~再会と航路~
「まさか、ここで彼らに会うとは…世の中、分からんな。」*「最良とは?」特別枠書付文抜粋
〝コンコン〟
「長官!不審船にて拘束した二名を連れて来ました!」
「ご苦労、入れてくれ。」
「ハッ!失礼します。」
扉から下士官と共に、源三郎と静巴が入ってくる。
「他の者は席を外してくれ。小一時間で呼ぶ。」
「は。」
下士官は敬礼をして部屋を出た。
「どうぞ、座ってほしい。」
「では、失礼します。」
源三郎が椅子に座り、その隣の椅子に座る静巴。
「まずは、先ほどの失礼をお詫びしたい。御互いに理解が困難な状況下での出来事、どうか許してはもらえないだろうか。」
「いえ、こちらこそ。身体と船が無事で何よりです。」
「そうか。ところで、貴官の名を聞いても宜しいか?」
「や、山塚 源三郎です。」
慌てて源三郎が礼をする。
「山口 静巴。よろしくね!」
静巴の紹介に、ポカンとする長谷川と鬼河。
「(静巴さん、場をわきまえて!)」
「(私はこういう空気が嫌いだ!元気にいこうではないか!)」
静巴のマイペースさに真っ青の源三郎。対照的に胸を張りドヤ顔の静巴。
「相変わらずだな、二人とも。」
えっ?長谷川の隣、苦笑する鬼河を見つめる源三郎。
「…ああっ!」
「おお!いつぞやのオッサン!」
「オッサンは余計だ。…まさか、ここで会うとはな。」
「色々とお聞きしたいですが…とりあえず、この状況は何ですかね?」
「そうだな。」
鬼河は、煙草を取り出して咥える。火は、着けなかった。
『今日は1938年8月15日。君達は…』
『確か、2020年9月2日だったはずだよ。』
『…80年以上も前にですか。何でです?』
『そんなこと、俺もわからんよ。…だがこの世界は、俺らが元いた世界とちょっと違ってな。』
『歴史が違うんですか?』
『まあ私が弄くったのでな。ちょいと、ロシア革命で人を助けただけよ。』
『ニコライ一家だな!』
『…察しがいいな。そこから歯車が狂いだしたのか、一次大戦終わったら軍縮が始まっちまった。』
『なんで軍縮が始まるんですか、早過ぎるでしょう…』
『風が吹けば桶屋が儲かるって言うだろ?…とにかく、おかげで国内事情も変貌だ。』
『国内から資源がザクザク湧いてきたのかな?』
『少なくとも、いい話じゃない。ジュトランド沖海戦で、比叡と霧島が沈没。金剛も潜水艦でな。呉に帰り着いた戦艦は、榛名だけだった。』
『まるで時が早まったかのようですね。』
『ああ。その榛名も、今はすでにいないがな。』
『それじゃあ、海軍戦力がガタガタに…』
『そこは大丈夫だ。新型巡洋艦のネームシップを比叡に命名しちゃったり、中型空母作っちゃったりしてだな…』
『歴史改変の域を超えてるじゃないですか!早くも航空主兵主義に切替ですか!?』
『長官達の心が広かったからな。』
『はぁ…』
「ま、ざっくり言ってこんな感じだ。」
鬼河は、煙草を灰皿に置く。
「…あと、人手不足で士官が足りん。今では、女性士官すら登場する有様だ。」
「日本で女性士官とは、我々の歴史上では考えられないですね。」
流石だなと関心する源三郎。
「しかし、こんなに世界情勢が変わっているのだ!当然いいことも…」
「あったようでない、といったところだがな。」
相変わらずハイテンションな静巴のセリフを、冷静に遮る鬼河。
「満州事変はなくなった。だが、安心していたら、ウラル事件って言う、ソ連のウラル以東の侵攻があってな。北樺太以外は…」
鬼河の表情が暗くなる。
「ほぼ、史実のソ連領になった…ですか?」
「意外過ぎるな…」
珍しく面食らう静巴。
その後、身元保証人を鬼河に二人は解放された。
「さて君達はどうするかね?」
「う~ん…」
どうすると言われても、大抵の人は困る。具体的な予定を訊かれると、直ぐには返事ができない。
「取り敢えずは、衣食住の保障が必要だな!」
「そうですね…」
鬼河の家へと転がり込むことは簡単だ。知り合いだから、頼みやすい。だが…
「拙案ではありますが…」
「なんだ?」
「私と静巴さんによる技術提供というのはどうでしょうか?」
知り合いとは言え、「タダで住ませてくれ」というのは図々しい。
「というと?」
「私と静巴さんならハイテク技術で、例えば新型の工作機械や発動機が設計できます。」
「その見返りに、衣食住を保障してくれ…ということか。」
鬼河は、機転を効かせてフォローをした。
「なるほど。それなら私の力でもできそうだな。」
「ありがとうございます。静巴さん、どうですか?この案なら…」
「いや、私は士官になりたいぞ!」
「…え?」
「…え?」
静巴の一言に、鬼河も驚きの声を漏らした。
「な、何故ですか!?わざわざ危険な軍人になることもないでしょう!?」
「源三郎君…確かに、源三郎君の提案は堅実で確実だ。」
まるで推理小説の探偵のように、やわらかに肯定する静巴。
「だけど、私は敢えて士官になりたい。よいではないか?」
「…どうしてもですか?」
「うん。たまには、リフレッシュしたいからな!」
普通に本音が出てきた。てか、そんな理由で選ぶものなのか?
「はぁ…」
静巴の行動には慣れているが、今回ばかりは勘弁と言わんばかりの源三郎。
「前線に出たくないのであれば、技術工廠附きの士官というのはどうだ?」
「そこは前線なのか!?」
「前線ではないが、そこから行くことはできる。」
とりあえず行った後、そこから前線に出てみてはどうかね?と鬼河が提案した。
「よし!源三郎君、そこへ行くぞ!」
「ま、まあ工廠なら…」
これが妥協線かなと、納得するしかなかった。