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最終話:スーパーシャイニーの最期

「撃てえ~っ!」

『ガアアアア!』


地球防衛軍と宇宙怪獣が激しく戦っていた。

地球防衛軍が総力を上げて戦っているが、宇宙怪獣には全く効き目がなく、地球防衛軍の戦力がどんどん疲弊していった。


「怪獣め!これでも食らえ!」

『ガアアアア!』

「誠先輩、頑張って~っ!」


戦闘機に乗った誠が懸命になって怪獣に攻撃するが、一向に歯が立たない!

やがて…!


『グオオオオ-ッ!』


怪獣の目から誠の乗った戦闘機目掛けて光線が放たれ、光線は誠の戦闘機に命中した!


「うわあああああ!」

「せんぱぁーーーーいいいいい!」

『ドガアアアアアン!』


光線が命中した戦闘機は粉々になり、戦闘機を操縦していた誠まで吹き飛んでしまった!


「嫌ああああ!」


そこで、夏美は夢から覚めた。

フブラ星人(弟)との戦いに勝利したものの、自分がスーパーシャイニーに変身出来る回数が残り一回、それも、変身を終えると死んでしまう!

地球での長きにわたる戦いに疲労困憊したスーパーシャイニーこと伊藤夏美には、最早地球を守ることが難しくなっていった。


「…、はぁ、…、はぁ、ゆ…、夢で良かった…。」


戦いの最中に大好きな誠が死んでしまうのが嫌だった。

自分がスーパーシャイニーに変身したいがするには命を懸けねばならない。


(死にたくない…。しかし、今度怪獣か宇宙人が襲来したら私は…、スーパーシャイニーとして私は…。)


夏美は、自分にふりかかった運命に惑わされ、地球防衛軍用の病院のベッドの上で泣いた。

そこに…。


「夏美、起きたか?」


夏美のベッドのすぐ側で、夏美の看病をずっと続けていた誠がいた。


「…せんぱあい…。」

「えらくうなされてたけど、何か嫌な夢でも見たんか?」


どうやら誠が死ぬ夢を見たときにかなりうなされていたようであった。


「…、い、いいえ。」


否定したものの、まさか誠が死ぬ夢を見たなんて言える訳がない。

夏美は黙るしかなかった。


「お前、このところ変だぞ?何かふさぎ込んだり、何か隠していたり、それも重要な事を!」


誠は夏美の事を強く心配して言った一言だったが、本当の事を正直に言えない夏美は、


「な、何もないです!」


と、ぶっきらぼうに答えるしか出来なかった。


「何か隠してるだろ?」

「隠してません!」


誠の問い詰めにも頑なに拒むしか出来ない夏美だった。


「お前、何ムキになってんだよ!可愛くないな!」


このやり取りに誠もかなり苛立った。

しかし、秘密をあかせない夏美の方は更に苛立ちを募らせていた。


「先輩には関係ないですから、ほっといて下さい!」


夏美の一言にとうとう誠の堪忍袋の緒が切れた!


「お前、人が物凄く心配してるのに、関係ないとかほっとけとかあるか!何様のつもりだ?」

「私の事を知らない癖に!」

「はぁ?私の事だぁ?」

「私の事を…、私の事を何も知らない癖に!」

「じゃあ、何か言って見ろよ!」


怒りが頂点に達した誠が、自分に背中を向けている夏美の肩を掴み、自分の方に夏美を向かせた。

その時の夏美の顔を見た誠は、夏美の表情を見て憐れんでいた。


「…、ぐすっ…、ひっく…、私の事…、ひっ、何も…、何も知らな…、い、ぐすっ、…、癖に…。」


大好きな誠にさえ本当の事を打ち明けられない、感情がすこぶる高まっていた夏美は、感極まって大粒の涙をこぼしていた。

夏美を苦しめ、追い詰めてしまった事に関して自責の念に駆られた誠だったが、先程からのやり取りに苛立ちを隠せない誠はつい、


「これだから女って奴は…、何かあればすぐ泣けばいいと思ってる!泣いた者勝ちだろうが!汚い。」

「…、ぐすっ、ひっく…、そ、そんな…、ふぇっ…。」

「だったら、何を隠してるか言えよ!」

「…、だって…、ひっく…、だ、だって…。」

「夏美…。」


最早会話にならなくなっていた状況に、泣き止まない夏美を憐れんだ誠は、夏美を優しく抱き抱えると…、


『…チュッ!』


泣きじゃくる夏美の唇に自分の唇を重ね合わせた。


「…?ぐすっ、…!」


突然の出来事に夏美は恥ずかしさの余りに顔を真っ赤に染め上げ、言葉が出なくなった!


「…、落ち着いたか?」


先程までの刺々しい口調とは違い、夏美を宥めすかせるような口調で誠は問いかけた。


「…、ぐすっ、ひっ、ヒドいよ…、あんなの、…ひっく、キ、キスじゃ…、ぐすっ…、な、い…。ひっく…。」


怒りや恥ずかしさで混乱した夏美は、口調は落ち着いた感があるものの、そこから先の会話に進めなかった。


「なぁ、何があったか教えてくれよ。」


再び誠が夏美が頑なに喋らない理由を問いただしたが、


「…、何も…、何も私の事を知らない癖に…。」


またもや夏美は、自分の正体を打ち明けまいとして、黙り込んだ。


「一体、何を隠してるんだ?」

「私の事、何も知らないでしょ!先輩っ、私の事はほっといて下さい!」


夏美は再び誠に背を向けながら布団に全身をくるめた。


「お前、何も言わないのは反則だろ!」


また感情的に話をしようとする誠に向かって、


「出て行って!」


夏美は誠を病室から追い出そうとした。


「夏美、お前…、出てけは無いだろ!」

「出てって!」

(先輩…、ごめんなさい。先輩にキスされたの、すっごくビックリしたけど、嬉しかった。私の事を心配してくれて…、でも、私、私がスーパーシャイニーだなんて誰にも言えない…。お願い、この気持ちはわかって!)


