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第4話:蜘蛛の森

まだ夏美と誠の関係はギクシャクしたままだった。

仕事中は誠の指導をそれなりに聞いているようだが、廊下ですれ違ってもお互い無視しあったままだ。

そんな2人は、最近行方不明者が頻繁に出ている森の調査を命じられた。


「本部こちら鎌田、現場到着、これより周辺調査を開始する。」

『了解。』


誠と夏美が調査を開始した。

が、


「伊藤、周辺調査から行くぞ。」


と誠が言っても夏美は森の中に行こうとする。


「伊藤!勝手に行くな!」

「別れて行動した方が速いでしょ!」

「もし宇宙人とかがいたらどうするんだ?1人で行くのは危険だぞ!」

「大丈夫ですっ!その時はスーパーシャイニーに助けて貰いますから。(私だけど…。)」

「おい!」


そう言うと、夏美は1人で怪しい森の中に入って行った。


「…ったく、知らねーぞ。」


誠がブツブツ言いながら森の周辺を始めたその時!


「キャーッ!」


森の中に入ったばかりの夏美の悲鳴が響きわたった。


「伊藤ーっ!」


誠が森の入口でしゃがみ込んだ夏美を見つけて駆け寄った。


「こ…、怖い…。」


誠が拳銃を抜き、夏美の周りを見回したが、特に何もなかったように見えた。


「伊藤、何があった?」

「あ、あれ…。」


ガタガタ震える夏美が指差した先には、小さな蜘蛛が木の枝の下から垂れ下がっていた。


「何だ、この程度で。」


誠が拳銃をしまうと、手で蜘蛛を振り払った。


「ほれ、どけたぞ。」


誠の言葉に夏美は恐る恐る周りを見回してから立ち上がった。


「…あ、ありがとうございます。」


夏美は小さく誠に礼を言った。


「全く、こんな事くらいでビビるなよ!」

「だって女の子なんだから仕方ないでしょ!」


虫を怖がることをからかわれて夏美は口を尖らせた。


「お前、さっきはかっこいい事言った癖に、こんな事でギャアギャア喚いてたら何も出来ないだろ!」

「知らなかったもんっ!いきなり蜘蛛がいるなんて!」


仲がギクシャクしていた2人がまた口論を始めた。

その間も、森の中の事で誠は疑問を持った。


「しかし、この森、やたらと蜘蛛の巣が張りまくってるな。」


確かに、そこら中に大なり小なりの蜘蛛の巣が張られてあった。


「伊藤、お前、この先進めるか?」


誠が夏美を心配して尋ねたが、夏美は虚勢を張って、


「馬鹿にしないで下さい!」


と叫んでから再び森の中へと入って行った。


「何無理してんだ?」


誠はそんな夏美の事を心配していた。


「…ったく、行くか。」


誠は1人で先を行く夏美を心配しながら後をついて行った。


(誠先輩、私の事馬鹿にして…、あーっ、ムカつく!)


先を行く夏美は後ろから付いて来る誠の事に苛立っていた。


(それにしても蜘蛛の巣が多いわ…、気持ち悪い…。)


虫とかが嫌いな夏美にとっては居心地が最高に悪い所ではあった。

すると!


