12:魔法と剣術
セントラルシティとは違い祝賀祭の熱も早々に冷めて、日常を取り戻している東の街では、今日も朝から孤児たちの元気な声が響き渡っていた。何故こんなにも元気が良いのかと言うと、今日からちゃんとした剣術と魔法を教えるからだ。
「まず、魔法は大きくわけて二種類ある。1つ目は人がそれぞれ体内に持っている魔力を用いて発動するもの。これはコツさえ掴めれば誰にでも発動できる。二つ目が火水風土光闇の六大精霊の力を借りて発動するものだ。これは精霊魔法と言い生まれ持った適正によって発動しなかったり、仮に発動したとしても使い物にならなかったりする。一般的に精霊魔法を扱える人の事を魔導師という。俺には精霊魔法の適正がないから教えることはできない。だから今日は誰にでも習得可能な、体内の魔力を使う超基本、身体強化魔法を教えようと思う。」
そう言いながら、その辺に落ちていたレンガを拾ってユージに渡す。
「ユージ、これを手刀で割ってみな。」
2、3発当ててみたがびくともせず、俺の事を睨んできた。そう怒らないでユージ、君達の中で一番体術のセンスがあるんだから。
「普通は10才の子供が割れるような物じゃない。例え俺がやったとしても一発で真っ二つには出来ない。でも身体強化魔法を発動することで、ほらこの通り真っ二つに。」
皆から、感嘆の声があがった。ユージにもこの魔法の凄さが伝わったみたいだ。
「カイト兄ちゃんの右手が少し光ってたけど、それが強化された証拠?」
「さすがはユージだ、良いところに注目している。今は右手だけを強化したから右手だけが発光したけど、ここまで制御するには数をこなさないといけない。しっかり制御できれば下半身を強化してスピードをあげたり、握り拳の一点だけを強化することもできる。だけど今はまだ無理だ。今日中になんとか発動のコツを掴めても、全身から発光する。その状態でもレンガを割ることはできるけど魔力がもって5分だ。」
たがら俺は剣術をやる前から早いうちに身体強化魔法を教えたかったのだ。それに魔力は子供のほうが感じやすい。
「まずは発動するところまでやってみよう。魔力は自分の体の細胞ひとつひとつの中にある、呼吸はゆっくり深呼吸、そうすることでよりいっそう魔力を感じやすくなる。」
発動が一番手っ取り早いのは、俺が親父とじいちゃんにやられたように死地を経験させて、身体の限界を超えたときに反射的に発動させることだ。大半のハンターは自分より強い敵に遭遇したときに発動する。これでは一気にストッパーをはずすため、制御ができるようになるまでに時間がかかる。そのためその後しっかりと誰かが面倒をみてくれる時専用の発動法だ。個人差が出るがその後の制御のことを考えると、しっかりと自分の中の魔力と向き合って発動させる事にした。
「そろそろ自分の魔力を感じてきた頃だと思うけど、感じることができたならそれにひとまず力を与えてみて。ろうそくに火をつける感じで。」
一番強く光っているのはユージと端から見よう見まねでやっていたスズネ率いる女子達の数人だ。やっぱり先天的に女子のほうが男子よりも才能があるのだろうか。他の子もしっかりと発光している。
「それじゃあ、一回止めて話を聞いて。一応全員が発動までできたみたい。多分今は、肉体疲労はないのに何故か疲れている感じだと思う。だけど実践でその状態の身体強化魔法を使って魔力切れを起こすと、魔力によって騙しながら酷使してきた事による肉体疲労と共に魔力切れによる精神疲労の両方に襲われる事になる。その状態の制限時間は最大で5分それ以上はダメだ。」
「「「はい!」」」
「今はまだ体の部位ごとの強化はできないけど、任意のタイミングでの発動をできるようになってもらう。そうすることで敵に攻撃を当てる瞬間に発動できるようになり、魔力が切れる前に終了することが可能になる。わかった?」
「「「はい!」」」
素直に聞いてくれるのが本当にうれしい。三月までに俺がなんとかできる最低ラインが身体強化魔法の任意発動だ。その先には部位ごとの強化などがあるがそれを身に付けるには、三ヶ月は短すぎる。それに剣の基本九技も一通り教えるとなると、身体強化魔法だけに時間はかけられない。
「ひとまず、これから一週間は魔力を使った事からくる、精神疲労に馴れてもらう。慣れれば自分が消費できる限度がわかってくる。剣術はその後だ。それまでは俺は来ない!」
今日は端から見ていた女子達が見よう見まねでやってたことは大目に見ていたが、剣術の方は女子禁制でやらせてもらう。それに女のほうが魔力の制御と同様に、精霊魔法の適正が高い傾向にある。体力面で男子に劣る女子達に両方を中途半端にやらせるくらいなら剣術を捨てたほうが良い。それにハンターの世界ではオールラウンダーよりその道のプロフェッショナルが求められる。女性の身でありながら剣術や槍術を学ぼうとする人は貴族家令嬢ぐらいである。ちなみに俺の母さんもああ見えて細剣の扱いは超一流だ。それぐらいじゃないと将軍家の妻は務まらないらしい。
あれから一週間たち、再び俺はスラム街に顔を出していた。今日は経過確認と剣術指導だ。一週間やってきたお陰で皆しっかりと身体強化魔法の任意発動ができている。
「全員しっかり発動できるようになったね。約束だから、今日は剣術を教えてあげる。」
俺は今日という日をどれ程待ちわびたか。そのためにずっと前から木剣の製作をしてきたのだ。ようやくのそのお披露目ができた。皆喜んでくれたのでよかった。
「皆、剣技は大きくわけて斬撃と刺突の二種類に分けることができる。そのどちらを主体にするかによって選ぶ剣も変わってくる。で、その剣は大きくわけて両手剣と片手剣と細剣の三種類に分けることができる。両手剣と片手剣は斬撃主体、細剣は刺突主体の攻撃になる。」
皆がしっかりと話を聞いてくれている。教える立場の者としてはとてもうれしい事だ。
「それでその斬撃も唐竹割り・右薙ぎ・左薙ぎ・袈裟斬り・逆袈裟・左斬り上げ・右斬り下げ・逆風の八つにまでわけることができる。大層な名前だけど言い換えると上下垂直斬りと左右水平斬り、それと左右の斬り下げと斬り上げってわけだ。これに刺突を加えたものが剣術の基本九技だ。この九つの繋ぎ方によって剣術の幅は大きく広がる。まずは剣の重量を攻撃力に上乗せしやすい唐竹と袈裟斬りからだ。コツは薪割りの感覚を思い出して。」
幸いにもこの辺には木剣を当てても怒られることのない雪と言う宝物が沢山積もっている。冷えて凍った雪は頑丈なので木剣相手には丁度良い。同じ場所を正確に当てる続けることができればいつかそのうち割れる。後はもうただひたすらに反復練習を繰り返していくことだ。ハンターとして生きていくために必要最低限の事はしてやったと思う。後はあの子達がそれをどう自分なりに解釈して自分の技術として物にしていくかだ。