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異世界転生 ~記憶が戻るとスラム街~  作者: 山本 大和
第二章 ラインハルト学園 1年生編
17/28

3:クラスの現状

 あれから三週間、クラスの中が俺と平民出身者、ステラ達女子から成る派閥とフランクフルト辺境伯の息子ジャンクを中心とした派閥に真っ二つにわれていた。もし仮に派閥ができるとしたら貴族出身男子・俺+平民出身者・女子達に別れるのが妥当だろうと俺は思うのだが、辺境の地ではまだ男尊女卑の考え方が残っており女性が騎士になることは許されておらず、辺境出身の男子が多いこの学年では、女子と共に学ぶことが気にくわないらしい。その上、女子がゴドフリー教官の指導を受けていない事を妬んだ貴族出身のやつらから執拗に嫌がらせを受けているため、同じ敵を持つものとして協力体制がしかれている。


「本当にあいつらどうにかならないの?いくらこの学園に合格したと言っても、男子に力が劣る女子相手に魔法なしの模擬戦で痛め付けることのどこが楽しいのかしら。」


今日もステラが俺に愚痴ってきた。この学園の騎士学科では生徒同士による、試合が奨励されている。その試合も木剣を用いる模擬戦と実剣を用いる決闘の二つがあり、模擬戦は双方の同意のもとであれば、指定された場所でならいつでも行える。また、決闘も双方の同意が絶対条件だが、こちらは騎士学科の先生と魔導師学科の回復術師(ヒーラー)の立ち会いのもと行われる。そのどちらも挑戦を申し込まれた方が条件を指定することができる仕組みになっており、女子を挑発して模擬戦を申し込ませ、条件として魔法使用禁止を突き付けて、挑発されて冷静さを失い、なおかつ魔法が封じられ、身体強化が使えない女子をただ力で痛め付ける。これが嫌がらせの実態である。


「だったら、挑発に乗らなければいいだけでしょ。模擬戦以外での私闘は校則違反なんだから。」

「そんなこと、彼女達が許せるわけないでしょう。」


ステラが言うに騎士を目指す女子の多くは、男の兄弟がいるため婿養子をとる必要もなく、このままでは政略結婚に利用されると危惧した父親によって騎士として育てられているらしい。つまり彼女達にとって騎士を目指すことを否定される事はすなわち、ここまで自分を育ててくれた父親を否定されている事と同じことであり、到底その事を許せるわけがないのである。


「それならステラが片っ端から叩いていけば。」

「あいつら、私が申し込むと恐れ多いだとか抜かして必ず拒否するのよ。」


そして、試合を申し込まれた方にはそれを拒否することができる。そのため自分が負けるとわかっている相手の挑戦は受けずに、格下からの挑戦だけを受けることが可能になる。そのため、ステラが申し込んでも必ず闘えるわけではないのである。


「ステラで拒否されるなら、俺が申し込んでも無理なんじゃないかな。」

「そうだけどさ。だからって指をくわえて見てるわけにもいかないじゃない!君もそう思うよねレックス。」


ステラの愚痴を聞きながらレックスの午後の散歩をする。これがここ最近の日課である。今日のステラはレックスにまで訴えている。俺にはどうすることもできないが、このまま放って置くのもダメな気がする。


「レインちゃんに相談してみたら。」

「いくらレインちゃんでも、こればっかしはどうにもできないよ。だってあいつらが規則を破ってる訳でもないのよ。」


先生達が動けるのはあくまで模擬戦の場において、一対一の原則が破られた場合や実剣の使用などがあった場合のみで、今回のようなケースでは動きたくても動けないのである。ちなみに模擬戦においての一対一とは人数比の事でありダッグ戦なども可能である。


「それじゃあ、夕食が終わったら一回みんなを集めてよ。明日からまた授業があるのにこの空気はまずいから。」

「わかったわ。」


やれることはやるつもりだ。これで何が変わるとは思わないけど、やらないよりはましだ。


 夕食を食べた後、寮の談話室にはステラとユーナを始め、アンナ、クロエ、サラ、セシル、ナタリー、ハンナ、フィーナ、ユミルの十人と俺一人が一堂に会していた。今日始めて話をする子もいた。


「今聞いた話をまとめると、みんな放課後や週末に一人で剣の自主練やルームメイトと打ち合いをしているときに絡まれてるって事だよね。」


いったんここで皆の顔を見渡す。しっかり頷いてくれているので、おおかた間違ってはいない。


「それなら、これから先は学園の外周をランキングしたり、図書室で座学をやったりすれば、それで剣術の修練はステラがいるときにすれば良いだろう。なんなら俺も手伝えるし。根本的な解決にはならないだろうけどひとまず安心じゃない?」


