第5話:地底からの侵略
誠の傷も癒え、再び平穏な日々が続いた。
今日は時限爆弾の使い方を訓練していて、誠が夏美に指導しているところだった。
「コイツをこうして、…して、…する。で、爆弾のタイマーをこうセットする。やってみろ。」
「はぁい。」
夏美が模擬の爆弾のセットの仕方を忘れてるのか、上手くセット出来ない。
「え~っと、え~っと…。」
夏美が焦っているのは解るが、誠は敢えて無視して、夏美のやり方をじっと見ていた。
「よし、出来た!」
「はい、五分以上…、アウト~ォ!」
規定時間を過ぎていたのか、夏美は作業に失敗したようだ。
「あ~っ、難しい!」
得手不得手があるにせよ、怪獣退治や宇宙人対策で使うから、やり方をきちんと習熟しなければならない。
「夏美、じゃなかった…、伊藤、お前、何回覚えたら分かるんだ?」
「だって…、難しいから。」
「お前、難しいって、こいつを使わなきゃならないときもあるんだぞ!どうするんだ?」
その時!
「隊員集合!隊員集合!」
地球防衛軍の隊員を集めさせる指示がスピーカーから流れた。
「よし、行こう!」
「はい!」
誠達も作戦室に集まった。
その内容は、地球防衛軍の基地から300km離れた富足銅山周辺で発生していた群発地震が更に酷くなり、遂に落盤事故の発生により作業員が何十名も閉じ込められた。
地球防衛軍に救助の依頼が来て、誠や夏美を含めた5名の隊員が選抜され、直ちに救助に向かった。
その際、隊長から、
「地底戦車、時限爆弾を準備しろ!」
と指示が出た。
先端にドリルのついた地底戦車に、先程夏美が苦労した時限爆弾を実践するのだ。
「伊藤、出来るか?」
「で、出来ますよ!」
からかい気味に喋った誠に夏美が口を尖らせて答えた。
「直ちに出発!」
先ずは現場付近まで輸送機で移動後、銅山の入り口から地底戦車で移動、閉じ込められた人達を救助する。と言った具合だが、現場は地下であり、中の空気に限界があり、救助時間は限られている。
誠達は時間との戦いに挑んだ。
現場に到着し、早速地下に潜った。
「深度100m、異常無し!」
『了解。』
最初は順調に進んでいる。
しかし、夏美だけが違和感を感じていた。
(何かしら、胸騒ぎがする…。それに、地球人以外にも何か居るような…?)
スーパーシャイニーである夏美には、某かの気配を感じていた。
「深度500m、異常無し!」
『了解。』
この連絡のあとすぐに…。
『ガタン…、ガタガタガタガタン!』
「うわっ!」
「きゃっ!」
地震が起こったのだろうか?地底戦車の動きが止まった。
「イテテテテ、みんな無事か?」
「は、はい。」
「何とか…。」
地底戦車のクルーは全員無事だった。
機器の確認をした後に再び動かそうとした時!
『カリカリカリカリ…。』
全面のドリルは作動しているが、何故か前面の岩盤が異常に固く、少しも前に進めなくなった。
「あ、あれ?前に進めない?」
ドリルの回転とかを注意しても、岩はびくともしなかった。
「どうなってんだ?」
「早くしないと作業員達が死んでしまう!」
「伊藤隊員、基地に連絡だ!」
「はい。…、本部応答せよ!本部応答せよ!」
『…。』
「ダメです。無線が通じません!」
「何だって?」
「参ったな、どうすることも出来ないぞ。」
地底戦車の中の隊員にも焦りの色が見えていた。
作業員達を助けるにはとにかく前進するしかなかった。
「よし、爆破しよう!」
誠が提案して、時限爆弾を取りだそうとした時だった!
