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Lyle~エイリアン物語~  作者: 霜月 幽
第3部 異次元界は侵略者でいっぱい
52/109

異次元へ

異次元突入です

 深く長い亀裂の中へ飛び込んだチャーリィ達は、死以上の激しい苦痛に悲鳴を上げていた。

 彼らの事象次元と、飛び込んでいこうとする次元界への転移の苦痛である。


 非連続体次元界のポテンシャルエネルギーが最大限に高まり、時空エネルギーは限り無くゼロにまで落ちて、次の瞬間、別の時空に転換される一点。彼らはそこを超えようとしていた。


 勇がいみじくも振り子に例えたように、その一点を超えて、別次元に転換されるのは、ほんの一瞬にも満たない間であったが、それは彼らにとって、また事実、永遠の時間でもあった。

 ここでは時間は絶対的なものではなく、既に相対的であったからである。


 彼らは三次元界の法則に従った存在である全てを、容赦ない経過で置換を受け、別次元への変換を強制されていた。

 体の表裏が逆にねじれていくような、或いは押し潰されてぐしゃぐしゃの塊に変わり果てるような、また、四方八方に引き千切られていくような、核爆弾の直撃で粉々に分解されるような筆舌しがたい苦痛に彼らの心身は翻弄されていた。

 それは、彼らの三次元の属性が、変換を拒んで抵抗するあがきであったのかもしれない。



 そして、彼らがついに苦渋に満ちた旅を終えた時、彼らは別次元の世界にそれに属する存在として在った。

 彼らは、去ってきた世界とこの世界の間に、強力な次元バリアーが侵入者を阻むべく設けられてあったことなど、知る由もなかった。まして、それを突き抜けて彼らを送り込むことに成功した代償として一つの世界が滅びたことも。


 しかし、彼らが通ってきた次元の亀裂が今は閉じられ、何処にも帰るべき道を失ってしまったことを、大きなショックとともに知った。



 転換された『シルビアン』は、彼らの意識では多彩色の渦巻く混沌の中にあった。彼らが無意識のうちに期待していた、宇宙も星も、暗黒もなかった。

 同時に、彼らにとって当たり前であった三次元の法則すらも適用されなかった。絶対的普遍性を持つ運動の法則も力学もユークリットの数学同様、意味を持たなかった。


 チャーリィは、『シルビアン』のコンソールに手を触れる。冷たく固い感触が彼をほっとさせる。だが、それは三次元の解釈を捨てきれぬ彼の頑迷な脳が作り出した誤った幻影なのだ。


 『シルビアン』はここに存在しているが、同時に何処までも存在し得た。チャーリィは『シルビアン』の中に居るが、同時に居ないとも言えた。彼自身さえ、既知の肉体を失い、膨張収縮に歪み、手足を伸ばせば何処までも伸びていく。手足さえ本当は最早無いのかもしれない。


 在って無い『シルビアン』を通して、彼は世界を見る――正確には、感知するというべきか――ことができた。

 遠近感が全く失われた世界。幾重にも重なり合い重複しあった形が、絶えず生まれては消え変化し続けている。

 チャーリィは世界の実像を把握することができず、当惑して傍らのライルを見た。


 彼はやっとダメージから回復したところで、驚きと強い興味を浮かべて見入っている。ライルの姿もこの世界の法則に順じて変換しているはずだが、チャーリィには、やはりいつもの美しいライルに修正されて認識する。


「ここでは空間的な距離は意味がない。僕達はここにいながら、また同時に何処にでも存在し得る。問題はいかにして彼らの中枢部へ迫り、クローンと彼の装置を破壊できるかにある。正直なところ、これほどここが異質で難解なところとは思っていなかった」


 それを聞いて、チャーリィはほっとする。ここを理解できるほど、彼が異質でないことが解ってうれしい。


「うれしそうな顔をしないでくれ。チャーリィ。実際、僕は困っているんだ。このままでは、身動きもとれない」


 ライルは溜息をつく。これほど途方にくれたことはなかったと思う。


「私、思うのだけれど……」


 不意にミーナが声を上げた。正確には発声器官で発した声ではない。ここに三次元的肉体はない。

 同じく変化し続ける構成の一部として存在し、彼らの認識や思考は共有された。だが、三次元属性の彼らは、共有させる思考を選択限定できた。


「感知する全てを見ようとするから、混乱するんじゃないかしら。私達は、既にこの事象の一部になっているのだから、無理してこれらをここの流儀で認識する必要はないんじゃない? 私達がお互いを見ているように、私達の解りやすい有様に修正されるままに、物事を見ても差し支えないと思うのよ」


