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Lyle~エイリアン物語~  作者: 霜月 幽
第2部 ミルキーウェイは宇宙船でいっぱい
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『至上者』の輸送船来たる

 勇はトゥール・ラン達と例の惑星に戻っていた。

 納入期限が来ていたのだ。嫌がるゲルログ人を急きたてて製品の納入準備を進ませる。


 たいして待つ必要はなかった。『至上者』は時間ぴったり守って現れた。

 ガルド人でさえ目を丸くするような巨大な船体が、空から闇を落として降りて来る。


 黒々とした船体は辺りへの影響など、はなから考えていなかった。周囲を薙ぎ払い、プラズマの熱で焼き払いながらプラントの直ぐ近くに着地する。



 特徴の少ない曲線に囲まれた船体の一部に大きな穴が開き、そこから金属質のベルトが爬虫類の舌のようぬ伸びてきた。それは工場の一端に取り付くと回転を始める。工場の中から製品の塊が運ばれだした。

 船はどっしりと腰を降ろしたまま、貴重な鉱物資源を貪欲に飲み込んでいった。



 勇達は警戒しながら、慎重にベルトに近づいた。

 船体に開いた巨大なハッチを覗く。

 トゥール・ランの合図で、箱型の資材の間に、一人ずつ飛び乗って身を潜めた。


 作戦部隊は五人。何れも志願者だ。もちろん、勇も。

 そのまま暗いハッチの中に運ばれていく。

 鯨に飲み込まれたピノキオもこんな気分だったかなと、勇は考えた。



 前方に、真の闇の落とし穴。と、見るうちに、いきなりベルトから放り出された。ここが終点らしい。

 積まれた資材の角に脇腹を打ち付けて唸ったガルド人が、慌てて横っ飛びに転がった。その後へ、数トンはあろうかと思われるクレーンが風を切って落ちてきた。


 ぞっとして見守る側でクレーンは資材を掴むと、測り知れない闇の奥へ運んで行った。見上げても天井は闇に中で定かでなく、その中から幾つものクレーンが降りて来る。


「ここは物騒だ。先へ急ごう」


 トゥール・ランの声がヘルメットの中に響く。


 そこで、勇は赤外線スコープを思い出した。

 なんて間抜けなんだ、と、舌を鳴らして、闇にくっきりと浮かぶトゥール・ラン達の鮮やかな赤い姿を追った。

 運び込まれたときは赤く発色していた資材も、奥に進むにつれて殆ど感知できないほどに冷えていく。それでも、ぼんやりした熱の残照でうっすらと辺りの様子が解る。



 この船は、その殆どの空間を、資材積み入れの為に使っているに違いなかった。それ程の途方もない広さだった。


「ドアだ」


 トゥール・ランの言葉に勇ははっと緊張する。彼のヘルメットから発せられる小さな光が、その所在を浮き上がらせていた。



 扉は見たところぴったりと閉じられ、開けられそうにもなかった。一人が武器を出し、出力を絞ってドアの一部に浴びせた。そしてぐぐっと押す。


 ドアはびくともしなかった。彼は肩を使って押してみた。物凄い力が出ているのだろう。だが、扉は開かない。此方と向こうでは、気圧が違うらしい。


 彼は十数歩下がると、走って扉に体当たりした。インド象でも吹っ飛ばせそうな勢いだった。彼の体は、厚い扉ごと向こうへ転がり込んだ。


 同時に激しい突風が巻き起こり、残りの連中の体を掴むとその狭い部屋の壁に叩き付けた。ガルド人が急いで扉を閉める。扉は派手な音を立てて、吸い付くように閉まった。




 自動的に気圧調整が始まり、室内は静まり返った。空気が抜かれていく。次いで、淡緑色のガスが満たされる。


「塩素だ」


 信じられないと言う調子で、一人が囁いた。もっともガルド人の場合、囁く声も、勇には怒鳴っているように聞こえる。ちょっと大きな声で喋った日には、オペラの大合唱となる。

 勇は急にヘルメットの閉まり具合が気になりだした。トゥール・ランたちの呼吸音を初めて意識しはじめる。



 エアロックの扉を開けた向こうは、猛毒ガスの渦巻く混沌界だった。二酸化塩素のオレンジ色のガスが層を作って流れる。視界が甚だ悪い。


 そのガスの中から、ぼうっと黒っぽい影が現れた。ロボット? そいつが武器で撃ってきたのと、トゥール・ランが銃をぶっ放したのは同時だった。


 ビームの輝きが重い気体を切り裂き、その影に命中した。ロボットは渦の中に消える。辺りの温度がみるみる上がりだした。


「だめだ。退却しよう」


 トゥール・ランが合図を送り、エアロックに戻る。


 勇がぐずぐずしていて、なかなか戻らない。やっと、現れた彼は仲間に怒鳴った。


「早く離れろ!」


 トゥール・ランは勇を引き摺るようにして、外へ飛び出した。




 エアロックの向こうでは、破壊されたロボットから出る熱でどんどん温度が上昇していく。皆はできる限り離れると、地面に伏せた。


 その直後、ハッチのほうで爆発が起こった。続いて、風船が破裂するように巨大な宇宙船が爆発した。地面にしがみついていた彼らの体も浮き上がり、数百メートルも飛ばされる。


「何をやった?」


 爆風が収まると、トゥール・ランが勇に訊いてきた。


「水素ガスのボンベを置いてきたのさ」


 勇は背中のバックパックを見せて、こともなげに言った。

 ロケット弾の液体燃料である。量は僅かだったが、ロボットが発した熱反応とあいまって、連鎖的に爆発が引き起こされたのだ。


 トゥール・ランが呆れていると、待機していたガルド兵が叫びながら走ってきた。


「やりました! 爆発する直前、亜空間長距離用通信が発せられました。方位と出力を押さえてあります!」



 

 ガルドに戻ったトゥール・ランは直ぐにそのデータをもとに、『至上者』のいると思われる位置関係を割り出させた。


 同時に、ガルド帝国軍と新たに編成され始めた協力国の軍隊を細かく小隊に分け、同じような侵略を受けている世界の発見に当たらせる。

 彼らの任務は、侵略地図の作成と、『至上者』へのこれ以上の資源の供給を絶つ事。


 その一方で、連合艦隊の設立を急いだ。 

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