「えっ、夏美?」
誠が取るよりも早く夏美が時限爆弾を一つ取り出した。
「私がセットします!」
「私がって、お前、さっき時限爆弾のセットの練習、全然出来てなかっただろ!ダメだ!」
「誠先輩達は地底戦車の操作をすぐしなければならないし、私は通信手だから、そんなに急がずに地底戦車に戻らなくても良いですから、気にしないで下さい!」
夏美は地底戦車の外に飛び出すと、時限爆弾のセットに取りかかった。
「…、これでよし!っと。さあ、地底戦車の陰に隠れなきゃ。」
夏美は岩盤に時限爆弾をセットすると、地底戦車の陰に隠れた。
それから…、
『ドガーン!』
夏美がセットした時限爆弾が炸裂した。
しかし、爆破の際の衝撃は凄まじく、再び地底戦車の中までもがさっきの地震よりもひどく揺らされ、中に居た人達は気を失った。
「スゴい威力!」
地底戦車の外に居た夏美にもその威力に驚いた。
「さあてと、キチンと爆破出来たから誠先輩にも誉めてもらって、閉じ込められた人達を助けましょう!」
夏美が地底戦車に戻ろうとした時!
「≒йΓ∴℃!」
「だ、誰?」
何者かが夏美の背後に来て…、
「ウッ!…。」
巨大なハンマーのようなもので夏美の腹部を殴打し、不意をつかれた夏美を気絶させた。
「よくやった。スーパーシャイニーを生け捕りに出来た。彼女を連れて行きなさい。」
「ゞ…∞≡★」
何者かが2体ほど、気を失って地面に横たわる夏美を取り囲むように現れ、指揮官らしい人物がハンマーのようなものを持つ者を操って夏美をどこかに連れ去った。
「…ん、…っ、…。」
気を失った身長155センチほどのどちらかと言えば小柄な夏美は、ハンマーのようなものを持つ何者かの肩に担がれて、地底の奥深くへと消えて行った。
「では、地球防衛軍の皆さん、彼女は頂きます。さようなら…。」
もう一体は地底戦車を一瞥すると、夏美が姿を消した方向に歩いて行った。
「…、イテテテテ、凄い威力だったな。」
地底戦車の中で、時限爆弾の爆発の衝撃によって誠達も気を失っていたが、ようやく目が覚めたようだ。
「…、夏美は?」
時限爆弾をセットしたまま恐らくは地底戦車の後ろに隠れて居るであろう夏美の身を案じた誠が外に出た。
「夏美ーっ!夏美ーっ!」
「伊藤ーっ!伊藤隊員ーっ!」
誠達が地底の奥深くに消えた夏美を探したが、さらわれた夏美の姿はどこにもなかった。
「ま、まさか、爆発の衝撃で…?」
誰もが夏美の最悪な状況を考えていた時だった。
「おい!あれを見ろ!」
隊員の1人が、夏美が時限爆弾で爆破した岩盤の先を指差した。
そこには、地底の奥深くに広がる謎の基地があった!
「これは、宇宙人の基地?いつの間に?」
「ま、まさか、夏美はあの中に連行されたのか?」
誠達の間に様々な動揺が湧き出てきた。
「鉱山の奥に閉じ込められられた人も居るし、ここは二手に分かれ、作業員達の救助と夏美の捜索とを平行しよう!夏美は俺が探すから、みんなは地底戦車で先に進んでくれ!」
誠の提案を受け、誠達は二手に分かれ、誠は単身、夏美を助けるために謎の基地に乗り込んだ。
その頃…。
「…。」
意識の無い夏美は、薄暗く、円形の手枷と足枷のついた拘束台のある部屋に運び込まれ、拘束台に四肢を少し広げられた格好で拘束されていた。
その側には、右手に大きなハンマーのようになっているロボットが夏美を見下ろすような立っていた。