 ライルはまじまじと彼女を見た。まるで、初めて彼女を良く見たかのように。


「確かにそうだ。君の言う通りだ」


 そして、改めて世界を見る。なるほど、そうすると、この世界も何となく理解されてくる。

 バリヌール人なら解釈に詰まって途方にくれるだけだろうに、こんなに容易く解決するなんて。

 地球人の直感だ。彼らは若く、柔軟性に富んでいる。論理一点張りのバリヌール人には真似のできないことだった。

 バリヌール人は既に時代遅れなのだと彼は思った。これからは、この若い地球人の世代なのだ。


 三次元的な意味の空間は意味がない。十センチ先も無限の彼方もここに同時に存在しているのだから。

 彼らの居る地点を示すとしたら、それは領域となる。領域は互いに重なり合い、より高次の領域を形成している。


 三次元の脳の属性を留める意識の解釈に逆らわずにこれらを見ると、世界は多角形の無限に重なり合う中にあった。一辺が無限の長さを持つ多角形。絶えず変化し数えることもできない無数の辺に平行して、或いは交わって、或いはそれを対角線として、無数の領域が連続体を形成している。


 その中で、エネルギー凝集体が消滅と再生を繰り返している。転換のエネルギー残像が有象無象の形や影を生み出しては、次の混沌に消える。

 人の脆い体など、この凄まじいエネルギー流で瞬時に消滅してしまうはずなのだが、それらは彼らの体を素通りしていき、彼らは揺るぎもしなかった。この観念の誤りは、意識が今なお三次元体の肉体感を捨てきれぬために生じている。彼ら自身もまた、このたえまない変化を続ける存在に変換され、なおかつ自意識を持つ存在であることに、彼らの理解がついていけないからに他ならなかった。



 彼らはクローン・ライルを捜さねばならない。エネルギー存在面の一部と化した『シルビアン』は無意味である。彼らは移動するのに、意志を使えば良かった。彼らの意思が、彼らの存在を形作っているエネルギー領域をベクトル移行させ、別領域に移相するのである。


 だが、移相させる時、エネルギー平面の連続した抵抗が生じた。彼らは、だから、一瞬で望みの領域に移相できるのではなかった。

 エネルギーが生み出す事象は彼らにとって物理的な障害となり、重なり合う領域の位相ベクトルは距離感を与えた。


 そして、ソレが存在した。


 ――ひろがる。ふえる。


 ここには彼らの馴染みの気体も堅固な物質もない。うずまくエネルギーの活動と変化が世界の組成だった。そしてそれこそが、ソレの生命活動であり、ソレ自身だった。


 この世界唯一の意志体はあらゆる領域にあまねく在った。事実、過密なまでに拡がり満ちていた。

 ソレは、ライル達の知るいかなる生物にも似ていなかった。生物と呼べる代物でもなかった。ソレは、この次元中に増え広がった一つの生命体、もしくは意志体だった。

 ソレは、それでもこの世界の中にあって有機体といっても良い存在である。ソレの主要な意識は、自己の増殖――拡大欲に占められ、全ての知識はその目的のためにあった。


 ――ふえる。ひろがる。


 クローン・ライルは、ライル達の宇宙から、太陽とその周辺の宇宙をエネルギーに変えて吸収し、それによって、此方の次元空間を拡大させているのだった。

 次元エネルギーを空間に転換させる――即ち、宇宙を創造しているのである。やがては、彼らの宇宙をそっくり自分達の次元空間に転換してしまうつもりだった。

 ソレは、世界が拡大する度に確実に成長が続けられるようになった。ソレは嬉々として己の欲望を貪り始めた。


 ――みちて、ひろがる。うれしい。


 ライル達は、既に同化しているたソレの歓喜に、彼らの全身までが高揚するのを感じた。同時に、この世界で進行中の企てが意図せずに彼らの中に流れ込んでくる。


 宇宙創造! ライルは衝撃を受ける。そして、いっそう強くクローンの抹殺の必要性を確信した。


 急がねばならない。クローンの放った宇宙生成転換の場は、増大するに従って、かつてライルが放った場と同様、制御を失い、ライル達の宇宙を吸収しつくしてしまうまで、活動が留まることがなくなるのだ。

