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Lyle~エイリアン物語~  作者: 霜月 幽
第7部 静かな宇宙は悲しみでいっぱい
98/109

ライル 帰る *

 厚い装甲のブラインドが自動的に下りた指令デッキで、勇は微かに身震いした。神の領域に触れた畏れを感じたのだ。

 彼は無理やり偏光スクリーンから目を引き離すと、指令デッキの要員達を見回した。誰もまだ、茫然として、スクリーンを凝視している。


「帰還するぞ!」


 近藤勇総司令官は大声を張り上げた。クルー達はびくりとして正気に戻る。勇はもう一度、繰り返した。


「諸君! 任務は完了した。帰還する。全艦に伝えよ!」


 やにわに、彼の胸の底から歓びが吹き上げてきた。

 むご凄惨せいさんな仕事ではあったが、全て終わったのだ。あの嫌らしい怪物も、もう二度と現れては来まい。


 そして、勇は銀河でも初の全銀河規模の裁判にかけられるに違いない。

 被告は、勇とチャーリィ。

 裁くのは、正気を取り戻した全生物の親ども。

 ほぼ、確実に有罪だろう。


 勇は楽しげに、司令官席に座った。


 だが、チャーリィは、勇の部下達を無罪にしてくれるだろう。部下達には責任はない。自分の命令に従っただけなのだから。

 彼は、さらに勇達の正当性を主張し、勝訴しようと謀るだろう。

 だが、勇は有罪でもかまわなかった。チャーリィの判断は正しかったと、勇自身が認めているのだから。


 きっと、自分達は史上最悪の冷酷無残な男と歴史に名を残すだろう。

 それもいいじゃないか。とにかく、奴等を追っ払えたのだ。


 目の中に思い浮かべたチャーリィに、勇は手を差し伸べた。


(なあ、チャーリィ。お前とは腐れ縁で、とうとう一緒に獄門首を並べる破目になっちまったなあ。地獄へ行っても、喧嘩仲間が居るってのはいいことだ。そうだろ?)



 それに答えるかのように通信が入り、通信用メインスクリーンに画像が映し出された。案の定、チャーリィからの私的回線だった。


『勇、作戦成功、おめでとう』


 ダンディな顔がそう言って、にやりと笑いかけてくる。勇もにっと歯を剥き出してウインクしてみせた。長い付き合いの友に、それ以上の言葉は不要であった。


 チャーリィは勇の顔に、辛い任務を果たし終えた武将の落ち着きを見、勇は友の面構えに、銀河中の全種族相手にこれから何戦でも交えようという不敵な決意を見て取った。




 その通信回線に強引に割り込んで来た者があった。画像が乱れ始めたので、勇は急いでサブスクリーンを開かせた。

 親友同士の私的回線へ邪魔しに来た阿呆は、何処のどいつだと腹をたてながら、焦点を結び始めた画像を見る。


 だが、そこに映った男の顔を見て、勇の腹立ちは霧散してしまった。

 ちらっとメインスクリーンのチャーリィを見る。



 ガルドの執務室で別のスクリーンの方に向いているチャーリィの顔は、呆気にとられすっかり無防備になっていた。

 こんな時ではあったが、勇は興味津々で親友の表情を眺めた。


 チャーリィは既に、勇の存在を忘れ果てているらしい。

 その表情は、純粋な驚愕から激しい歓喜へと変わった。


『ライル……。何処に居るんだ? 帰ってきたのかい? ……実に、久し振りだな』


 画面のチャーリィがほとんどささやかんばかりに言う。うっかり声をかけて、また、消えられては困ると恐れているようだ。

 スクリーンの中のライルは十年前と変わらず若いままに見えた。バリヌール人の寿命の長さを改めて勇は実感した。


『いろいろなものを見てきたよ。そして、今、君達の作戦を見せてもらった』


 タイタンの氷海のように静かに、ゼネブの春期の花谷のように穏やかにライルが言う。相も変わらず挨拶抜きの会話無視の話し方だった。が、その彼から、シリウスのコロナのような威厳が自ずと滲み出ている。


 勇は、おや、と指で口髭を撫でた。チャーリィも我知らず、改まった口調に変わった。


『何か、ミスがあっただろうか?』

『いや、あの場合、最も適した遣り方だと思うよ。僕もあれ以上の策は思い浮かばない。だが、忘れてはならない。これで、終わった訳ではないのだ。あの怪物のそもそもの始まりは、各人の中に在していたのだから』


 チャーリィも勇もはっと青くなる。なぜ、そこに今まで気がつかなかったんだ?