そこに、魚の姿に似た、とても奇妙な宇宙人がドアを開けて入ってきた。
「スーパーシャイニーは眠ったままか、武器や変身アイテムは奪ったか?」
「∞〆^#⊂」
ロボットが部屋の片隅にある台の上をハンマーで差し、そこには、夏美から奪ったヘルメット、拳銃、腕時計型無線機に夏美がスーパーシャイニーに変身するときに必要なシャイニーアイが置いてあった。
「ご苦労だったな。こうして、宇宙の美女戦士と対面出来るとは、私も幸せ者だ。」
魚の姿に似た宇宙人はニヤリと笑いながら、拘束台の上で気絶したままの夏美の身体を隊員の上からそっとさすった。
「…、う…、ん…。」
不快だったのか、気を失ったままの夏美が首を左右に揺らしながら吐息を漏らした。
「おっと、これはお嬢様に失礼な事だったな!」
と、言いつつも、この宇宙人は夏美の身体をさするのを止めた代わりに、夏美の顔を覗き込んだ。
「…、っ…、…ッ!」
魚の顔をした宇宙人に顔を覗き込まれた夏美が目を覚まし、異様な顔立ちが目の前にいきなり現れた恐怖で、目を大きく見開きながら顔を反らした。
身体も遠ざけようとしたが、手枷と足枷で身動きが出来ないため、逃れられない。
「…な、何これ?」
夏美は手足を力強くバタバタさせるが、頑丈に夏美を拘束する手枷や足枷が外れることはなかった。
「…、あなた達は何者?私をどうするつもり?離してよ!」
夏美の強い問い掛けに、宇宙人が口を開けた。
「はじめまして、スーパーシャイニー、否、この容姿なら伊藤夏美さんと言うべきでしょうか?」
「…ッ!わ、私の事をッ…?」
「私は外宇宙から来たトト星人、隣のロボットは私の忠実な僕のゴーレムです。以後、お見知りおきを。」
「≦◆*∈∮」
「あなた達は地球を侵略しに来たのね?」
夏美の問い掛けに再びトト星人が答えた。
「侵略だなんて人聞きの悪い!私は地球をいただきに来たのですよ。」
(それって『侵略』じゃないの?)
夏美が心の中で突っ込んだ。
「ただ、私が地球をいただくのに、夏美さん、どうしてもあなたが邪魔をするでしょうから、レディーのあなたをここにお連れして、お話をさせていただこうとしているのですよ。」
「レディーに対して随分と手荒な扱いね!」
夏美は拘束台に磔られたまま、目をキッと睨みつけながら答えた。
「おっと、怖いお嬢様だ。これではこれから行う交渉がスムーズに行かないかな?」
「交渉?何を企んでいるの?」
「私の計画では、地球人に気付かれないように地球の地下深くへ進入し、地底から地球を侵略しようとしますが、どう考えても、スーパーシャイニーである夏美さんの存在が計画をご破算にしてしまう。そこで、あなたと交渉し、地球をいただくようにこちらに来て頂きました。」
「…?もしかして、鉱山の作業員達を閉じ込めたのはあなたの仕業なの?」
「そうです、あなたを地下深くに来て頂くために。」
「ヒドい!罪も無い人達を閉じ込めて殺そうとするなんて!」
「お言葉ですが夏美さん、あなたが我々に従って頂ければ、地球人のような取るに足らない存在は葬り去って、地球のあらゆる資源を我々の物に出来るんですよ。ほんの何十人の地球人が死のうと、私にはどうでも良い事ですよ!」
「あなたって人は…!」
夏美は怒りを込み上げながら、非道なトト星人を睨み付けた!
