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~恥ずかしい…~

「私は、あいつらと出会って、人生で楽しい時間を過ごした。あれは、忘れられないね。…忘れたくても、忘れられない思い出もあるがな…」*「戦車日誌」より抜粋

 入学式直後から始まったの授業や訓練は、かなり厳しかった。

 これは必然的で、本来なら三年間掛けて教育するところを全軍共通の下級士官にするとは言え、半年間で叩き込まなければならない。当然、その中からは途中で脱落する者も居る。


 静巴や依子等のメンバーは、全士官学校のトップクラスの実力を示していた。しかし、静巴は中々首位を取ることが出来ず何時も次席となっている。まあ、あの性格が主な原因な訳で…


 だが、そんな中で後々に語られる「横須賀士官学校爆発事件」という名前だけ見れば危険極まりない事件が起きた。



「今日はゆっくり出来ますね」

 源三郎は、文庫本サイズの本を読んでいた。

「そうね。じゃあ私は何時も通り鍛錬に行ってくるわ」

「はい。いってらっしゃい」

 百合子が木刀を片手に部屋を出る。

「朝から元気なこと…」

 再び読書に没頭しようとした時、ドアをノックする音がした。

「はい。どうぞ」

「源三郎君!会いたかったぞ!!」

 部屋に入るなり、源三郎に飛びつく静巴。

「いきなりダイナミックな挨拶ですね?」

「そう言いつつも、しっかりキャッチしてくれるではないか~♪」

「そうでもしないと怪我するでしょ?」

「そうだな!それより…」

 静巴は、ポケットの中から小さい包みを取り出す。

「はい!」

「これは?」

「開けてからのお楽しみ♪」

「…はい」

 源三郎は、包みの中身を確認する。

「…プチパンですか?」

「その通り!依子と一緒に作った手作りだ!」

「へぇ~依子さんもですか。早速一つ貰いますね」

「良いとも!」

 源三郎が一つ口にする。

「…甘い。これはいい」

「それは依子が作ったプチパンだな!彼女も料理の腕は確かだよ!」

「美味しいもの、ありがとうございます。てっきり、実験台にされるかと思いましたよ」

「失礼な!私が源三郎君を実験台にするなど…」

「あの時、手製栄養剤を知らせずに飲ませたのは何処の誰でしたか?」

「うっ…」

 …していたようだ。

「疑った私に落ち度が有りましたので、今回の件はお相子としましょう」

「分かればそれでいいのだ!では、後片付けがあるから、私は失礼するよ!」

 静巴が部屋を出て行く。

「まあ、百合子さんにもお裾分けしとくかな」

 源三郎は机の上に包みを置く。

 数十分後…

「ふぅ…」

 百合子が戻って来た。

「おかえりー」

「源三郎は、頭の鍛錬に余念がないな。少しは身体の方も鍛錬したらどうだ?」

「毎日やってるよ。時間はあまり取ってはないけど…」

「そうか。…ん?これはなんだ?」

 百合子が例の包みに目を向ける。

「それ?静巴さんと依子さんが作った焼き菓子だよ」

「ほぉ…あの二人がね…」

「一つどう?」

「そうだな…まあ、小腹が空き始めるから丁度良い。一つ貰おうか」

 百合子がプチパンを頬張る。

「うん!これは美味い!」

「そうですか。じゃあ、俺は図書室に行って来…」

 ます。と言おうとした瞬間、源三郎は後ろからの衝撃波と光を受けた。

「うおお!?」

 衝撃波により、ドアを倒し破って廊下の壁に叩き付けられた。

「いってぇ…あっ!?(まだ百合子さんが部屋の中に!!)」

 身体の痛みを捩じ伏せて、部屋に戻る。

「百合子さん!」

「う、う~ん。…その声は源三郎か?源三郎なのか?」

「はい。とりあえず、お互いに生きてることは確認出来…」

 ここに来て源三郎が疑問を持った。

「…あれ?百合子さん、声変わりましたか?」

「ふぇ?あれ?…えええええ!?」

 百合子は自分の置かれた状況を理解出来…

「小さくなってるー!?」

 …ていた。


 その後、静巴と依子が駆け付けた。状況を判断した静巴は、チビ百合子(註:静巴が勝手に呼称)の服を即座に仕立てる。

「それで…静巴さんがその幼体化粉末を仕込んでそれが百合子さんに当たったと…」

 源三郎は、静巴が白状した内容を確認する。

「ま、まあ成功したから良」

「くないですよ!もう既にこの話は、学校中に流れまくってるんですよ!」

「まあまあ。私はこう小さくなったけど、性格や知性まで幼体化しなくて良かったよ〜」

「百合子。あなたの性格、少し丸くなってるわよ?」

 百合子の変化に、依子が指摘する。

「え?本当?」

「ええ、私が嘘を吐くとでも?」

「いいや」

「そう…しかし、百合子がこんなに可愛くなって〜♪」

