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ー一之瀬・和久・長ー

 あの事件があってから数日が立った。

 あの後警察に事情聴取をされる事もなく、あの警察の人にはあっていない。数日たてば早いもので、校長先生から事件を聞いた後の学校のざわついた感じももうだいぶ落ち着きを取り戻そうとしているようだった。

 悲しいかな自分に関わりがない事件だと七十五日も必要ないらしい。

 事件の方はと言うと、警察の人も言っていたように、あまり発展はしていないらしく、未だに犯人の目星はついていないらしい。もちろんテレビのニュースでしないだけで警察側としては何か掴んでいるのかもしれないが。

 それより今はこの目と鼻の先で起こっている喧嘩?をどうにかするべきなんだと思う。

「何故君はこんな時間にしか学校に来ないのだ。今は先生方もあの事件の事に追われて何も言わないかもしれないが、僕はそうはいかない。同じクラスの者として君の素行を無視するわけにはいかない」

 キッチリと第一ボタンまで閉めたシャツにブレザー、しっかりとネクタイを上まで締め、黒縁のメガネをかけた見た目からして委員長という感じのクラスメイト、一之瀬・和久・長いちのせ・かずひさ・おさが、対して、シャツのボタンは開いているは、ブレザーはちゃんと着ていないし、ネクタイも胸のあたりまででだらんとしている、見た目からしてただのチンピラにしか見えない望月(もちづき)に注意をしている。

 時刻はもう昼休み。そんな時間にようやく学校来た望月に一之瀬は憤りを隠せないでいるのだろう。もともと望月は学校に来ることも少ないし、先生を舐めた態度で、授業も真面目に受けることがない。

 おそらくクラスのみんなからしたら来ない方が嬉しい気がするが、それでも一之瀬は生徒会役員、次期生徒会長と言われている者として、そしてクラスメイトとして真面目に登校してもらいたいのだろう。

「いやー真面目だねぇ一之瀬ちゃんは」

 昨日の店の残りだと言う焼き鳥を、弁当箱いっぱいに詰め込んであったものが後数個になったところで星空が爪楊枝で肉を刺しながら、まるで対岸の火事を見るように言う。実際関わりの無い事と言えばそうかもしれないがそれでも同じクラスで起こっている事なんだから、もう少し思うところがあってもいいんじゃないかとは思うんだが。

「一之瀬君すごいよね。望月くんってちょっと怖そうだから私あんな風に注意できないよ」

 星空の持って来ていた、最後の焼き鳥をつまみながら望月と一之瀬を見る天使。

「わざわざ注意する意味は分かんないよね。ああいうのには関わらなかったらいいんよ。授業中うるさいのはあれだけどさー」

 さばさばしていると言うか、冷たいと言うか……

「ねえ、元気君はどう思う」

 天使が、俺に話を振る。

「そりゃあ俺だって望月は見た目からしたら話したくないタイプだけど、望月とはまだろくに話したことないからどんな奴かもわからないし何とも言えないかな」

 星空の事を冷たいとか思っておきながらやはり、俺も関わりの無いものにはどうも考えにくいものみたいだ。あの態度だとそうはないだろうが、もしかしたら実はいい奴なんて事もあるかもしれないしな。

 キーンーコーンーカーンーコーン

 お昼休みが終わるチャイムが鳴った。

 チャイムが鳴ってから五分後に次の授業が始まる。次の授業はクラスで、委員長を決めるためのクラス会の時間になっていたから、ちらほらと外に出ていた人たちも戻って来た。

 ほとんど全員が戻って来た所で、チャイムが鳴ったため席に戻った一之瀬を横目に、望月が黒板の前に立ち教卓をバンと鳴らした。

「なあおい、みんなよ、聞いてくれ。俺はこの昼休み、一之瀬に注意をされて、心を入れ替える事にした。ただ、ただな、」

 大げさに手を広げクラスのみんなに訴える。ちょうど外に行っていた人も全員戻って来た所だった。

「今までクラスのみんなには悪い事をしていたと思う。そんなやつが何を言っているんだと思うだろう。それに俺だって一応プライドがある。何もなくホイホイ心を入れ替えますなんて言ってもそれは俺のプライドがゆるさねぇし、お前らだって信用出来ないだろう。それに今まで俺を支持してくれていたあいつらにも申し訳ねぇと思うんだ」

 あいつら、いつも望月と一緒にいて同じ様に学校をさぼったり、授業中大声で話をしたりしていた、同じように制服をだらしなく来ている取り巻きの二人がニヤニヤしながら話を聞いていた。

「だから何か理由があればいいと思うんだ。そうしたらよ、次の授業がなんとクラスの委員長決めだって言うじゃないかよ。ちょうどいい、そこで勝負をしようじゃねぇか!!立候補制なんかにしないで、投票制にする。それで、好きな奴の名前を入れてくれればいい。もちろんこの感じだと委員長になるのは一之瀬だろう。だが、それで構わない。そうしたら俺は負けを認めて委員長のいう事を聞こうじゃないか」