『…ピタッ。』


何かが夏美の顔の右頬に引っ付いた。


「…え、い…、ゃ…?。」


夏美が手に取ると、その中には脚を伸ばせば夏美の手のひらサイズの蜘蛛があった。


「いやああああ!」


夏美は手を何度もブンブンと振り回し、蜘蛛を振り落とした。


「夏美ーっ!」


後から付いて来た誠が夏美に駆け寄ってきた。


夏美はその場に立ちすくみながら震えていた。


「お前、そんなに怖がるなら外に出てろよ、役立たず!」


誠が半ば呆れながら話した。

しかし、その言葉が夏美のプライドを傷つけた。


「役立たずぅ…?虫を怖がるのが役立たずだなんて!馬鹿にしないで下さいよ!」


夏美は目をつり上げながら叫んだ。


「ちょっと進んできゃー、また進んできゃー、って、行かない方がマシだろ!」

「私にだって嫌いな物はいっぱいありますよ!」

「嫌いだからって一々喚いてたら何も出来ないだろうが!」

「もーっ、うるさい!」


誠との口論に嫌気のさした夏美はキレながら踵を返して、再び森の中へと進んで行った。


「怒り過ぎだろ!」


誠も心の中にモヤモヤ感を残したまま、夏美の後を追いかけた。

しかし、夏美がどんどん前に進んで行ったのには訳があった。

先程、夏美の顔に張り付いた蜘蛛が明らかに夏美の耳元で


『ようこそ、シャイニー。』


と呟いていたからだ。


(私の事を知っている?やっぱり宇宙人?)


森の奥に進めば進むほど不気味さを増す森の気配に、夏美は一抹の不安を抱いた。

その時、


「きゃっ!」


夏美は足を滑らせて、大人の腰の高さ位の深さのある窪みに落ちた。


「い、痛ったあ~い。」

「夏美、大丈夫か?」


誠が窪みに落ちた夏美を助けようと手を差し伸べたその時だった!

何か白い紐のような物が窪みの中心から飛び出てきて、夏美の右足首に絡みついた。


「キャーッ!」

「夏美ーっ!」


誠が夏美の手を掴み、窪みの中心から地面に引き込まれそうになる夏美を助けようとした。


「何だこいつは?」


誠が拳銃を抜き、夏美の右足首に絡みつく白い紐のような物目掛けて何発も打ち込んだ。

全弾を立て続けに打ち込んでようやく、謎の紐のような物が千切れて、夏美が窪みの中に吸い込まれるのを防いだ。


「何だあれ?」

「先輩!」


怖がる夏美が誠にすがろうとした時、再び窪みの中から白い紐のような物が夏美目掛けて勢い良く吹き出てきた。


「危ない!」


誠がとっさに夏美を突き飛ばし、夏美を謎の紐のような物から逃したが、夏美の身代わりに自分の身体に巻きつけてしまった。


「わ、わっ!」


白い紐のような物はまるで蜘蛛の糸が獲物に巻き付くように誠の全身に絡みつき、誠を窪みの中に引きずり込んだ。


「誠せんぱーい!」

「夏美ーっ、俺に構わず逃げろーっ!」


ミイラのように全身を蜘蛛の糸で巻き付けられ、為す術もなく誠は夏美の身代わりとなって窪みの中に引きずり込まれた。


「先輩!せんぱーい!」

「夏美ーっ!」


誠の非常事態に夏美は左手の腕時計型の無線機で地球防衛軍の基地を呼び出した。


「本部、応答願います!本部!本部!」

『…。』


夏美が何度も呼び出したが基地との連絡はつかなかった。

その時、辺り一面につむじ風が吹き、風の中から何者かの声がした。


『フフフ、スーパーシャイニー!良く来たな、私のアジトに。』

「だ、誰なの?」


夏美が周りを見回したが、周りには誰も居なかった。


『私はカマリラ星人、地球人は私にとって貴重なエサ!捕食にはあなたが邪魔なのよ!だからあなたを生け捕りにして殺そうとしたわ。』

「隠れてないで出てきなさいよ!鎌田先輩を返して!」

『彼を助けたかったら、こっちに来なさい!早く来ないと、彼がどうなるかしら?』

『ギャーッ!』

「先輩っ!」


カマリラ星人の言葉に続いて、誠の悲鳴もつむじ風の中でこだました。


「卑怯者ォ!人質を取るなんて!先輩を離しなさいよ!」

『本当はあなたを捕まえるはずだったけど、この人が自ら身代わりになってあなたを助けたから。今度はあなたが彼を助ける番よ。』

『夏美ーっ!俺の事はどうでもいいから、お前だけでも逃げろーっ!…、うわあああああ!』

「止めてーっ!」

『さあ、早く助けに来ないと、彼を食べちゃうわよ!』

『や、止めろーっ!ぎゃああああ!』

「せんぱーい!」


つむじ風が収まり、誠やカマリラ星人の声が聞こえなくなった。


「先輩、私を助けるために、私の身代わりになって…。」


夏美は誠が吸い込まれた窪みの中心を見つめながら葛藤していた。


(早く助けないと、先輩が…。)

(でも…、蜘蛛怖いっ!)

