【じゅうろくしょう】 だれがためにまおうはなく こうへん
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
『タ……カ……ラ?』
高良の叫びに応えるように、無表情のマスクをかぶった玲美が、きりきりと首だけをこちらに向けてきた。
『KYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
絶叫と共に、玲美の剣が来る。
大振りで一直線のテレフォンパンチだ。
恐怖が足を殺さなければ、避けることは容易。
ぎっと奥歯を噛みしめ、横に2歩分飛んだ。
すぐ左脇を剣が破砕した。
「今!」
叩き付けられた剣が引き上げられる前に、高良は再度、元の位置に戻るように横に跳ぶ。
すなわち、刃の部分に手をかけるのだ。
もちろん剣は諸刃だ。
掴めば指が切れることは間違いない。
だが、それを言っている場合ではない。
手が半分に千切れるのでは、という恐怖をもう一つ奥歯に持ってった。
「至近距離なら、外さねえよなぁ!!」
単純にして明快。
考え付けば、あとは実行に移すだけの簡単で、だが極度に難解な行動。
高良は右手の銃を柄に突き付けると、
「これで――」
引き金を引くより先に、剣が動く。
縦ではなく横へ。
まとわりついた小蠅を払うかのように打ち付け、その勢いのまま跳ね飛ばした。
「ぐぅっ!!」
横殴りにされ宙に飛ばされた高良は、2階部分の突き出したブロックに運よく引っかかった。
『GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
真下にいる玲美の羽が、不気味なほど紅に染まる。
そして、おびただしいほどの紅い羽根が宙に舞い、そして高良に狙いをつけて飛ぶ。
「っ!!」
身を守るため、思わず銃を突きだし、引き金を引こうとする。
が、すぐに思い直す。
弾は一発っきり。
ここで撃てば高良は助かるだろうが、玲美は元に戻らない。
3個目の恐怖をさらに奥歯に持っていき、ブロックから手を放して飛び降りた。
2階分、6メートルほどの高さから落ちた高良は、何とか着地したものの、頭上からの爆風を受けて派手に転がることになった。
「げほっ、げほっ!! ぺっ!」
口を切ったのか、血が出た。だが体は無事だった。
途端、左肩に激痛が走った。
何かに引っ張られ、壁に背中を打ち付ける。
左肩に3本、脇腹に1本の羽根が突き刺さっているのが見えた。
左肩の羽は貫通し、高良を壁に縫い付けているようだ。
左肩が焼けるように痛い。
(爆発しない……任意で起爆ができるのか……!?)
ふと爆発の煙が晴れ、そこから玲美の姿が現れた。
無表情に見下ろ玲美は、右手の剣を少し引き、突きの構えを取る。
高良を突き殺すつもりだ。
これならば先ほどのように剣を取られる心配もなく、ヒッティングポイントが小さい分、攻撃の最中に反撃を受けることもない。
(考えてやがる。……最期の手段か)
腹に力を込める。
もちろんそれで状況が変わるわけではない。
腹か、胸か、頭か。
数秒後にはどこかを貫くことになるのだ。
だが、やられっぱなしじゃ終われない、と高良は考える。
(玲美、せめてお前だけでも救ってやる。刺し違えてでも……)
高良は右手を体の陰に隠すようにする。
先に右手をやられたら終わりだ。
だからこそ“体で止める”必要があった。
玲美は無言で剣をさらに引き、高良に狙いを定め――放った。
「これが……死か」
そうつぶやいて、4つ目の恐怖を、これまでにない絶対的な恐怖を奥歯に押し付ける。
ガリッ
何かが砕けた音。
身体じゃない。歯だ。
そんなことに気を回している場合ではなかった。
せめて数秒は動かなければならないのだ。
目を開いていなければ。
迫る剣先。
それに対し、カウンターのように銃を合わせる。
自分を刺し貫くと同時、刀身渾身の一撃を喰らわせるために。
が、不意にそれが止まった。
何故、と感じる前に答えが来た。
「タカラ、今だ! やれ!」
葛葉の声。
視界の焦点が、目の前の剣先から広がり、玲美の姿を映す。
悶えるように身じろぎする玲美の背後。葛葉が両肩を抱くようにして、しがみついていた。
(あの重傷でよくも……!)
