表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

【じゅうにしょう】 まおうひこう

ジルドレの魔王城。

堀を挟んで跳ね橋の目の前に高良と杏菜、バトラーの3人が立った。


「よし、準備はいいな」


高良が真ん中に立ち言う。

その時だ。


『やぁよく来たね、もう1人のジャンヌ』


マイクで拡声された声が城を中心に響く。

同時、高良たちの頭上、中央塔の前方に当たる宙に人影が大きく映し出された。

立体映像。黒衣の男、葛葉秋彦だ。


「秋彦……っ!!」


杏菜が苦虫を噛み潰したように、口元を歪める。


「杏菜」


高良が制するように、杏菜に呼びかける。

今にも駆け出しそうな様子を杏菜が見せたからだ。


「……分かってる」


しかしそれをあざ笑うかのように、立体映像の男は言う。


『ダメじゃないか、杏菜。大事な主賓が遅れてきちゃ』


葛葉はそこで小さくククと笑うと、


『そう、今日から始まる僕らの素晴らしい愛と永遠の楽園を見届ける、大事な大事なお客様だ。ねぇ、玲美』

「え……」


高良と杏菜は、立体映像に映った光景が信じられなかった。

それは少女の上半身。

純白のドレスを纏い、だが十字架に磔にされ、がくりと首をうなだれていた。

眠っているように目を閉じ、同然、意識を失っているのだろうことは容易に見て取れる。

玲美、その人だった。


「玲美……なんでここに?」


間に合うはずだった。

なのに現実はその思いを裏切る。


『何故? 決まってるじゃないか。僕と結婚するためだよ。果たせなかった、前の世界の代わりに』

「ウソよ! あの子がそんなこと言うわけない! 玲美を返して!」

「それは俺も同感だ。こないだのこと、忘れたわけじゃないだろうな?」


そこで初めて気づいたかのように、葛葉は目線を高良に向けた。


『キミは……さて、誰だったかな。部外者は消えてくれないかな。今日の僕たちは忙しいんだ』


その物言いは、完全に高良の存在など記憶の彼方に消し去っているものだった。


「杏菜、もう何言っても無駄だ。始めるぞ」

「……うん」


高良はこれ以上の交渉は無駄だと判断して、手を前にかざす。


「契約者たる我が命ず。飛べ、行け、進め。我らは夜空を行くもの。黒き羽衣を身にまとい、全てを灰燼に帰さしめし力を持つもの。破壊せよ、破壊せよ」


コウモリ男に教わった契約履行の呪文だ。


「カンペがなければ格好良かったのですが」

「黙ってろバトラー。破壊せよ。我らが行く手を阻むものを。血の契約を持って、汝の力を施行せよ! 闇空の支配者よ!」


高良が唱え終わるのと同時、蝙蝠の大群が東の空から現れた。

千に近しい蝙蝠の大群が急速に接近すると、高良たちの前に大きく広がり黒い壁となる。


「壁をぶち壊せ!」


高良の命を受け、蝙蝠たちが一斉に口を開く。

同時、耳をつんざくような激しい音が辺りに響く。


「痛っ!」


思わず耳を塞ぐ。

痛みを発したのは一瞬のこと。

それですべてが終わっていた。

一見何もない空間。

その一部がピシリ、とひび割れた音を発した。

そのひびは次第に大きくなり、高良たちの前の空間が爆ぜた。

