~輝ける魂~
ダンカードがアイオンを背負い、ウェイドと共に村に戻ってから、幾ばくかの時が過ぎた。
ジリハマ村の人々は、ダンカードがドラゴンを追い払ったと再びお祭り騒ぎ、村はかつてない熱気に包まれるが、ダンカードの表情は堅いままで、ウェイドもまた楽しむ様子を見せない。
あの洞窟で起きたことは、ダンカードとウェイドだけの秘密としたのだった。ウェイドはお調子者だが、アイオンが使った力がなんなのか、誰かに教えたらまずいものなのか、ということはしっかりと理解していた。
目が覚めたアイオンは、やはり村人達と同じくダンカードがドラゴンを追い払い、戦いの最中気絶してしまった自分を救いだしてくれた恩人として、より一層尊敬を込めた眼差しをダンカードに注ぐ。
村全体が宴と称して騒ぐなか、ダンカードは一人アイオンの父母である、ダインとアメリアに近付いた。
「少しばかり、良いか」
「おおお! ダンカード様ではないですか。この度は、村を、そしてなによりも私たちの息子とウェイドを救っていただきまして、ありがとうございました」
「感謝しております。言葉では、とてもお礼を尽くせません」
「いや、私はドラゴンに手傷を負わせることしか出来なかった。……ここでは話しにくい。人気のない所に移りたいのだが」
笑顔で話していたダインとアメリアは、顔を見合わせてから不安そうな表情になった。しかし、ダンカードと共に宴の場から離れて、村外れに移動した。
「話というのは、今回の騒動についてだ。ドラゴンを追い払ったのは私ではなくて、アイオンだ。しかも、彼は魔術を、魔族しか使えないはずの力を持っていた。つまりそれは、あなた方のどちらか、もしくは両方が、魔族なのではないか?」
「アイオンが、魔術を!?」
ダインは酷く驚いてから、アメリアに視線を移した。アメリアは静かにダインを見つめてから、小さく頷く。ダインはそれに対して首を横に振ったが、アメリアの力強い眼に圧されたのか、項垂れた。
「ダンカード様の仰るとおりです。私は魔族。でも、ダインは人間です。だから、アイオンはハーフになりますね。そうですか、アイオンが……」
「ハーフ、か。しかし、魔族と人間が夫婦となるとはな」
「本来であれば、ありえないことでしょう。でも、私を助けてくれたのは仲間でも、他の誰でもなくダインでした。彼だからこそ、あり得ることとなったのですわ」
「あ、あの! ダンカード様、お願いです。この事、アイオンのことは誰にも言わないで下さい! お願いです、俺に出来ることならなんでもいたしますから!」
ダインが地面に手をつき、土下座した。アメリアもまた、同じように頭を下げる。ダンカードは二人から言われて、少し困惑したように顎を掻いた。
「案ずるな。誰にも言わない。だから頭を上げてくれ。ただ、アイオンに関してはどうするつもりだ? 彼はアメリアと違って力の制御なんて出来ないだろう。いつ力が暴走するか判らんぞ」
「しっかりと、私達の口から説明します。魔族であることも、力のことも。だって、子供に対して責任を、教養を、真実を伝えるのは、親の役目でしょう?」
アメリアが微笑む。ダインも目力を強くして、首を縦に振った。
「余計な心配だったか。失礼なことを図々しく訊いてしまった。すまない。さて、まだまだ宴は続いているようだし、戻るとするか」
夜は更ける。歓喜の声は天に響いた。
アイオンはその日の内にいくつもの衝撃を受けることになる。だが、少年は胸を張って日々を過ごした。より強く、より誠実に、その魂と肉体を磨いていった。