(無線機が使えないし、外に出てみんなを待ってる時間がない!)


夏美は意を決して、誠が引きずり込まれた窪みの中心に足からゆっくりと入って行った。


「きゃっ!」


窪みの下は人の背丈程の高さの洞窟が奥へと伸びていて、窪みの中心が先端となっていた。

また、洞窟の奥がほのかに光っていて、いかにも誠が洞窟の奥に連れ去られた雰囲気を醸し出していた。


「気味が悪い…、でも…、先輩が…。」


夏美は腰の拳銃を構えると、足元を確認しながら洞窟の先へと進んで行った。


その頃…、


「は、離せ!」


ミイラのように蜘蛛の糸で縛られた誠は、何者かによって洞窟の奥へと引きずられていた。

必死にもがいて抜け出そうとするが、糸が頑丈すぎるのか、ビクともしなかった。

誠を引きずる者は、全身が黒色で覆われていた。

やがて、洞窟の奥に広がる、白骨と枯れ木だけの森に着くと、誠を引きずった何者かは誠をくるんでいた糸を引きちぎった。

それも6本の腕で!


「ば、化け物!な、何する気だ?」


蜘蛛の糸が引きちぎられた瞬間に逃げようと考えた誠だったが、目の前にいる全身黒ずくめの毛で覆われた6本腕の持ち主であり、不気味な昆虫のような目と、口からにょきっと伸びた蜘蛛の牙のある顔を見て固まってしまった。


「私はカマリラ星人、あなたはスーパーシャイニーをおびき寄せるエサ!」

「な、何?」


カマリラ星人が名乗りを終わると、ゆっくりと誠に近付いた。


「く、来るなーっ!」


カマリラ星人は4つの腕で誠の両手首と足首を掴みながら、残る2つの腕で誠のヘルメットと拳銃と無線機を奪い、牙が誠の首筋に来るように、不気味な顔を誠の顔に近付けた。


「や、止めろ!離せーっ!」

「フフフ、元気な人ね。」

「ぎゃああああ!」


カマリラ星人は口の牙で誠の首筋を突き刺し、誠の血を吸った。


「…っ、うっ…、あっ…、くっ…。」


必死になって抵抗する誠の動きがゆっくりとなり、やがてはほとんど動かなくなった。


「あ…、あ…。」

「カマリラ星人は人間の血や肉を捕食して生きるの。また、人間に特別な毒を注射してあげると面白い事が起きるのよ!」


カマリラ星人が牙を抜き、再び誠の首筋を噛んだ。

否、牙を当てただけだった。


「うぎゃあああ!」


牙を首筋に当てられただけで誠は凄まじい悲鳴を上げた。


「はあっ…、はぁっ…。」

「ウフフ、この毒は人体に小さな衝撃を与えても、痛点が最大限に反応して激痛を喰らったように感じるの。」


そうすると、カマリラ星人は誠を掴んだまま起き上がり、枯れ木の木々の間に張られてあった直径2mの蜘蛛の巣に誠をX字に張り付け、誠の両手首と足首、それに腰を口から吐く糸できつく縛った。


「スーパーシャイニーをおびき寄せるエサの準備は終わったわね。あとはスーパーシャイニーがいつ来るか?お腹も空いたし彼を食べちゃって、今まで食べた人みたいに骨になるのが先かしら?」


