表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 ~記憶が戻るとスラム街~  作者: 山本 大和
第一章 スラム街の平定
14/28

13:サヨナラと新天地

本日二回目の投稿です。

  統一歴496年3月29日


二日前、家に届いた合格通知には30日の朝に一人で学園にくるようにと書かれた紙が同封されていた。これが何を意味しているのかは今の俺にはわからない。


「今日でこの街とも一旦お別れか。」


 思い返すといろんな事をこの街で体験してきた。俺は物心ついて間もない頃に親父の失脚でこっちに引っ越してきた。ここに来なければじいちゃんがここまで近い存在にはなってなかったし、あの子達に兄として慕われることもなかった。それにサクラやタケル、ルナ達とも友達になってもいなかった。それにここまで自由に少年時代を過ごすことは出来なかっただろうと思う。


「元気でね、手紙ぐらいは寄越すのよ。」

「わかったよ。母さんも元気でね。」


たくさん書けるとは思わないけど、元気でやってることは伝えてあげよう。


「カイト、この国は広い。あの学園には腕に自信のある同世代の子達が集まってくる。その中でしつかり揉まれてこい。そして死線を共に越えてくれる友を見つけてこい。孤独な将軍ほど寂しい者はいないからな。」

「わかりました。肝に銘じて起きます。」

「父は友と言ったが、将来の伴侶も見つけてきて構わんぞ。」

「冗談きついよじいちゃん。俺は首席卒業しなくちゃいけないんだから。それに戻ってくるまで倒れないでよね。」

「儂を年寄り扱いするでない!」


この調子ならまだまだ大丈夫だろう。じいちゃんが元気な間に騎士団を再編したい。


「私の子として胸を張って行ってこい。」

「はい。今まで大変お世話になりました。」

「達者でな。」


この家にはこれから三年間は絶対に戻ってくることはできない。再び戻ってくるまでに男としても騎士としても大きくなっていなくてはならない。


「ワォン!ワォン!」

「レックス、お前ついてくる気なのか?」


レックスが尻尾をふって俺の問いに答えているみたいだ。俺も連れていけだそうだ。そうだよな、いつも一番近くにはお前がいたもんな。


 家族への挨拶を終えた俺はまずはスラム街に行って皆とお別れをしたあと、ルナのところの宿屋に寄る予定だ。何だかんだで女将さんには結構助けられたからな。


「それにしても今日に限って誰もいないんだよ。」


俺がスラム街に来たのに誰一人見当たらないのだ。せっかくハンターの必需品万能ナイフをプレゼントしようと思っていたのに。いないなら後でもう一回よれば良いだけだ。最初に宿屋に行くとしよう。宿へ途中でタケルに会った。俺が今日ここを出る事を伝えると、タケルはなにも言わずにそっと右手を差し出し、俺はその手を握り返し固く握手をした。無言の友情というやつだ。何十秒間握りあっていたのだろうか。その一瞬がとても長く感じた。タケルとわかれた俺は、レックスと共に宿に来ていた。


      “本日貸し切り”


どれだけの団体予約が入ったんだろうか。まぁ俺は客じゃないから関係ないか。


「カイトです。お邪魔します。誰もいないんですか?」


貸し切りだからってルナも女将さんも店番しなくて良いのかよ。それにしても昼なのに食堂の扉が閉まっている。台所の方にいるのだろうか。恐る恐る中に入るがとても暗い。ここにはいないと思って部屋から出ようとした時に、背後から風船が一斉に割れる音が聞こえた。すると明かりもついてそこにはユージ達と一緒に女将さんとルナもいた。


「「カイト兄ちゃん、今までありがとうございました!学校でも頑張ってください。」」


泣けてくるじゃんかお前ら。女将さんも貸し切りにしてまで付き合ってくれて。


「今日行くって伝えてないのになんでわかったの。それに今生の別れでもないのにここまで盛大にしてくれなくても。」

「フレイアさんが教えてくれたわよ。それにもともとこの日は予約もなかったから、やるなら皆でやったほうが良いじゃない。」

「ルナ姉や女将さん達とは違い、ハンターになったら俺達いつ会えるかわからないんだから。」


それもそうだ、ギルド支部とダンジョンは全世界にある。力を付けたら他の国へ渡ってもおかしくない。


「今日の飯は俺が腕によりをかけて作った。遠慮せずに食べてくれ。」


そういいながら、大量の豚カツをマスターが運んで来てくれた。マスターとはこの宿の料理長であり女将さんの夫だ。すなわちルナのお父さんだ。


「それじゃあ、お言葉に甘えて。いただきます」


マスターの料理は俺の中では母さんの飯の次に毎日食べても飽きない料理だ。やっぱりマスターの豚カツはいつ食べてもおいしい。それに豚カツはとてもご飯が進むのだ。それに流石に酒はないが飲み物も豊富である、孤児達にとってははじめての豚カツではないだろうか?


