実習訓練 いきなりハード
候補生の駆け足生活が始まりました。まずは、フラフラの洗礼
三の章
制服に身を整えた八人の候補生は再びホールに整列した。彼らを運んできたジュピターDⅢ号は、既にガニメデ定置点軌道を離れ、地球へと長い航路を進んでいる。
もはや、地球へ帰る手立てはない。六週間後、再びジュピターDⅢ号が、或いはそれに代わる船がやってくるまで。
ブレイク中尉はあまり嬉しそうではなかった。それどころか、苦虫を噛み潰したような顔をしている。ややあって口を開いた。
「ふむ。馬鹿共が全員雁首を揃えたわけか。それでは、これより二時間の組み立て演習を行う。全員、ヘルメット着用の上、第四ゲートの外に集合。レッド軍曹の指示に従え。駆け足!」
第四ゲートは何処だ? などと迷っていられない。候補生達は必死に駆けて、ドームの外に並んだ。
灰色熊のようなレッド軍曹が仁王立ちで待ち構え、すかさず、
「遅い! 貴様ら、何を遊んどるのか! 班長! 報告!」
と、弾丸の如く浴びせてきた。勇が申告する。
「候補生、八名。集合しましたっ!」
「今日の演習はあれだ。組み立てて使えるものにしろ。作業時間は二時間だが、終わらない場合は、期限に及ばん。かかれ!」
軍曹が指差した場所にあるものは、どう見ても廃品のがらくたの山だった。車軸やキャタピラが有るのを見ると、どうやら衛星用シフトを作れといいたいらしい。
「ここには、余分のものはない。自分達の足は自分達で調達しろ。明日からの遠征実習に使う。できなければ、シフトの後を駆けて行くんだな。それから、リール! カイン! 今日の夕食当番だ。二時間後にかかれ。以上!」
それだけ言うと、軍曹はさっさと中に入ってしまった。八人の前に積まれた金属の山に太陽光が遠く反射する。
木星の巨大な半月が西の空高くかかっていた。ガニメデは、木星との潮汐作用の結果、地球の月と同じように、自転周期が公転周期と同期している。つまり、いつもガニメデは同じ面を木星に向けているということ。そして、基地近辺ではあの巨大な天体が満ち欠けしながら空を巡っているのだ。
ガニメデは約七日と三時間(地球時間)で木星を一廻りする。だから、昼が三日半、夜が三日半続く事になる。今は明期間の最初の日の午後というわけだ。
「早いとこ、始めようぜ。夕食を食いっぱぐれるぞ」
勇の声でみんなは気を取り直して取り掛かった。幸い工具類はちゃんと用意されていた。ひょっとしたら、それすらないのではないかと恐れていたのだ。
車輪や車軸、鉄板類にエンジン部分。主要部分を引っ張り出して錆――巨大発電機のおかげでやっと生産されてきた貴重な酸素を消費したのだ――を落とし、裂け目を溶接し、油を入れ、ボルトを締める。何とか、八人が乗れそうなものができそうだった。
エンジンは勇が引き受ける。操縦系は シャルル、集積回路や空調、レーダー類の精密部分はライルの担当である。金属板と溶接機との格闘はチャーリィ達ほか四人が分担した。
衛星シフトの設計図ぐらいなら、彼らの頭の中にちゃんと畳み込まれている。部品はたいてい間に合ったし、足りないものはチャーリィがどこからか調達してきた。
勇とシャルルとライルは、時々頭を寄せて相談し合いながら、作業を進める。
エンジンは古い型だが、ちゃんと整備すれば十分使えることが判った。操縦系統も一通り揃っていて、然るべく組み立て直せばいい。
だが、ライルの担当は無残だった。精密で微妙な部分であるだけに、消耗や狂いが激しく、ここに見捨てられたものでは使い物にならなかった。それに、ひどく旧式だった。
だが、彼は黙々と作業を続ける。彼の器用な細長い指の間で、導線やハーネスや金属が魔法のように姿を変えていく。
リールとカインが料理当番に行って二時間。夕食の時間が近づくにつれ、シフトはそれらしい形にまとまってきた。溶接作業は重労働だ。汗が三人の体から吹き出している。
勇はエンジンの整備が終わると、溶接機を持ってシフトの車体を気密化する為に、継ぎ目に金属を差し込んでは溶かしきれいに密封していった。