嬉しそうに喋る話を聞きながら、虚ろな目でカマリラ星人見つめる誠が言った。


「スーパーシャイニーがお前を必ず倒す!…、うわあああああ!」


誠が話している最中に、カマリラ星人は腕の先の小さな爪で誠の脇腹を刺した。


「エサの分際で生意気ね!お仕置きしてあげましょうか。」

「わ、わああああ!や、止めろーっ!うぎゃあああ!」


カマリラ星人が口から無数の小さな蜘蛛を吐き出して、誠の全身に覆い被せると、小蜘蛛が誠の全身を噛みだした。


「フフフ、スーパーシャイニー!エサの悲鳴を聞いてるわよね!早く来ないと死んじゃうわよ!ウフフフフ!」


枯れ木の森の中でカマリラ星人の高笑いと誠の悲鳴が交互に鳴り響いた。


(スーパーシャイニー、助け…、て…、な、夏美、助け…。)


カマリラ星人や小蜘蛛の責めに、とうとう誠は意識を失い、首をうなだれた。


洞窟の奥へと進む夏美にも、誠の悲鳴はずっと聞こえていた。


(誠先輩、待ってて!もうすぐ助けるから!)


洞窟の奥に広がる枯れ木の森が夏美の視界に入ってきた。その中心にある蜘蛛の巣に、誠が首をうなだれたままで磔られていた!


「せんぱーい!」


誠を見た夏美が一目散に駆け寄ったが…、


「ウワッ、く、蜘蛛…!」


誠に張り付く無数の小蜘蛛を見て夏美は怯んだ。


「あら、お嬢さんの姿で来たのかしら?」


夏美の左側からカマリラ星人がゆっくりと現れた。


「人質を、彼を返して!」


夏美は拳銃をカマリラ星人に突き付け、誠を返すように要求した。

が…、しかし、


「エサは餌なのよ。あなたを始末する前に、彼もきちんと食べないと勿体ないわ!」

「何ですって…?」

「ぎゃああああ!」


再び小蜘蛛達が誠に噛み付いた。


普通なら痛みなど感じないようなものでも、カマリラ星人の毒の作用で激痛となっていた。

誠は衝撃で一瞬起きると、激痛の効果で再び意識を失った。

しかし、再び意識を失う際に僅かに周りが見え、誠の視界にカマリラ星人と対峙する夏美の姿が映った。


(な…、夏美…。)


朦朧とする意識が薄れ、再び気を失った。


「許さない…!あなたは絶対に許さない!」


夏美は胸ポケットからシャイニーアイを取り出し、すぐさまスーパーシャイニーに変身した。


「シャイニーブレス」


スーパーシャイニーは胸の前に空気を集めると、一つの大きな塊にして誠にぶつけ、誠にたかっていた小蜘蛛達を蹴散らせた。

しかし、今の誠にとって、空気の塊さえも大きな衝撃だった。


「うぎゃあああ!」

(え…、何で?)

「こいつはカマリラ星人の毒がまわっているから、僅かな衝撃でも激痛に変わるのさ!」



カマリラ星人の言葉に、スーパーシャイニーは更なる怒りを覚えた。


「よ、よくも…。」


スーパーシャイニーはパンチを繰り出したが、腕が6本もあるカマリラ星人にたやすくつかまれると、カマリラ星人の残りの腕で何度となく殴られた。


「きゃああああ!」

「他愛ないわね。」


カマリラ星人の攻撃に相当なダメージを喰らったスーパーシャイニーだったが、


(負けちゃダメ!さっき私を助けてくれた先輩を必ず助けないと!)


スーパーシャイニーは再び攻撃しようとしたが、カマリラ星人が先手に出て、口から蜘蛛の糸を吹き出した。


「きゃっ!」


スーパーシャイニーは反射的に飛んでカマリラ星人の蜘蛛の糸を交わしたが、枯れ木の森の木々が邪魔して上手く交わせそうにない。


(あの蜘蛛の糸に絡まれたら動けなくなる!それに、下手にシャイニーアローを使えば先輩が怪我をするかも…、どうしよう…?)


スーパーシャイニーが攻撃手段を考えあぐねているその時だった!


