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戦の準備

海軍幕僚学校…艦隊の作戦立案・作戦指揮及び艦艇指揮、戦略や戦術等を学ぶ教育機関。但し、艦艇指揮は初歩的手順を教えるだけなので現場に行って叩き上げてもらう形となっている。

 尚、入校試験などないが佐官クラスの将校の推薦が必要となっている。

 上海沖の臨検事件を終結させた日本艦隊は、再び上海へ進行した。

 上海の港に先遣小隊を陸揚げして、川内と秋雲が上海から青島や大連へと避難する客船の護衛の任に就く。

 一週間後に来た二個連隊の日本軍を主軸とした租界防衛隊は、中華共産党を一掃した。

 中華国民党は、謝礼として南満洲鉄道株式会社の他方面事業参入認可と20年間の関税緩和を図った。日本政府は、承諾してこれを上海協定として締結した。

 但し、米国はこれを良く思わなかったらしい。これが後ほど日米関係悪化に繋がって行くが、それが表面化するのはまだ先の話である。


 上海事変が終結した後、秋雲は第四水雷戦隊から横須賀鎮守府へ移籍した。

 勿論、横須賀鎮守府へ移籍しても日々のやることに変わりがなく、強いて言えば敵役に回って他の駆逐隊や水雷戦隊相手に戦闘演習に参加するぐらいである。

 そして、今日も第四駆逐隊の演習相手になっている。

〝1番!2番!魚雷発射!!〟

「1番!2番!魚雷発射!!」

 源三郎は、伝声管から聞こえてきた艦長の命令を復唱しながら発射ボタンを押す。

 圧縮空気の排出音と共に酸素魚雷が飛び出す。今度は、前部・後部両方合わせた8本である。

〝1時から2時方向に艦影2つ!距離5,000!〟

 源三郎は、見張りから来る伝声管の報告内容に耳を疑った。

 何故そこまで接近を許したのか。

 そして、次の報告に驚かされることになった。

〝転舵!取舵を切った模様!!〟

 あっこれ魚雷発射したんじゃねぇのか?

 内心、確信を得つつ発射された酸素魚雷の着弾時間を測っていた。


「やれやれ、敵役も楽じゃないな」

 酒保から買って来たラムネ2本を片手に夕日を眺める源三郎。

 昼間の演習の結果は、第四駆逐隊の四隻相手に二隻撃沈判定の成果を上げて、自艦の損害は中破判定に留めた。

 彼は、水雷士としての実力を着々と身に付けていた。

「それはそうでしょ」

 と言いつつも勝手にラムネを取っていく。相変わらずラムネに釣られて出てくる秋雲

 ラムネ好きだな、こいつ…

「しかし、今回はこれも買って来たぞ!」

「ん~…んん!?」

 秋雲が源三郎の見せたものを見て驚いた。

「やっぱり好きなんだな」

 秋雲は中身を知っていたらしい。

 源三郎は見せるように開けた紙袋から 〝あるもの〟 を取り出す。

「欲しいか?」

「欲しい!間宮羊羹!!」

 源三郎の手の中には、〝間宮羊羹〟と書かれた直方体のアルミ箔で覆われた羊羹があった。

 某放送局で見たことがある人はご存知であろう。給糧艦間宮の工房で作られた特製羊羹。虎屋の羊羹より美味いとも噂されるその味は、喉から手が出る程度人気があった。

 そして、艦魂の中でも人気を博している。

「何故か、間宮の乗組員からお裾分けしてもらった」

「運が良い!」

 秋雲は、目をキラキラと輝かせていた。息も荒い。

「どうすっかな?」

 考えているうちに手が延びてきたが、源三郎は意地悪く間宮羊羹を秋雲から遠ざける。

「ああ!」

 しょんぼりする秋雲。

 そんなに欲しいのか。相当飢えてる感じだぞ。

「一つ、言うことを聞けば一本やる…」

「聞く!」

 即答かい!?まだ言い切ってないぞ!