 クローンが在る領域へ彼らが近づくのを、ソレが許すはずがない。その抵抗が逆にクローンの居場所を示すことになる。



 エネルギー流が堅固な山を形つくり、彼らの進攻を阻んだ。勇の意志がその形象を砕き光に変える。

 小さな生成物はそのまま渡っていく。その生成物も次々と形を変え、最後に光や小さなエネルギーの花火に転換される。

 エネルギーが物質に変換され、物質が空間に還元されるのは、ここでは当たり前の現象だったのだ。


 移相を阻む変換現象の他に、彼らの存在に直接ソレが妨害を加えた。チャーリィ達は、既にソレの存在の一部として同化しているので、ソレはただ行くなと命じ、存在を否定すれば良かった。


 チャーリィ達はそれに対し、意志力のありったけで対抗しなければならなかった。侵入者を相手しているのが、ソレのほんの一部の意識であることは、彼らにとって幸いだった。

 アメーバが一方で、自分の体を食われながらも、なおも貪欲に餌を貪り続けるのに似て、部分の消失がやがては、全体を脅かすことになろうとも、最も本能的な拡大欲望に夢中になってるソレは、中枢意識の端にも感じていなかった。

 もし、ソレが世界ぐるみの意志をもって、全力で彼らに挑んできたら、たかだか数個の個体でしかない彼らに、わずかでも抵抗できるはずがなかった。



 勇達の闘志に燃えた精神は、それらを切り裂き、突き破って、領域を走破していく。意志力にかけてはライルが最も強かったが、勇、チャーリィ、ミーナは、不屈の闘志で補い余りあった。

 この三人は性格も能力も異なっているが、強さという面で、いずれも第一級の戦士だった。


 要所要所に、クローンの仕掛けた巧みな罠が彼らの足を阻んだ。

 一星系分もある巨大なエネルギーの沼。全てを阻む堅牢な障壁。渦を巻き触れるものを混沌界に投げ込む領域。

 中でも特に危なかったのは、消滅エネルギーの深い穴だった。近寄るもの全てを吸い込み、消滅させてしまう底無しの淵。

 しかも、彼らがその領域に移相した途端、他の領域への道を障壁で閉ざされた。そして、渦動エネルギーが彼らを否応も無く穴へと引き摺っていく。


「くそっ。どうしたらいい?」


 勇が歯軋りした。ライルが淵際に押しやられた。ミーナがライルを押しのけ、逆に自分が落ちかかる。


「あいつを落とせ!」


 チャーリィが上部に交差している高密度のエネルギー領域を指して叫んだ。四人は力を合わせて、意志の力を領域に注ぐ。エネルギー流ではなく、空域を構成する領域である。これを動かすのは不可能に近い。それでも、彼らは不可能事を可能にしようと頑張った。


 ミーナが淵から落ち始めた。それを助けようと掴んだライルも共に落ちかける。強い力で吸い込まれていくのが解った。


「馬鹿! 手を離して! あなたまで落ちちゃうじゃない!」


 ミーナが泣き声で叫ぶ。


「もう、遅い」


 ライルがにっと笑って言った。そのまま淵の中に吸い込まれる。

 その瞬間、彼らより速く、高密度の領域が淵の奥へと消えていった。莫大なエネルギーの反応が二人を吹き上げる。さしもの消滅エネルギーも飽和してその穴を閉じたのだ。


 そのあとしばらく、彼らは希薄になった存在を漂わせて周囲のエネルギー流を吸収しなくてはならなかった。




 そうしてついに、彼らは辿り着いた。

 彼らは、そこにクローン・ライルの存在をた。

 同時に、ライルは、その領域を中心に無数に伸びている巨大な宇宙生成の場をた。

方程式でしか知りえない多次元界は、表現厳しいです;;どうぞ、イメージで、お願いします><

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