高良は葛葉に一種の敬意を感じるようになった。
そこまでして救いたい。その一念が聞こえてくるようだった。
(あんな男気見せられちゃ、痛いなんて言ってられないよな!)
覚悟を決めて、高良は壁を蹴り、前へ出ようとする。
「おおおおおお!!」
ぶちぶち、と何かが切れる音が左肩から響く。
「いってぇぇぇぇぇぇぇ!!」
5つ目の恐怖。自らが引き起こした痛みだ。
二度とやりたくないものだ。そう高良は思った。
だからこそ、高良はその恐怖を力の原動力に替え、前に進む。
目指す剣がぐるぐる動いている。だが両肩を押さえつけられているため、その幅は狭い。
『ワタシニ、サワラナイデ!!』
玲美の悲鳴が響く。
途端、翼が広がり、無数の羽根が天へと吹き出された。
あれらが地上に降り注げば、葛葉だけでない。高良も無事では済まないだろう。
と、その羽が宙で爆散した。
「あれは任せて!」
杏菜だ。
声だけだが、彼女なりのエールを感じ取った高良は銃を片手で構え、剣を狙う。
狙える。
理由はないが確信があった。
だが、玲美は――いや、玲美の剣が想定外の行動に出た。
玲美の右腕が不自然な方向に曲がって行き、ついには軽い破砕音が鳴ってあろうはずがない方向に腕が折れた。
「なっ!?」
自らの身体を顧みない行動に、高良含む3人は戦慄した。
それだけに終わらない。
折れた腕がなお動き、そして――
「ぐっ!!」
高良は剣が葛葉の身体を貫くのを見た。甲高い悲鳴が上がる。
(葛葉っ!!)
高良は声に出さず、前に出る。
冷たい言い方だが行動で示すことこそが、体を張って玲美を止めようとしてくれた、葛葉への礼だと知ったからだ。
「おおおおおおお!!」
玲美の剣が高良を迎撃しようと動く。
だが、それを葛葉の手が掴んだ。
「放さ……ない。玲美……あの、時……果たせなかった……約束、を……今――愛してる」
『イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤアアアアアア!!』
首を振り、滅裂の言葉がほとばしる。
それは玲美というより、剣の声だったのかもしれない。
「おおおおおお!!」
高良は一瞬、柄の宝石に目星をつける。
そして柄に銃を打ち付け、引き金を引いた。
黒い闇が爆発的に広がり、空間をむしばんでいく。
その衝撃を受け、高良は後ろに吹き飛ばされ壁に背を打ち付けた。
「ぐ……あ!」
床に倒れる。体がバラバラになりそうな衝撃。
だが、それでも高良は意識を途切れさすわけにはいかない。
まだ終わっていない。
闇が空間を満たし、その後に光が世界を覆う。
光が収まり、高良は覆った目で見る。
ぼんやりと、だが次第にはっきりと世界を映す。
炎と瓦礫に包まれた世界。
その中央に座す、1人の少女の姿を。
「玲美!」
杏菜が駆け出すのを見て、高良も左腕を庇いながら、もつれる足を前に出す。
玲美は膝に葛葉を乗せた状態で俯いている。
そのまま、うわごとのように繰り返していた。
「ごめんなさい……アキ。あたしのせいで……あたしが」
ピクリとも動かない葛葉と、赤く染まっていく玲美のスカート。
高良はかける声を見つけられなかった。
その玲美に、杏菜が近づく。
「帰ろう、玲美」
優しく語りかける杏菜だが、玲美は顔すら上げない。
「秋彦が約束したの。玲美をもう泣かせたりしないって。絶対助けてやるんだって」
秋彦、という名前に玲美がピクリと反応した。
「アキが……」
「こうなったのは、とても残念だけど。秋彦が望んでること、それは玲美の無事じゃない?」
玲美は数秒、何も言えずに黙りこくっていた。