蝙蝠たちが高良たちを中心に左右に割れる。まるで自分たちの成果を見せつけるように。


「すご……」


桃華が感嘆したように、宙に透明な割れ目が出来ていた。


「音波による障壁破壊プラン、やるじゃん。サンキュ」


高良の声が聞こえたのか、蝙蝠たちは仕事は終わりとばかりに、隊列を守ったまま東の空へと消えていった。

ともあれ、跳ね橋から門まで一直線。何も障害はなくなった。


『へぇ、でもそれがどうしたのかな?』


パチン、と立体映像の葛葉が指を鳴らす。

すると堀の上にかけられていた架け橋がゴゴゴと音を立てて上がって行った。


「橋が!」


バトラーが叫ぶ。


『大丈夫だよ、杏菜。後で迎えは出すから』


大きな音を立て、上がっていく架け橋。

高良は余裕の表情で見送り、そして叫ぶ。


「飛行部隊!」


高良の声に応じ、3人の影が動いた。

否、影ではない。

影のようにぴたりと地面についていた蝙蝠の大群だ。

蝙蝠たちはいっせいに広がると、3人の前にそれぞれ集まり小型の群体となる。


「乗れ!」


高良がジャンプ、それに次いで他の2人も跳んだ。

それぞれの蝙蝠の群体の上に乗った高良たちは、加速を得て空を飛ぶ。


「目指すは中央塔の最上階。あの立体映像をぶっとばせ!」

「私が!」


杏菜が先行して、鞘から剣を走らせる。

鋼とは似ても似つかない漆黒の剣。

同時、その刀身から炎が巻き上がる。

黒く、暗く、全てを飲みこむ漆黒の炎。

それが桃華の身体を包むのも一瞬。

炎がはがれたその下から現れたのは、黒光りするアーマープレート。

河原で初めて見た時と同じ装備だ。


「はああああああああああああああああああ!!」


杏菜は炎を纏った剣を大上段に振りかぶる。

すでに堀は超えた。

あとは城門を乗り越え、その奥にある塔まで一直線だ。


(行ける!!)


高良は手ごたえを感じだ。が、


『撃て。狙いは先頭以外の侵入者だ』


立体映像の葛葉が命ずる。

同時、高良たちは見た。

城門を乗り越えた先、塔との間にある広場に置かれたもの。

黒くずんぐりとした大きな筒が3門、城壁の上、高良たちに向けられている。

筒の横には緑の肌をした人型、いかにもファンタジーの住人らしき魔物たちが、火のついた松明を筒の尻からでる導火線にくべる。


「大砲――避けろっ!!」


言うが早いが、危機を察知したらしい蝙蝠たちが急旋回して回避行動をとる。

次の瞬間、ズドンと腹を押し下げるような砲声が連続して響く。

大質量の砲弾が打ち出され風を切る。


(外れた……のか)


そう感じたのは着弾の音がはるか後方で聞こえたから。

だが同時にそれはさらなる危機の始まりでしかなかった。


「うあっ!?」


砲撃に驚いた蝙蝠の群れが、統率を失いバラバラになり始めた。

元々が規則正しく並んだ蝙蝠の上に乗っかっていたのだから、それが少しでもずれれば足場としては不安定なものでしかない。

だからバランスを崩すと一瞬だった。

宙へと放り出された高良は、そのまま重力を受けて落下する。


「またかよぉ!!」

「ま、魔王様ぁ!!」


横に落ち行くバトラーが見える。


『くくく、はははははは! 邪魔者するからいけないんだよぉ!』


葛葉の嘲笑が響く。


(くそ、こんなところで!!)