 …ここは敢えて、静巴さん風に一つ試してみるか。

「秋雲、言うことをちゃんと聞くんだな?」

「聞く!聞くから間宮羊羹を~!」

 悪代官に容赦情けを…とかいう目で俺を見る。

「分かった。じゃあ、俺を〝お兄ちゃん〟と呼べ」

「…へぇ?今、何て?」

 秋雲の目が点になった。

 そりゃそうなるわな。

「兄貴でも兄さんでも良いぞ?」

「いや、あの、その…」

 秋雲がモジモジしている。可愛いな…

 意地悪くし過ぎたかなと罪悪感を募らせつつ、考える素振りをする。

「わ、分かった。言ってあげる!お、おに…おにぃ…」

 目を強く瞑って、汗をかいてるのではないかと思えるほどの真っ赤な顔をしている。

 マジで言うんか。だが、これはこれで面白そうだから、止めはしないけどな!

「おに…お兄ちゃん!」

 紅面顔で大きな声で叫んだ。

「…良い声だ」

 源三郎は、内心ガッツポーズをしつつ秋雲に間宮羊羹の一本を手渡す。

「ありがとう!お兄ちゃん…あっ」

 余りの嬉しさなのか、秋雲が自然とお兄ちゃんと言ってしまった。癖になりそうだな。

「不意打ちとは…やるなぁ、秋雲」

 思わずニヤつきそうになるのをグッとこらえる。

「ち、ちち、ちが…」

 当の本人である秋雲は、思考回路が短絡(ショート)寸前である。

 顔がこの上なく紅く、頬と額からは湯気が出んばかりの熱気を感じられる。

「しかし、言わせた本人である俺が言うのも何だが、流石にはずかしいな」

 それを聞くや、秋雲は紅面ながらもニヤリと口元を緩ませる。

 その一瞬の企みの笑みを見過ごさなかった。なにを言いだすつもりなんだ…とりあえず巻き込まれる前に逃げるとするか。

「とりあえず、俺はガンルームに戻るからな」

「はーい!〝お兄ちゃん〟」

「ッ!!!」

 してやられた!この野郎~!調子に乗りやがって~!!

 源三郎は恥ずかしさあまりの自分の真っ赤な顔を見られまいと、足早にガンルームへと向かった。


「艦長に呼び出しか…上海事変以来だな」

 ガンルームへ行ったは良いが、艦内放送で艦長室へ来るようお呼びが掛かった。

 因みに上海事変の時も呼び出しをくらっていた。独断で魚雷発射準備をしたこと、初めから特設巡洋艦と疑っていたこと、陸軍の遊撃分隊と協力して特設巡洋艦から在上海の欧米人を救助したことの三つについてであった。

 何事かなと考えている内に、艦長室前までたどり着いてしまった。

「水雷士!山塚、入ります!」

 ドアノックをした後、入室許可を求める。

〝よし、入れ〟

「はっ!失礼します!」

 ドアを開けると、艦長がデスクの椅子に腰を掛けていた。

「早速だが、貴官に海軍省から親展が来てるぞ」

「海軍省からですか?」

 てっきり、ギンバイした牛缶がバレかと思っていたがとんだ勘違いだったな。

「拝見します」

 内心安堵しつつ、艦長から渡された封筒を貰って中身を確認する。

 内容は以下の通りであった。


〝駆逐艦秋雲水雷科水雷士 山塚源三郎海軍少尉

 貴官ヲ海軍幕僚学校ヘノ入校ヲ認メル

 尚、今期ノ入校者ハ以下ノ如シ

 海軍航空学校高等科兼第九五海軍航空隊司令付 旭日宮依子海軍少尉

 帝國技術研究所軍事技術部門兵器開発課第三開発班主任 山口静巴海軍少尉

 横須賀鎮守府所属駆逐艦秋雲水雷科水雷士 山塚源三郎海軍少尉

 以上

 入校認可証明者:海軍省海軍大臣 吉田善吾〟


「中身は何だ?」

 親展だからか、艦長は中身を見ていないようだ。てか、艦長なら見ると思っていたけど…

「流石に親展(これ)は覗き見しないよ」

 え!?エスパーみたいに心読めたんですか!てか、勝手に人の心読まないでください!!