「では、交渉に入りましょうか?あなたには次のいずれかを選択して頂きます。先ず、我々の地球侵略に加担して頂くか、次に、我々の地球侵略を傍観して頂くか?…。」
「ふざけないで!私がそんな交渉を呑むわけ無いでしょ!」
夏美がトト星人の言葉を遮りながら叫んだ。
「想像通りの御方だ。でしたら、残り一つの選択を受けて頂きますよ。」
「な…、何をするつもりなの…?」
トト星人がニヤリと笑いながら喋る姿に、夏美は某かの戦慄を覚え、背筋に悪寒が走った。
「ではゴーレム、例のものをしなさい。」
トト星人の言い付けに忠実なロボットのゴーレムは、無言で後ろを向くと、壁にある某かの装置を作動させた。
「…、な、何?何をする気?」
次第に、夏美を磔ている拘束台が加熱し始めた。
「…ッ、あ、熱い!熱い!熱い!」
トト星人は夏美を焼き殺そうとしていた。
「うわああああ!熱い!止めて!離してーっ!」
「では夏美さん、あなたの最後の選択は唯一つ、我々に強制的に従う事です。」
「誰があなた達なんかに加担するもんですか!」
「本当に強情なお嬢様だ!ゴーレム、お嬢様にお仕置きするためにさらにパワーを上げなさい!」
ゴーレムが再び操作盤を操作し、拘束台をさらに加熱した。
「嫌ああああ!いやあああああ!」
拘束台の上で逃れようと懸命にもがく夏美だったが、手枷と足枷が頑なに夏美を縛り付けていたため、夏美は拘束台の上で焼かれそうになっている。
「そろそろ止めなさい。」
トト星人が命じて、ゴーレムが再び操作盤を操作し、拘束台の加熱を停止した。
湯気が上がる拘束台の上で、夏美ははぁはぁと息を荒げながら目に涙を湛えていた。
「私はスーパーシャイニーである夏美さんを死なせたくない。夏美さん、私達の地球侵略に加担するか、それとも傍観するか、いずれかを選択しなさい!」
トト星人がにやけながらも強い口調で夏美に問い掛けた。
「…、はぁ、はぁ、あなた達の言う事なんか聞かない!私は地球を、そして、好きな人を守る!」
「好きな人?ゲスな地球人を好きとは、あなたの好みも変わってますね?それでは、これならどうですか?」
トト星人が再びゴーレムに命じると、ゴーレムは別の操作盤に移動して、違う機材の操作を開始した。
「ぎゃあああああ!ぐわあああああ!」
今度は夏美に電気ショックによる責めを与えた。
夏美は何度も何度も拘束台の上で悶えうちながら、電気ショックに耐えていた。
(ううぅっ…、このままじゃあ、殺される。コイツ、紳士ぶってるけど、私を殺すつもりね!)
必死になって抵抗する夏美に、電流は容赦なく夏美を襲う。
「ぎゃあああああ!うわああああ!」
「流石はスーパーシャイニーと言ったとこですな。ゴーレム、停止しなさい。」
トト星人の命令に従い、ゴーレムは電気ショックの操作を停止した。
余程のショックだったのだろうか?夏美の隊員服の股間の周りも小水の跡だろうか?少し滲んでいた。
「おやおや、レディーなお方がお小水を漏らしあそばれるとは…。余程応えましたね。」
「…、はぁ、はぁ、言わないでーっ!…っ、はぁ、…はぁ、…。」
地獄の責めと失禁を見られた恥ずかしさから、夏美は顔を真っ赤にしながらトト星人から背けた。
拷問による責め苦からと、恥ずかしさと悔しさから来る悲しさが、夏美の目から涙を零れさせた。
「これも素直に私の意見を聞かなかったあなたが悪いのですよ。まぁ、流石はスーパーシャイニーと言ったところですな。」
拘束台の上で呼吸を荒げながら苦しむ夏美を上から見下ろしながら、トト星人はにやけた。
「では、最後の仕上げと参りましょうか?」
トト星人は拘束台の下に置いてあった、ケーブルが何本も取り付けられたヘルメットと、ゴーグルのように分厚いアイマスクを取り出した。
「…、な、何する気なの?」
恐怖に震える夏美が問い掛けた。
「私はあなたを殺すつもりはありません。ですから、私の意見に忠実に従ってもらいますよ。」
