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第1話:湖に潜むもの

地球防衛軍に新たに配属された女性隊員である伊藤夏美は、先輩隊員である鎌田誠と共に、昨日UFOの目撃談が出た竜胆りんどう湖にパトロールのために地球防衛軍の車でやって来た。


「あ~っ、やっと着いた!」

「ちょっと鎌田隊員、休憩する暇なんて無いですよ。」

「うるさいな、お前は!俺は何時間も休み無しで運転してきたんだぞ!」


竜胆湖畔のベンチに腰掛けながら、快晴の澄み渡る青空に映える湖の景色を見てぼーっとする誠を夏美がたしなめた。


「何言ってるんですか!基地を出てから30分おきに『疲れたぁ』と言って、コンビニとかに立ち寄って休憩しまくったのは先輩でしょ!」

「うっ…、そ、それは…。」

「早く、サボってないで行きますよ!」


夏美は誠を厳しくたしなめると、誠と共に湖の調査に出掛けた。


湖の周りは平日とあってか、人影はほとんど無かった。


「伊藤、闇雲に探しても仕方ないぞ!」


誠が前を行く夏美を止めようとしたが、夏美は振り返ると、


「鎌田隊員はサボりたいから言ってるんでしょ!」

「は?お前何言ってんの?」

「地道にでも捜索するのが大事だって私に教えたのは、指導教官の先輩でしょ。」

「あのな、誰もいないとこを探しても無駄なだけだ!と、言ってんの、ブス。」

「無駄かどうか分かんないでしょ!それと…、」

「何だよ?」

「私の事、よくバカだのブスだの言ってますけど、いい加減にして下さいね!」

「分かったよ、伊藤!」

「私の事は伊藤隊員って呼んで下さいね!隊員規範にもあるでしょ!」


『ガサガサッ!』


「キャッ!」

「…ッ!」


口論していた2人のすぐ近くの藪の中から何者かが現れ、夏美は反射的に誠の背中に隠れた。

伊藤夏美の正体は地球を守るスーパーヒロインであるスーパーシャイニーだが、普段の彼女は地球防衛軍の女性隊員でもあり、可愛さのある二十歳の女の子、このような事に怖がるのも無理はない。


「おい、伊藤!」


誠が夏美に前を見るように促す。

夏美達の前には、まだ中学生くらいの少年が、釣り竿を持って現れた。


「お兄さん達、何してるの?」

「僕達は地球防衛軍、昨日のUFOの目撃談を受けて調査に来たんだ。君は見てないかい?」


誠は中学生くらいの少年に尋ねた。

よく見ると顔立ちの整ったイケメン少年の容姿に夏美は思わず、


(カッコイイ、いや、カワイイ!)


と思った。


「うん、何か出たらしいけど、見てないから。」


少年はそう言って、その場を立ち去ろうとした。


「あ、君!」


誠が少年を呼び止めた。


「何ですか?」

「もしかしたらこの辺に悪質な宇宙人がいるかもしれない。早く帰った方がいいよ。」


「はい。」


少年は誠に言われるがままに、湖の近くの集落に向かって歩いた。


「うわーっ、カワイイ!」

「何若い子を見とれてるんだ、お前、あの子から見たらオバサンだぞ!」

「お…、オバサンッ?」

「ギャーッ!」


オバサンと言われて激怒した夏美は誠の足を思い切り踏みつけた。


(私の事をオバサンってッ…、あーっ、ムカつくーっ!)


足を踏まれて痛がる誠を置き去りにして、夏美は湖の周りの調査を進めた。


(チッ、あのババア、もう来やがったか!だが、まだバレてないようだな。)


先程の少年は、特に夏美への悪態をつくと、湖のほとりに来て、魚を入れる魚籠びくの中から、鮎ほどの大きさの奇妙な形の魚を取り出し、


「お前が成長したら、派手に暴れようぜ!」


と言って、その奇妙な魚を湖に放流した。


その頃、プリプリと怒ったままの夏美を追いかけるように、誠が後をついて来た。


「伊藤、待てよ!」

(あーっ、まだ私の事呼び捨てにして!ブスとかオバサンとか、本っ当にデリカシーの無い人!)