『子供は、今も、これからも生まれてくる。すると……果てがないのか?』


 チャーリィが声を強張らせて聞いてきた。


『いや、『ゾエラ』は、もう現れまい。『ゾエラ』としての発芽の芯は失ったから。『ゾエラ』として発動するためには、核となる切っ掛けが必要なのだ。その為に、永い時を掛けている。ほとんど、この銀河の最初の生命いのちが生まれた時と等しい頃から今日までかけて、萌芽の時を待って密かに熟していったのだ。それが失われた今、再び、『ゾエラ』として現れる為には、また、同じ時が必要だろう』


 チャーリィは黙したまま頷く。ライルは何の証拠の提示もしてはいないのだが、彼が語るのだ。それが真実に違いない。

 だが、どうやって、ライルはそれらを知ったのだろう?


『チャーリィ。君はガルドに居るんだな。僕もそこへ向かおう。三時間後には会えよう。勇、君とはもう少し後になるね。では』


 十年前と少しも変わらぬ若々しいライルの顔が、にこっと笑って消えた。

 勇は通信要員に訊いた。


「今の通話の発信源が何処か、調べられるか? できるなら、直ちにかかれ」


 通信要員二名は、忙しく自分のコンソールを操作していたが、やがて信じられないという顔で答えてきた。


「私の計器を信じる限りでは、銀河の外縁部もずっと外れからですわ。とても遠すぎて、座標の特定はできません。司令官。お望みでしたら、該当宙域の星図と推定確率分布グラフを表示いたしますが……」

「いや、いい。ありがとう」


 ――約七万光年か……。


 彼は胸の中で呟いた。それなのに、画像は一筋も乱れず、リアルタイムの通話は明瞭だった。

 おまけに、三時間でガルドに着くって?

 奴はこの十年の間に、どれ程の知識を身につけ、どれ程のものをその手で可能にしてきたのだろう。

 外見がほとんど変わっていないだけに、何か空恐ろしい気もする。


 しかし、とにかく自艦の推力では、いくら急いでも、既にガルドに着いているであろうライルに会うまでには、最低十日は掛かるのだ。

 勇は口ひげを指で扱きながら、頑丈な造りの司令官席に深く身を沈ませた。


 ***


 通話が切れた後のチャーリィは、見られたものではなかった。

 回線をライルに再度繋ごうと慌ててしまい、逆に勇との通話を切ってしまう。

 航宙管理局に連絡を入れるはずが、全然関係ないセクションを呼び出し、間違えたと謝る破目になる。挙句に、肝心の航宙管理局には連絡を忘れている。

 喉が渇いて、卓上のコーヒーに手を伸ばせば、ひっくり返す。


「四十にもなって、なんて様だ。少し、落ち着け」


 自分で自分に呆れ果てた。

 切れ者の男である。この短い通話で、ライルが目覚しく成長している事には充分気づいている。それに、ライルが仄めかした危惧は確実性のある不安を生んだ。冷静にならねばならない。

 だが、チャーリィはライルに会える喜びですっかり舞い上がってしまっていた。



 その結果、何も手につかず、結局、部屋の中を落ち着きなくうろうろして過ごしてしまった。

 時計を見て、既に二時間半も経ったことに気づいたチャーリィは、急いでガルド第七惑星の航宙港管理局へ連絡を入れた。未確認の宇宙船が一隻飛来し客が一人降りるから、連盟本部専用ポートへつけさせるよう指示する。