が、その後には堰を切ったように言葉が溢れる。
「愛してるって言ってくれたんだよ。あたしには聞こえた。暗闇の中にいたあたしを、ぎゅっと抱きしめるアキの温もり。それなのに……こんな結末……」
さめざめとなく玲美に、高良はその場を離れた。
あとは3人の問題だ。
ここまで来て、後から首つっ込んだ部外者に何かを言う資格はない。
そう考えたからこそ高良は辺りを見回し、崩落に脱出路が塞がれないかをチェックしようとした。
その時、
『魔王様! 大丈夫ですか!?』
ふいに通信機が鳴った。
外のバトラーからだ。
高良は安堵しながらバトラーに答える。
「あぁ、なんとか終わった。万事順調とはいかなかったけど」
『でしたらお早く! 城の中央塔から炎が出て、他の塔に延焼しました。今や大火事です。ゴブリンたちが消化に当たってますが、火が回るのが早く、大騒ぎです! あぁ! そ、それは私のコート!! と、とにかく! 崩れるのは時間の問題です。子供たちも脱出しております。魔法陣は残っていますので、脱出を!』
いつの間に外に出ているのか、突っ込みたかったが、1人分の脱出に気を回さなくて良いのは幸運だ。
「杏菜。火が回ってる。限界だ、崩れるらしい」
「えぇ」
杏菜は俯いたままの玲美に手を伸ばし、その手を取った。
「玲美、行きましょう」
「………………」
答えない玲美を立たせようとする杏菜。
高良は脱出路を確保するため、入り口の方から2人の様子を見ていた。
と、その頭上。
ガラガラ、と何かが崩れる音が響き、そして――
「杏菜、上だ!!」
叫んだのと崩落が始まったのが同時。
杏菜の悲鳴があがる。
高良は咄嗟に走り出す。
(あの崩落……ヤバいぞ!)
高良は手にした銃を構えて、その弾がないことに気づく。
(くそ、弾が。なら炎。駄目だ、時間が――)
高良はそれから起きたことを一生忘れないだろう。
ドンッと、高良の胸に衝撃が来た。
杏菜だ。
信じられないような顔をして、彼女を突き飛ばした玲美を見る。
そこには葛葉を抱いて、優しく微笑む杏菜がいて、
「さようなら、姉さん。幸せに」
瓦礫がお互いの間に落ちた。
大質量の炎をまとった瓦礫だ。
「玲美ぃ!!」
「待て、杏菜!! 危険だ!」
「こんな火がなんなのよ!! あの時と比べたら小火程度よ! こんなのっ!!」
杏菜が剣を構える。
だが、右腕の傷はそれを振るに耐えられない。
それでも杏菜は、左手を添えて無理やりに振りかぶる。
だが、その杏菜の目の前に信じられないものが映る。
人型の光――ジル・ドレだ。
「え……?」
杏菜が目を見開いたその一瞬、ジル・ドレ一歩踏み込むと、その拳をゆっくりと杏菜の腹部に押し当てた。
「ああああぁぁぁぁぁあぁ!!」
全身が痙攣を起こして悲鳴をあげる杏菜。
ジル・ドレは、それで役目を果たしたと言わんばかりに、露となって消えた。
杏菜は体を痙攣させ、自重を支えきれず膝を折った。
「杏菜!」
慌てて高良は杏菜を支える。
その手の中で、杏菜の身体は細かく振動していた
「なんで……なんで、玲美……!!」
震える唇で、杏菜は必死に玲美に訴えかける。
「ごめんね、姉さん」
「玲美……お願い、あの子を――たす……けて」
その言葉の最後は、高良に向けられた言葉だった。
杏菜の身体から全ての力が抜けた。気絶したらしい。
「高良、だったわよね」
と、玲美の声が高良に向いた。
「とんだ迷惑かけちゃったわね」
「……全くだ。とんだ三角関係に付き合わされて。いい迷惑だ」
高良は深く息をはきながら答える。
熱が辺りを包んでいる。