全身をくるめた布団の中で、夏美は声を殺して泣きながら、誠に対する謝罪の気持ちに駆られていた。


「…、チッ、勝手にしろ!」


怒った誠が夏美の病室から出ようとした時!


『びいいいいぃ!』

『緊急警報発令!地球防衛軍の隊員は直ちに集合!繰り返します。』


隊員を緊急に召集するサイレンが鳴り響いた!


「先輩、私も…、行きます。」


夏美が病室から起きあがろうとしたが、


「お前はまだ病人なんだから、大人しく寝てろ!」


誠は夏美を休ませるように言った。


「でも…、私も…。」

「大丈夫だよ。良いから寝てなさい。」

「先輩…、気をつけてね。」

「ああ、すぐお前のとこに戻るよ。」


病室の入り口で誠は夏美に向かってにっこり笑うと、急いで地球防衛軍の作戦指令室に向かった。


(死なないでね…。先輩。)


先程の悪夢が気にかかる夏美は誠の身を案じた。

また、何故だか嫌な胸騒ぎを覚えた夏美は、誠にもう二度と会えないような気分に駆られていた。


その頃…、


『未確認飛行物体多数、地球に接近中!』


世界中の地球防衛軍から、正体不明のUFOが接近しているのを確認しあい、一部では戦闘が始まっていた。


「今までの敵とは違い、大多数で侵略をしようとしている。直ちに全力で防御するぞ!」

「了解!」

「了解!」


間もなく日本支部にもUFOが3体も接近しようとしていた。


「これじゃあ戦争だな!」


誠はポツリと呟きながら、戦闘機に乗り込んだ。


『クリヤー、フォー、テイクオフ!』

『ラジャー!』


誠の乗る戦闘機が、地球防衛軍の基地の近くに接近中のUFO3体に向かって飛び出した!


UFO3体のうち比較的小さい2体が、誠の戦闘機に向かってやって来た。


「小さいのは護衛、デカいのが本体か。」


誠は操縦桿をしっかりと握り締めると、UFOに向かって照準を合わせた!

しかし、UFOの操縦性能は誠の戦闘機のそれとは段違いで、戦闘開始直後、誠の戦闘機は2体のUFOに翻弄された。


「くそっ、この!」


2体のUFOから繰り出される光線が誠の戦闘機に狙いを定めて撃ってくるが、誠は反撃どころか、必死で回避することしかできなかった。


「誠を援護しろーっ!」


地上にいた他の防衛軍隊員が誠への援護射撃を実行するものの、こちらの攻撃もまた、2体のUFOにひらひらと難なく交わされる。


「ち、畜生…、負けてたまるか!」

「誠!1体づつ落とすぞ!地上から照準用レーザーを照射するから、そいつから狙え!」

「了解!」


地上にいた隊長から攻撃要領を指示され、地上から照準用レーザーを照射されたUFOに空中と地上からミサイルを打ち込んだ。


『ドガアアアアアン!』


やっとの思いで1体を撃墜し、次の1体も同じ要領で撃ち落とした!


「残りはあのデカいのだけだ!」


誠が最後の1に狙いを定めた時だった!


『ドサッ!』


残りのUFOから巨大な卵のような物が地上に向かって落下し、地面に落ちた時、殻の部分がメキメキと割れだした。


「な、何だ?」


誰もが巨大な卵に気を取られているときに残りのUFOが全速力で撤退した。

それからすぐ、卵の殻が割れきる前に、中から巨大な怪獣が現れた!

体長は100m近い怪獣は、その場にいた地球防衛軍の全隊員に恐怖感と絶望感を充分に与えた。


「デ、デカ過ぎる…!」


誰もが息を呑んだその時!

どこからともなく何者かの声が鳴り響いた!


『地球人よ!我等にひざまづけ!我々は宇宙の頂点に君臨する『ゴーマ星人』である!』


何者かがゴーマ星人と名乗ると、怪獣は口一杯に光を集め、光が口一杯になった瞬間、口から光の束が放たれて、周りの建物を瞬く間に溶かし、あるいは破壊した。


「何だ?あの破壊力は!」


今までに見た事の無い破壊力に誰もが茫然とした。


『フハハハハ!怪獣ライドンの力を思い知ったか!ライドンは無敵だ!これがゴーマ星先遣隊の力、まだ後から来る本隊はこの程度ではない!ひれ伏すなら今のうちだ!』


高笑いするゴーマ星人と仁王立ちするライドンに絶望感を持った隊員達は戦意を喪失していた。


「もう…、スーパーシャイニーしか、あんな化け物怪獣を倒せないのか…?」


隊員の1人がポツリと喋り出すと、他の隊員達までもが、


「そうだ、シャイニーしかいない!」

「シャイニー!早く来てくれ!」


地球防衛軍の隊員達がスーパーシャイニーの出撃に望みを託した時、たった1人の隊員だけが猛烈に反対した!


「戦うぞ!俺達は地球防衛軍の隊員だろうが!たとえスーパーシャイニーがいなくても俺達が戦わなきゃ、地球は守れないだろ!何もせずに諦めるのか!」


誠はライドン目掛けてミサイルを放ち、唯1人、敢然と戦った!


「みんな、諦めるな!」


隊長も他の隊員に激を飛ばし、全員がライドンに向かって攻撃した!


「せ、先輩、無茶しないで!」


先程からのゴーマ星人との戦いから誠の身を案じた夏美が、病室を抜け出して地球防衛軍基地内の病院の外に出た。


(そう言えば…、一番最初に先輩に出会った時…、グリー星人に勇敢に立ち向かってたのも先輩だった。だから、だから、無茶しないで!死なないで!)