視界に広がる青い空、白い雲。

手を伸ばせども、手がかりとなるものはなく、後はただ落ちていくのみ。

抗えない重力という節理に絶望と後悔が胸を染め上げていく中、


「高良!」


視界に現れた、漆黒の鎧を着こんだ少女。


「杏菜!」


名を呼んだ。

手を伸ばす。指先が触れ合った。

だがそれだけだ。掴むまでには至らない。

むしろ落下速度が速まり、距離が開く。


「お願い!」


杏菜の悲鳴に応えるように、桃華の乗る蝙蝠が加速した。

手の距離が2人の距離がぐんと近くなる。


「ぐ……そぉぉ!」


指先が触れた。

そこから一気に手繰り寄せる。

掴んだ。


「せぇの!」


ぐっと身体の落下が止まる。


「きゃ!」


乗り上げた勢いのまま、杏菜の上に覆いかぶさる形に。


「ご、ごめん。ありがとう」

「べ、別に……。ただどいてくれると助かるわ」

「あ、あぁ」


とはいえ狭い蝙蝠の上、少し身じろぎするだけでも窮屈だ。


「ちょ、どこ触ってんのよ!」

「わ、わざとじゃないっての! てか高度、下がってないか!?」


見れば城壁より上にあった景色が、次第にその高さを下げていく。


「重いだろうけど、頑張ってくれ!」


蝙蝠たちを激励するが、そもそも1人分の重量を想定したものならばそれも難しい。


「ちょっと、あれ!」


杏菜が指差す先、広場にある大砲がこちらに旋回し始めている。

さらに、四隅の塔からは緑の肌をした魔物らしき兵隊がぞろぞろと這い出してきた。


「どうするの!?」

「とにかく中央の塔につけさせる!」


だがその目論見は1匹によって崩された。


「魔王様ぁぁ!」


と、下から声が。


「バトラー!」


顔を向けると、落下中のバトラーが視界に入る。

このままでは数秒で地面に激突する。


「お手を!」


言われた通り、バトラーに向けて手を伸ばす。が、10メートル以上はある距離だ。届くはずもない。

だがバトラーが大きく口を開けると、そこからカメレオンよろしく長い舌が一息に跳んできた。


「なっ!」


右手首に絡まった真っ赤な舌。ぬるりと湿った温かいものが高良の手首を濡らす。

嫌悪感が先立つと同時、ぐんっと重みが増す。


「あいつ……重い!」

「大変、高度が!」


高良の身体が引っ張られるだけでは済まない。

蝙蝠たちにとって完全な重量過多となったようで、急激に高度を下げていく。


(くそ、どうする。バトラーを落とすか……いや、蝙蝠たちは限界だ。ただこのまま落ちるのはヤバい。大砲に魔物の大群。壁に寄るか? それとも……待てよ!)


思案は一瞬。

視界に入ったものに閃きを得て、高良は蝙蝠たちに命令する。


「あっちの壁! 窓に突っ込んで!」


高良が指差した先、中央の塔の横にある一回り小さな塔。

そこの高さ5,6メートル位置にある窓だ。


「どうするの!?」

「言った通りだ。あそこにつっこむ!」

「突っ込むったって……この体勢じゃ剣は使えないし……」

「手はある!」


高良は右手に巻きつくバトラーの舌、それを思い切りつかんだ。

手に伝わる感覚は無視。バトラーの舌の長さ、目標との距離を測ることに集中。

そして大きく右手を後ろに引き、


「バトラぁぁ! 歯ぁ食いしばれぇ!!」

「ちょ、みゃほうしゃみゃ。にゃひ……!?」


そのまま前へ。

振り子の原理でバトラーが高速で塔に突っ込む。


「いけぇ!!」

「ひゃばばばばっばばばっばばっばばば!!」


理解不能の悲鳴をあげるバトラー。高良の右手首に巻きついた舌がほどけていくが、高良は舌を離さない。

そしてガラスの割れる音が響く。


「今だ、突っ込め!」


蝙蝠は命ずるがままに割れた窓ガラスに殺到する。

高速で接近する石造りの壁に目を細めたのも一瞬、無事、暗い室内に突入した。

直後、腹に響く砲撃音が背後から響いた。

間一髪だ。


「きゃ!」

「あだっ!」


室内に入ったところで力尽きたのか、蝙蝠たちは隊列を崩し、高良たちは床に放り出された。


「ふぅ……なんとか、ギリギリってとこだったな」


用を果たし去っていく蝙蝠たちに手を振りながら、高良は一息つく。


「ま、魔王様! 何をしてくれやがるんですか!? あれで歯を食いしばったら、舌がちょんぎれますよ!」


全身に突き刺さったガラス片を抜きながら、バトラーが唾を飛ばして抗議してくる。

やったことを考えれば当然か。


「すまん。あとでお前の好きな変なゲームで埋め合わせするから。生きて帰ったらな」

「言わせて戴きますと、あれは変なゲームではなく、異性とのコミュニケーション能力を高めるための崇高なシュミュレーションです。それと変なフラグを立てないでください!」

