11:サクラとセントラルシティ(2)
しっかり母さんから外泊許可はおりています。
宿を決めて、今日購入したものを部屋におき、ホテルの大浴場で汗を流した俺とサクラは、王宮に来ていた。
「お集まりの皆さま。大変長らくお待たせいたしなした。魔術師7名による編隊飛行をお楽しみにください。」
“うぉーーーー!”
“ひゅーひゅー!”
司会者らしき人物がしゃべった後、いきなり罵声と口笛と拍手喝采が鳴り響いた。
「何よこれ!いったい何が始まるの?」
「見てのお楽しみ。見るのは空な。」
箒に跨がった7人の魔術師が一斉に空へと飛びたった。今まで騒いでいた人達も一瞬にして静かになった。飛行魔法の存在を知っている人にとって、ただ人が箒を使って空を飛ぶことには驚かない。まぁ、ステラみたいに箒なしで飛んでたら驚くだろうけど、彼女は例外だ。この人達が素晴らしいのは、一糸乱れず編隊を組んで飛行しているからだ。しかし魚鱗や鶴翼の陣で飛んでいる今はまだ序の口だ。もう少しで最初の変化がやってくる。ほら、箒の尾の後ろから、白い煙が線を引いている。。
「カッコいい!」
サクラはただその一言のみ、俺の手を強く握りしめながら言った。編隊飛行の存在を知っていたとしても、絶対に感動してしまうのもだ。今までは、飛んできた跡が残ることはなかったけど、白い煙が出ることによって、空の青いキャンパスにハートなどの様々なものを描いていた。こんなことが出来るのなら、上空から敵の兵を狙い打っても良いと思うのだけど、ただでさえ制御が難しい飛行魔法を使いながら、魔法の制御は出来ないらしい。そして今の時代の攻撃魔法とその研究は、戦争に用いないようにし国の豊かさを示す物になっているが、回復魔法などは例外だ。まぁあくまで国家間の取り決めであり、互いの同意のもとなら魔法使用可能な決闘があったりする。現にステラも例の一件で使用している。空を見上げると、原理はわからないが煙の色が白から七色に変化した。そろそろ終わりが近づいて来ている。箒に跨がった魔導師7人は青い大空に七色の煙で虹を描いた。これで今回の編隊(変態)飛行は終了だ。
「どうだった?」
「速くてカッコよくて正確で、それに最後のあの虹は本当に人間が描いたの!?」
とても興奮している。これなら連れてきた甲斐があったと言うものだ。
「それじゃあ、そろそろホテルに戻ろうか?」
「少し早いとは思うけど、食堂が混むのは嫌だからね。」
屋台で腹一杯食べようとしたら、ホテルのビュッフェの倍はかかってしまう。いくら予算があると言っても節約ができるのならするだけだ。それにこのホテルはお金持ちの人が利用する傾向にあるため、食材にこだわって、下処理と味付けが丁寧になされており、ビュッフェと言えどなめてはいけない。
ホテルの食堂でビュッフェを堪能した俺達は、部屋に戻って来ていた。時刻はもうすぐで7時だ。そろそろ王宮の方で花火があがる頃だ。これは戦争時に狼煙として用いられていた魔法が、鑑賞用に変化したものだ。どういう原理で出来ているのかは知らないが、地球のものと違い火薬ではなく、魔法を使って打ち上げている。そのためわざわざ川沿いで筒に着火しなくても打ちあがるのだ。
「窓をあげて王宮の方を見ててごらん。面白いものがみれるから。」
ヒュ~~~~~ “ドン”
一発目の三尺玉が目の前で爆発した。打ち上げ花火を部屋から見るために俺はこのホテルを選んだと言っても過言ではない。窓をあけていたから音と衝撃がしっかり伝わってきた。
「うわっ!キレイだけど、凄く音が響くね。」
「今のはかなり大きい方だったからね。それでも一発だけだから、まだ静かなほうだよ。これからは一気に何発もあがってとても音がでかくなるから。」