誠の身を案じる夏美がフラフラと、誠が戦っている戦場に向かった。


「全く歯が立たん!」


誠達が懸命に攻撃しても、ライドンには何の損壊もなく、口から吐く光線による攻撃によって、被害が更に拡大した。


「スーパーシャイニーは来ないのか?」


再び、隊員の誰かが、スーパーシャイニーが現れないことに不信感を抱いた。


「シャイニーは俺達を、地球を見放したのか?」


再び隊員達の一部に厭戦気分が出始めた時!


「諦めるな!俺達がそんな気分だと、スーパーシャイニーは助けに来ないぞ!彼女は地球人じゃない!そんな彼女が俺達の地球を、自分自身を犠牲にしてまで戦ってくれたんだ!俺達が諦めたら彼女も助けに来ないぞ!」


誠が他の隊員を怒鳴りつけた。

そのやりとりは、夏美にも聞こえていた。


「せ、先輩…、私、みんなを助けたい…、でも…、でも…。」


やはり夏美は躊躇していた。


(私が死んだら…、もう誠先輩とも会えない。大好きな先輩とも永遠に別れてしまう…。)


自分の命を捨ててまでみんなを助けるべきか…?夏美の葛藤は極限に来ていた。

その時!


『ビイイイイイ!』

「うぎゃあああ!」

「先ぱーい!」

「誠ーっ!」


ライドンの光線が誠の戦闘機の右翼に命中し、制御どころか操縦さえままならなくなった。


「脱出しろ!」

「脱出装置が作動しません!」


今の攻撃で脱出装置が作動しなくなり、万事休すとなった。


「こうなったら…、行くぞおおおおお!」

「馬鹿野郎ーっ!特攻する気か!」


誠は上空からライドンの口目掛けて全速力で突っ込んだ!


「俺がライドンの口に激突して光線を出させなくします!後は任せました!」

「止めるんだ!誠ーっ!」

「誠先輩ーっ!止めてーっ!」


夏美が、他の隊員が誠を止めるように叫んだが、誠は無線のスイッチを切り、ライドン目掛けて更にスピードを上げた!


(やはり…、夏美がスーパーシャイニーなら、あんな満身創痍の身体で変身出来ないわな。だったら俺が死んででもライドンを倒す!夏美…、もう無茶しないでって…、前に約束されたけど…、ついさっき『すぐ戻る。』って言ったけど…、ゴメンな、約束守れなくて…。大好きだったよ。今まではお前に守ってもらったから、お返しな。)

「うおおおおおお!」


夏美への想いを胸に、誠は光線が口一杯になったライドンの口に激突した!


「誠ーっ!」

「誠せんぱああああーーいっ!」


誠が操縦する戦闘機の先端部分がライドンの口に突き刺さった瞬間、ライドンの右手が誠の戦闘機を薙払い、先端部分を残して、誠の戦闘機は地面に叩き落とされた!


「せ、先輩…、死んじゃヤだ…、死んじゃヤだぁ!」


誠の戦闘機がライドンに薙払われた瞬間に夏美はその場に膝から崩れて泣き崩れた。

その時!


「ラ、ライドンがおかしいぞ?」


誠が特攻した事により、激突した先端部分がライドンの口腔内にある光線の吐出口を完全に塞ぎ、光線を吐き出せなくなった。

更にもがき苦しむライドンはやがて…、


『ドガアアアアアン!』


出口を無くした光線がライドンの頭部や上半身を粉砕し、残る下半身を地面に横たえた。


『やるな、地球人共…。』


ゴーマ星人の声も消え、救助隊が誠の戦闘機に向かった。


『隊長!鎌田隊員ですが、まだ脈拍と呼吸があります。しかし、意識不明の重体です。直ちに救助します!』


重体となった誠は直ちに地球防衛軍基地内の病院に緊急搬送された。


「先輩…、生きて…生き返って!神様…、誠先輩を助けて下さい!」


膝を崩して地面に座り込んだままの夏美が誠の無事を懸命になって祈った。


「う…、ここは…?」


永い眠りから覚めた誠が病室で目を覚ましたのは、ライドンとの戦いから丸一日が過ぎた頃だった。


「…、病院なのか?」


誠がゆっくりと周りを見回した時!