「成程、君がそれでいいのなら勝負をしようじゃないか。ちゃんと真面目に学校に来てくれると言うのなら僕はそれで構わない。……正々堂々、よろしくな」

 一之瀬がわざわざ望月の前に言って握手を求めた。堅く握手を交わす二人。

 望月と一之瀬の姿を見て、クラスのみんなは勝負をしようという空気になっていた。

「おーし、みんな授業始めるぞ……」

 そう言いながら入って来た先生は前に望月と一之瀬が握手をしながら立っているのに驚いたようだった。

 一之瀬が先生に事情を説明すると先生はイキイキと投票の準備を始めた。

 それはそうだ。今まで態度が悪かった生徒が自分の意志で真面目にすると言うのだ。先生の浮き浮きした様子が見てとれた。

 先生が用意した小さい紙が配られると、みんな自分以外の思い思いの名前を書いた。

 決め方は簡単、一人が、誰か一人の名前を書き、一番票が多い人が委員長。二番目に多い人が副委員長になる。

 結果は目に見えていた。少なくとも委員長は一之瀬になるはずだ。

「それじゃあ開票していくな」

 先生が一票づつ開票していく。

 名前が書かれた人の名前を書き、その横に投票の数だけ『正』の字を書いていく。




 結果は唖然とする事になった。

 黒板にはクラスのほとんど全員の名前が書かれる事になった。

 三票入っているのが一人と、二票が一人。名前が挙がらなかったのが三人。後はみんなそれぞれに一票づつ入っていた。

「ちょ、ちょっと何で私に二票も入ってるの!?これじゃあ私が副委員長をしないといけないよね、ねえ!!」

 二票入っていた俺の前の席の天使が、俺のネクタイを引っ張りながら訴えてくる。

 だけどこの時、俺は天使の言っている事は右から左に抜けていた。

 三票入っていたのが望月勝利だったからだ。

 それだけならまだギリギリ天使に言葉を返す事が出来たと思う。

 だが俺が驚いたのはそれだけではなかった。

 誰も票を入れなかったのは三人。うち二人は望月の取り巻きの二人。

 そして、もう一人が一之瀬だったのだ。

 流石にこの結果には先生も驚きを隠せないでいた。

「えー、えっと、投票の結果三票入っている望月に委員長、二票入っている天使に副委員長をしてもらう事になるんだが……」

 教室の一番後ろの席でニヤニヤと偉そうに座っていた望月がすっと手を挙げた。

「せんせー、俺委員長とか興味ないんで、指名しまーす、一之瀬君がいいと思いまーす」

「俺もそう思いまーす」

「俺も俺もー」

 望月とその取り巻き二人が、どうでもいいと言うような声で次々に声を上げた。

「って、わけで、俺もう帰るわ」

 立ち上がり帰ろうとする望月と二人の取り巻き。

「ちょっと君達!!」

 制止しようとする先生を無視して教室から三人がいなくなった。

「ーーおい誰だよ、あいつに票を入れたやつ」

「ーーどう考えてもあの二人しかいないだろ」

「ーーそれより何で一人しか一之瀬に票を入れてないんだよ」

「ーーだってみんなが一之瀬君に入れると思ったから他の人にネタで入れようかなって……」

「ーーあ、俺も俺もー」

 クラス中がひそひそと今の結果について話し始めていた。

 いくらなんでもこの結果は普通じゃない。

 アンダードッグ効果と言う言葉は聞いた事がある。負けそうな方に同情なんかからつい、票を入れてしまう。だが、その逆もある。今回は、どう考えても勝つのは一之瀬だった。なら、勝つ方に入れてもおかしくはないだろう。

 それに一之瀬と望月の票が多く入ると言うのならまだわかる。

 だが実際はそうではなかった。四十人いるクラスのほぼ全員の名前が挙がり、そして一之瀬には一票も入らなかったと言う点。これはもう仕組まれていたとかそういうレベルには思えなかった。

 クラスがざわついているのを止めるかのように先生が二度手を叩いた。

 静かになったのを確認してから、とりあえず委員長決めを再開しようとみんなに尋ねた。

「えーっと……望月がいないとなると委員長が天使で、副委員長決めをもう一回投票でもするか?」

「私が委員長とか無理です、無理です」

 ぶんぶんと手と顔を横に振る天使。

「……なら、副委員長が天使で委員長をもう一度投票で決めるって言うのはどうだろう」

 副委員長ならと承諾した天使の意見もあり、委員長をもう一度投票で決める事になった。

 今度の投票は単純明快だった。クラスの全員が一之瀬に票を入れたからだ。

 当の本人はと言うと、みんなに選ばれたからには精一杯クラスの代表として役に立ちたい!!とは言っていたが、やはり一度あの、望月に負けている事が大きいだろう。ところどころに悲しそうな顔が見え隠れしていた。


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