「シミュレーションな。で、ここは?」


高良は辺りを見回す。

床は絨毯。結構しっかりしたもので、これのおかげで落着の衝撃波それほどでもなかった。


「広い、わね……誰かいるのかしら」


杏菜の言うとおり、10平方メートルはある空間だ。

机にベッド、箪笥といった生活用具以外にも、積木や一抱えあるぬいぐるみ、すべり台といった玩具であふれている。

誰かいるのか、と杏菜が感じたのも無理ないことだった。


「ほぅ、これは。懐かしいですなぁ。子供のころは色々遊んだものです」


バトラーの少年時代というのが想像できなかったが、高良にも言っていることは理解できた。

ここはまさに子供部屋だ。


「でも、なんでこんな部屋が? あの人が使っているわけないし。それにしては今も誰かが使っている感じ」

「見てください。このお人形。『さよなら家族バイビーちゃん』、いやぁ懐かしい」


と、バトラーが女の子の人形に手を伸ばそうとしたとき、


「汚い手で触るな!」

「ぎゅへっ!」


振り下ろされた木刀が一閃。バトラーの頭部に直撃した。


「今だ、やっちゃえ!」


号令の元、ぬいぐるみやらカーテンやらベッドの陰に隠れていたらしき小さな影が、バトラーを取り囲むと袋叩きにし始めた。


「ぎょへぇ! ま、魔王様……お助けぇ」


そう言われたものの、高良にも何が起こっているのか理解できなかった。

ぎろり、と複数の視線が高良に向けられる。


「お兄ちゃんたち、誰?」「あたしたちの家に何の用?」「窓壊したろ。いーけないんだー。アキ兄ちゃんに言いつけてやろ!」


そこには口ぐちに騒ぐ、男女入り混じった子供たちがいた。


「えっと、その、なんだ。ごめん」


なんとかなだめようとするが、子供たちは矢継ぎ早に質問を返してくる。

そこで気づく。

10人ばかりの子供たち。

その誰もが10歳前くらいの年ごろに見えたが、その中には、よく見れば人間とは少し異なった体質の子供もいた。

耳が長かったり、それこそ先ほど広場にいた兵士のように皮膚が緑がかっている子もいる。


「亜人だよ、兄ちゃん知らねぇの?」

「亜人?」

「うん!」


そうは言われても高良にはイマイチ理解が及ばない。

助け船を期待して杏菜に目をやる。


「エルフとかドワーフって聞いたことない?」

「あ、あぁ。前にファンタジー長編映画で見た覚えが」

「そう。要はファンタジー世界の住人よ。人とはちょっと違う、けれど魔物とも違う。この世界独自の人種って言うべきかしら。でも待って。街では亜人は人に嫌われてるって聞くけど……」