「先輩っ!」


誠が寝るベッドのすぐ側で、目を真っ赤に腫らした夏美が涙で顔をクシャクシャにしながら誠に話しかけた。


「な…、夏美…。」


ところが、夏美は顔を鬼のように豹変させると…、


「バカァーーッ!」

『バチイィィン!』

「痛でええええ!い、いきなり叩くなよ!」


まさか起きたばかりの時に力一杯引っぱたかれる等とは予想だにしていなかった誠は、訳が分からず狼狽した。


「何で?何で?あれほど無茶しないで言ったのに…、無茶しないでって約束したのに…、何であなたは無茶したのよ!」

「し、仕方ないだろ…。あの時は…。」

「仕方ない…?何言ってんのよ?あの時はまだ不時着しようと思えば出来たじゃない!」

「あんな化け物怪獣を倒すには、アレしかなかっただろ!」

「だからと言って死んだらお終いでしょ!何度注意したら分かるの?だから先輩は馬鹿なのよ!」

「ば、馬鹿ってお前、後輩の癖して先輩を馬鹿呼ばわりするか?」

「先輩が馬鹿だから馬鹿だって怒ってるんですっ!命を大切にしないなんて、バカでしょ、バカァ!残された人の気持ちが分からないんですか?うわああああん!」


再び感極まって大泣きになった夏美が誠の胸を両手で作ったグーの手で何度も叩きながら、最後には誠の胸に顔を埋めて泣き崩れた。


「夏美…、ゴメンよ…。」


誠が左手で夏美の頭をポンポンと優しく撫でたが、夏美は誠の手を右手で力一杯振り払うと、


「もう一度約束して!」


泣き顔でも、目のつり上がった夏美が震えながら誠に約束を迫った。


「命を大切にするって…、本当に無茶しないって…。」

「…、わかったよ。」


以前、カマリラ星人から助けてもらった後に夏美と約束した要領で、誠は右手を上げ、小指だけをピンと立てた。

恥ずかしさから、顔は夏美と反対側に向けていた。

夏美はまた誠の右手を両手でしっかりと握り締めたが…、


『バチイィィン!』

「い、痛ってーッ!お前、何で叩くんだよ?」


何故か夏美は再び誠の左頬を右手でビンタした。


「嘘ついてる!」

「え…?」

「先輩嘘ついた!」

「嘘つくわけねーだろ!」

「わかりますよ!先輩、嘘ついたら唇が尖りますから!」

「…え?」


誠は慌てて、夏美に握られていない左手で口元を隠すように触れた。


「…嘘よ!」

「…へ?」


今度は夏美自身が自分の発言を嘘だと言った。


「先輩…、そんな癖無いですから。」

「う?嘘?お前、俺を騙したのか?」

「でも、これで先輩が嘘ついたのがバレましたよね!」

「ウッ…、けど、何で俺が嘘ついたって分かったんだよ?」

「女の感よ!」

「はぁ?お前みたいな女の欠片も無いような奴が?」

「うるさぁい!」

「…。」


夏美の怒りに誠はただ黙るしかなかった。


「何で?何であんなに無謀な事ばかりするの?無茶して死んだら意味無いじゃない!」

「し、仕方ないだろ!怪獣を倒すには…。」

「だからと言って死んだら意味無いじゃない!あなた、後に残された人の気持ちが分かるの?後に残された私の悲しみがどれだけ辛いか分かってるの?私の気持ちも分からないし、私の事を何も知らない癖に…、私を1人にしないでよ!バカアァ!」


再び感極まった夏美が誠の病室から飛び出した!


「夏美…、私の気持ちとか…、何だよ?」


怒りや悲しみが入り混じった夏美の事が気にかかるが、誠はどうする事も出来ずに、病室のベッドに1人取り残された。


「伊藤さん、あなたが入室されてから、一睡もせずにずっとあなたのことが心配で看病していましたよ。」


女性看護士が誠の病室に入って来た。


「えっ?」

「伊藤さんもまだ完治してないのに、あなたのことが心配でずっと看病していました。」

「夏美…。」

「伊藤さんの気持ち、分かって上げて下さいね!」

「な、夏美の気持ちって…?」

「本当は分かってるでしょ!意地を張らないで下さいね。」


そう言い残すと、看護士は病室から出た。


「アイツの気持ち…?」


誠には、まだ夏美に対する好意を悟られたくないと言う気持ちが、真実に近付けまいとしていた。


(先輩のバカァ!)


その日の夜遅く、自分の気持ちがまだ整理出来ていない夏美は、1人で病院の屋上に来た。


(私のせいだ…、私がスーパーシャイニーに変身しなかったから…、先輩があんな目に…。私のせいだ!)


涙を浮かべながら、夏美はずっと自分を責めた。


(死ぬのは怖い…、でも、ゴーマ星人の本隊が来れば地球は…、先輩は…。)

(…地球は私が守る!)


夏美が堅く決意した!

地球を守るため、自らを犠牲にしてまで、命を捨ててまで戦う決意をしたのだ!その時!


「…夏美?」


何者かが夏美の背後にやって来た。

夏美が慌てて振り向くと、


「…せんぱあい。」


現れたのは誠だった。


「どうしたんだよ?こんな夜中に?」

「…べ、別にぃ!外の空気を吸いたかっただけです!それより、先輩の方が重症でしょ!」

「俺はお前の事が心配で…。」

「昨日からほっといて!と言ってるでしょ!気にしないでよね!」

「お前!何だ?その挑発的な言いがかりは!」


わだかまりの出来た2人がまた口げんかを始めた。

しかし、やがて、夏美は口数を減らし、塞ぎ込んでしまった。


(何故だ?あんなにブリブリ怒ってたのに?)


すると、夏美は涙声で誠に話しかけた。


「私…、先輩とお別れするかも知れない…、のに、こんな…、ケンカで終わりたく…、ぐずっ…、ないっ!」


夏美がこらえていた涙を流し、誠に訴えた。


「何だよ?お別れって?」

「…、何でも無いですから!」

「だったら、何でそんな事言うんだ?」

「…、ない癖に。」

「えっ?聞こえない?」


すると、夏美は更に涙を流しながら、大声で目の前にいる誠に向かって叫んだ!


「私の事、何も分かってない癖に!偉そうに言わないでよ!」

「分かってるよ!」

「何が?ねぇ、何が?」

「お前がスーパーシャイニーなんだろ!」

「えっ…!」


誠が自分の正体に気付いていたことに、夏美は凍りついた!


「…知ってたの?」

「…いいや。」

「な…、何それ?私をだましたの!」

「さっきビンタされた時のお返しだ。」

「ヒドい!」

「で、なくても、薄々感じてたよ。」


誠が更に話を続けた。


「お前と初めて出会った日が、スーパーシャイニーを初めて見た日だし、今までスーパーシャイニーに助けてもらった時も、夏美、何故かお前に助けてもらった感じがしてたし、それに…、」

(ドキッ?せ、先輩?)