 すると、管理局のほうから、それらしい飛行体が降下中であると返答してきたので、客人を直ぐに連盟委員長の自室に案内するよう指示する。



 宙港ポートに着陸したのは、意外なほど小さな何の装飾もないシンプルな卵型の船だった。それは、無音で一筋の煙もイオンも出さず、ふわりと軽やかに舞い降りた。

 減速の加減方法も推力の仕組みも全く解らない。船の材質は、柔らかそうな印象を与える白い物質で、金属質にも石質にもみえた。


 銀河連盟委員長の命で迎えに出たガルド人の航宙港管理局員は、中から出てきた人物を見てあっと目を見張った。

 十年の歳月が流れても、バリヌール人ライルの存在は記憶に、なおも鮮やかであった。


 彼は激しい興奮を隠しきれず、踊りださんばかりの足取りで、嬉々として連盟委員長の私室へと案内した。


「しばらく、プライベートタイムだからね。誰も案内してきてはいけないよ」


 このニュースを早く報せようと駆け去る局員の背に、ライルが念を押す。そして、ドアをゆっくり開けた。




「やあ、チャーリィ」


 にっこり声を掛けながら、ドアを閉じる。


 目の前に、ライル・フォンベルト当人が確かに立っている事をやっと確認したチャーリィは、


「ライル!」


 と、呼びながら駆け寄った。両者の手が堅く握られる。


「久し振りだ。ライル。君は……変わらんな」


 チャーリィは照れ臭さくて、にっと笑った。

 四十才の彼は、銀河連盟常任委員長という高い地位の男として似つかわしく、容赦のない厳しさに加え渋い貫禄が備わっていた。

 そして、ライルのほうは別れた時のまま、まだ、せいぜい二十歳ぐらいにしかみえない。


「帰って来てくれたんだね。……その……俺達のところへ……」


 チャーリィは言葉をとぎらせる。ためらいがちに伸ばしかけた手を途中で止めた。情熱は変わっていないが、長い年月の苦しみと分別が、彼を臆病にさせていた。



 ライルは優しい眼差しの奥に暖かい火を灯して、チャーリィの首へ腕を回す。


「そうだよ。チャーリィ。僕は帰ってきたんだ」


 そして、自ら唇を重ねた。


 ***


「今度は、一番辛い戦いになるかもしれない」


 ガルドの大きなダブルベッドから上半身を起こしたチャーリィに、ライルが白いシーツに身を横たえたまま独り言のように呟いた。


「何だって?」


 まだ、興奮から醒めきっていないチャーリィは、半分上の空で聞き返した。

 心の中で、どうしてライルの奴は、こうも簡単に心の切り替えができるのだろうと考えている。


 抱かれている間、彼も自分に負けず劣らず、交歓の美酒に酔い痴れていたようだったのに。

 現にまだ、部屋中が彼の分泌した妖しく甘い天上の花の香りで満ちている。

 



 いや、彼というのは、当たらないのかもしれない、とチャーリィは思った。ライルは自分の身体を作り変えていた。

 体形は以前と同様すらりとした中性的な青年の身体。だが、股間に付加した見かけだけの男性器はなくなっていた。代わりに、別な器官が作られていた。見かけは単純な亀裂でしかない。ミルク飲み人形にあるようなものに似ている。


「以前、ミーナから助言をもらったんだ。チャーリィとセックスをするのなら直した方がいいと。それで、旅の間に変えてみたんだよ。もう今更、ソル人に偽装する必要もないしね。」


 ――いつのまに、そんなやりとりをしていたんだ? ミーナも相変わらず、お節介な。


「でも、僕はソル人の雌ではないから、生殖活動はできない。なので、雌性器ではないよ。卵巣も子宮も膣もない。必要がないからね。チャーリィ、君を受け入れるためだけの器官だ」


 そう言って、ライルはチャーリィを抱きしめてきた。いつもはチャーリィが一方的に彼を愛撫するだけだったのに、今回は彼の方からチャーリィの全身に触れて来た。ただ、それが愛撫の動きではないのが、ライルらしかった。

 精密なセンサーである手でチャーリィを走査しているのだ。あげくに、数値を読み上げ始める。


「血圧135の85、やや高い。興奮しているせいかな。血糖グルコース80、大胸筋の筋密度+2、発達しているね。体脂肪率15%、骨密度……」


 たまらずチャーリィはその口を大きな手で塞いだ。

 