夏美は再び振り返り、右手の人差し指をピンと立てると、


「先輩、私の事は伊藤隊員とか、夏美隊員とか、呼び捨てにして言わないで下さいね!」


目を釣り上げて怒る夏美に向かって、


「じゃあ、伊藤夏美。」

「ただフルネームで呼んだだけでしょ!」


『ガサガサッ!』


「キャッ!」

「…ッ!」


再び、夏美の背後で何者かが動く気配がした。

しかし、今度は大分と遠かった。

まだブルブルと震える夏美を背に、誠は音のする方を見た。

そこには、誠達から遠ざかる何者かのシルエットがあった。


「お、おい、君!待ってくれ!」


誠が止まるように叫ぶが、影の主は立ち止まらなかった。


「伊藤、追いかけるぞ!」


誠が夏美に発破をかけ、影の主を2人で追いかけた。


暫くすると、小さな小屋のある、湖とは反対側の少し開けた所に来た。

そして、影の主が小屋の戸を開け、中に入って行った。


「伊藤、行くぞ!」


誠が先に中に入ろうとした。


「すいませーん。」


戸を開けながら中に呼び掛けたものの、6畳程の小屋の中には誰も、否何も無かった。


「おかしいな?」


誠が疑問を抱いた。


「鎌田隊員!」


夏美が何かを見つけて、誠に知らせた。


2人が見た物は、地下室に続く床の入口が僅かにずれていた。


「よし、中に入るぞ!」

「え、でも…。」


夏美は怖がったが、


「中に宇宙人とかがいて、地球を攻撃して来たらどうする?」


腰の銃を取り出した誠が先に地下に続く階段に入り、続いて夏美も入って行った。


(う…っ、気味が悪い。)


誠の後を恐る恐る進んだ夏美、そしてすぐに、2人は地下室に入った。特に何もない部屋の中、先程の影の主を探したが、どこにも見当たらない。


「おかしいな?」


すると、2人の背後から…、


「お兄さん達!」


「キャーッ!」

「誰だ!」


何者かが声をかけ、恐怖の余りに夏美はその場にしゃがんだ。

そこに居たのは、先程湖で出会った少年だった。

しかし、手には何も持っていなかった。


「君はさっきの?」

(えっ…、さっきのカワイイ男の子じゃないの!)


誠は手に持つ銃を下ろし、夏美はゆっくりと立ち上がった。


「もう!驚かさないでよ、僕、ダメじゃないの!こんな怪しいとこに1人で来て!」


夏美がきつく諭したが、


「ここは、僕の父さんが作った山小屋だよ!もう使わないから物を片付けたけど、忘れ物をしたから取りに来たんだ。」

「忘れ物?」

「何を忘れたの?」

「それは…。」


その時!


『シュウウウーッ。』


突然、白い煙が地下室に充満した。


「ゲホッ!ゲホッ!は、早く外に!」


誠は夏美や少年を逃がそうとしたが、ただでさえ中は暗く、その上、煙が充満した密閉状態の地下室から逃れることは出来なかった。


「ゲホッ!ゲホッ!く…、苦しい…。お姉さん、た、助けて…。」


夏美の近くにいた少年が夏美に助けを求めたが、虚しく力尽きて倒れてしまった。


「ゲホッ!どうしよう?」

「で、出口を…。」


誠も、続いて夏美も煙を吸い込んで意識を失い、その場に倒れ込んだ。


(だ…、誰?)


かすれていく意識の中で、夏美は、別の何者かが地下室の階段を降りてきて、自分に近付いて来るのを見た。


(た、助けて…、鎌田せんぱ…。)


新たに来た謎の人物が夏美の顔を覗き込もうとした時に、夏美も完全に意識を失った。

夏美の正体がスーパーシャイニーであっても、今の姿は地球人そのものであり、人間の姿をしているときは、他の地球人同様の体組織を形成している。

だから、誠と同じく、軽い酸欠に陥り、気を失ったのだ。


どのくらい時間が過ぎたのだろうか?


(…う、…ん…ッ!)