「いつもスーパーシャイニーが現れた時、お前がどこかに消えてる!昨日スーパーシャイニーが現れなかったのは夏美、お前が体調不良だったからと言えば合点がいくよ!」


誠の分析を夏美はただただ聞いていた。

そして…、


「…そう、先輩の言うとおり…、私の正体はスーパーシャイニーです。」


夏美が誠の目をじっと見ながら打ち明けた。


「私が今まで地球で戦って来たけど、もう限界が来たの…。あと1回…、あと1回変身したら、私…、死ぬの…。」

「えっ?」

「でも…、でも…、次にゴーマ星人が攻めてきたら、地球が大変な事に…、だから、私が犠牲になって、地球を守るわ。」


夏美の打ち明けに、誠は驚きを隠せないまま、話を聞いていた。


「先輩と…、先輩と出会えて楽しかった!誠先輩とお仕事出来て…、誠先輩と一緒に地球を守って来て…、本当に嬉しかった。だから…、私…、これが最期です!」


夏美が誠に背を向け、胸ポケットからシャイニーアイを取り出すと、シャイニーアイをつけようとした。


「先輩っ!今まで私に優しくしてきてくれて、本当にありがとうございました!さようなら!」


夏美がシャイニーアイを目につけようとしたその時だった!


「止めろ!」


誠が夏美の手を掴み、スーパーシャイニーに変身するのを妨害した!


「何するんですか?離して!邪魔しないで下さい!」

「お前を死なせるわけにはいかんだろうが!」

「止めてーっ!」


誠が夏美からシャイニーアイを奪い取ると、


「こんなもの!」

「ああっ!」


誠はシャイニーアイを地面に叩き付けて、更にシャイニーアイを踏み潰した!

シャイニーアイは粉々になり、夏美がスーパーシャイニーに変身する事が出来なくなってしまった!


「…何てことしてくれたんですか?」


夏美が怒りでワナワナと震えながら話した。


「もう、スーパーシャイニーに変身出来ないんですよ!もう地球を守れないんですよ!どうしてくれるんですかあぁぁ!」


夏美が誠に対して今までで最高に怒った表情を見せた。

しかし、誠はそれ以上に!


「お前は今まで俺達の事、何だと思ってたんだ!」

「きゃっ!」


誠は夏美の隊員服の胸ぐらを掴みながら怒鳴りつけた!


「お前は今まで地球のために、本当に命懸けで戦ってくれたし、確かにお前がいなかったら、地球は滅亡してたかも知れない。だけど、お前、今まで俺達と一緒に戦って来て、俺達が何もしていないとでも言うのか?俺達地球人が非力でも、今まで宇宙人と戦って来て、諦めた事があるか?俺達は地球を守るためには絶対に諦めない!」

「だって、だって!今度の宇宙人は強敵よ!」

「例えどんなに強敵でも、全力で立ち向かう!」

「負けちゃうかも知れないのよ!先輩、今度こそ死ぬかも知れないのよ!」

「お前が無敵のスーパーシャイニーでも、俺からしたら、伊藤夏美!俺にとってかけがえのない大事な女だ!男が女を守れなくてどうすんだ!」


誠は夏美を強く抱きしめた。


「…せんぱぁい…。」


誠に強く抱かれた夏美から大粒の涙が零れ落ちていた。


「男が女を守れなくてどうすんだ?お前は俺にとって大切な人なんだからな!俺は全力で地球を…お前を守る!」


夏美を強く抱きしめた腕を離し、誠は夏美の両肩を優しく抱いた。


「…夏美。」

「せんぱぁい…。」


夏美は瞳を閉じ、誠がそっと夏美の顔に自分の顔を近付ける…。

そして2人は自然にお互いの唇を重ね合わせようとした。


その時!


『フハハハハ!ならば見せて貰おうか!』


どこからともなく聞き覚えのある、低く、雷鳴にも似たうなり声が轟いたかと思うと、辺り一面に黒い霧のような物が立ち込め、誠と夏美を包み込んだ?


「な、何これ…?きゃあああああ!」

「わあああああ!」


何かが2人を掴んだかのように見え、一気に2人を引き離した!


「夏美ーっ!」

「誠せんぱああああい!」


夏美の姿が見えなくなった時、誠は自分を掴んでいた何かが消え、漆黒の空間に置き去りにされた。


「ここは…?」


誠が辺りを見回した時!


『非力な地球人よ!勇気だけは誉めてやろう!』


闇の中から、体長3mはあろうかという巨人が現れた!


「お前は誰だ!」


誠は謎の相手に向かって叫んだ!


『お前こそ誰だ?』


しかし、謎の相手は逆に誠に尋ねた。


「俺は地球防衛軍の鎌田 誠だ!人をさらっておいて名前を尋ねるとは、どういう神経をしてんだ?」


巨人は、姿を現しながら話し出した。

その姿は、まるで西洋の王を彷彿させるような出で立ちで、赤黒いマントが人々の生き血を吸い込んでるようにも見える。


『私こそが全宇宙を統べる王の中の王「皇帝ゴーマ」であるぞ!宇宙はゴーマ星人が支配するもの、つまり私が全宇宙の頂点に君臨するものである!』


皇帝ゴーマと名乗る巨人は、まさに目の前の誠に、コレまでに誠が体験していない威圧感を醸し出し、誠を萎縮させようとしていた。

しかし、誠はそれに屈する事無く、


「夏美は?お前がさらった伊藤夏美はどこに隠した?」


姿を消した夏美の身を案じる誠は、皇帝ゴーマに臆さず、堂々と尋ねた。


『イトウナツミ…?あの女、スーパーシャイニーの事か?』

「そうだ!」


すると、皇帝ゴーマの背後の空間に、透明な十字架に磔られた夏美が浮かび上がった!