シャルルも設置と配線を完了した。ライルの側に行って手を貸そうとすると、彼は断った。
「手伝いは必要ない。他の作業も終了したようだ。食事に行くといい」
見ると、シフトの周りで工具を片付けているチャーリィ達は倒れる寸前のようだ。
「ライル。君は?」
「僕は一食ぐらい抜いても堪えない。行きたまえ」
シャルルはチャーリィと勇に彼の意見を伝えた。チャーリィは直ぐに決断し、勇に促す。
「作業終わり! 集合! ライルを除いて、食事にする」
勇の号令で、新兵達はゲートに向かって重い足を歩ませた。勇が列を離れ、ライルの所へ駆け寄る。それを見て、ライルは行けと手振りで示すとまた作業に没頭した。
勇は諦め仲間を追って走り去ったが、彼はそれを見送ろうともしなかった。
彼らが食堂に入った時には、既に夕食ができており、基地の隊員たちも席に着いていた。軍部十九名(六名帰還現在)、科学者三名、そして、候補生八名。
「一名を除き、終了しました」
勇が申告する。
レッド軍曹の承認を受け、テーブルの下座に空いている席に着く。候補生達は窮屈な制服の上着を脱いでTシャツ一つになった。隊員たちも、基地内ではラフなTシャツとポケットがふんだんについた軍用ズボンを着用している。
食事は材料や調理法の限られているジュピターDⅢ号よりずっと多様で量もふんだんにある。リール達も輸送船の一ヶ月の生活ですっかり料理の腕も上がっていた。と、言うわけで、みな、疲労した体を回復させるべく、若く旺盛な食欲を満たすことに専念した。
ガニメデの地形の講習と明日のスケジュールの説明を受けても、まだ、ライルは帰ってこなかった。シャルルが持ち込んだ彼の食事はベッドの上ですっかり冷めている。
チャーリィはTシャツに短パンのラフなスタイルで課題を始めていたが、だんだん心配になってきた。いくら彼が天才でも、超LSI回路を含む精密な調整装置を短時間で仕上げるのは無理というもの。彼は腰をあげて制服に手を伸ばした。
確かに不便だろうが、それでも何とかシフトは走れるのだ。車内で酸素ボンベを抱えていればいいのだし、シャルルは初期のガソリン車並に走らせればいい。彼をシフトから引っ張り出してこよう。
そこへ、彼が帰ってきた。さすがに疲れきった顔をしている。同室の者にやあともすんとも言わず、真っ直ぐベッドへ行く。
その上に置かれている盆を見て心持ち眉をしかめるのを、チャーリィは見ていた。
ライルはシャルルの心遣いの盆を手に取ると部屋から出て行き、間もなく手ぶらで戻ってきた。一匙も口にせずに下げてしまったのだ。
そっと窺い見る同室者を無視して、ぱっぱと制服を脱いで無造作にベッドの上に放り投げると、Tシャツとトランクスのまま寝具に潜り込みたちまちのうちに眠ってしまった。
チャーリィはわざわざ梯子を上って彼を覗きこんだ。ライルは全く気づかずにぐっすり眠り込んでいた。
彼の寝顔は驚くほど無防備であどけない。十七歳よりももっと幼くさえ見えた。
白く滑らかな肌に整った容貌。眠っていると非人間的な異質な硬さが消え、むしろ暖かい優しさを感じさせる。
ふと、彼が女性に見えた。
確かにライルは男性的と言うタイプではない。だが、女みたいだと思ったことは一度もなかった。そういう女々しさとかなよなよとした軟弱な印象はこれまでも全く感じたことがない。
チャーリィはうろたえて梯子を降りた。
ドアがそっと開いて、勇とシャルルが顔を突き出してきた。中に入ってきて、心配そうに勇が尋ねる。
「大丈夫かい? 飯は食べたのか?」
「戻ってくるなり寝ちまった。食事は手を付けなかったみたいだ」
「相当、参っているのかな?」
シャルルも心配して顔を曇らせる。
「気をつけて見ているよ」
チャーリィは二人を安心させて部屋から追い出す。ただでさえ狭いのに、勇達が来ると窒息しそうだ。
ベッドの中で政治学の資料を開く。だが、文字は頭の中でちっとも意味のある言葉にまとまらない。
――厄介なお客様だ。しかし、満足そうな顔して寝てたな……?
