2:クラスメイト
昨日の夜はすっかりライアンと話し込んでしまい、今日の朝は普段より一時間も遅くに起きてしまった。時刻は午前7時半、幸いなことに週末の食堂は午前8時まで朝食をとる事ができるため、ライアンと共に急いで食堂へ向かった。一度に騎士学科40人全員が来ても良いように、席が用意されている食堂は、ほとんどの人が食べ終わっているため、かなりがらがらに感じられた。それぞれの寮には食堂があって、代金は払わなくて良い。量と味と栄養バランスは申し分ないが、献立は毎日決まっており、自分の食べたいものを頼みたいときは、校舎のなかに入っているレストランで購入することになる。貴族出身のほとんどがそのレストランで食事することをステータスと捉え、ゼロ円食堂の方で食事をすることはないらしいが、この寮の料理長(男)の料理は毎年貴族の女子からの評価が高く、今年も例外ではない。
「リョーマさん、遅くなりました。」
「おう。すぐにできるから、先にご飯と味噌汁よそっとけ。」
そしてこの食堂はご飯と味噌汁はセルフサービスである。セルフでご飯と味噌汁をよそったあと、カウンター席に座った。
「隣良いかしら。」
「別に構わないけど、お前も寝坊か?」
「まぁね。」
これだけ席が空いているのだから、わざわざ隣に来なくても良いのに、ステラが隣に座ってきた。その隣にいるのはステラのルームメイトだろうか。しばらくして、リョーマさんが今日のおかずを運んできた。今日のおかずは鯖の味噌煮と玉子焼きだ。冷めないうちにいただくとしよう。
「カイト、暇なら買い物に付き合って。」
「買い物って時空間収納の中に沢山入ってるのに、まだ何か必要なの?」
「女子の買い物はそんな簡単に説明できるものじゃないの。」
「まぁ暇だし、レックスの散歩が終わってからならいいけど。」
「その散歩、私もついてくわ。」
「何でだよ?」
「「おいカイト(ねぇステラさん)勝手に話を進めるなよ(ないでください)。それに今日は俺に(私に)この街を案内してくれるはずじゃなかったの(です)か?」」
俺は一体どこでそのような約束をしていたのだろうか。寝不足のせいでかいつもより頭の回転が遅い。
「「言われてみればしてたような。」」
俺とステラの言葉がはもってしまった。そんなことはどうでもいいが、何か忘れてるような気が。
「あっそうだ。ライアンのこと紹介するのを忘れてたよ。ステラ、彼はライアン、俺のルームメイトだ。」
「ステラ・カーマインよ、得意分野は槍よ。よろしくね。」
「ライアンです。こちらこそよろしくお願いいたします。カーマインさん。」
「ステラで良いわよ。それとカイト、彼女が私のルームメイトのユーナよ。」
「カイト・ブラックだ。名前で読んでくれてかまわない。」
「ユーナ・レオンハートです。細剣の腕には自信があります。」
やっぱり、友達に自分のルームメイトを紹介しないのは、おかしかった。
「皆で街に行くってのはどう?それなら、ユーナもライアン君もいいでしょ。」
「「はい。それならいいですけど。」」
「なら、それで決まりだね。レックスの散歩にはステラと二人でいくから、部屋で待ってて。」
天気もよくて絶好のお散歩日和であるとはいえ、少し風が肌寒い。まぁこれぐらい上着を羽織れば大丈夫だ。お揃いの上着を着た俺とステラはレックスの散歩にいくために、校門を出た。
「あっ!」
「貴方はあの時の」
そこには、かつて図書館で一緒に勉強をした女の子がたっていた。
「ジェシカじゃない!」
「ステラちゃん、久しぶり。」
「合格おめでとう。」
「ありがとう。」
あれこの二人知り合いだったの?随分と仲のよろしいご様子ですけど。
「君たちは一体どういうご関係で?」
「覚えてないの?彼女はジェシカ、シルヴィア公爵家の跡取り娘。」
「はぁ~~~!それじゃあ、この娘があのじゃじゃ馬で跳ねっ返りのおてんば娘だって言う気!」
嘘だ、あいつがこんなにおとなしい訳がない。
「恥ずかしいので、昔話はやめてください。それに性格の矯正ぐらいできます。カイトさん。ようやく会えましたね。」
本当にジェシカみたいだ。そして図書館の少女でもある。それからはジェシカを加えて、学園の敷地の外を一周するコースを散歩した。途中でいろんな犬に会ったけど、邪魔者扱いされることはなかった。
校門に戻ってジェシカと別れ、レックスを犬小屋へ預けにいくと、そこには、ライアンととユーナが待っていた。
「それじゃあどこから行きますか。」