「先ぱ~い!私に構わず逃げてーっ!」


圧倒的に強大な敵を前に、絶対的に不利な誠の身を案じた夏美が叫んだ。


「よくも夏美を…!」

『スーパーシャイニーは全宇宙統一の障害、まもなく処刑する!』

「何?」

『しかし、スーパーシャイニーに更なる絶望を与え、死してなお後悔させるため、貴様を殺す!』

「何だとぉ?」

「お願い止めてーっ!私を処刑して、彼を自由にして!」

『女は黙れ!』

「きゃあああああ!いやあああああ!」

「夏美ーっ!」


皇帝ゴーマが念力を使い、夏美を磔ている十字架に電流を流し、夏美を拷問した。


「わ、私はどうなっても良い!だから彼は逃がして上げて!」

「汚いぞ、皇帝が女を磔て苛めるとはな!夏美を解放しろ!」


2人はお互いをかばって皇帝ゴーマを説得したが、皇帝ゴーマは聞く耳を持たなかった。


『スーパーシャイニーを助けたければ、私を倒せ!』


皇帝ゴーマが言い終わると、誠の足元に一本の剣が現れた。


「こ、これは…?」

『剣闘だ!』

「誠先輩ーっ!止めてーっ!駄目よーっ!殺されるーっ!」


夏美の必死の説得に耳を貸さず、誠は剣を手に取った!


「やったろうやんけ!」


誠は剣を構えると、目の前の3mもの巨人である皇帝ゴーマに決闘を挑んだ!


「うおおおおお!」


剣を構えつつ皇帝ゴーマに駆け寄る誠に、皇帝ゴーマは右手に持つ、2mはあろうかという長い剣で誠に闘いを挑んだ。


『こざかしい!』


皇帝ゴーマが剣を軽く振り、誠の懸命の攻撃を弾く。

体力、剣の長さ、闘気…、どれを取っても圧倒的に不利な誠は何度も何度も皇帝ゴーマに斬りかかるが、どれも皇帝ゴーマに弾かれ、誠の攻撃は虚しく終わるのだった。


「先輩っ、お願いだからもう止めて!殺される!」

「諦めるかああああああ!」

『未熟者めが!』


全身全霊を使って夏美を助けようとする誠だったが、遂に皇帝ゴーマの剣が誠の右肩から左腰にかけて身体に傷を入れた!


「ぎゃああああ!」

「止めてーーっ!」


それ程深くなくても、昨日の怪我もまだ完治しておらず、普通の剣道の試合でもまともに闘えない誠だったが、更に強敵な皇帝ゴーマに翻弄され、傷を負った誠は更に戦力を失った!


「お願い!彼を殺さないで!私を殺したら気が済むでしょ!」


傷を負った誠をかばうため、夏美は懸命になって皇帝ゴーマに誠の命乞いをしたが…、


『私に仇為す者は全て殺す!』

「ぎゃああああ!うわあああああ!」

「いやあああああ!止めてーっ!」


皇帝ゴーマは更に何度も誠を斬り刻むだけでなく、夏美を磔ている十字架に再び電流を流した。


皇帝ゴーマの前には傷だらけになりながらも、夏美を助けたい一心で辛うじて立っている誠が、後ろには十字架に磔られて為す術もなく誠の命乞いを訴える夏美が居た。


(神様…、私はどうなっても良いです!ですから、誠先輩を、私の大事な誠先輩を助けて下さい!)

(畜生ォ…、夏美を…、何が何でも夏美だけは守る…!)


2人がお互いを助けるためだけに必死だった!


『非力な…、その程度で私に刃向かうとは…。お前は女を助けられずに死ぬが良い!』

「お…、俺が死んででも夏美は守る!地球も守る!」

『お前如きに何が出来る?スーパーシャイニーは既に我が手の内にある!お前達の地球は我が物となったも同然だ!』

「1人の女を助けられなくて…、地球を…、地球を守れるかよ…。俺は夏美を助けて、地球を守る!」

「私の事はどうなっても良い!先輩っ!お願いだからもう戦わないで!先輩が居なくなったら…、私…、私…。」

『女に、スーパーシャイニーに命乞いされて嬉しいか?』

「スーパーシャイニーだろうと…、他の何であろうと…、今俺が助けたいのは、俺にとって掛け替えのない大事な人だ!こいつが宇宙最強のスーパーヒロインだろうと…、他のだれかであっても…、俺にとって一番大事な人だ!俺は絶対に夏美を守る!」


気力…、夏美を助けたいと言う最後に残った気力だけが誠の闘志を奮い立たせ、両足に力をみなぎらせて、皇帝ゴーマの前に立ちはだかっていた!


『ならば、決着をつけよう!』


皇帝ゴーマが刃先2mもある剣を誠に突き付けるように構え、誠も両手で剣の柄をしっかりと握った!


(この一撃で…決まる…。一か八かこれに懸ける!)

「うおおおおお!」


誠が最後の力を振り絞り、皇帝ゴーマ目掛けて駆け出した!


『最期だ!』

「誠せんぱああああい!」


誠の最後の突撃を涙で一杯になった瞳で見ていた夏美に映ったのは、皇帝ゴーマの剣に腹部を突き刺され、背中から血しぶきがほとばしる誠の姿だった!


「いやあああああ!せんぱああああい!」

『他愛もないわ!』


その時!


「ぐがあああああ!」


皇帝ゴーマの剣に突き刺されてもなお、皇帝ゴーマに突進した誠が、皇帝ゴーマに致命傷を与えられる位置にまで来た!


「死ぬのはお前だああああああ!」

『な、何?止めろーっ!』


誠は両手でしっかりと握り締める剣で皇帝ゴーマの腹部を下から上に向かって突き刺した!