次の日、見習い兵達はガニメデ時の朝早くから起き出して、仕事をしなくてはならない。
料理当番は身支度を整えるや、直ぐに厨房に入る。他の者には部屋の整頓を終えるや、居住ドームでの掃除が待っている。食事時間前に済ませねばならないから忙しい。
三十人分の朝食の支度ができ、食事が始まる。基地で生活する者にとっては、食事が一番の楽しみであるから、コーヒーやお茶もあり、時間をゆっくりとってある。
候補生達も一番寛げる時間だ。だが、料理当番は配膳や給仕に忙しい。食器の後片付けもひと仕事である。
チャーリィは密かにライルの様子を見ていた。朝食は食べているがその量は決して多くない。
隣の勇はその代わりにパンも卵も三人前を平らげている。こいつを一月半も飼っていると基地の食料が無くなっちまうぞ、と要らぬ心配までしたくなる食いっぷりだ。
朝食が済むと候補生達は制服を着用し装備を整え、第四ゲートに集合する。リールとカインはそれぞれ食事当番の同室の分を手に持っている。ラジとリオが駆けつけてくると装備を着けるのを手伝ってやり、全員揃って外に出た。
そこには昨日苦労して組み立てたシフトが待っていた。中に乗り込むと、シャルルが操縦席に、ライルが助手席に着く。二人の指が素早く動くと、力強いエンジン始動の音とともにシフトの照明がつき、空調装置が軽いハム音を響かせて働き出した。
ライルは満足そうに作動状況を眺め、一同のほうに振り返って言った。
「ヘルメットを外していい。作動は良好だ」
みんなは恐る恐る酸素を外し、ゆっくりと息を吸った。笑顔が広がっていく。温度も湿度も適度で、シフト内は快適だった。一同は、間に合わせで作ったベンチに寛いだ。
「ボディは不細工だが、中身は最上だな。凄いよ。ライル」
ラジが感嘆して声をあげた。彼は当然のように軽く頷いただけだった。
これで、にこりとでもすれば可愛いのになあと、チャーリィは密かに思う。
「出発するよ。中隊長が遅いと怒鳴りだすからね」
シャルルが声を掛け、発進する。間に合わせの造りにしては、極めて調子が良い。操縦系統と機動部との連携や微調整が心憎いほどぴったりしているのだ。シャルルは嬉しくなった。
U-G基地の東北二キロメートルに平野がある、そこが集結地点だった。遠征用のシフトが一台待っている。
シフトを止めると、候補生達は急いでその前に整列した。その時、中尉のところにシフトの操縦を担当している隊員が駆け寄り耳打ちした。
中尉の眼が素早くライルを見、幾つか質問をして答えを得ると、隊員を帰す。
中尉は訓練生に向き直って、何事もなかったように命令した。
「本日は、偵察演習を行う。遊覧遠足ではないことを肝に銘じておけ。西北三百キロメートルにはロシアのキーエフ基地があり、フラフラも出没する。演習とはいえ、実戦と同じである。行軍開始!」
***
ガニメデの、剥き出した岩がごつごつと突き出す凍りついた道無き道を、キャタピラをごろごろ転がして、シフトが進む。
天空には巨大な木星が今にも落ちてくるような迫力で伸し掛かる。その向こうに、心細いほど小さく太陽が見えた。
木星から発せられる明るさで、太陽の光輝はいっそうぼんやりとして、ますます寒々しい。地平彼方に黒々と切り立つ高い稜線が壁のように見えた。
ざらざらした岩肌にいじけた植物が張り付いている。ほとんどが菌類だった。ガニメデが暖められ始め、大気の組成が変化してきたのは、まだ最近のことなのだ。
中には地衣蘚苔類もちらほら見える。そのほとんどは、人間が知らずに地球から運んできたものだ。
いかに人間という動物が、生命の新たな地への侵略を手伝ってきたかは、生物相を少しでも齧ればすぐに納得する。移動手段の発展は、そのまま生態相への干渉の拡大である。