「ユージ、マスターの料理美味しいだろ?」

「こんなにも柔らかいお肉はじめてだよ!」

「ハンターになったらいつでも食べれるようになるんだよな!」


おいおい、いくら美味しいからっていつでもってわけにはいかないだろうよ。


「ダメよポック、たまに食べるからこんなにも美味しいのよ。それにいつでも食べたら太ってしまうよ。」


さすがはスズネしっかりしている。この子がついてるなら、ユージとポックも無茶な真似はしないだろう。頃合いだろうか皆箸がとまってきている。


「ユージ、ポック、スズネ、お前達三人は来年からギルドに登録することが出来るようになる。ハンターになるお前達にささやかな贈り物をしたい。」


そういって俺はバックの中にしまったさっきの万能ナイフを3本取り出した。


「俺はただこれだけを贈る。実用性に優れたナイフだ。これさえあれば護身用にも剥ぎ取り用にも使えるだろう。」


後はサクラだけなのに、あいつはどこにいるのだろうか?


「ルナ、サクラはどこにいるの?」

「カイト兄、今は部屋にいると思う。皆の前に出るのは辛いみたいだから。」

「カイト君ちょっとついてきてくれる。」


女将さんに連れられて俺はサクラの部屋の前まで来ている。


~サクラ視点~


「サクラ、俺だよ。返事できないならそのままでもかまわない。だから話だけ聞いてくれる?」


部屋の外でカイトの声がする


「俺さ、お前に助けられたんだぜ。サクは俺がこっちに来て初めてできた友達なんだ。あの時の俺は貴族の生活から一転して庶民の生活をしなくちゃならなかった。いろいろ慣れないことがあって戸惑ってた俺になんて言ったか覚えてる?」


私はなんて言ったのだろう?結構前の事だから覚えてないよそんなこと。


「あの時のサクは俺に、『家族は一人でできない事つらい事を皆で助け合う存在。だからここのスラムは血は繋がって無いけど皆が家族。』って言ったんだよ。俺はサクのあの言葉で立ち直ることができたんだ。今更だけどありがとう。それじゃあ、俺はもう行くね。できることなら笑顔のサクに見送って欲しかったけど。」


何よそれ、そんなこと言われたら、こんなことしてられないじゃない。それに三年間待ったらまた会えるのだから。


~カイト視点~


「本当に会わなくてよかったの?」

「はい。サクラにはしっかりと伝わったと思います。」

「そう。それじゃあ、気を付けて行くのよ。」

「はい。」


俺は皆に見送られて宿を後にした。


 そろそろ検問所につく頃だろうか、人の通りが多くなって来ている。


「ワォン!ワォン!」


レックスが吠えた、その直後に俺は背中から抱きつかれた。やっぱり来てくれたのか。


「まだ振り返らないで!もう少しこのままでいさせて。」

「サク。それなら目を閉じていてよ。」


懐からあれを取り出した俺は、サクの首にかけて挙げた。


「もう目を開けても良いよ。」

「これ何?」


背中越しにサクが聴いてきた。


「その首飾りを俺の分身だと思ってくれ。先についているのは『アクアマリン』三月の誕生石だ。石言葉は幸福、それを身に付けてれば俺がいなくても大丈夫だ。もしもなんて事は絶対におこりはしない。」

「ありがとう。大事にするわ。もうこっちを見ても良いわよ。」


振り返るとそこにはアクアマリンのネックレスを首から下げて、笑っているサクがいた。


「私も頑張ってカイトが守った、スラムの子達を守るから、貴方は自分の為すべきことをやって。」

「うん。お願いね。それに笑っている方が断然かわいいよ。」

「そんなこと、言わなくてもわかってるわよ。それじゃあ、元気でね。」

「あぁ。」


これでこの街とも一旦サヨナラだ。セントラルシティで宿を取った俺は、王立ラインハルト学園の校舎にきていた。やっぱり王都一の教育機関なだけあって、造りが豪華だ。ここがこれから三年間お世話になる学校だ。

次回から新章突入します。

舞台はラインハルト学園です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