プロローグ
お城の夜会。ダンスフロアで公爵家次男であるロアナ……俺は囲まれていた。
俺の目の前で秀麗な眉を寄せて、不機嫌そうに腕を組んでいるのはこの国の第
一王子。
俺の婚約者、デルシータ王子だ。
王子の周りには王子の側近達。どれも美形揃いである。
王子の隣には女性と見間違えるような愛くるしい美少年が困ったような顔をし
て立っていた。
愛くるしい美少年はピット。男爵令息で俺がさんざん嫌がらせをした相手だ。
「私の婚約者であり、公爵令息ともあろうお前が嫌がらせとは……」
デルシータ王子は俺を睨み付けながら叫んだ。
「もはや我慢の限界だ!」
ようやく終わる事ができる、と俺は安堵のため息を付いた。
ここは【薔薇に寄り添う麗人の流儀~乙~】というBLゲームの世界である。
略称バレ乙。
乙は数字の二と字体が似ている事で付いた二作目である。
このゲームは俺の姉が一番好きだったゲームである。
お城のBL恋愛シミュレーションと少し違うポイントがある。
登場人物は全て男。
貴族の子供は男しか生まれず、結婚は貴族同士。つまり男と男で結婚する事に
なる。
男と男で子供?それはこの世界では生む事ができる。
鏡で見た時に俺は愕然とした……。
この世界の貴族男性の半分には男性の象徴とお尻の間に……子供を産むための
【やおい穴】と呼ばれる器官がついているのだ。
まあそういう事はどうでもいい。
恐らく俺は一生使わないだろうし。
『それでね、私はこのキャラ。悪役令息のロアナが一番好きなのよ。ヒロインに嫌
がらせをして追放されるんだけどさ。攻略できないのひどくね?』
姉は聞いてもいないのによくこのゲームの説明をした。
転生した今となっては感謝している。
ピットに嫌がらせをして婚約破棄。
追放され平民身分にされた後で、商家の娘(美人)の婿として嫁ぐ事になる。
これってハッピーエンドじゃね?
『ハッピーエンド!?それマジでいってんの!?やおい穴が付いている男性が女性
と結婚するのは、貴族として。いいえ、男として魅力が無くて誰にも相手をされな
かったって事なのよ!』
そんな世界の常識はどうでもいい。俺に早く美人の商家の娘と結婚させてくれ。
そのためにピットに嫌がらせをしてシナリオ通りに進めてきたと言ってもいい。
デルシータは俺を睨み付けて言葉を続けた。
「お前をこのまま私の正妃とする訳にはいかん!」
この後、婚約破棄と平民身分へ落とされるのだ。
「婚約破棄ですか、仕方ありませんね」
そういうとデルシータ王子は歪んだ表情で俺に告げた。
「いや、罰として婚約者から第八妾妃候補へと落とす事とする!」
第八妾妃。
王位継承権を持つのは正妃から第三妃まで。
第四夫人から第八夫人までは基本的に、平民がなる立場のものだ。
一応王子の物になる予定だから手を出すなよ?という物だ。
え、何なの?平民にされて婚約破棄は?
商家の娘(美人)への婿入りは?