引力が少ないので、元の種が解らないほど細長く変形していた。動物相もぼつぼつと現れている。まだ、大気中にアンモニアが含まれ、ガニメデの温暖化でドライアイスが融けて二酸化炭素の含有量が多いので、個体数も分化も少ない。
だが、基地の科学者が名づけたフラフラは狂暴だった。腔腸類とも原生類ともつかぬこの生物は、本来ガニメデの地下水脈の中でひっそりと生息していたものだった。岩と氷の間の、放射性物質の熱で溶けている比較的暖かいどろどろしたシャーベット流体に流されながら。
しかし、イオダイナモ発電計画によって、地温が上昇し始め、更に氷の発掘の為に地下水脈まで井戸を掘り抜いたので、フラフラは地上に出てきた。温度の上昇と大気組成の変化は、この生物に劇的な変異を引き起こした。
岩盤にへばり付いていて、岩肌に良く似た色をしている。じっとしていると、岩の上に地衣類の細長い葉状体が数本、風に吹かれているように見える。
シャーベットの中でゆっくりと進化してきた平たくて華奢な原生動物や昆虫みたいな環形動物がその葉を食べに来ると、葉状体がさっと獲物に巻き付き、岩としか見えなかったものがばっと拡がってくるみこんでしまう。
全長は大きいものでは二メートルに及ぶものもいる。獲物が不足してくると、立ち上がって移動する。
外側は岩のような外見だが、内側は寒天のようにぽよぽよとしており、頭部の葉状体をゆらゆらさせて動くさまは、フラフラと言う名がぴったりだった。
だが、外見に似ず、動きは素早く、頑強だった。うっかり近寄りすぎた生物学者二名がこの生物に襲われて命を落としている。各基地でも毎年のように、知らずに近づいて犠牲になる者が後を絶たない。その所為か、ことのほか、基地周辺地域にフラフラの出没が多い。
現在の大気成分、約、酸素十%、二酸化炭素三十%、アンモニア十%、アルゴン八%、硫化水素二%。気圧約四百ミリバール。
酸素量、地球上での高度二万メートルほど。それでも、訓練すればマスクなしでも暫時耐えられる。
日々、環境が人間向きに変化しつつあるこの世界は、外惑星への開発に、そして近き将来の新天地として期待される。
その為、ここでの基地は、各国でも絶対必要不可欠のものであった。従って、連邦宇宙局と、ほぼ同じくしてロシアの軍宇宙開発機関が、少し遅れて中国も基地を設営し、宇宙開発最前線となっている。
今のところ、三基地とも比較的仲良くやっているが、地球での情勢が直ぐに反映する所だけに、神経は過敏がちだった。
***
二時間、西北へと走る。ガニメデを東西に分ける険しい山脈の切り立った岩壁の前に停まった。
ガニメデ初期の頃の大地形成や木星との潮汐作用によって形成された多くの山脈の一つである。
鋭く切れ上がった矛先を天に突き、その先にだいぶ高度が上がった太陽が、小さく見える。地球の二十七分の一の照度なのだが、人の目には地球上と変わりなく明るい。だが、熱量は寒気を覚えるほど乏しかった。
西の空高く、巨大な半月が伸し掛かるように占めている。
ブレイク中尉は、その岩山の前に訓練生を整列させて命じた。
「これを登頂し、西方及び東方の偵察を行う。異常があれば、直ちに報告せよ」
果敢な青年達に動揺が走った。見上げて千メートルはあろう。下から見ると、まるで切り立つ一枚岩のようだ。
レッド軍曹が先頭で登攀を始める。ザイルで体を繋ぎ、最後尾はスライド軍曹が詰めた。
辛うじて足が乗る程度の狭い道が続いている。ところどころ、それすら無くなり、ピッケルで足場を確保しつつ登る。広い岩棚に出るとほっとした。