「これでお前も私のエサだ!」


カマリラ星人が再び糸を吐こうとしたその時。


(そうだ、これなら…!)


カマリラ星人が糸を吐くのと同時に、スーパーシャイニーは再びシャイニーブレスでカマリラ星人の糸目掛けて投げつけた。


「わ、何?」


自分が吐き出した糸に絡まれ、カマリラ星人が動けなくなったその時、スーパーシャイニーは右手に光を集めた。


「シャイニーアロー!」


シャイニーアローがカマリラ星人の口元に命中した。


「いやあああああ!」


カマリラ星人は悲鳴と共に爆発した。

しかし、カマリラ星人の吐いた糸がカマリラ星人自身の身体を一時的に覆っていたので、爆風と肉片はあまり飛び散らず、誠の身体に衝撃が走ることは無かった。


「先輩!今助けます!」


スーパーシャイニーは誠を縛っていた蜘蛛の糸や蜘蛛の巣を取り去ると、誠を抱きかかえて洞窟の入り口へと飛び去った。

誠は朦朧とする意識の中で、スーパーシャイニーに抱きかかえられていたにもかかわらず、


(夏美、なのか…?)


と、自分を抱きかかえているのが夏美だと錯覚していた。


カマリラ星人の居た洞窟や森を抜け、森の入り口にたどり着いた時にスーパーシャイニーの変身が解け、夏美の姿に戻った。

ほぼ同時に、誠も目が覚めた。


「ここは…?」

「せんぱーい!」

「うぎゃあああ!」


まだカマリラ星人の毒に冒されている誠に対して、夏美がガバッと抱き付いたので、誠はまた絶叫地獄を味わった。


「ご、ごめんなさい…。」

「そう言えば蜘蛛の化け物は…?」

「あれは、私とスーパーシャイニーとでやっつけましたから!」


夏美は得意気に答えた。

もっとも、まだ誰にも自分がスーパーシャイニーであることを名乗っていないから、自分だけの事でも、夏美とスーパーシャイニーが別人だと言わなければならなかった。


「やっぱりお前もあの洞窟の中に…。」

「だって、私の身代わりになった先輩を助けるためですから。それに、スーパーシャイニーもすぐ来てくれたし。」


夏美はニコニコしながら更に得意気に話した。


「先輩、自分の事も大事にしなきゃダメですよ!…。」


更に夏美が喋ろうとした時、


「何で無茶したんだ?」

「え?」


夏美は誠の言葉に一瞬言葉を詰まらせた。


「逃げろっつっただろ!お前までやられたらどうすんだ?」

「そんな…。」


誠の意地とも思える発言に夏美の顔から笑顔が消えた。


「他の隊員を呼んで行動しないと、単独行動は危ないだろ!」

「だ、だって、誠先輩が!誠先輩が!」


夏美の声が涙声に変わって行った。


「たまたまスーパーシャイニーが来てくれたから良かったけど、お前の、俺の言う事を聞かないとこが危ないんだぞ!余計な事しやがって!」

「…。」


夏美は完全にうなだれて、何も言わなくなった。


「要らんことして、お前まで死んだら、俺は…。」

「てめええ!粋がんのもいい加減にしろ!」


『バチイイィィン!』


夏美の渾身の平手打ちが誠の左頬を打ち抜いた。


「ぎゃああああ!」

「カッコつけんじゃ無いわよ!あのままだったら先輩、死んでたわ!私を助けてくれた恩人を助けたのに、そんな言い方って無いんじゃなくて!バカァーッ!」


夏美は泣きながら絶叫し、更に誠に向かって怒鳴りつけた。


「命は一つしかないのに、亡くなったら終わりなのよ!自分を犠牲にしてまで私の事を守ってくれても、先輩に死なれたら、私、私…。」


夏美は叫びながら泣き崩れようとしていた。


「普通なら男の俺が女のお前を助けるのが当たり前だ!その前に、男が女に助けられたら恥ずかしいだろ!」

「まだ馬鹿なことを言ってるの?ふざけないでよ!」

「…。」


夏美の迫力に誠はただただ黙るしかなかった。


