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Lyle~エイリアン物語~  作者: 霜月 幽
第3部 異次元界は侵略者でいっぱい
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終章 (第3部・完)

 終章


 ライル・フォンベルト・リザヌールは、銀河連合推進委員会《UGOC》で、事件の報告を要請され、また、幾つもの科学技術会議からは、異次元領域の数理学、次元フィールドに関する物理数学論、宇宙生成の場におけるエネルギー転換の考察などなど講義の要請を受け、連日目の廻るような忙しさだった。


 そして、その合間を縫って、彼はシーラの灰緑色の惑星を訪ねることができた。

 巨大な赤い末期の太陽は相変わらず禍々しく燃え上がっていたが、その太陽を廻る惑星は存在していなかった。

 その軌道上に散らばって帯を作る岩塊が、辛うじて惑星があったことを示すだけ。その岩塊も、次々と巨大太陽の中に落ちていくのである。


 ライルにとって、彼らが異次元に転移した時、その惑星上で何が起こったのか推論することは難しいことではなかった。忠実なSSS達は、最後まで献身的な奉仕を尽くしてくれたのだ。

 ライルは魂を持たないSSS達のために、感謝の黙祷を捧げた。


 ***


 それから三ヵ月後、夏の眩しい太陽を浴びて、ライル、チャーリィ、勇、ミーナ達の卒業式が行われた。

 地球防衛宇宙軍アメリカ宇宙士官学校の第一回卒業生であった。


 2245年7月7日、卒業生総数、百十人。入学時、三百人近くあった候補生はここまでの数に絞られていたのである。

 アカデミーの誇る精鋭達の門出であった。彼らはこれから、宇宙で、地球で、様々な経験を重ねながら、人類と宇宙の為に尽くしていくのである。


 近藤総司令官やギアソン防衛長官も列席して、若い士官達の姿を目を細めて眺めていた。

 特にギアソンは、LICチームの面々を満足げに見ていた。


 軍服を生まれた時から着ていたみたいにしっくりと似合う、がっしりした近藤勇。4月28日生まれ、二十一歳。彼は、宇宙防衛軍所属特別機動隊に編入が決まっていた。

 今は、少尉であるけれど、彼なら二年と経ずに大尉にまで昇進するに違いない。卓越した精神力と訓練された脅威的な肉体は全身を武器と化し、軍人として他の追随を許さない。彼はきっと、父以上に素晴らしい武将となることだろう。

 ギアソンはそっと傍らの総司令官を見遣った。日本の古代の武士を彷彿とさせるこの髭を蓄えた傑物も、今日は誇らしく思っているに違いない。勇は近年、ますますこの父親に似てきている。



 外交士官の制服をぱりっと着て伊達に決めているのは、赤毛の長身、チャーリィ・オーエンだった。8月6日生まれ、二十歳。眉目秀麗で精悍な男。スポーツで鍛えた身体はしなやかで、素晴らしい反射神経を持つ。特にそれは、射撃に発揮された。

 研ぎ澄まされたカミソリのように鋭い緑灰色の目は、どんな射的も外さない。ついでに女性の心を射落とすのも抜群だった。

 その社交的手腕を買われて、彼は希望通り、地球政府特務機関所属のガルド星外交補佐官に任命されている。彼の今後の活躍が期待される。



 パイロットの制服を艶やかに身に着けているのは、ミーナ・ブルー。7月3日生まれ、二十一歳を迎えたばかり。準医士官の資格も持つ才気あふれる彼女は、アカデミー一の美女であり、今後は、宇宙防衛軍一の美女と言われるに違いない。

 既にパイロット部では、密かにファンクラブが結成されているという話を聞く。きっと、パイロットの猛者達は、気の強いミーナにいいように振り回されることだろうと、彼はこっそり含み笑いをした。

 宇宙から帰ってきた頃、何となく沈みがちであった彼女が、この頃は元のような活気を取り戻しているのも、嬉しいギアソンだった。



 そして、彫像のように無表情ですっきりと立つライル・フォンベルトは、今回アカデミーでも当惑の卒業生だった。訓練科に所属しながら、既に大学では教授として教室も持っている彼を、卒業生として他の学生と同列に並ばせるのは、抵抗が強い。

 しかし、本人は一向に気にする風でもなく、科学士官の制服に身を包んで最前列に並んでいた。

 当人の申告で、一応、生まれは11月16日の十九歳。

 軍人としての資質はともかく、バリヌール人としての彼の持つ才知は人知を超えている。栗色の髪と紫の瞳を持つ性別不明の異星人は、軍の制服もよく似合っていて、老齢期に入ったギアソンの胸をさえときめかせた。

 彼と初めて会ったのは、彼が十七歳の時だった。まだ可愛らしさが多分に残る天才少年だと、その当時は思っていたものだ。



 ギアソンは、自分が年老いた事を知っている。地球防衛長官のデスクを今年中に降りるつもりだった。彼らは、彼が送る最初で最後の卒業生だった。これからは、これらの若い世代に任せよう。

 長く波乱に満ちた半生を思い起こしながら、彼は感慨無量であった。




 後輩たちの憧憬に満ちた祝福に送られて、宇宙防衛軍の制服を着た卒業生――今や晴れて宇宙軍の士官となって彼らはアカデミーの正門を出る。


 色男のチャーリィが女性集団に捕まっていた。ほとんどもみくしゃ状態になっている。


 勇に控えめに花束を渡しているのは、幼馴染の婚約者、高峰順子だった。

 勇が照れている。

 彼は夕方の便で月基地へ飛ぶ。直ぐに編成され、特殊訓練を受けるのだ。


 陽光に目を細めながら女性陣に囲まれているチャーリィを見ていたライルの左腕を、ミーナが捕らえた。金の髪がきらきら輝く。


「さあ、行きましょう」

「何処へ?」


 彼が訊く。

 そこへ女達を振り切って駆けて来たチャーリィが、空いている右腕をがしっと捉えた。

 いつの間にか背後に寄った勇が、ライルの髪をくしゃくしゃと掻き乱す。

 それを見て、順子が笑っている。


「ずっと未来へ」


 チャーリィが答えた。

 彼らはアカデミーを出て、宇宙まで続く道を歩き始めた。 

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