ここで短い休憩を取り、後は頂上までノン・ストップ。上に行くほど足場は悪くなり、最後の頃は完全にロッククライミングだった。実は、もう少し広い道があると知ったのは、後の事。
頂上に着いた時には心臓が頭まで飛び出しそうで、その場に座り込んでしまった候補生達に、
「へばり込むな。ここは敵地と思え。偵察開始!」
と、容赦ない命令が飛んだ。
応えて、きびきびと偵察を始めたのは、勇である。彼の体力は常識を越えている。他の仲間はよろよろと身を起こし、肩で息を弾ませながら、膝に手をついたまま言われた方角を見た。
さすがに、見晴らしは抜群だった。西にキーエフ基地が、東に中国の大建基地が見える。同様に東南にU-G基地が望まれた。
一同は疲れを忘れ緊張する。軍事的見地からも地の利に勝る場所だった。ここに長距離用ミサイルを設置すれば、どの基地も思いのままに壊滅できる。基地の動向も知られてしまう。有事に備え、どの基地も同じ事を考えるだろう。
候補生達は二人一組になって、散開した。山の北側は起伏に富んだ地形が続いていて、探索する場所に不足はない。
ラジとカインは、西の方へ進んだ。険しい尾根を下ると窪んだ平地に出た。岩陰の間にはまだ氷が残り、溶けた氷は小さな浅い沼を幾つも作っている。細長い藻のような地衣類が一面を覆い、ガニメデとは思えない別天地に見えた。
二人は頷き合って、用心してくぼ地に踏む込む。敵が潜むとしたら、ここが絶好ではないかと考えた。彼らは人工物を捜し求めて、足元の用心を忘れていた。
細長い葉状体が一瞬揺らめいたと思うや、ラジの足に絡みついた。ばっと地面が飛び跳ね、彼をすっぽりと包み込む。
大きな丸い岩がラジを飲み込んでから、やっとカインは我に返った。全てが一度に素早く起こったため、事態を把握する間がなかったのだ。
彼はベルトの銃を抜くと、めったやたらに岩に向かって撃ち出した。外側の破片が飛び散ったが、岩はびくともしない。
急いで、通信機に向かって救援を呼んだ。
彼らの近くに、勇とシャルルの班が来ていた。二人は現場に急ぐ。勇はまるで平野を走るがごとく、岩を飛び越え、斜面を駆ける。
窪地に出て、すぐカインと岩の塊に気づく。三歩で近寄ると、銃を抜きざま、狙いを定めて撃った。集束ビームが岩の上に揺らめく葉状体を焼き払った。
途端に岩が伸び上がり、グロテスクな内部をさらけ出す。触足がぞろりと並んだ寒天質の内容に、勇は続けざまに撃ち込んだ。
粘液に包まれてぬらぬら光るラジの身体が丸まったままごろりと転がり出た。カインがそのそばに駆け寄り、抱えて逃れようとする。
フラフラがそれを追って、覆い込むように雪崩れて行くところへ、なおも勇の銃火が食い込む。肉が焼け、薄緑の煙が上がった。物凄い臭気なのだろう。
それに刺激されてか、窪地のあちこちで岩が起き上がり、ゆらゆら揺れる細長い葉状体を頭にしたフラフラの大群が肉質の蝕足を蠢かして動き始めた。
一堂にこれほどの数のフラフラを見たことはない。ここはフラフラの巣窟なのだ。
群れは傷ついたフラフラに飛び掛り、引き千切り始めた。
カインがラジを抱えたまま転ぶ。残りの群れが二人の方に押し寄せてきた。
勇が駆け寄って、銃で連中を牽制していると、その横を、息を切らせたシャルルが走り抜けた。
カインを引き起こし、ぐったりしているラジを二人で支えて、おぞましい窪地を脱出する。
窪地から離れ、岩棚の陰に落ち着いたシャルル達はラジを見た。強化されたガニメデ用コンビネーションが溶け、皮膚に血が滲んでいる。粘液は消化液だった。金属も溶かすとみえ、酸素ボンベに穴が開いている。
勇達は自分達の酸素を代わる代わる彼に吸わせながら、土で消化液を擦り落とし、軍曹の待つ頂上へと急いだ。