「何…顔に書いてある」

 アッハイ。

 ってか、顔に出ていたのか…

「海軍幕僚学校の入校許可であります」

 それを聞いた艦長は意外な顔をした。

「海軍幕僚学校にか?」

「はい。自分も意外です」

 海軍幕僚学校は、最前線の指揮官を育成するための教育機関である。これは、士官不足の問題と同等以上の問題、前線指揮官不足の問題を解消する為の一つの手段でもあった。

 この海軍幕僚学校は、最前線の指揮を真っ当に担わせる為、戦略・戦術だけでなく運用面、即ち人望ある人格も備えなければならないと考えて、人間的な教育にも熱心であった。

 ここにも、鬼河の暗躍が見られた。この設立には、鬼河の経営している鬼瓦工業造船所が施設工費の資金を献上していた。勿論、これに留まらず色々と協力して、スマートかつ人望あり見識ありの指揮官を育てる為に尽力した。

 鬼河がこの世界に来て、一番力を入れたのではないだろうか。何故なら、装備があっても動かすのは人間であり、その人間を指揮するのもまた人間であるからだ。その人間が確りとしていなければ困る。

 それと相まってか、入校資格を持つものは少なく、しかも合格して卒業できた者も数少なかった。

「行くのか?」

「はい。入校許可者に同期が二人…」

 しかも、置いてきぼりにした人が居る…

「そうか…貴官には、秋雲の水雷長をやって欲しかったのだがな」

 艦長は残念そうな顔をする。優秀な部下を手元に置きたいのは、何時の時代も同じと言うことか…

「実の所、私ももう少し居たかったんですよ。秋雲に…」

「そうなのか?」

「はい」

 でも、先約があるので無理でしたけど…

 源三郎は、艦長に海軍幕僚学校への入校希望を申告した。艦長はこれを了承する。


 翌日になると、源三郎が海軍幕僚学校へ入校するという噂が広まった。

 特に、水雷科では彼の所属とあってちょっとした会話の材料となっていた。

「そういや、山塚少尉が行くんだってな?」

 魚雷発射管の旋回用電動機の配電盤を整備している水雷兵が、射出用圧搾空気を空気タンクへ送る圧送機を点検している水雷兵に話しをかける。

「え?何処に?」

 圧送機を点検している水雷兵は、配電盤を整備している水雷兵に聞き返した。

「お前知らないのか?海軍幕僚学校へだよ!」

「…ええ!?本当かそれは!」

 点検をしている手が止まった。余程、驚いたようだ。

「ああ。まさか、駆逐艦秋雲から登竜門の中の登竜門へ行ける人が居るなんてな…」

「全くだ。流石山塚少尉だ、俺たちにはできねぇよ」

「ホントそれな」

 その後も、作業を続けつつも他愛ない会話が続いた。

 だが、その噂話を偶然にも聞いてしまった者が居た。

「…え?源三郎が海軍幕僚学校へ…う、嘘…」

 駆逐艦秋雲の艦魂である秋雲だった。

 秋雲は、友人が遠くへ行ってしまうような感覚に襲われた。

「う、嘘でしょ?ねえ、嘘だよね?」

 あまりの衝撃に、耳に入った情報を信じられなくなった。

 その場で、聞きたくないとばかりに耳を両手で塞ぎ座り込む。

 その時、足元に雫がポタポタと落ちた。

 あれ?私、まさか…

「泣いてるの?」

 まさかと思いつつも、掌を顔の下へ持って行く。すると、雫が掌に落ちて来た。

 まぎれもなく、秋雲の瞳から流れ出た涙だった。

 何故泣いているのかと問うても、その答えはまだ見つからないであろう。

 その日は、源三郎がラムネを持ってきても姿を現すことはなかった。


 1940年3月20日…

「失礼しました!」