汗が止まらないが、それでもまだ猶予はある。そう思った。思いたかった。
「それについては申し訳ないと思ってるわ。けど、得たものはあるんじゃなくて?」
「あ? 何の話だ?」
「ううん、なんでもない」
そう言って玲美は意味深な笑みを浮かべる。
高良は不審の眼を向けるが、玲美は小さくため息をつき、
「もう疲れたわ。人を憎んだり恨んだり傷つけたり。人に牙を向いた聖女は魔女となり、大人しく炎に焼かれるわ」
「玲美……」
「大丈夫。今度は1人じゃないから」
そう言って、膝元の葛葉を撫でる玲美。
「これは聞いた話なんだが」
高良は思わず、ある話を切り出した。
「君が死んだとされるあの山火事。あの時……君を迎えにある人が言ったらしいんだ。その人は結局、君を助けられずに一緒に死んでしまったらしいのだけど」
「それって……」
「君のお姉さんだ」
語るにはあまりに酷な内容と思ったが、それでも言っておくべきだろうと思った。
この姉妹の間に、全ての誤解は解いておきたかった。
それが遅いと分かっていても。
「この人といい、姉さんといい。こんなあたしのために……馬鹿ね」
本当に馬鹿ね、ともう一度呟く玲美の顔は、慈愛に満ちた聖女のようだった。
かける言葉を失った高良は、黙って玲美を見つめていた。
「ありがとう。それが聞けて、安心して逝けるわ」
「玲美、俺は……」
「いいの。これはあたしの罰だから。恨んで、憎んで、傷つけて。悲劇のヒロインになれなかった、愚かな魔女の罰だから」
「……」
高良は玲美の眼をじっと見つめる。
玲美は視線をそらさず、高良を見返す。
「最期に1つだけ、お願いしていいかな。勇者から、魔王へのお願い」
「……簡単なお願いにしておいた方がいいぞ。俺の利息はすごいからな」
時間的にこれが最期の会話だろう。
高良はそう感じて、とりあえず聞くだけ聞こうという気になった。
「姉さんをよろしくね」
そう言われ、高良は一瞬返答に詰まった。
容易く答えられる内容ではなく、高良個人の問題ではないからだ。
「安心してよ、脈はあると思うから」
「脈はって……」
「妹の勘よ」
そうは言われても、と高良は内心で愚痴る。
ただ、もう返す答えは決まっていた。
いい加減な気持ちではなく、この場に居合わせた人間として、責任を取る必要はあるのだ。
「分かった。頼まれておくよ。まだ“簡単”な部類のお願いだから」
「ありがとう。そして、さようなら」
「…………さようなら」
言おうかどうか迷ったが、結局別れの挨拶をかわす。
それから急に悔しさが沸きあがり、同時にどうにもできない無力感が襲ってくる。
それでも、杏菜を託された身からすれば、いつまでもここに留まっているわけにはいかない。
杏菜をお姫様抱っこで抱えると、玲美を一瞥する。
玲美は小さく頷いただけで、巻き上がった炎の奥に消えた。
高良は悔しさをかみ殺しながら走り、崩れゆく塔の中、高良は人知れず泣いた。
泣き叫んだ。
自分に生きろと言ってくれた、彼女の優しさに。
そんな彼女を救えない、力がないことに。
「これか」
魔法陣にたどり着いた。
床に青白い光が円状に広がっている。漫画や映画で見るような、典型的なものだ。
高良は円の中心に杏菜を寝かせる。
すると、円の光が強くなり、杏菜を包んだと思った瞬間。
発光が一瞬。
次の瞬間には杏菜の体が影も形もなくなっていた。
転送が完了したのだろう。
「さすが魔法の世界。なんでもありだな」
続いて高良も円の中に足を踏み入れる。
あと一歩、左を円の中心に踏み出せば全てが終わるという時に、高良は振り向いた。
炎が巻きあがり、瓦礫が地面に落ちていく広間。