夏美が目を覚ますと、まだ薄暗い地下室の中に、意識の無い誠と少年の3人でいた。


「か、鎌田隊員、起きて下さい。」


夏美が誠の体を揺さぶって起こした。


「…ん…、な、夏美?いや、伊藤?」


誠が意識を取り戻した。


「私達、気を失ってたみたいです。」

「そうみたいだな。」

「あっ、あの子は?」


夏美が少年の所に行き、少年を揺さぶって起こそうとしたが、少年は意識を失ったままだった。


「起きて?ねぇ、起きて!」


夏美が懸命に起こそうとするが、少年はぴくりとも動かなかった。


「ねぇ、起きて!」

「止めろよ、やりすぎだ!」

「止めないで!」


涙声になる夏美を宥めるように誠が言ったが、少年を助けようとする夏美には血の通っていない冷血な言葉にしか聞こえなかった。


「生きてるよ、脈がある。気を失ってるだけだ。」


誠は冷静に少年の脈を取り、続けて呼吸があることも確認した。


「先輩…、ごめんなさい、私…。」

「そんな事より、早くこの子を病院に連れて行かないと!」


誠は少年を抱きかかえると、地下室の階段を上がって行き、後から夏美も着いて行った。


誰も居なくなった地下室だが、その片隅には両目を光らせた何者かが潜んだままだった。


誠が状況を報告し、直ちに竜胆湖近くの病院に少年を運んだが、少年の意識は原因不明のまま戻らず、医療の完備している地球防衛軍基地内の病院に運んだ。


とりあえず竜胆湖近くの病院で手当てを受けた夏美達は引き続き竜胆湖周辺の捜索に参加したが、病院を出る際に、夏美の隊員服の胸ポケットから…、


「な、無い!スーパーシャイニー変身用のシャイニーアイが無い!」


夏美がスーパーシャイニーに変身する際に着用するメガネであるシャイニーアイが無くなっていた。


(落としたのかしら…?ま、まさか?あの地下室で…?)


夏美は思い出した!地下室で煙を吸い込んで気を失う時に見た謎の人物の事を!


(ま、まさか?私の正体をッ…!)


夏美は捜索チームから離れて、1人であの地下室のある小屋を目指した。


夏美は小屋に入る前にヘルメットのゴーグルを下ろして、ガス防止マスクをして完全防備の状態で拳銃を構えて中に入った。


やはり薄暗い地下室に続く階段を慎重に降りて行った。


(シャイニーアイはどこかしら?)


ヘルメット上部のヘッドライトで室内を照らしながら、夏美は亡くしたシャイニーアイを探したが、


「…お姉さん!」

「キャアアアアア!」


再び夏美の背後から何者かが声をかけ、その声に驚いた夏美が悲鳴を上げながら振り向きながら尻餅をついた。

そこに居たのは、先程意識を失い、地球防衛軍の病院に搬送された少年が立っていた。

この時の少年は手に釣り竿を持っている。


「もーっ!驚かさないでよ!って?僕、何でここに居るの?病院を抜け出したの?ダメじゃない!」


恐怖とかで混乱する夏美が矢継ぎ早に少年をまくし立てた。


「だって、探し物をしてるから…。」

「ゴメンね、お姉ちゃん、ちょっと怒っちゃって。探し物を手伝うわ。で、何を亡くしたの?」


気を落ち着かせた夏美が少年に優しく訪ねると…、


「…、亡くしたのを探してるのはお姉さんでしょ?」

「えっ?(な、何で?何でこの子が?私がシャイニーアイを亡くしたのを知ってるの?)」


夏美は再び混乱した。

まさか、この年端の行かない少年がシャイニーアイの存在を、否、私がスーパーシャイニーであることを知る訳がないと。


「じゃあ、一緒に探そうか?」


そう言い終わるとすぐに、少年は左手で夏美の肩に手を触れた。


「ギャーッ!」


すると、少年の身体から高圧電流が流れ出し、夏美を感電させ、再び夏美の意識を失わせた。


「チョロいな、このババア!」


少年はそのイケメンに似合わない乱暴な言葉を、気を失った夏美に吐き捨てた。


(…、ん…。)


夏美があの地下室で再び意識を取り戻した。

しかし、今度は自分が立たされてるのにまず気付いた。


(あれ…?立ってる?ん…、え…?)