「まずは、中央公園の展望台はどうかしら。王道だけど王都の案内には欠かせないでしょ。」
以前、サクラとこっちに着たときは、雪が積もっていたため登ることはできなかったが、雪がなくなったら登る事ができる。今日みたいな晴れの日には遠くの南海岸線まで見ることができるだろう。予想通りの混雑具合だったが、何とか登ることができた。しかし、思ったよりも南側の雲が厚くて海岸線は見えなかった。他の都市にもこれくらいの高さの建物はあるのだが、ほとんどが軍の施設であるため、領主の娘であっても登る機会は登ることがないらしく、街を一望できるこの展望台をライアンだけでなくユーナも喜んでくれた。ここから見ると王都のだいたいの分布がわかる。東には工場が多く集まっている。南から西にかけてはセントラルシティで働く人の家や、豊かな牧草地が城門の外に広がっているため厩戸が多くある。生憎北側は背後に王宮があるため見通すことはできない。ここセントラルシティには王宮をはじめて国の重要な機関が多く集まっている。そして王都が放射・円環路型の都市であることがよくわかる。
「次は雑貨屋にいくわよ。」
ステラ曰く、何かを見つけ出すことが買い物の極意であり楽しみであるらしいが、必要な時に必要な物を必要な分だけ買うのでは駄目なのだろうか。それにしても雑貨屋なだけあって皿や箸から他国の骨董品まで沢山のものが売られている。俺とライアンは真っ先に鑑賞用としておかれている、ヤマトの刀に目が行ってしまった。やっばり剣士は同じことを考えるらしい。女子二人はティーカップを見て回っている。気に入ったものを見つけたらしく、ガラス製のポットと二人で色違いのカップを買っていた。普通は寮の部屋でお湯なんか沸かせれるわけがないけど、魔法で何とかなるらしい。それは精霊魔法全属性の適正が高いステラだからなせる技だ。ちなみに時空間収納の中には茶葉や珈琲豆が入っているらしい。
雑貨屋を出たあと、大衆食堂で昼食を食べた。その後はセントラルシティ中の腕の良い武器屋を見て回り、ライアンの武器を購入した。なんでも、祖父の形見の剣を常日頃他人の目にさらしたくないらしい。それから服屋にやってきた。俺とステラは寮で着る部屋着は沢山あるのだが、ライアンとユーナの二人は制服と体操服しか持っていない。そのお陰で昨日はライアンに部屋着を貸していたのだ。
「二着ぐらい買っとけよ。雨降ったりしたら乾かないんだから。」
「忠告、ありがとさん。」
男物の部屋着なので数も少なく、ライアンの方は簡単に決まったのだが、ユーナの胸はこの年にしては大きい方であるステラのよりも大きく、なかなかちょうど良いサイズが見当たらないらしい。
「ねぇステラ、店員さんに見繕って貰えば?」
「それもそうね。すいませーん、ちょっと良いですか?」
そしたら中からこれまたスタイル抜群のお姉さんが出てきた。
「どうかなさいましたか?」
「なかなかこの子にあった良いサイズの部屋着が見つからなくて。」
なんと言う事でしょう。店員さんはいとも簡単にユーナにあった服を探し出した。
「これおいくらでしょうか?」
「1298Pになります。」
「私これ買います。」
これだけの物が上下セットでその値段なら結構お買い得だろう。ちなみにPとはこちらの世界の通貨で1P=10円である。
そして
王札 一万P
金貨 千P
銀貨 百P
銅貨 十P
青銅貨 一P というのがこの世界の基準だ。
買い物を終えて店の外に出ると、たまたま同じ騎士学科の中でも地方貴族出身のやつらとばったり会ってしまった。
「これはこれは、ステラ嬢ではありませんか。罪人の息子などはほっといて、僕たちとお茶でもどうでしょうか?」
地方の有力貴族、フランクフルト辺境伯の息子だ。あそこは、かの戦争で領地の大半をバルト公国に奪われ、かなり親父の事を恨んでいる。
「私の前で彼の侮辱をするのはやめてください。それにあなた方は、入学式での彼の言葉の意味を理解していないのですか?それから私はいつあなたに名前で呼んで良いと許可しましたか?穢らわしいのでやめなさい。」
「女が命令するな!もういいや、行くぞ。」
他のやつらを引き連れて、街の中へ消えていった。そこまで怒んなくても、仮にも同じ学科の同級生なんだぞ。こんな早々と関係を悪化させてどうする。
「今日はもう帰りましょう。お茶は帰ってから、ユーナと二人で飲みます。」
「そりゃいいや。」
明日から本格的に授業が始まる。今日はしっかりと疲れをとって明日に備えるとしよう。