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序章~開戦のエンジン音~

 大日本帝國は、米英との戦争を回避すべく色々な策を打ち続けたが、結局どれも実らずついには米英との戦争へと突入してしまう。


「私はその時覚悟を決めました。頑張っても、報われないのもある。分かってはいましたけど…」*遊撃艦隊艦長兼艦隊幕僚著「最良とは?」抜粋

 米領ミッドウェー島沖北北東200海里

 そこを威風堂々と航行する日本艦隊が居た。


 日本海軍航空母艦艦橋

「第一次偵察隊、彩雲三機!発艦準備完了しました!」

「艦戦第二中隊、紫電改六機!彩雲に続いて発艦出来ます!!」

 水兵が、彩雲と紫電改の準備完了を告げる。

「第一次偵察隊、発艦せよ。艦戦第二中隊は、周辺海域の防空任務に努めよ。…あとは任せる。」

「了解!各艦に通達します。」

 命令は、発光信号によって伝えられた。取り囲む(フネ)にも、緊張感が徐々に増す。

〝彩雲、発艦開始!〟

 最高610km/hを弾き出す誉エンジンが唸りを上げる。彩雲は空へと導かれる。

「幕僚長、艦長。この前の続きを聞きたい。よろしいか?」

 司令官は、飛行甲板から紫電改を見送りつつ、幕僚長と艦長を呼ぶ。

「了解です。」

「はい。副長、少しの間頼めるか?」

「はい。艦の指揮、頂きました。」


「さて、この南方作戦のY攻撃の件…まさか、MI作戦が下敷になっていたとはな。」

 奥にある海図室に入り、司令官は無表情を崩し制帽を取る。髪を整えるその顔は、驚くことに女性だった。

「まあ、内容は丸っきり変わっていますけどね。」

 艦長も制帽を取り苦笑いを見せる。

「この作戦目的は敵空母の無力化!この一言に尽きる。私の世界では、それを履き間違えた。そして、状況判断のミスが重なり、あの三隻同時に無力化されたのだと思っている。」

「そうだな。私も詳細資料をよく読んでそれなりに理解はした。」

 幕僚長のやや演説掛かったセリフに、司令官まで苦笑いをする。こちらの艦隊幕僚長も、女性であった。

「確かに、第二次攻撃のみ集中してさえいれば、被弾はしても弾薬誘爆とならずに済むのでは、と私なりに考えている。…最も、弾薬庫が開放状態で誘爆されたら堪らんがの。」

「はい。ですが、ドーントレスには細心の注意を払いたいですね。幾ら〝こいつ〟が堅いと言っても、戦艦並の装甲を張っている訳じゃありませんから。」

 艦長は、ミッドウェー海戦での急降下爆撃を危惧していた。

「勿論、そのことについては抜かりはなかろう?」

「はい。その為に、艦爆隊も防空戦闘が出来るようにしましたからね。」

 事実、旧海軍の航空戦術及び訓練は攻撃に傾き過ぎていた。その結果、防御が疎かとなりミッドウェー海戦敗北の一因になったと言われる。

 この艦隊は、それらを反省し防御にも力を入れた機動部隊である。

 さて、三人が率いる艦隊は勝利を掴むことが出来るのか?