そう言いながら、トト星人はアイマスクを手に取って夏美に被せようとした。
「い、イヤッ!止めてっ!怖いっ!」
四肢を頑なに固定されて身動きの取れない夏美が必死になって首を左右に振って暴れたが、トト星人は夏美の頭を押さえつけながらアイマスクを被せ、続いてヘルメットも嫌がる夏美に強引に被せた。
「いやあ!取って!取ってーっ!外してーっ!」
必死に泣き叫ぶ夏美だったが、アイマスクとヘルメットのせいで視覚と聴覚を遮られており、外の状況が分からなかった。
「それではゴーレム、私のコレクションに相応しいお人形になるように、伊藤夏美を、否、スーパーシャイニーを洗脳しなさい。」
トト星人に命令されたゴーレムがまた別の操作盤を操作した。
「いやあああ!ぎゃあああああ!」
アイマスクから映し出される、残忍かつ凄惨な殺戮や、おびただしい死体の数々の映像や、ヘルメットのスピーカーから流れる催眠音楽により、夏美は拘束台の上で全身をビクビクと痙攣させた。
洗脳から逃れようと懸命にもがくものの、四肢を完全に磔てられいる状態では、幾ら手足をバタつかせてもどうにもならなかった。
「フフフフフ、地球の資源を奪うのと、宇宙の美女戦士をさらって洗脳して私のコレクションにするのが今回の目的、ようやくこれで両方とも手に入れられる。ゴーレム、私はしばらく休憩するから、お前はスーパーシャイニーを監視してなさい。」
そう言い残して、夏美の洗脳を継続させたまま、トト星人は部屋を出た。
「いやあああああ!」
(じょ、冗談じゃないわ!私は絶対に洗脳なんかされない!)
「ぐわあああああ!」
(私は伊藤夏美、誇り高き地球防衛軍の隊員よ!そして、宇宙の戦士スーパーシャイニーなのよ!あんな宇宙人にへりくだったりなんかしない!)
「ぎゃあああああ!」
(…、あ、あぁ…、でも…、苦しい…、も、もぅ、ダメか…も…。)
「ああああああ!」
(…、こ、怖い…、ま、ま、誠先輩、助け…て…。)
スーパーシャイニーである夏美でさえ耐え難い、地獄の責め苦に陥落しそうな時だった!
「夏美ーっ!」
夏美が拘束されている部屋に、夏美の悲鳴を聞きつけた誠が突入した。
「コイツ!」
誠は自分に振り向いたゴーレムに拳銃を何発も打ち込んでゴーレムを倒すと、夏美を苦しめる洗脳装置を破壊して、夏美からヘルメットとゴーグルを取り外した。
「…、ま、誠先輩?」
洗脳装置の拷問に耐えかねそうになり、意識が朦朧としていた夏美の視界に、自分を縛り付けている手枷と足枷を懸命に外す誠の姿があった。
誠が必死になって拘束台の手枷と足枷を壊し、夏美の自由を取り戻した。
「せんぱーい!」
夏美が涙を浮かべながら誠に縋ろうとしたが、誠は夏美の両肩を優しく抱きながら、
「もう大丈夫だ!怖かっただろ!安心しろ!」
誠は涙が溢れ出る夏美を優しく宥めると、夏美を拘束台から下ろして、部屋の隅に置かれた夏美の拳銃やヘルメット等を夏美に手渡した。
「何だ、このサングラス、お前、こんなん持ってんのか?」
誠が夏美のシャイニーアイを手に取るといぶかしげに話した。
「これはこれで大事なものなんですっ!」
夏美は誠からシャイニーアイをひったくるようにして取った。
「お前、何も怒らなくても良いだろ!」
夏美の態度に苛ついた誠だったが、夏美は無視してシャイニーアイを隊員服の胸ポケットにしまった。
「早くここから逃げよう!」
「はい!」
夏美を苦しめた拘束台のある拷問部屋から2人が出た時だった!
「どこに行くんですか?夏美さん!」
2人が進もうとした先にトト星人が待ち構えていた。
2人はちょうど部屋のドア付近に立ち竦む格好になった。
「誰だ!貴様は?」
「先輩、気をつけて!」
「いけませんね、乱暴な言葉遣いは。」
トト星人が行く手を阻みながら誠を挑発した。
「夏美を拷問にかけといて、先生みたいな諭し方をするとはナメた野郎だな!」
誠が銃を構え、トト星人に狙いを定めた時だった!