「だあああああ!」

『ぎゃああああ!』

「せんぱああああい!」


誠の一突きで皇帝ゴーマは断末魔の悲鳴を上げると、その身体と誠を突き刺していた剣が、そして、夏美を磔ていた透明な十字架も、無数の青黒い光の粒となって砕け散った。


「せんぱああああい!」


自由になった夏美が、力が尽き果てて地面に崩れ落ちそうになる誠の許に駆け寄った。


「何で?何で自分を犠牲にしてまで戦うの?」

「…、ち、地球と、ゲフッ、お前を助けるためだよ…。」


口から血を吐きながら、誠が力無く答えた。


「約束したでしょ、もう二度と無茶なことはしないって、私と約束したでしょ!大事な約束なんだから破らないでよ!」

「ごめんな…、約束守れなく…て…。」


夏美に上半身を抱きかかえられた誠が少し笑いながら答えた。


「死なないでよ!私を独りにしないでよ!」


夏美の懸命の呼びかけにも、誠は…、


「…、お、前に抱かれ、たまま死、ぬのも悪…、くないかな?」


段々とか細くなる声で答える事しかできなかった。


「馬鹿っ!先輩のバカァ!あれだけ死なないって約束したのに!」

「…、ご、めん、ゲフッ!馬鹿…で、な…。」


夏美に上半身を抱きかかえられたまま、遂に誠が事切れようとしていた。


「いやあああああ!せんぱああああい!」


遂に、誠は目を閉じ、全身から力が抜けて行った。


「…、死なせない。先輩を死なせない!私の命に代えても先輩を助ける!」


夏美が決意した瞬間!

夏美の全身が光り輝き、何と、シャイニーアイが無いままでもスーパーシャイニーに変身した!

すると、スーパーシャイニーは誠の唇に自分の唇を重ね合わせて自分の命を誠に吹き込んだ!


(先輩、死なないで!)


2人の周りをキラキラと輝く光の球が包み込み、スーパーシャイニーの命懸けの行為によって、誠の顔に生気が戻って来た。


(…?な、夏美?)


一度かすれた意識が再び戻ろうとした誠の目の前に夏美の姿が映った。

否、よく見ると、誠に自分の命を吹き込んでいるスーパーシャイニーの姿があった。


(…えっ?シャ、シャイニー?)


誠が意識を取り戻した時、スーパーシャイニーの命を移すキスが終わり、死力を振り絞ったスーパーシャイニーが夏美の姿に戻った!


「シャイニー?夏美?お前、何で?」

「良かった…。先輩を死なせない為に私の命を吹き込んだの!」


生き返った誠を見て安堵する夏美が再び喋った。


「先輩を助けるために私が犠牲になったの…、だから、もう無茶しないでね!」

「お、お前、だって次にスーパーシャイニーに変身したら死ぬんだろうが?お前が死んだら意味ないだろ!」

「先輩を助けるためなんだから、仕方ないでしょ!」

「俺が助かっても、お前が死んだら意味ないだろ!」

「先輩に死んでほしくないから!私が、私の命をあげたのに!」

「お前、人にはよく『無茶するな!』って説教するくせに、自分はいいのかよ?」

「もう、うるさい!」


夏美に上半身を抱きかかえられたまま、誠と夏美は口喧嘩を始めた。

そして、誠がある事に気付いた!


「…、で、夏美?」

「何?」

「お前…、まだ死んでないんか?」

「えっ?」


光り輝く球の中で、誠がゆっくりと起き上がってから夏美に訪ねたが、もちろん、当の夏美にも理解できていなかった。


「それに、何だよこの光の球は?」

「し…、知らないわよ!」

「お前が出したんじゃないのか?」

「そんな訳ないじゃない!」


お互いに今の状況が分からず混乱していた。

その時!


『シャイニーよ!』


何者かがスーパーシャイニーである夏美と誠に語りかけた。


「お父様!」

「えっ?お父さん?」


謎の声の主はスーパーシャイニーの父であった。


『シャイニーよ!お前は最善の行為をした。お前の愛情溢れる命懸けの行為が、お前の最愛の人間の命を救ったのだ!』

「お父様…。」

『しかし!』


スーパーシャイニーの父は更に話を続けた。


『お前はスーパーシャイニーになるのはこれで最後!そしてお前の命が尽き果てる時なのだ。』

「お父様!」

「えっ?じゃ、じゃあ、夏美は?」

『私も最愛の娘を失うのは辛い。よって、私の精神をお前に授けた。私の精神も残り僅か、お前が人間体でしかいられない程度の命を授けた。つまり、お前はもうスーパーシャイニーとなる事は出来なくなったのだ!』

「…っ!」


夏美に衝撃的な事が告げられたが、今の夏美にはそれを受け入れるしかなかった。

だが、夏美にとって更に辛い事実がスーパーシャイニーの父から告げられた!