今度は自分が両手をバンザイした状態で、しかも、両手首に手錠をはめられた格好で立たされていた。


「な、何これ?」


夏美は両手を手錠から外そうとしたが、当然、女の力ではどうすることも出来ず、かつ、身長155センチの比較的小柄な身体の彼女の両足がやっと床に着くかどうかの高さで固定されているため、余計に力が入らなかった。


「やっと目が覚めた?」


夏美の目の前に、薄ら笑いを浮かべる少年が立っていた。


「僕、お願い。この手錠を外して!」


夏美は自分を縛めている手錠を取って貰うよう、少年にお願いしたが、


「折角捕まえたのに、逃がすようなことするかよ!」

「えっ?(な、何で?)」

夏美は少年の言葉が信じられなかった。


「あんたに自由にされたら困るんだよ、オバサン!」

「お?オバサン?」


先程までとはうってかわって、乱暴な言葉使いと自分をオバサン呼ばわりした少年に困惑した。


「探し物はコレだろ?」


少年はズボンの尻ポケットから、夏美のシャイニーアイを取り出した。


「ああっ、私の!」

「コイツは俺がもらったぜ!」

「返して!それは私の大事な物なの!お願いだから返して!」


亡くしていたシャイニーアイを返してもらうよう、少年に向かって必死になって泣き叫ぶ夏美だったが、


「やーだね!あんたがこれ使うと、スーパーシャイニーに変身してしまうだろ!」

「う、嘘、私の事を…?」


夏美がスーパーシャイニーだと知る少年を目の前に、夏美はたじろいだ。


「あなた、誰なの?」


夏美が驚きながら少年に問い質した。

すると、少年は夏美のシャイニーアイを再びズボンの尻ポケットにしまうと、


「きゃっ、…やっ、止めて!触らないで!」


身体の自由の利かない夏美の胸や尻、太もも等をやらしく触りながら、少年はしゃべった。


「俺はビット星人、ちょっとムシャクシャしてっから、地球にちょっかいかけてやろうと思って来たわけ。」


夏美の肉体をまさぐりながら、ビット星人は話を続けた。


「あんたみたいなスーパーシャイニーがいたらヤバいじゃん!だからオバサンはここに閉じ込めて…、ウッ!」


身体をイタズラされ、さらに自分の事をオバサン呼ばわりする不埒なビット星人に怒りを覚えた夏美の右膝蹴りが、ビット星人の股間にヒットした。


「いい加減にしなさいよ!」


相当苛立った夏美が睨みつけながら、金的を蹴られて悶えうつビット星人に向かって怒鳴りつけた。


「ムシャクシャしてたから地球を襲う…?ふざけんじゃないわよ!それに、私の事をオバ…きゃーっ!」


今度はビット星人が夏美の頬を殴りつけ、夏美を黙らせた。


「なめんじゃねえぞババア!」

「…ひっ!」


ブチキレたビット星人がポケットからナイフを取り出すと、刃の平たい箇所で夏美の左頬をペタペタと叩いた。


「ついでにキズ物にしてやろうか!」

「や…、止めて。お願いだから…、ねっ。」


自分の身に迫る恐怖に夏美は声を震わせながら助けを請うた。

しかし、少年は聞き入れないばかりか、


「…、嫌ッ!」


夏美の隊員服の上着のファスナーに手をかけると、そのまま下ろした。


そこには、ブラが見えないよう、インナーを着ていた。


「チッ、ペチャパイの癖して、ブラジャー見せねーんかよ!」

「ダメ、止めて!」


ビット星人が夏美のインナーを捲り上げようとした。


その時!


「兄貴!兄貴!」


地下室の一面から何者かの叫び声が聞こえた。


「邪魔すんなよ!良いとこだったのによぉ!」


ビット星人がそう叫ぶと、夏美のインナーを捲り上げようとしたのを止め、地下室の壁に手をかざした。

すると、壁からモニターが現れ、何者かの顔が映し出された。

もっとも、薄暗い地下室では、モニター越しの相手が誰だか解らなかった。


「地球防衛軍の病院に侵入したが、意外と地球防衛軍の連中が強すぎて基地を爆破出来ねー!」

「わかった。退却しろ!」

(2人も居るの…?それに基地を狙うなんて!)