「自分の命も守って、それでいて他の人を守れるって私に教えてくれたの先輩でしょ。その先輩が命を犠牲にしたらダメでしょう!」

「後輩のお前を助けるなら…。」

「人が話し終わってないのに口を挟まない!ちゃんと最後まで聞く!」

「…。」


会話は完全に夏美のペースだった。

誠は最早夏美に反論する余地が無かった。


「約束して!」

「何を?」

「もう、無茶な事はしないって!」


夏美は誠の目を見つめながら、誠に約束を迫った。


「はぁ?無茶するのが俺達の仕事だろ?」

「ちゃんと約束すると言ったら約束する!」

「…、ほれ、分かったよ。」


夏美に完全に押された誠が右手の人差し指を夏美に突き出した。

すると、夏美は誠の右腕を両手でしっかりと握り締め、瞳から大粒の涙を湛えた。


「死なないで、先輩!先輩が居なくなったら私…、私…。」

「夏美…。」

「もう、無茶しないでね…。」

「ああ…。」


わだかまりのあった2人が前以上に仲良くなった頃、地球防衛軍の他の隊員達がやってきて、誠を地球防衛軍の病院に搬送した。


翌日、地球防衛軍の基地内の病院に入院した誠を夏美が見舞った。


「先輩、具合はどうですか?」

「ああ、マシにはなったかな?」


夏美は笑顔で語りかけた。


「そうだ、先輩?」

「何?」

「先輩、私がビンタする前、私に何か言おうとしてたでしょ。」

「あ、あの時…?」


誠は必死になって思い出した。


(要らんことして、お前まで死んだら、俺は…。…、どう言おう?)

「今思い出したでしょ!」


夏美がイタズラな笑顔で誠を覗き込んだ。


「それは…。」


誠はしばらく考えてから…、


「お前みたいな面倒くさいのを相手にしなくて助かる!と、言いたかったんだよ!…イテテテテ!」


まだカマリラ星人の毒が抜け切っていない誠の腕を夏美が人差し指でトンと叩いた。


「お、お前、俺未だ入院患者だぞ!もっと優しくしろよ!」

「先輩が悪いこと言うからですよ!」


夏美は誠の腕を叩いた人差し指をピンと伸ばし、誠を黙らせると、更に話を続けた。


「余計な事は言わないで下さいね!先輩は結構口が悪いですから。」

「ちぇっ!」


誠は自分の恩人でもある夏美に逆らえず。ふてくされながら病室の外を眺めた。


(ウフフフフ、先輩って素直じゃないんだから。本当は私の事が好きな癖に!私も先輩の事は守りますから、本当に無茶しないで下さいね!)


夏美は不適な笑みを浮かべながら、虚勢を張る誠を見つめ続けた。


「そう言えば夏美?」

「何ですか?」

「お前も森の入り口で俺に無理やり約束させた時も、何か言おうとしてなかったっけ?」


誠も夏美が言いたそうな事を思い出した。


「え、えーと…。」

(ヤダ、正直に言ったら、私が先輩の事が好きだってバレるじゃない!先輩には黙っておかないと…。)


夏美は、にっこりと笑みを浮かべながら、


「えへへ、秘密で~す!」

「何だよ、それ!」

誠は自分が言わされそうになったのに、逆の立場になったらはぐらかす夏美の態度に腹が立った。

しかし、夏美が人差し指を再びピンと立てると…、


「ウッ…。」


誠は再び黙ってしまった。


「女の子には秘密の一つや2つはあるもんなんですよ。」


イタズラな笑顔で答える夏美に、誠は逆らえなくなった。


(夏美の奴、調子付きやがって…、でも、何か良いかな?)

すっかり自分のペースに誠を収めた夏美はニコニコしながら思っていた。


(仕事は先輩後輩の間柄でも、恋の主導権は女である私がちゃ~んと握らないとね!ウフフ。)


外は穏やかな風が吹いていた。

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