 艦長に別れを告げた源三郎は艦長室を退室した。

 後任への引継ぎも終えたし、あそこへ行くか…

 スケッチブックと鉛筆を持って、前部魚雷発射管まで駆ける。

「秋雲~」

 誰も居ないことを確認して秋雲を呼ぶ。

「…源三郎」

 ヒョコリと出てきた秋雲だが、何故か暗い顔をしていた。

「まあ、明日の朝には居ないからさ。最後に話しでもと…」

「…源三郎、本当に海軍幕僚学校へ行くの?」

 今度は寂しそうで悲しい顔になった。やっぱり知っていたのか。瞳からは、今にでも零れそうな涙の粒がそこにはあった。

「うん。約束を交わした人が居るからね」

「…そっか」

 元気がない秋雲を見て源三郎は溜め息を吐く。

「元気がない秋雲は初めて見たけど…」

 秋雲の両脇を持ち上げて、自分の膝に据わらせた。

「ふぇ!?何するの!」

 秋雲は、何がなんだか分からずに驚きを隠せない。

 そりゃいきなり、やられたらそうなるわな。

「元気を分けてあげようと思ってな…」

 秋雲を膝の上に座らせる。少々いづらいのかもじもじしている秋雲。まぁ、少女を自分の膝に座らせている行動自体、周りから見れば犯罪的行為に見えるんだろうが…まぁいいか。

 そして、源三郎はお構いなくスケッチブックと鉛筆を手に取って、横須賀の夜景を見ながら鉛筆を走らせる。

 戦前であるこの時代でも、繁華街の街燈は輝かしく見えて、若干離れているはずなのに手元が見える程だ。

「秋雲?俺以外に秋雲の姿見れる人とか居ないか?」

 大体の配置を描き終えた所で、源三郎が会話を切り出す。

「今の所居ないね」

 秋雲は、視線を横須賀の夜景に固定したまま悲しそうな声で会話に答える。

「そうか…」

 暫く会話はない。あるのは鉛筆がスケッチブックの上を走っている音だけだ。

 こうして暫くの間、ただ夜景をじっと見ていた秋雲は言い知れぬ感情を抱いた。

 源三郎と会ってからか、それとも元からこういうのが備わっているのか定かではない。

 源三郎と一緒に居ると、心が暖まり安心を感じていたのだ。

「よし、描けた」

 スケッチブックの上で走っていた鉛筆の動きが止まった。

「…綺麗」

 それを見た秋雲は、静かにでもはっきりとした声で呟く。

「ありがとう」

 スケッチブックと鉛筆を置いて、改めて横須賀の夜景を見る。

「秋雲…」

「何?…源三郎…!?」

 源三郎は、後ろから秋雲の腹部に両腕を回してギュッと抱き締める。

「…この半年間、秋雲と出会えて嬉しかった」

「え?」

 秋雲は、源三郎の口から意外な言葉が出てきて反応が遅れる。

「本当に行っちゃうの?このままここにいてくれないの…」

「…すまない」

「ッ!!!」

 少し秋雲が唇を噛み締めるのがわかった。

 源三郎は秋雲と身体を密着させるように膝を曲げて抱え込む。

「私のこと嫌い?」

「好きだよ」

「なら…」

 次の言葉を言わせまいと言葉を遮る。

「でも、約束があるんだ。これだけは外せないんだ」

 暫く沈黙が続く。覚悟を決めたのか、秋雲はようやく口を開いた。

「…それじゃあ、仕方無いよね?」

「そうだな…」

「…行っておいでよ。そうしないと、多分…後悔すると思う」

 秋雲は、源三郎の心の揺れを抑える為か、優しく語り掛ける。

「ありがとう…」

 彼女は、今にも泣きそうなのを必死に堪えているのが体越しに伝わる。だが、源三郎にとっては、その言葉で心救われたような心境だった。それ故、背中を真っ直ぐにして強く抱き締めていた腕を緩める。