「お前は人間ドックか? 測るな! 気がそがれる!」

「チャーリィ、もう少しカルシウムを取ったほうがいい」

「まだ、言うか!」


 それ以上色気のない言葉が出てこないよう、チャーリィは恋人の口をキスで塞いだ。


 だが、チャーリィにもわかっていた。ライルは全身を使って、チャーリィの全てを確かめ記憶しようとしているのだと。

 執着をもたぬはずのバリヌール人が、自分という存在を確かめたいと求めてくれたのだ。それは、何にも勝る喜びだった。これ以上、何を望むだろう。


 ***


「最後の闘いになるだろうと思う。あらゆる意味で。銀河の、いや、この宇宙中の生物の存続が決定されるだろう」


 ライルの目は彼を見ず、深く物思いに沈んでいるようだった。


「僕はよく考えるんだ。『悪なる存在』は、果たしてどちら側なんだろう……と」


 チャーリィは逞しい手で、ライルの白く華奢な肩をわし掴んだ。


「しっかりしろよ。お前の悪い癖だ。あまりに物事を広く多様化して把握するから、物の善悪の観点もひっくり返ってしまうんだ」


 ライルはそう言う彼を静かに見上げた。


「善悪なんて誰が決めるんだ? それは、価値観の違いから生じる相対的な判断だよ。実際、この無限界の摂理の中で、どれが正しくどれが誤りかなんて、我々、余りに短命な生物などには判りようがないんだよ。そもそも善悪なんてものもないのかもしれない。ただ、茫洋とした侵しがたい事実のみがあるのだろう。無限次数界においては、時の流れですらも無意味になるというのに。諸々を包括する全ての根源に行き着くには、我々は余りに小さく弱すぎる。せいぜいその切れ端を手繰り寄せるだけで、精一杯なのだ。視点を変えれば、我々よりもその寿命の長さにおいて、星々のほうが遥かにその真理に近い存在なのだろう」


 紫の目に自嘲めいた色が浮かんだ。


「我々は、いわば、宇宙に湧いて蔓延る寄生虫の類いで、その資源を食い荒し自然の摂動を守る天体をも勝手に動かし破壊する、忌まわしい病毒なのかもしれない。存在を許すべきでないのは、むしろ我々生物であり、あれはそれを駆除する……」

「ライル! やめろ! どうしたんだ! お前らしくないぞ!」


 チャーリィは驚いて彼を揺さぶった。バリヌール人が弱気になるなんて!


「いったい、何処をほっつき歩いていたんだ? そんなろくでもない考えを何処で吹き込まれてきたんだ?」

「心配いらない。視点の多様化の…一例を示したに過ぎない。……でも、自分自身の存在価値を否定されるのは辛いものだ」


 ライルは裸の腕を彼の背に回しぎゅっと抱き縋った。


「……チャーリィ、君は暖かいね……。どの銀河も、小さな染みのようにしか見えないほどに、宙間へ遠く離れたことがある。何もなく、限り無い静寂と、絶対零度の暗黒の中に、ただ一人在った時、僕は君の腕の温みを想った」


 チャーリィの厚い胸板に顔を埋め、さらに腕に力をこめてきた。


「僕は思い知ったよ。個とはなんと弱く、脆くも淋しいものかと。思考の力は宇宙へも伸びていくのに、その心さえも、そうなのだ。個は、主観的な閉ざされた存在だ。把握する全てが自分自身の感覚を通さねば認識できない。全ての認識が、自分という個の檻の中で知覚するだけなのだ」


 顔をあげてチャーリィの目を覗き込むと、その目を寝室の角へと向けた。ライルの視線を追ってチャーリィはそこに置いてあるガルド蘭ポラサム――丈3メートルほどの大きな葉が茂る観葉植物で、一年に2回胡蝶蘭に似た大きな花房をつける――を見た。あ、講義が始まる、とひそかにチャーリィは覚悟する。