夏美は基地のピンチに駆けつけられない悔しさで一杯になった。

また、同時に、夏美の左腕にある連絡用ビデオ無線機にも、

「緊急!緊急!先程病院に搬送された少年が病室を抜け出して基地内の破壊工作を開始した!直ちに破壊工作を封じ込めろ!」


と、先程の少年と目の前のビット星人が兄弟であり、先程意識を失ったのが容易に基地内に潜入してから、基地を破壊しようとしていた事に気がついた。


(ま、まさか、兄弟?)


夏美は驚いたが、今の自分にはどうすることも出来ない。


(何とかして変身しないと、犯される!どうしたらいいの…?)


夏美は自分のピンチを打開する方法を考えた。


(そうだ!一か八か、あれに賭けよう。)


夏美が妙案を思いついたと同時に、ビット星人も弟と思しきもう1人との連絡を中断し、吊されたままの夏美の所に戻った。


「さあて、シャツを破こうか?」


ビット星人が夏美のインナーシャツにナイフの刃先を当てた時だった。


「大人しくするから止めて。」


夏美は抵抗するのを止めて、ビット星人に優しく声をかけた。


「下着を脱がすにも、ズボンが邪魔でしょ?」

「おっ、イイね!物分かりの良いオバサン!」


ビット星人が夏美の隊員服のズボンを脱がそうとするが、ベルトがキツくてなかなか脱げそうになかった。


「あ゛~っ、ムカつくぅ!」


なかなか脱げないズボン格闘しているビット星人がイライラを募らせている。

そこに、


「このベルト、かなりピッチリ閉まってるの。ベルトを外すには、バックルの上にあるボタンを押せば簡単に外れるわ。」

「おっ、ベルトか。」


ビット星人が夏美のベルトのバックルの上にあるボタンを押した。


「さ、これでベルトが…、って、あれ?外れてないぞ?」


夏美の言うとおりにしたにもかかわらず、ベルトは外れなかった。

しかし、その時、ビット星人は気付かなかった!

自分のズボンの尻ポケットから夏美のシャイニーアイが勢い良く飛び出し、夏美の目に装着されたのを!


「オバサン、騙したな!」

「人をイジメておいて騙したなんて、自分勝手も良いとこね!それに、女の子を犯そうとする何で、許さない!」


夏美はスーパーシャイニーに変身すると、意図も容易く自分を縛り付けていた手錠を引きちぎった。

その間にもビット星人は逃げ出した。


「待ちなさい!」


スーパーシャイニーもビット星人の後を追いかけて行った。


「チッ、こうなったら…、出でよ、エレキオー!」


ビット星人が湖に向かって叫ぶと、何者かが湖底から姿を表した。


それは、頭にツノが生え、全身をウロコで覆われた怪獣である


『エレキオー』


であった。


「巨大化!」


スーパーシャイニーも直ちに巨大化した。

竜胆湖に2つの巨大な怪獣と超戦士が現れた。


「エレキオー、スーパーシャイニーを倒せ!」


エレキオーのツノがピカッと光り、スーパーシャイニー目掛けて飛んできた。


「はっ!」


スーパーシャイニーはひらひらと交わしながら、エレキオーの体力が消耗するのを待つ作戦に出た。


「グアアアア!」


自ら繰り出す光線が次々とスーパーシャイニーに交わされ、流石に光線を放つペースが落ちていった。


(チャンス!)


スーパーシャイニーはエレキオーとの間合いを詰め、遂にはエレキオーの頭部めがけて回し蹴りを放った。


「ヤアアアア!」

「グアアアア!」


スーパーシャイニーの回し蹴りが決まり、エレキオーは湖底に沈んだ。


「エレキオーーッ!尻尾を使え!」


ビット星人の指示により、エレキオーは湖底から長い尻尾を繰り出し、スーパーシャイニーの両足首に巻きつき、スーパーシャイニーの動きを封じた。


「ウッ、クッ!」


スーパーシャイニーは両足を懸命にもがいたが、エレキオーの尻尾が頑丈に絡まり、更に膝まで巻き付いて、スーパーシャイニーを湖畔に倒した。


(し、しまった!)