そこに2つの命があった。
(これで、いいんだ。あいつが望んだことだ。俺がとやかく言えることじゃない。最期くらい意思を尊重してやらなきゃ。そうだ。これでいい。これが、あいつの望み。だからこれで――)
高良が左足を踏み出そうとした刹那、
『あの子を――たす……けて』
杏菜の声が脳裏に響いた。
自分が倒れる寸前まで妹の身を案じた彼女。
自分を犠牲にしてまで姉の身を案じた彼女。
自分の命を捧げてまで愛する人を救おうとした彼。
その3人に幕が落ちる。
どうしようもない結末。
悲劇ともいえる幕引き。
傍観者で部外者だった高良に、それを覆す力はなく、その権利もない。
だからここから大人しく引き下がったとして、誰も文句を言わないはずだ。
それでこの3人の物語はおしまい。この後もつつがなく、日常が迫る。
高良はそれで――
「――いいわけ、ないだろ!」
踏み出そうとした左足を、思い切り後ろに蹴りだす。
踏みしめる絨毯。
左足を起点に、方向転換。
踏み出す右足。
前へ。
炎に包まれる広間へ。
(俺は何を勘違いしている。死んで終わり、そんな悲劇のお涙ちょうだい物語なんて誰も望んでない。あれはフィクションだから映えるんだ。現実に起きたら、ただ悲しいだけの物語だ。そんなの認めるか。ふざけんな。返金騒ぎを起こしてやる)
火と煙に対する恐怖。
同時、このまま手ぶらで帰った時の、杏菜を前にした時の恐怖を比べる。
(……比べるまでもないわな)
死への恐怖より、怒りの方が勝った。
(こんな終わり、納得できるかよ! 何より、これで勝手に納得しやがった自分自身が、許せなねぇ!)
走る。
口を覆って、身を低くしながら叫ぶ。
「玲美! 諦めんな! 折角、杏菜と話せたんだろ! 葛葉と理解しあえたんだろ!? これからだって時に、死ぬな!」
炎。
熱い。
空気も薄い。
それでも叫ぶ。
「葛葉、てめぇもだ! 慰謝料だ。俺と杏菜と玲美と、あとバトラーに対して慰謝料合わせて1億レンだ。死ぬ気で働いて返せ! 勝手に死ぬな! 大体お前が死んだらあの孤児はどうする気だ!? 俺らに見ろってか! 託児所じゃねぇんだぞ、うちは!」
「タカ、ラ……?」
玲美の声が聞こえた。
まだ生きてる。
揺れる炎の奥、2人の姿が見えた。
平成の世であっても、ここまで燃え盛った場所での救助活動は物理的に不可能だ。
(だけどな、だから人は望むんだ)
人類の叡智、科学すら飲みこむ自然という名の脅威。
人は自然を敬い、そして恐れた。
その自然は一度牙を剥くと、全てを破壊しつくすまで止まらない。
そういった時に火とはすがる。
信仰ともいえるその力に――
(奇蹟という名の魔法を!)
周囲に吹き荒れる熱風と煙の中、高良は叫ぶ。
「借金魔法!? 上等だ! 金で命が買えるなら安いもんだ!」
手を天に、神に祈りをささげるように、高良は唱える。
あるいは、これはめぐり合わせだったのかもしれない。
金の汚さを知る高良が、金にまつわる力を手に入れたのは。
「Credit&Transport! いくらかかってもいい! 2人を……助けろ!」
叫んだ。
力の限り。
魂の限り。
自らの力とも言える金を解き放ち、命を請う。
命と金、どっちが重い?
平成の世に生まれた人間ならば、必ず突き当たる命題だ。
命が重いと言う善人がいるだろう。
金が重いと言う現実主義者もいるだろう。
高良はおそらく、後者だったはずの自分に訴える。
(金で命が助かるなら、それはきっと素晴らしいことで、きっとそこには優劣なんてものはなくて、だから――)
そして、光が来た。