「あそこに、ポラサムがあるね。僕が今見ているポラサムの葉が、果たして君にはどう見えているのか、真実のところは知りようがない。僕がコード#00008bのダークブルーと認識している葉の色が、同じ色彩に見えている保証はない。ひょっとしたら君には、僕が#8fbc8fと認識する色彩で知覚している可能性もある。それでも、君にとってはまさしくあの葉の色は#00008bなのだろう。このように色素番号は客観的共通事項として示せるが、その番号が示す色の認識は果たして個の中では、同じものかどうかの確証はできない。例え、テレパスで情報を共有してさえも、各自の脳の中で認識する事が、まったく同一であるという事は確定できない。それは、各自が己の知覚で知り得るしかないものだ。この色彩知覚認識の不一致の可能性はもちろん一つの極端な事例ではある。が、総論として、個は個であるがゆえに、各個単位で主観的状態で孤立していると結果的に推論されるものだ。個は、自分という肉体の檻に囚われた主観的な存在としてある。孤立した個は、ゆえに、その独自性で可能性を無限に内包する。だが、同時に、個は小さくて、弱く、悲しいものだ」


 ポラサムから視線を外し、再びチャーリィの胸に頬を摺り寄せてきた。


「そして、閉ざされた個の一つ一つは、同時に、『生命』の一つ一つの個でもある。それは、繋がり、繋いでいくことによって、大きな『生命』となる。『生命』は常に繋がりを求め、大きな一つに内包されようとしている。なぜ、人が互いの肉体を求め、心のつながりを求めるのか、やっと僕も理解できたような気がする。人は生まれながらに自らの主観に閉ざされた孤立した存在だから。互いに互いを確かめ合う為に、肉体で触れ合い、一人ではないのだと心をつなぐ。それは、人が生きていくために、必要不可欠なものなのだろう」


 ライルは顔をあげて、すぐ目の前にある緑灰色の瞳をじっと見つめた。


「チャーリィ。僕は君が必要だ。君の心と触れ合って、君の温みを感じていたい。……いいだろうか?」


 チャーリィはライルを力一杯、抱き締めた。

 戻ってきたのだ。

 自分の腕の中に。


 ――今度こそ、本当に俺のものになったのだ。


 彼はまぶたをきつく閉じた。そうしないと、嬉しさと感動で、涙が溢れてしまいそうだった。


 ***


 それから数時間後、二人はチャーリィの執務室のソファでテーブルを挟んで話し合っていた。

 両者の表情は真剣であり、話の内容は深刻だった。

 ついに、チャーリィはテーブルに拳をどんと叩きつけて立ち上がった。コーヒーカップが跳ねて耳障りな音を立てた。


「問題は、まだ、何も起きていないと言う事だ。お前の論説はあくまで仮説であり、実証されてはいない。仮説からでは、実質的な動きは何も始めることはできない。会議を開くこともできないし、対策の立てようもない」


 チャーリィは苛々と手を振って続けた。


「それに、ライル。お前は今の俺の立場を理解していない。俺は、つい、半日前に、銀河中の小さな子供達を皆殺しにした張本人なんだ。罪もない子供達をね。俺は、これから、その罪科を問われて法廷に出ねばならない。銀河中の逆上した母親の非難を浴びることだろう。そして、審判員の何人が、事の真実を理解してくれるだろうか。ライル。俺と勇は、もう、首がないも同然なんだ」


 ライルはゆっくりと告げた。


「チャーリィ。君は確かに裁かれるだろう。しかし、多分、君の思った通りにはいくまい。僕も同席するからね。我々は、まだ、君を失うわけにはいかない。チャーリィ、君は銀河の諸種族に必要なんだ」


 後々、チャーリィは、ライルのこの言葉を何度も思い出さないわけにはいかなかった。

 確かに、その通りだろう。しかし、なんて重い責任を俺に押し付けたんだ、と。


 だが、この時のチャーリィは、それを深く考えもせず、さらりと聞き流していた。

 それよりも、ライルが出廷すると言う事のほうに関心があった。彼の存在は、法廷の連中を動揺させることだろう。

 けれども、無論、それだけではチャーリィ達の勝訴を勝ち取ることはできない。彼はどうするつもりなのだろう。

ライル・リザヌールが、ついに帰ってきました。

さて、チャーリィと勇の裁判は?

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