杏菜が疑問を挟む。

すると近くにいた子供がそちらを向き、そしてその目が驚きに見開かれ、


「あれ? お姉ちゃんって、白いお姉ちゃんの家族?」

「白いって……玲美のこと!?」


玲美のことを聞き、急に色を成した杏菜に、子供たちは少し怯えたように答える。


「分かんない。アキ兄ちゃんが昨日、僕らに紹介してくれたんだ。新しい“お母さん”だって」

「明日にはもう1人新しい“お母さん”が来るから楽しみにしてて、って言ってた! お姉ちゃんがお母さん?」


杏菜はそう子どもに群がられて、明らかに狼狽した。


「ち、違うわ!」

「違うの……?」

「う……」


子どもたちの悲しそうな顔を受け、たじろぐ杏菜。

本当のことを言いでもしたら、子供たちを深く傷つけることになるかもしれない。

とはいえ、嘘を通すには子供たちの瞳は純粋に過ぎた。


「あ、もしかしてあれじゃん!? 通い妻ってやつじゃない!?」


亜人らしき子供がそう指摘すると、「おぉぉぉ!」と子供たちがどよめきを発する。


「2号さんかぁ!」「いーなーアキ兄ちゃん、モテモテだなー」「愛人ってやつね」

「ちょ! なに言ってんの!? どこでそんな言葉覚えたの!?」


珍しくテンパってる杏菜だが、これ以上話をややこしくされても敵わない。


「そう、そうなんだ。だからお兄ちゃんが送りに来たわけで」

「た、高良っ!」


抗議してくる杏菜を抑えつつ、優しい口調で子供たちに語りかける。


「その途中で移動陣、だっけ。それの調子がおかしくなって、それでここに落ちちゃったんだ、ごめんね」

「へぇ、そうなんだー」

「あんたなに――むぐっ!」

「だからお兄ちゃんたちに、そのアキお兄ちゃん? の場所を教えてくれないかな?」


口を押えられ手足をばたつかせる杏菜を、子供たちは疑わしげな眼で見ていたが、やがて、


「うん。ここを出て左に進むと階段があるんだ。そこを上がって左に進むとアキお兄ちゃんのいる中央塔に出るよ」

「分かった。ありがとう。みんないい子だね」


そう高良が言うと、子どもたちは照れたように、えへへと小さく笑った。


「それじゃあ僕らは行くけど……あぁそれとそこに転がってる奴、放してもらっていいかな。大事な執事なんだ」

「そうだったの。ひどいことしちゃってごめんなさい」


素直に謝ってくる子供たちに微笑ましいものを感じつつ、高良はバトラーを起こしにかかった。


「ほら、バトラー大丈夫か。杏菜も、変な顔するな」

「うぅ……魔王様。小さい悪魔がぁ……」

「へ、変な顔してないし!」

「はいはい、そうだな。さ、行くぞ」


バトラーを持ち上げながら、高良は足早に扉に向かって歩き出す。

その後に桃華がふてくされながらも続く。


「お兄ちゃん」

「ん?」


呼ばれ、高良は振り返った。

子どもたちが列をなしてこちらに視線を注いできた。


「また来てくれる?」


高良はドキッとしたが、歯を食いしばって、感情を表に出ないように努めた。

じっと見つめてくる子供たちの目は真剣だ。茶化してどうなるものではない。


「あぁ、またな」


ニッと笑った。

その答えに子供たちは安堵したらしく、次々にお礼と再開の声を上げる。

その声を受けて、高良たちは部屋を後にした。


廊下に出た途端、静けさが辺りを包んだ。

赤い絨毯が敷き詰められ、窓を大きくして光を取っている。どこかのホテルを思わせるような豪華な廊下だ。

高良たちは教わった通り、進行方向を左に取る。


「あいつ、子供のこと好きだった。保育園とか幼稚園にボランティアで良く行ってたし」


ほどなくして桃華がそう呟いた。


「そうか。葛葉、あいつが……ん?」


(なんだ、この感じ。葛葉秋彦。山火事の生存者。子供。どこかで名前を見た思い出が…………あっ!)


それは古い情報だった。

思い当たった葛葉の正体。

ただ、杏菜たちは高良のその様子には気づかないようで、


「あの子たち、孤児だと思う」

「孤児?」

「意外に思う? でもね、この世界にも戦争はあるのよ」


そう言われても、高良にはピンとこなかった。

それに答えたのは、まさかのバトラーだった。


「魔王対勇者、まさしく我々の戦いです」

「俺たちが……?」

「本当よ。魔王が勇者を、勇者が魔王を倒すとき、必ず犠牲となるのは付近に住む街の人々よ。それは人間も亜人も魔物も関係ない。誰もが等しく戦災をこうむるの。あなたになら分かると思うけど、私たちの昔いた世界でも同じことが起きていたはずよ」

「それは……」


違う国のことだ、と否定しようとしてできなかった。

頭に響くのは声、そして映像。

母親らしき女性の悲鳴。

子どもの泣き叫ぶ声。


「ぐっ……」


頭に痛みが走り、思わずうめく。


(俺は……知ってる。そんな地獄を……昔の、記憶?)


「大丈夫? 別に不安にさせたかったわけじゃないの」

「あぁ、分かってる……大丈夫だ。それより急ごう。余計な時間を食った」

「……そうね」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