「ちょっ!止めッ!」

 依子は、チビ百合子をもふもふし始める。

「そうだ!今日は、横須賀の街を歩こうではないか!」

 静巴は、唐突に横須賀の街へ行こうと言い出した。

「そうね…じゃあ、チビ百合子に似合う服でも探しましょう!」

「え?」

「依子、あなた…」

 千里が立ち上がって依子に近付く。

「天才だわ!」

「え!そっち!そっちなの!?」

「ありがとう千里。早速準備をするわよ」

 依子と千里は堅い握手をする。

「げ、源三郎!何とか…」

「…すまん。あの二人は、静巴さんに飲み込まれたんだ。諦めてくれ」

「そんな!殺生な!!」

「大丈夫だ。死にはせんだろう、多分」

「多分!?」

 この時の女神は非情である。チビ百合子は、静巴と依子に両手を握られるという拘束を受けて、静巴達と共に横須賀の街へと出掛けた。


 横須賀市街地

「これどうかしら?」

「こういうのも良いではないか?」

「それなら、こういう組み合わせもいいんじゃない?」

 着物専門店で、チビ百合子に似合う着物を選んでいる三人。

「う~~…」

 チビ百合子は、力の差により抵抗出来ずに良い様に服を着せられている。

 一方、源三郎は着物専門店の隣にある喫茶店で珈琲を飲んでいた。

 そこの喫茶店は、英国の様式を模したような古風ある店構えであった。

「今頃、百合子さんは涙目になって着物の選定という名の公開処刑になっているだろうな」

 勿論、源三郎もこの出掛けは楽ではなかった。

「え〜っと、土産の羊羹や最中、カステラに…って、お菓子ばっかじゃん」

 何時の時代でも、男は荷物持ちなのである。

「どうぞ」

 目の前にサンドウィッチが置かれる。

「あれ?頼んでいませんが…」

「あちらのお客様のご注文で…」

 店員が依頼主の客人座る席を示す。

 依頼主は、源三郎の視線に築いて軽く会釈をする。

「なるほど。では、後で御礼を言わなくては…ありがとうございます」

「いえ…では、ごゆっくり」

 店員が立ち去る。

「…美味い。…ん?」

 サンドウィッチに敷いてある紙ナプキンに目が行った。

「…何か書いてあるな?」

 手に取って確かめてみる。

「…これ、どっかで見たことあるな」

 思い当たることがあるらしく、紙ナプキンを胸ポケットへ入れる。

「…うん。美味しい」

 サンドウィッチを食して珈琲を飲み終えた源三郎は、奢ってくれた客人に礼を言って喫茶店を立ち去る。

 その後、源三郎は静巴達と合流して横須賀士官学校へと帰る。


 その日の夜…

「今日はお疲れ様です」

「う~~。源三郎、逃げないでよ~」

 着物を着せられたチビ百合子は、ベットでうなだれていた。

「しかたないですよ。あの着物専門店って、女物ばかりじゃないですか?行けませんよ、私は」

「意気地なし」

 そっぽを向くチビ百合子。

「静巴さんの話によると、夜中に苦しみ出すようです。その時に、着物を脱げば元通りになるらしいです」

「それ本当?」

「静巴さんは、ハッタリなんてかましませんよ」

「…そう。信頼してるのね」

 羨ましい目で源三郎の背中を見詰める。

「…ねぇ?さっきから気になっているんだけど、何やっているの?」

 チビ百合子の言葉は、源三郎の動きをピクリと止めた。

「…百合子さんが、知らなくてもいいものです。安心して」

「源三郎、何で一人で抱え込もうとするの?」

 源三郎の言葉を遮って、それに迫ろうとする。

「…俺の背中、そう見えますか?」

「ええ、そう見えて仕方ないわ」

 源三郎の質問に、チビ百合子は即答で返す。

「…そうですか」

「大体…うっ」

 続けようとしたチビ百合子は、突然苦しみ出した。

「しっかりしてください」

 源三郎が歩み寄る。

「く…苦しい…」

「う~ん…どうしたものか…」

 源三郎は悩んだ。苦しみ始めた頃合で、着物を脱がさねばならない。

「げ、源三郎…脱がして」

「…え?」

 チビ百合子の言葉に耳を疑う。

「いいから。脱がして…苦しくて流石に…」

「…分かりました」

 意を決して着物を脱がす。

「…終わりましたよ」

 脱がし終わって布団をかける。

「では、おやすみな」

「待って」

 チビ百合子は、源三郎の手首を掴んだ。

「…まだ、ここに居て」

「…分かりました」

 数分後、チビ百合子は深い眠りに就いた。源三郎は、そっと手を引いて自分の机に向かう。



 翌朝、百合子は無事元の身体に戻った。

「…また、光と衝撃波を受けた」

 直ったばかりのドアを壊し、源三郎を廊下へと吹き飛ばして…

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