「グアアアア!」

「電撃だ!」


ビット星人の指示通り、エレキオーは倒れたスーパーシャイニーに光線を放った。


「グアアアア!」

「きゃあああ!」


エレキオーの強力な光線の攻撃をまともに食らい、流石のスーパーシャイニーも悲鳴を上げた。


「スーパーシャイニーを援護しろ!」


地球防衛軍の戦闘機も現場に到着し、ピンチのスーパーシャイニーを助けるべくエレキオーに対して攻撃を開始した。


無数のミサイルや機関砲による攻撃を次々と命中させるが、エレキオーには歯が立たなかった。


「スーパーシャイニーを倒させるか!」


先程までUFOを捜索していた誠もスーパーシャイニーを助けるため、最新式のレーザーライフルで応戦する。


(夏美の奴、途中ではぐれてどこ行ったんだ?まさか、この攻撃を受けて死んでないよな?)


誠は、捜索の途中でシャイニーアイを探すために勝手に姿を消した夏美の事を心配していた。

勿論、誠は夏美の正体がスーパーシャイニーである事を知る由もない。

誠からしたら、生身の人間であり、か弱い女性の夏美の安否がとても気にかかるが、今は夏美よりも目の前の怪獣を倒さないとスーパーシャイニーや他の民間人の犠牲が出てしまう。


(俺がついていながら…、畜生!)


夏美の無事と怪獣退治の狭間で葛藤していた。


その頃…。


「兄貴!」

「おう、戻ったか!」


ビット星人の兄弟が合流した。


「スマン、地球防衛軍の基地を破壊出来なかった。」

「仕方ない、しかし、俺達のエレキオーは無敵だぜ!」

「強えええ!スーパーシャイニーや地球防衛軍相手に無双してるじゃねーか!」

「イケイケェ!エレキオー!」


最早プロレス観戦のノリでエレキオーを暴れさせるビット星人の兄弟であった。


(アイツの弱点は…、どこ?)

「怪獣の弱点って無いんかよ?いや、必ずどこかに弱点がある!諦めるな!」


スーパーシャイニーと誠がそれぞれエレキオーの弱点を探そうとしたが、逆にエレキオーは再びツノを光らせて、スーパーシャイニーを攻撃した。


「きゃあああ!」


足をエレキオーの尻尾に絡まれて動けないところに攻撃を食らい、スーパーシャイニーの体力も消耗していた。

また、スーパーシャイニー自体も地球上では5分しか持たないため、その活動時間も刻一刻となくなっていた。


「エレキオーーッ!トドメだ!」


エレキオーのツノが更に眩しく光り輝き、これ以上無いほど光り輝いた。

それはスーパーシャイニーを葬り去るために輝く太陽のようであった。


(もう、ダメかも…。)


スーパーシャイニーも自らの運命を悟った時だった!


「食らえ~っ!」


ただ1人、誠だけは諦めていなかった。

誠は光り輝くエレキオーのツノ目掛けてレーザーライフルの照準を定めて、全てのエネルギーを集中させて撃ち込んだ!


「グアアアア!グアアアア!」

(えっ、何?)

「し、しまった!エレキオーの弱点が…。」


誠が撃ったレーザーライフルの光線がエネルギーで満たされ、飽和状態となっていたツノに更にエネルギーを加える事により、エレキオーのツノを粉砕した。

ツノが最大の武器であり、かつ唯一の弱点であったため、エレキオーはスーパーシャイニーの両足を縛り付けていた尻尾を解き、その場に倒れ込んでもがき暴れた。


「や、やべぇ…。戻れ!エレキオー!」


ビット星人の兄の方が魚を入れるプラスチック製の魚籠を手に持つと、魚籠の口からエレキオーに向かって光線が出て、エレキオーの全身を包むと、たちまちエレキオーの姿が小さくなり、魚籠の中に吸い込んだ。


「やべぇ…、逃げるぞ!」


ビット星人の兄弟は夏美を監禁していた地下室のある小屋の地下室に駆け込み、壁面から操縦席のような物がせり出すと、弟が席のスイッチを幾つも押した。



すると…!


小屋の周囲の地面がせり上がり、地面の下からUFOが現れた。

UFOは浮かび上がるなり、あっという間に宇宙へと消えて行った。


「やべぇ、やべぇ、もう少しだったのによう。スーパーシャイニーや地球防衛軍があんなに強いとは…。」

「まあいいや、兄貴!適当に鬱憤を晴らせたし、今日の所は帰ろうぜ!」

「そうだな、あのババアの乳やケツを揉んでやったしな!」

「兄貴はあんなオバサンが好きなんか?俺ダメ!オバサン勘弁して!」

「あっはっはっはっは!」


地球にとって恐怖と混乱の種である怪獣騒ぎも、この兄弟からしたらただの遊びの延長戦だった。


その時!