「ぎゃあああああ!」
誠が拷問部屋の中から光線銃のようなもので撃たれ、その場に倒れて気絶した。
「先輩っ!」
夏美が部屋の中を見ると、先程誠が拳銃を撃って倒したはずのゴーレムが立ち上がっていて、恐らくそこから誠を撃ったのだろうか?ゴーレムの両肩から大砲のような筒を突き出していた。
「ま、まさかゴーレムが…?」
「地球人の作った拳銃如きでこのゴーレムが倒れませんよ!それに、この乱暴な地球人は気を失っただけで、直に目が覚めますが、汚らわしい!どこかに棄てようか。」
「な、何ですって…!」
トト星人の無慈悲な発言に夏美が怒りだした。
「地球人のような下等生物など、捨てるに相応しい。さ、夏美さん、私達と共に地球を有意義に使いましょう。」
トト星人の身勝手な発言にとうとう夏美の堪忍袋の緒が切れた!
「あんた、地球や地球人を馬鹿にしてるだろ!コソコソと地球の資源を奪って、私を我が物にしようとして、果ては地球人を…、私の大事な人を殺そうとして…、殺そうとして!」
「お、落ち着きなさい夏美さん、あなたがここでスーパーシャイニーになったら、この基地や私までが破壊されてしまう!」
「黙れーっ!いい加減にしろーっ!」
怒り狂った夏美がシャイニーアイを取り出して目に装着し、すぐさまスーパーシャイニーに変身した。
「わ、わ、わ、恐れていたことが…、ゴーレム!スーパーシャイニーをやっつけなさい!」
ゴーレムの両肩から光線がスーパーシャイニーに向けて放たれたが、スーパーシャイニーには全く効かず、逆に、
「てやああああ!」
スーパーシャイニーの蹴りがゴーレムに炸裂した。
「ゴ、ゴーレムーッ!」
スーパーシャイニーに蹴られたゴーレムはそのまま部屋の奥の壁まで吹き飛ばされ、壁に激突した衝撃も加わって大破した。
「トト星人…、私はあなたを許さないっ!」
目をつり上げたスーパーシャイニーが一歩一歩トト星人に詰め寄る。
「や、止めて下さい!どうか命だけは助けて下さい!」
「フンッ!自分の命乞いだけはするのね!情け無い。」
必死になって命乞いをするトト星人に呆れかえったスーパーシャイニーはトト星人に背を向け、まだ気絶している誠の側に向かった。
その時!
(スーパーシャイニー、よくも私を愚弄したな!許さん!)
トト星人がスーパーシャイニーの背後へ静かに歩み寄り、手に持つ刃でスーパーシャイニーを刺そうとした。
そして…、
「ぎゃあああああ!」
気を失っていた誠が一時的に意識を取り戻し、スーパーシャイニーの背中を刺そうとしたトト星人の右手を拳銃で撃った!