花火の形は自然界を、もとにしているため菊や牡丹などがあった。またナイアガラの滝のような花火があがったってことは、この世界のどこかにあの滝みたいな場所があるのだろうか?できることなら言ってみたい。
よっぽど疲れていたのだろう。花火を最後まで見ないうちに、サクラは深い眠りにおちてしまっていた。一日中王都を歩き回って沢山の服を買い、王宮に行っては編隊飛行を見て、最後にはホテルで花火鑑賞だ。疲れてしまうのも当然だ。ここからの景色を見ているのも悪くはないが、サクラが寝てしまったのらな、遅くまで起きている必要はない。
次の日もとても清々しい朝がやってきた。そう、後ろめたい朝ではないのだ。いくら男女がひとつの部屋で寝泊まりをしたとしても、今の俺にそんなことをする覚悟はない。その上なぜかはわからないが、サクラの雰囲気がどことなく結衣に似ており、俺が手を出せるわけがない。隣ではサクラがもう着替え終わっており、さっそく俺が買った服を着てくれている。
「おはようサクラ。その服似合ってるよ。」
「ありがとう。」
朝の他愛もない会話しながら食堂で朝食を済ませ、ロビーでくつろいでいる。
「今日は何をするの?」
「まずは王宮で陛下の演説があるからそれをお聞きしないとね。」
「そうね。貴方はこの国の騎士になるのだったね。」
そうして俺達は王宮にむかった。まだ陛下がお見えになるまでは30分以上あると言うのに、とてつもない人の集まり用だ。
「すごい人の数ね!」
「それだけこの国の国王が民衆に愛されている証拠だろう。」
そうこうしているうちに、中から人がバルコニーに出てきた。あの人は陛下ではないが確かこの国の内政を執り仕切るシルヴィア公爵様だ。以前お見かけした時とあまり変化は見当たらない。
「皆のもの、国王陛下のお見えである。」
シルヴィア公爵様の後から国王陛下がエリン王妃の手を取りながらお見えになった。その後ろにはアスラン殿下、アリス王女殿下、エドワード王子がついてきている。両陛下の他に殿下たちまでいらっしゃるとはな。陛下がお見えになったことにより聴衆たちが一瞬にして静かになった。
「諸君、私がラインハルト王国24代国王・パトリック2世である。」
陛下の第一声が終わった直後、聴衆から拍手喝采が沸き起こった。20秒ほど続いていただろうか、陛下はそれを片手で制し、話を続けた。
「今日からまた新しい年が始まる。この善き日を愛する国民と共に迎えることが出来て、とても嬉しく思う。昨年は様々な事がおきた。王都に蔓延る悪党集団の1つ、ベアーズが壊滅したのは記憶に新しいことであろう。これでまた、諸君の暮らしが少しでも善くなればと思う。今年もまた沢山の苦悩や困難が待ち受けているだろう。たがそれもこの国の皆で乗り越えていけば良い。私も皆と手を取り合っていくつもりだ。その時はしっかり私を頼ってくれ。」
“国王陛下”万歳 “ラインハルト王国”万歳
“国王陛下”万歳 “ラインハルト王国”万歳
“国王陛下”万歳 “ラインハルト王国”万歳
陛下の演説が終わった後、物凄く統率の取れた万歳三唱が響きわたった。それをまた片手で制した陛下はゆっくりとした足取りで城の中へと戻っていくのであった。陛下の陰に隠れてあまり目立ってはいなかったが、アスラン殿下は男前になって、アリス王女殿下は立派な淑女に、エドワード王子も大きくなっていた。まぁ、十年間もお会いしていないのだから、当然と言えば当然だ。
「やっぱり陛下は凄いお方ね。」
「あぁ、この国の王族は本当にお仕えしがいのある方たちだ。」
これで祝賀祭は終わったがまだ二,三日はこの盛り上がりは収まらない。
「今回はほんと楽しかった。ありがとね。」
「どういたしまして。」
「それじゃあ、お土産を買って帰りましょう。」
それから俺達は、物珍しい食べ物や置物などを買って帰った。帰ってからは本格的に剣術と魔法をあの子達に教えようと思う。