「あ。でも、いきなり一方的に抱き締めたから、こっちもお返ししないとね♪」

 秋雲は、クルッと180度回転して源三郎と対面する形を取った。

「にひひ~」

 企みの笑顔を出すと同時に、秋雲は源三郎を押し倒す。

 現状は、秋雲が四つん這いになって源三郎の上に乗っている。

「な、何の冗だ…あれ?あれれ?」

 動こうとしても、何故か身体が起き上がらない。

「まだお返ししてないのに、動かれちゃあこっちが困るんだよ?」

 こやつ、馬鹿力で俺を押さえつけてやがる。

「分かった、大人しくしてる」

 観念して力を抜いて溜め息を吐く。そりゃ駆逐艦でも、こいつは60,000hpはありますしおすし。

「よろしい♪じゃあ…んっ」

 秋雲は、目を閉じて唇を源三郎の唇に押さえつけた。所謂口づけ、キスである。

 しかも、軽いキスではない。身体をくねらせて、舌を動かして源三郎の舌を絡ませようとしている。

 源三郎は、なすがままなされるがままの如しに秋雲に全てを委ねた。

「んっ…んんっ」

 唇からは漏れ出た唾液が光当たって輝きを見せる。

「んっ…ぷはぁ~」

 やっと開放された。舌の先端に唾液の糸が垂れていた。

「秋雲、こういうの…どっから知識仕入れた?」

「内緒…♪」

 デスヨネー。


 1940年4月6日…

 駆逐艦秋雲を去った源三郎は、横須賀士官学校から少し離れた海軍幕僚学校の受付ロビーに居た。

 早くあの二人来ないかな…

 久し振りに会う機会を与えられて、流石の源三郎も踊りだす心を抑えるのが精一杯だった。

「源三郎くーん!会いたかったぞー!!」

「ちょっ!?」

 そう思っていた矢先、後ろから突然の衝撃を受ける。

「静巴さん、もうちょっと控えて抱き締めるという発想はないんですか?」

「ない!何時も私は全力だ!!」

 静巴の全力もさることながら、源三郎の妥協も周りから見ればおかしかった。

 そこへ、同じ海軍へ進んだ御人が優雅に歩いてくる。

「やれやれ、静巴はもうちょっと落ち着きを知りなさいよ」

 ごもっともですけど、この人に落ち着きを求めたらダメです。ロビーとは言え、後ろから抱き着いてやってきましたからね。

「とりあえず、受付に行きましょう」

 でも、クールな依子は源三郎と静巴の絡みをスルーしている。

「そうですね」

 源三郎は、静巴に絡まれながら歩き出す。

「あ、ちょっ、待っ」

 静巴も、源三郎から離れて自分の鞄を持って源三郎と依子を追い掛ける。


 同じ頃、ドイツへ出張していた鬼河はイギリスへと来ていた。

 ロンドン駅近くのカフェに寄って一息いれているところだ。

「ご注文はお決まりですか?」

「紅茶とスコーン、バターで頼む」

 かしこまりました、と店員は言いその場から離れた。

 先ほど寄った、駅近くの新聞売り場で買った新聞に目を通す。すると…

「え~っと、〝アメリカ、日本の上海事変を批判す〟か。アメリカならやりかねんだろうな」

 国際面の見出しを読んで溜め息を吐いた。

 つい先日、アメリカが上海事変の日本軍の行動に違反行為があったと疑っていた。

 上海事変に介入できた唯一の勢力、それが日本軍であるがそれ故下手なことをしたら批判の矛先が日本政府へ向かいかねないのは必須である。

 しかも、批判元はアメリカ合衆国であり、経済制裁を喰らうと日本が大変なことになる。

「お待たせいたしました」

 どうも、とだけ言って紅茶の香りを楽しみつつも一口飲む。うん、良い紅茶だ。

「さて、どうでるかな?」

 紅茶を飲みながら思案する。

 だが、アメリカが批判元なら日米開戦は…

「避けられないだろうな…」

 歴史は鬼河の知る道を辿ろうとしていた。

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