツートップの試合だってことを皆に見せようよ。」
「それは王竜戦を待てば良いだけなのでは?」
本当のツートップの試合はは王竜戦の決勝戦がそれに相当するはずである。
「生徒なら見れるかも知れないけど、その時に間近で見ることができる騎士学科の教員は担任だけだし、ほかの学科の教員となると自分の研究の発表なんかで忙しくなるからね。それに私も国宝陛下の隣を離れるわけにはいかないから。」
自分が見たいだけなのでは?それならわざわざ皆の前で行う必要はないだろう。
「待ってください学園長先生。私達の当面の目標は試験です。」
「ステラの言う通りこの試合はただの息抜きです。それが本命になっては駄目だとおもいます。」
「君ら二人の意見は間違ってはいないよ。だけど正解でもない。」
学園長先生は席を立ち、カーテンを開け放った。そこには夕陽が赤く輝いていた。
「それはこれからこの国の軍部を担っていく君らがどちらかと言うと智将だからだよ。もちろん、猛将と智将の率いる軍では智将が率いる軍相手の方が戦いづらい。しかしもっと戦いづらい将がいる。それは何故かわかるか?」
「武勇と知略の両方を兼ね備えた将の存在。」
「その通り。さすがは元将軍の息子だ。」
「どう言うことよ?」
「先生こいつにも分かりやすくお願いします。」
将軍家の血なのか俺にはピンと来たがステラにはもっと噛み砕いてやらないと駄目みたいだ。
「今の君らは自軍の兵(友達)を率いる将だとしよう。自らは策を練り兵(友達)を訓練する。それだけでは剣術鈍ってしまうから、たまには決闘もする。そういう将が智将だ。もし君らが軍師になり誰かの元につくというなら、それでも構わない。しかしそれでは君らの理想とする自ら先陣切って戦う将とはほど遠いだろう。だから剣術だけを身に付ければ良いというものでもない。」
「つまり、武勇と知略の両方を兼ね備えた将に俺達はなれるってこと。」
不思議な顔をしてステラが俺の方見てくる。学園長先生と俺の説明どこか間違ってたかな?
「それが大勢の前で闘う事と関係あるの?」
「それぱ、試験一週間前の週末に本物の騎士団顔負けの決闘を繰り広げた二人は、武勇だけじゃなくて知略も兼ね備えていることをその一週間後の試験でトップを取って証明するってこと。あってますよね学園長先生?」
「その通りだ。それに指揮官同士の決闘は部下にいい刺激を与えることができる。」
ようやくステラは納得したようだ。
「もともと試合をする予定だったから模擬戦が決闘になるのは別に構わないけど、その場合は何を要求する予定なの?」
すっかり忘れてた。決闘として競技場で行う以上、ノーレートって訳にはいかない。ルールを王竜戦と同じにするだけでは要求にならない。
「それなら俺が勝ったらステラとお父さんの親子喧嘩に介入する。もちろんルールは王竜戦と同じ属性魔法の禁止。武器は槍と剣のどっちでもいいけど、決闘中に時空間収納魔法による出し入れはなし。これで良いかな?」
「それで良いわよ。」
少し突っ込んで欲しいところがあったのにあっさりスルーされてしまった。
「二人の同意も取れたことだし。その決闘の審判は私が行う。日曜日になるとは思うが明日には場所と時間を伝えるようにする。」
「「はい!」」
そして、寮に戻ると皆が噂をしていた。レインちゃんがいち早く伝えちゃったみたいだ。それから二日後ようやく冒頭のあのシーンである。
4月30日(日)13:45
まだ試合開始の十五分前であるにも関わらず、大勢の人がメインスタジアムに詰めかけていた。それは、皆に見せるためとは言え学園の全ての掲示板に
『ツートップ対決
御家再興を目指す少年カイト・ブラック
VS
魔法を奪われた美少女ステラ・カーマイン』
と言うタイトルで俺達の決闘が告知されると言う思っても見ない方法で広められていたからある。そしてVIP席には国王陛下とアスラン殿下を始め、中央の貴族達の姿があった。
「只今よりカイト・ブラックとステラ・カーマインによる決闘を学園長の審判のもと始めさせていただきます。実況はわたくしレイン、解説ゴドフリーでお送りいたします。よろしくお願いします。」
「ゴドフリーです。よろしくお願いします。」
そしてこのメインスタジアムには、音響設備と言うものが設置してある。原理は解らないが、なんでも魔導工学による発明らしい。
「下馬評では、槍術に長けるステラさんが一歩リードと言う具合ですけど、どうでしょうか?」
「今回の決闘は身体強化魔法は有りと言うことなので始まってみないと何とも言えません。」
観客の声が響いてうるさいがそれも一瞬にして静かになった。防音フィールドが展開されたのだ。それによって観客席から聞こえるの雑音の音量が小さくなるのだ。
「そろそろ時間だ、二人とも準備は良い?」
「ステラ、どこからでもかかってきな。」
「望むところよ。時空間収納魔法・開放!」
「それではこれより決闘を行う。両者に神のご加護があらんことを。」
学園長先生の言葉の後、銅鑼の重く体に乗りかかる音が鳴り響いた。それと同時に俺はステラとの間合いを詰めた。ステラは先程ストレージから愛用の槍を取り出していたため、槍術使いを相手に間合いを広くとると槍のリーチが長いため防戦一方になってしまうからだ。しかしその分懐に入り込むことで、こっちに有利な状況に持ってく事ができると言う俺の予想に反して、ステラが丸腰で間合いを詰めてきた。
「驚いた?」
「槍が囮だったとわね。」
「そう。本命はこっちの剣。」
俺はステラの得物は槍だと決めつけてしまっていた。それに開始直前にストレージから槍を取り出したことで腰に剣が吊るされていたことを見落としてしまった。普通に考えたら剣術を必修としている騎士学科の生徒であるステラが剣を扱えないわけがないのである。このお陰で固定観念に縛られてはいけないと言う教訓を学ぶことができた。
「だとしても、その剣はとても軽いよ。一撃を受けただけですぐにわかる。」
「こうすれば良いだけよ。」
ステラが身体強化魔法を発動した。それによってさっきまでの軽くて手数重視だった斬撃が重くなっていた。それでも身体強化魔法を発動していない俺が押し負ける程ではないので一撃をただ受け止めるだけなら容易である。しかし一撃の重さだけではなく斬り返しの速さがさっきよりも速くなっているため、今はなんとか防いでいるが気を抜くと一気にもってかれてしまう。なんとか一度間合いを開けたて体勢を立て直したいところなのだが、ステラの斬撃は身体強化魔法を発動する一瞬さえも与えてくれない。それにしても流石はステラだ魔力の制御が上手く無駄なところは一切強化していないので、息を切らす素振りも見せてくれない。
「今だ!」
俺はステラが渾身の一撃を放つためにできた僅かな隙を見逃さず、その連撃から逃れることができた。だが、逃げているだけではなにも始まらない。そんなことをしていたら、ステラの魔力が切れるよりも前に、俺のスタミナが尽きてしまう。もしかりにステラの魔力が先に切れたとしても、そんな勝ち方では意味がない。
「そろそろ第2ラウンドとまいりますか。」