 装甲空母大鳳を基幹として、巡洋艦鈴谷・熊野・留萌、駆逐艦潮・曙・漣・朧・秋雲を擁した艦隊。

 高速補給艦1隻を加えた全10隻は、高速と長射程攻撃を以って相手を翻弄又味方を援護することを念頭に入れ編成された、航空遊撃部隊である。


現地時間04:30

「鈴谷の水観三番機から入電!我、敵艦隊発見セリ!本艦隊東方200海里!空母一、戦艦一、重巡二、軽巡三、駆逐六!」

 鈴谷の水観が敵艦隊を発見したようだ。

「戦艦も居るのか?」

「否定は出来ませんけどね。」

 艦長自身も、首を傾げていた。

「彩雲二番機より追加電!敵戦力修正!空母一、重巡三、軽巡ないし駆逐艦九!」

「…誤報か。無いようにしてもらいたいな。」

「無茶言わんでくださいよ。いきなり、機動部隊同士の戦いなんですから。」

 司令官や艦長も苦笑をする。

「意見具申!早急なる艦爆隊の発艦を!」

 幕僚長が、迷わず進言した。相対距離200海里、完全に攻撃可能範囲だ。

「分かっておる…艦隊防空に艦戦二個中隊を残しておき、攻撃せよ!あとは任せるぞ。」

 司令官はそう言って、制帽を被り直した。

「艦橋から航空隊管制所!艦爆全中隊の彗星は、50番(500kg)を装備しろ!敵は待ってはくれんぞ!」

 艦長は、艦内電話を指示を出した時、水兵が艦橋へ飛び込んで来た。

「艦戦第三中隊より入電!我、敵偵察爆撃機発見セリ!撃墜スルモ、通報ヲ確認!」

「…知られましたか。意見具申!第二次攻撃隊発艦の繰り上げを進言します!」

 幕僚長は敵機動部隊に察知されてから、逆算で早くて二時間半以内に敵が来ると予想した。第二次攻撃隊を早く上げれば、飛行甲板や格納庫に可燃物を置かずに済むと判断した。

「流石に可燃物を置き去りには出来ないな。第二次攻撃隊も発艦用意せよ!」

 司令官は、幕僚長の進言を受け入れて第二次攻撃隊に発艦準備命令を出す。


 時同じくして、米艦隊にも航空遊撃部隊発見の報が届いた。

「フレッチャー提督!偵察に出たSBDより報告!我、敵艦隊を発見!西方230マイル!空母二、巡洋艦三、駆逐艦五…以上です!」

「何?空母が二隻居るのか?」

 第17任務部隊司令官:フランク・J・フレッチャーは耳を疑った。自分達よりも多い筈はないと考えていたからである。やはり、ここでも偵察の誤認が発生していた。

 だが、何故この時期にフレッチャーがヨークタウンに乗って居るのか?それは、後に説明したいと思う。

 ヨークタウンの格納庫では、艦上機の最終整備を行っていた。その後に、燃料や弾薬・爆弾や魚雷の揚弾準備が開始することになっていた。

「敵機発見!」

 見張りの水兵が叫ぶ。発見したのは彩雲だ。

「一機のみ!偵察機の模様!!」

「直ぐに迎撃しろ!!」

 フレッチャーが檄を飛ばすも、逃げられてしまった。

「F4Fから、敵偵察機に逃げられたと報告が…。」

「逃したか…攻撃隊の発艦準備を急がせろ!」

「アイアイサー!」

 艦長は、フレッチャーの焦りを察して部下を急かす。

「もっと空母があればな…」

 フレッチャーがボヤくのも無理はない。

 米海軍の実戦可能な空母は、ヨークタウン級四隻及びレンジャーの五隻のみ。しかも内二隻が英国支援の為に借り出されて、太平洋に居る空母はヨークタウン・エンタープライズ・ホーネットだけだった。

 日本海軍は対照的で、航空遊撃部隊の大鳳を筆頭に、正規空母九隻が三部隊に分かれて運用している。更に、正規空母二隻が竣工間近であり、護衛空母の竣工など航空戦力は拡充されつつある。

 では、話を空母ヨークタウンまで戻そう。

「F4F!発艦します!!」

 この瞬間、両艦隊は同じタイミングで攻撃隊が発艦したことになる。航空遊撃部隊から紫電改12機・彗星12機が、第17任務部隊からF4F戦闘機9機とSBD爆撃機17機、TBD雷撃機12機が、(せんじょう)へと赴く。


05:05

「第二次攻撃隊を早く上げさせろ!!早く第四・六中隊を上げて艦隊防空に充てれねぇと、あと二時間以内で敵さんが来るぞ!」

 大鳳の飛行甲板では、第二次攻撃隊が次々と発艦させていた。

「ひぃ…こりゃ幾らなんでも人使い荒いって!」

 それでも、なんだかんだ言って二次攻撃隊の発艦が終わる。

〝甲板作業用ー意!繰り返す!飛行甲板要員、甲板作業用ー意!〟

「マジかー…これで終わりにして欲しいよ~…」

 愚痴をこぼす水兵を含め、皆重い腰を上げる。紫電改12機の発艦準備だ。

「よろしいのですか?第四中隊を艦隊防空に出して?」

 副長が心配する顔をして艦長に訊く。

「使える奴はトコトン使うさ。四戦長だって男遊びが激しいけど、腕は何処行ったって負けやしないさ」

 大鳳所属の飛行機乗りは、少々扱いに困る人材が身を寄り添って居る。副長を見せるのも無理はない。

 だが、部下が部下なら司令部も司令部で、幕僚長は「頭部ネジ喪失者」、司令官は「じゃじゃ馬」、唯一常識人は艦長。だが、この艦長も事あるとおかしなことをする等、こちらもぶっ飛んでいる。


 その頃、大鳳を飛び立った第一次攻撃隊は彩雲の先導を受けてフレッチャー艦隊を目指していた。

 彩雲がバンクを振る。

「来たな。」

 艦戦第一中隊隊長の坂本は、増槽を切り離して紫電改を上昇させる。

「敵航空部隊を邀撃する!第一中隊は私に付いて来い!」

 男性に勝るとも劣らぬ強い口調の坂本。坂本機の後を、第一中隊所属の紫電改が続く。

「無線封鎖解除し各個撃破せよ!無線連携を怠るなよ!」

 かくして、「ミッドウェー島沖海戦」が幕を開けた。

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