皆の目が輝いている。苦肉の策だけどこれなら何とかなるだろう。要するにあれだよ、同じ空間でやらなければ良いだけの事だよ。


「それにさ、5月に入ると試験もあるんだから数学や歴史、地理や兵法の勉強をすることは無駄じゃないし、実技の時だってただ上体だけの剣よりもしっかり走り込んだ足腰と鍛えられた体幹から放つ剣の方が重いのは間違いないし、走ってるのもダイエットって、言えば誰も文句言えないでしょ。」


キャーキャーはしゃいでいるが、よっぽど父親を否定されるのが嫌だったのだろう。俺としては今日に至るまでこの考えに思い至らなかった事が申し訳ない。ひとつだけ言い訳していいとしたらそれは今までステラからの伝聞に過ぎなかったことだ。一人一人の話を聞くことでようやく思い付くことができたのだ。


「今思うと簡単に解決できたのね。」

「いや、あの策は女子に矛先が向かないようにするためで根本的な解決はまだなんだ。」

「それなら試験の結果を見せつけてやれば良いのよ。」


まぁ、その方法なら女子が自分より劣った存在ではない事実を認めさせる事ができる。しかし、それで収まるとは思えない。あいつらの事だ、もっとエスカレートするのではないだろうか。


 それからの五日間は女子に対する嫌がらせはおきなかった。しかし、その矛先が平民出身者に向けられただけだった。


「はーい皆、二週間後の5月8日からの二日間に始めての試験があるのはご存じですね。これがその範囲です。実技試験もあるので剣術の自主練をしても良いですけど、座学も忘れないよーに!」

「「「はーい!」」」


と明るい声でいう女子と


「「「えぇ~~」」」


という男子の声が二つ混ざって聞こえた。今日、試験範囲が発表されたのは俺達にとって好都合なのである。


「それと今回の実技の結果で7月に行われる王竜戦の組合せを決めることになってるから。」


王竜戦とは7月の建国記念日の週に行われるトーナメントの大会である。今回の試験の上位8人は同じ予選に入れる事はなく、決勝トーナメント出場に有利になる。このお陰であいつらはもっと座学の方を疎かにするに違いない。これで益々俺たちに有利な状況を作ることができる。明日土曜日は朝からミーティングでもするとしよう。


 俺の予想通りあれだけの試験範囲なのに、朝から剣術の修練に行ってしまった。


「皆、今日は俺の呼び掛けに応えてくれてありがとう。知っての通り女子への嫌がらせが俺の案のせいで、矛先が君たち平民出身者に向いてしまった。すまない。」

「あの状況ではあれが最善よ。謝らないで。」

「そうだ、女子に向いているよりかはましだ。」


ここにいる嫌がらせを受けていた女子と男子の皆から一斉に否定されてしまった。


「そう言ってくれると助かる。」

「それで、ただの謝罪のために私達を集めた訳じゃないよわね。」

「あぁ。皆は何で騎士学科を選んだ?俺は兵を率いる将としての知識と実力をつけるためだ。」

「「あぁ、俺(私)達もだ!」」


皆も大元のところは俺と同じらしい。


「しかし、俺が思うにあいつらの中の理想の騎士像は一騎討ちの強い剣士、そんな気がする。ただ剣術を使う剣士なら、ハンターにでもコロシアムの剣闘士にでもなればよかっただけだ。一騎討ちが強いことも立派な将であるための要因の一つであるがそれが全てではない。」

「そうね、隊長一人が強いからってその隊が活躍するとは限らないしね。」

「その通りだよステラ。自軍の兵士との信頼関係、有利と不利の判断、地図の分析力と天候の判断、それを元にした作戦の立案能力がないといくら一騎討ちが強くても将は勤まらないと俺は思う。」

「その通りだ、だから俺達はカイト元に集まっている。」


照れるじゃないか、ライアン。


「その事実を今回の試験で示して見せようじゃないか!」

「「「おーーー!」」」


この調子なら座学の方は問題ない。それに今回の実技試験は身体強化魔法の使用が前提である。あれはあくまでもとの力を強化する魔法なので、難しい制御をマスターするより、もとの力の底上げをする方が効率がいいのである。例えるなら一に百をかけても百だが、十に百をかけたら千になる様なものだろう。これから毎日ゴドフリー教官がやってるように身体強化魔法なしでトレーニングすれば、力の弱い女子と言えど、男子に敵わない事もない。

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