「…、汚ねぇ宇宙人が!」
そう言うと、誠は再び意識を失った。
「誠せんぱーいっ!」
スーパーシャイニーが自分を助けた誠を抱き抱えながら、通路に響かんばかりの大声で誠の名を叫んだ。
「このやろーっ…最低の侵略者だな!」
誠を廊下に寝かせると、スーパーシャイニーは再びトト星人に振り返った。
最早トト星人を許す気はスーパーシャイニーの中には無かった。
「ひ、ヒイッ…、や、止めて…、止めて下さいっ!」
誠に撃たれた腕を庇いながら、必死で後ずさりするトト星人を睨み付けながら、
「あんたが馬鹿にした地球人に撃たれた感想は?え?どうなの?」
「い、痛いです!痛いです!お願いですから助けて下さいっ!」
「人を馬鹿にして生きて来ておいて、自分がピンチになったら助けて下さいぃだぁ?虫が良すぎんだよ、あぁ!」
「い、嫌っ、未だ死にたくないです!」
「またそうやって不意打ちすんだろうがぁ!カス野郎があぁぁぁぁぁ!」
「ぎゃあああああ…!」
スーパーシャイニーの怒りを詰め込んだシャイニーアローがトト星人に突き刺さり、トト星人は粉々に吹き飛んだ。
「さあて、今回は本当に誠先輩に何度も助けて貰ったし、今度は私が先輩を助けないと…。」
スーパーシャイニーが気を失ったままの誠を抱き抱え、誠の顔に自分の顔を近づけて、誠の唇と自分の唇をそっと重ね合わせた。
「…、ん…、な、夏美…?」
夢でも見たのだろうか?意識の無いうちにキスを終えた誠がポツリと呟いて、再び眠りに落ちた。
「ウフフ、カワイイ!」
スーパーシャイニーはにっこり微笑むと、誠を優しく抱き抱えながら地底基地から飛び出した。
そして、夏美である自分が時限爆弾を仕掛け、また、トト星人やゴーレムに誘拐された場所に着くと、誠を下ろしてから何故か遥か遠くを見つめ、何かを確認した後、謎の固まりを数個ほど地底基地に投げつけ、自らの変身を解いた。
「…先輩、誠先輩っ、…!」
スーパーシャイニーから変身を解いた夏美が誠の肩を優しく叩きながら誠を起こそうとした。
「…ん、…う、あ、あれ、ここは?」
「良かった!誠先輩!」
目を覚ました誠が、そばにいた笑顔の夏美を見た。
「あ、な、夏美?あの変な宇宙人は?」
「あ、あれはスーパーシャイニーがやっつけてくれて、私達をここまで運んでくれたのですよ!」
夏美は如何にも自分とスーパーシャイニーが別人であるかのようにして、誠にここまで来た経緯を話した。
「そうか…、お前が無事で良かったよ。」
「先輩っ!私を助けてくれてありがとうございます!先輩がいなければ、私…、私…。」
せっかくの満面の笑みを浮かべた夏美だったが、誠に助けられた事を思い出すと、堪えていた涙が零れ落ちた。
「泣くなよ!俺は当たり前の事をしたまでだ。」
「だって先輩、命懸けで私を助けてくれて…、本当にありがとうございます!」
「夏美…。」
未だ地面に横たわっていた誠と夏美がお互いに顔を近づけようとした時だった!
『ガリガリガリガリ!』
通路の遠くから地底戦車がやって来た。
「ちっ、良いとこだったのに…。」
(あ~あ、良いとこだったのに…、もうっ。)
誠が小声で舌打ちして、夏美が心の中で愚痴をこぼした。
『鎌田隊員、伊藤隊員、無事か?』
地底戦車からの無線を受け、誠達は地底戦車に乗り込んだ。
鉱山の奥に閉じ込められていた作業員達は既に救出されていて、全員無事に地底から生還した。
地底戦車が地上に出た時に、誠にある疑問が出て来た。
「そう言えば地底基地はどうなった?」
その時!
『ドガアアアン!』
『ズゴゴゴーーーン!』
地底戦車の背後から凄まじいばかりの爆発音が聞こえた。
「ま、まさか?」
誠が夏美の顔を見ると、
「へへん!」
と、得意気に微笑む夏美がいた。
「夏美、あれはお前が…?」
誠が恐る恐る訪ねた。
「任っかして下さいよ~っ!私が爆弾をセットしときましたから!もちろん、時間も計算に入れてですねぇ!」
夏美はスーパーシャイニーの時に地底基地から飛び出した後、鉱山の奥に閉じ込められていた作業員達が地底戦車に収容されていたのを遠方透視で確認した後に、全員が無事に地上に出る頃合いを計算して時限爆弾をセットして、地底基地にまんべんなく投げ入れたのだった。
「夏美…、お前…?」
「スゴいでしょう、私っ!」
有頂天になる夏美だったが、誠は、
「お前、どうやって作業員達が助かったタイミングを図れたんだ?ちゃんと計算しなきゃ俺達全員生き埋めだったんだぞ!」
「あ、え、え~っとぉ~っ?」
(まさか私がスーパーシャイニーだなんて言える訳でもないし…。)
本当の事が告げられず、答えに苦しむ夏美だったが、それを見た誠は、せっかく助かったのに夏美をしょんぼりさせるのは気の毒と思い、それ以上の追求を止めた。
地底に閉じ込められた作業員達を無事に下ろし、誠達も地球防衛軍の基地に帰還した。
トト星人に捕らわれ拷問を受けた夏美を休ませるべく、誠が夏美を女子寮に送っていた時の事だった。
「なあ、夏美?」
「はい?」
「俺達、スーパーシャイニーに助けられたんだよな?」
「そうですよ。」
「だけど、俺、多分勘違いしてるかな?気絶してたから…。」
「何がですか?」
誠が言いたげにしてるのが、夏美には引っかかった。
(ま、まさか、先輩…、私の正体を…?)