「待ちなさい!」


何と、スーパーシャイニーがビット星人の兄弟の乗るUFOを追いかけて掴み、コクピットを覗き込んだ。


「う、うわああああ!」

「あなた達、今回は人に危害が加えられなかったから許すけど、この次は許さないわよ!」


スーパーシャイニーは悪ガキ兄弟を叱りつけた。


「ご、ゴメンナサイ…。」


ビット星人の兄弟は自分達に比べて圧倒的に巨大で強力なスーパーシャイニーを前にしてただ悔い謝るしか出来なかった。


「よし!今回は許します。次はないからね!」

「…はい。」

「だけど…、」


スーパーシャイニーはまだ何かを言い続けた。


「私の事をオバサンとかババアとか言ったり、特にお兄さん!」

「えっ、あ、はいいいっ!」

「私にイヤらしい事したの、許してないからね!わかった!」


「も、もうしませーん!」


スーパーシャイニーが彼らのUFOを離した瞬間、UFOは全速力でビット星に向かって消えて行った。


「イケメン揃いだったのに…、残念。」


スーパーシャイニーは少しがっかりすると、地球へと帰って行った。


その頃、地球の竜胆湖畔では、誠が行方不明となっていた夏美を探していた。


(俺のせいだ!もし、アイツに何かあったら…、)


やがて、湖畔を1人で歩く夏美を見つけた。


「夏美!」


誠が夏美の名を叫ぶと夏美が振り返り、誠に向かってニッコリ微笑んだ。


「あ、鎌田隊員!さっきはカッコ良かったですね!怪獣のツノ目掛けてレーザーライフルを…。」

「アホンダラ!」

「…えっ?」


夏美の笑顔とは対照的に、誠の顔は非常に厳しかった。


「勝手に捜索班から離れて連絡もよこさないで、どこ行ってたんだ!」


誠の本心は夏美の無事を確認してほっとしていた。

しかし、連絡もよこさないばかりか、ヘラヘラと笑う夏美の態度が誠の逆鱗に触れた。


「お前1人が勝手な行動をするだけで、他の人が大迷惑するんだぞ!解ってるのか?」

「先輩…、だ、だって…。」


夏美は、大事なシャイニーアイをビット星人に奪われ、それを取り返そうとしたら逆に捕まって、痴漢まがいの拷問を受けた事を訴えたかったが、それを言うと自分がスーパーシャイニーである事がバレてしまうから、例えどれだけ辛い思いをしても、それを誰にも打ち明けることが出来なかった。


「何が『だって』だ!何か理由が有るなら言えよ!」


誠の激しい問い詰めに、夏美は思わず涙声で呟いた。


「…、亡くしたのを…、探しに…。」

「ハァ?何を亡くしたんだ?」


夏美は正直に言えるわけがなく、とっさに、


「…、お、お化粧品…。」


と、俯きながら言った。


「化粧品?…、ブッ、あっはっはっはっは!」

「へ?」


夏美の嘘の理由を聞くと、誠がいきなり爆笑した。


「化粧品っ?お前、ブスの癖に化粧してもしなくても変わらんだろ!どうせさっきのイケメン君がいたからキレイになろうと思っても無駄ですから!あの子からしたらお前、オバサン、否、ババアだぞ!無理無理!若作りしてもブスでババアは治らんからな!あっはっはっはっは!…、ギャアアア!」


誠による、女性の尊厳を踏みにじる暴言に耐えかねた夏美は激しく誠の足を踏みつけた。


「イテテテテ!い、伊藤、足踏んづける事ないだろ!」

「フンッ!(コイツ、私が酷い目に遭った事を知らない癖に…、私の事を知らない癖に…、私の事を心配してくれてたの…。)」


夏美は複雑な思いの中で葛藤しながら怒ると、誠を無視して竜胆湖畔にいる他の地球防衛軍の隊員が集まっている所に向かって歩き出した。

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