『そして、私の残り僅かの精神も全て使い果たした。私の精神も間もなく無の存在となる。』

「そ、そんな…、嫌です!お父様!お父様が死んでしまいます!」

『悲しむ事は無い!私は遙か昔に既に肉体が滅び、最早精神だけの存在となっている。あとはお前の心の中で思い出として残る。』

「お父様!お父様が死んでしまうんですよ!ウッ…、イヤです!ウッ、ウッ…。」


受け入れたくない事実と突きつけられた夏美が悲しみを堪えきれずに泣き出した。


「な、夏美…、泣くなよ!」


誠が嘆き悲しむ夏美に優しく問い掛けたが、夏美の悲しみは取れなかった。


「私のせいでお父様が死んでしまうのよ!」

「…。」


夏美の悲しみから来る怒りの感情を、誠は黙って受け止めるしか出来なかった。


『悲しむ事はない!既に精神だけの存在であるから、私はいつまでもお前の心の中に居る。』

「だ、だって、ウッ…、だって、お…、ウッ、お父様が…。」

『何時までも悲しむでない!シャイニーよ!お前はこれからは地球人として生きよ!そして、その青年と何時までも仲良く生きよ!さらばだ!』

「お父様あああ!」

『鎌田 誠君。』

「えっ?は、はい。」


スーパーシャイニーの父は最後に誠に語り掛けた。


『娘をよろしく頼む!』

「は、はい!」


完全に地球人『伊藤夏美』となったスーパーシャイニーの事を誠に託して、スーパーシャイニーの父の精神は消えてしまった。

同時に、2人を包み込んでいた、キラキラと光り輝く球も消えてしまい、2人が皇帝ゴーマによって連れ去られた地球防衛軍基地内の病院の屋上に戻っていた。


「お父様…、ウッ、ウッ、お父様…。」

「…、夏美。」


誠は、父を失い、嘆き悲しむ夏美を優しく抱きしめ、夏美は涙が涸れるまで誠の胸の中で泣き続けた。

いつしか東の空から朝陽が2人を優しく包み込んでいた。


皇帝ゴーマを失い、混乱するゴーマ星人の本隊がゴーマ星に戻り、地球の危機は回避され、再び地球に平和が訪れた。


「ああ~っ、疲れた!休憩、休憩!」


皇帝ゴーマとの死闘やスーパーシャイニーの父との別れから数日後の夕方、誠と夏美は地球防衛軍基地周辺のパトロールをしていた。

パトロール車を運転していた誠がテンションを高めながら見晴らしの良い所に車を止め、車外に出た。


「ちょっと、パトロール始めてまだそんなに経ってないでしょ!」


助手席にいた夏美が半ばあきれながらシートベルトを外し、誠と同様に車外に出た。


「俺は死にかけから生き返ったんだから無理はダメだって医者から言われてるの。だから休憩!」

「もぉ、サボりたいだけなんだから…。」


誠のサボり癖に呆れつつも、夏美は誠の側に寄り添った。


「ありがとな!」

「…?な、何?」


誠は夏美の顔をじっと見つめながら、


「こうやってお前と一緒に居られるのもお前のおかげだからな。下手したら俺は死んでたから…。」


夏美に感謝の気持ちを述べた。


「先ぱぁい…。」


夏美も誠の顔をじっと見つめながら、


「本んっ当ぅにそうですよ!あんなに無茶ばかりするから!もう次は無いんですよ!」


夏美は右手の人差し指をピンと伸ばして誠を諭した。


「チッ…、説教だなんて、母親みたいだな、ブツブツ…。」

「何か言った?」

「あんまり怒るとシワが増えるぞ!」

「はぁ!」


誠の一言に怒りを覚えた夏美が誠を睨み付け、このところよく夏美からビンタされていた誠は咄嗟に顔を背けた。


「ちゃんと私の顔を見て話して下さいよ!」


凄む夏美に誠は恐る恐る顔を夏美に向けた。

否、顔を向けかける時に、誠は頬を何かでつつかれた違和感に襲われた。

よく見ると、頬をつついていたのは夏美の人差し指で、当の夏美はいたずらな笑みを浮かべていた。


「…たく、何やってんだよ!」

「先輩の暴言には慣れましたから、またこんな事するんだろうなって分かるんですよ!」


2人の関係では主導権を握っていた夏美がニヤリとしながら話した。


(まあ、こんな関係も悪くないかな?)


誠も誠で、今の関係を心地良いものと受け止めていた。


「しかし、お前は良いのかよ?」

「何がですか?」

「もうスーパーシャイニーになれないんだろ?」

「いいんです!だって、誠先輩がこれからずっと私の事を守ってくれるから…。」


夏美がにっこりと微笑んだ。


「お前みたいに狂暴化した女、否、男みたいなクソババア、守る必要無いだろ?」

「今、何つった!」

「わっ、ごめん!」


誠の言葉に怒る夏美が誠を睨み付ける!


「もうっ!本当に暴言が多いんだから!そんなんじゃあ、宇宙中の女の子にモテませんよ!」

「えらく広げたな!」

「先輩っ!お父様からも『よろしく頼む』って言われたでしょ!ちゃんと私の事を大事に守って下さいね!」

「はいはい。」


怒りよりもにっこりと微笑む夏美の愛くるしい顔を見て、誠は、


(ダメだな…、こいつのこの笑顔には勝てないな!俺だけが知ってるこのカワイイ笑顔がこいつの最強の武器だな!)


夏美の持つ最強の笑顔を見ながら、最早自分が夏美に勝てないと悟るのだった。


「…ところでせんぱあい!」


夏美が目を潤わせながら誠に迫った。


「先輩がこれからも無茶しないって約束して!」

「や、約束って?」

「もう…、知ってる癖に…。」


夏美が瞳を閉じ、唇を誠に向けた。


「…ああ。」


その後、夏美の唇と誠の唇が重なった。


(先輩の唇って、結構固い…?)


夏美がそっと目を開けると…?


「きゃっ?な、何これぇ?」

「フッフッフッ!」


誠は自分が手に持っていたヘルメットを夏美の唇にあてがっていたのだった。


「ヒドーイ!ちゃんとキスしてよ!私にとってファーストキスなんだからっ!」


夏美が唇を尖らせて怒るも、誠は、


「この前、お前が寝込んでた時や、お前から命を吹き込んでもらった時にキスしてんだろ。」

「あ、あんなんキスじゃないもん!」

(先輩、こういう所は子供じみてるから…。)


夏美がへそを曲げて、誠に背を向けた。


「おいおい、そんなに怒るなよ!」

(こういうのは苦手なんだよ!夏美の事、カワイくて大好きだけど、恥ずかしいんだよな!)

「先輩なんかもう知らないっ!」

(もうっ!こういう事は本当なら男の人がリードするのに…、私の事が好きな癖に、シャイなんだから!ま、こういう所がカワイイんだけど。)


照れくささから夏美との付き合いに消極的になり、どうしても一歩が踏み込めない誠と、恋の主導権を握る夏美との関係だったが、夕陽だけが2人の影を1つに重ね合わせていた。


終わり。

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