誠が更に喋った。
「いや、気のせいだと思うけど…、スーパーシャイニーに助けられたのって、俺一人だったような気が…。」
「な、何言ってるんですか?私達2人が同時に助けられましたから!私達2人が同時にですよ!同時に!」
(やばいよ…。バレちゃう…。)
「お前、何強調し過ぎてんの?」
「エッ…?べ、別に…。」
夏美は必死になって冷静さを装ったが、それがかえって仇となった。
「あと、スーパーシャイニーに抱き抱えられた時、何だか夏美、お前に抱き抱えられてたみたいだったし、キスも…?」
「あ、あ、あ、有り得ないっしょ!わ、私が誠先輩とキスだなんてっ!絶対しませんよ!誠先輩は私のタイプじゃないし!」
夏美がかたくなになって否定した。
(そこまで否定するなよ…。)
誠は夏美が強く否定した事に傷つきながらも、逆に意地になって夏美に反論した。
「俺だってお前なんか嫌だよ!」
(先輩、私の事が嫌いなの…?)
「お前みたいな小便臭い女!」
「へ??」
夏美は誠の言葉に絶句した!
また、夏美とって最も思い出したくない事が脳裏をよぎった。
「宇宙人に何されたか知らんけど、だからと言って小便漏らすかぁ?」
(…。)
「お前を拘束台から助けた時も、股のとこにシミが出来てたから、『コイツ臭っ!』て思ったよ!」
(…。)
夏美はずっと下を向いてから、全身をわなわなと震わせた。
「だからお前が俺に抱きつこうとした時に、触れたくなかったから手で止めたんだよ!…。」
その時!
『バチイィィィィン!』
「ぎゃあああああ!」
夏美の渾身の平手打ちが誠の右頬を張り倒した。
「い、痛って~っ!お前、何も叩く事無いだろ!」
「うるさ~いっ!そんな恥ずかしい事言うな~っ!」
夏美が目を真っ赤に充血させながら誠を怒鳴りつけた。
「小便漏らしたのは事実だろうが!もしかしてウン○も漏らしたか?」
『バンバンバン!』
誠の容赦ない台詞に、夏美は何度も往復ビンタをかまして、誠を黙らせた。
怒りに震える夏美は誠を無視すると1人で女子寮に向かって歩いた。
(先輩のバカバカバカバカァ!最低ーッ!デリカシーの無さ過ぎな人って、大っ嫌いっっ!)
夏美は顔中を真っ赤に染め上げ、心の中は誠に対する怒りが煮えたぎっていた。
(…、イテテテテ…、言える訳無いだろ、拘束されてた夏美を助けた時、俺もアイツを抱き締めたかったけど、敵がいるかも知れない状態で気を抜けないから我慢しただけなのに…。小便なんかは気にしてないし、夏美をイジメた宇宙人への憎悪しか無かったけど、その気持ちが夏美に知れたら、俺がアイツの事が好きなのがバレるだろ…、だからあんな事言ってはぐらかしたのに…。)
自分の胸の内を秘めたまま、夏美の姿が小さくなるまで誠はその場で見送った。
お互いを好きになる心が通い合うのはいつになるのやら…?