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最後の剣  作者: 二口 大点
変革時代
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~孤高にして至高~

 洞窟内は、決して広い空間ではなかった。見た目にも判る硬質で不恰好な岩の大群がアイオンとウェイドを囲む。道なき道を突き進むウェイドに、アイオンは必死に付いていく。


「ウェイド、引き返そうよ」


「なに言ってんだよ、もうドラゴンは目の前だぜ?」


「嫌な予感しかしないんだ。絶対に何か悪いことが起きるよ」


「全く、情けない奴だな。見るだけならなんも問題ないっての!」


 二人で戻る戻らないと口論しながらも前へ進むと、唐突にとても広い空間に出た。不揃いな岩がドーム上に壁を形成し、中央部の天井には大きな穴が空いている。


 だが、二人はそんな構造には目がいかなかった。


 中央部に空いた穴から差しこむ日光に照らされた、伝説と称される魔物、ドラゴンがいたからだ。


 蜥蜴に風貌は似ているが、顔付きは厳めしく、頭部に生えた天を衝く二本の角に、口に覗かせる鋭く生え揃った牙を持っている。体は深緑の鱗に覆われ、長い首と尾には脊髄に沿って鋭利な棘が並ぶ。手足は筋肉が隆起し、岩に食い込む分厚い爪が並ぶ指を持つ。蝙蝠の羽に似た濃緑の翼を折り畳んでいるが、広げるとドラゴンの全長と大差がないほどに大きい。


 ドラゴンはその四肢でしっかりと立っており、明らかにアイオンとウェイドを、その紅い眼に映している。


 アイオンは固まっていた。だがそれは恐怖からではなかった。想像していた以上にドラゴンは巨大で、雄々しく厳然としており、それでいて輝かんばかりの生命力からか、美しく、神々しい。


 完全に見とれていたアイオンが我に返ると、隣のウェイドはドラゴンに近付き始めた。


「ウェイド、駄目だよ!」


「大丈夫だって、思ったよりかは大人しそうじゃん?」


 ウェイドがお構いなしに近寄る。ドラゴンの目の前までウェイドが進むと、ドラゴンはウェイドを凝視する。


「でかいな。見ろよ、アイオン。こいつ、一口で俺を食えるぜ」


 アイオンは危なっかしく、また不用意にも程があるウェイドを内心恐怖していた。はしゃぐウェイドは敵にならないと判断したのか、ドラゴンは視線をアイオンに移した。


 鋭く、強い威圧感のある目がアイオンに突き刺さる。アイオンは身を震わせ、身動きがとれなくなった。


 アイオンはなにも考えることが出来ず、ただただその視線が早く外れることだけを望んだ。


 しかし、アイオンの思いは叶うことがなく、ドラゴンの様子がおかしくなった。


 突如として洞窟内に咆哮が轟いた。岩が声の衝撃で崩れ、アイオンとウェイドは耳を瞬時に塞ぐ。


「うわあああ!?」


「うるせぇぞ、なんだってんだよ、いきなり!」


 ドラゴンが発していたのは、殺気。アイオンとウェイドは、それを感じて初めて身の危険を覚えた。ドラゴンが、アイオン達を敵と定めたと知ったからだ。


 ウェイドがドラゴンから離れ、アイオンの傍らに立つ。呆然と立っていたアイオンもそれが気付けになり、逃げようと来た道を戻ろうとした。しかし、アイオンは背筋に凍り付くようなものを感じて、咄嗟にウェイドの腕を掴んで横に移動する。


 次の瞬間、アイオンとウェイドが逃げようとしていた道は火炎に包まれた。アイオンがドラゴンの方を見遣ると、ドラゴンの口から火が洩れていた。


 もしもあのまま洞窟の通路へ戻っていたら、二人は黒焦げどころか、灰すらも残らなかったかもしれない。


 アイオンは、子供ながらに死の恐怖に震える。側で燃え盛る火炎は、ウェイドとアイオンを照らし、完全に二人の逃げ道を塞いでいる。


「逃げ、られない」


 ドラゴンがその重量のある体を揺らし、一歩アイオン達に近寄った。その一歩で周囲が揺れる。


 アイオンは悩んでいた。なぜ唐突に、ドラゴンは自分達を敵と認識したのかが理解出来なかった。


「確か、僕を見てから……」


 隣のウェイドは、怯えからか震えている。強がって顔には出していないが、目は潤んでいた。


 恐怖はアイオンにまとわり付いていた。しかし、アイオンはある可能性を思い付き、ウェイドを見つめてから拳に力を込めて勇気を振り絞る。


 アイオンは、一つの賭けに出る。ウェイドから離れて洞窟の中を駆け回ってみると、ドラゴンの首が動いてアイオンを注視していた。アイオンはそれを見て、ドラゴンの敵はウェイドと自分ではなく、自分だけだと悟った。


 アイオンはせめてウェイドが逃げられるだけの時間を稼ごうと、必死にドラゴンの攻撃から逃げ回る。ドラゴンは唸り声をあげながら、アイオンにむかって噛みついてきたり、灼熱の炎を吐き出す。


 不安定な足場に苦戦しつつも、アイオンは逃げ続ける。長いドラゴンの尾が洞窟の壁を崩して、アイオンの周囲に岩なだれが起きるが、運よくアイオンはそれに当たらなかった。


 度々危ない目に遭いながらも、アイオンは紙一重で交わし続ける。しかし幼い子供には、決定的に体力が足りなかった。


 たかだか数分の出来事だったがアイオンはひどく息切れを起こし、体力の限界が近付く。


 そんな時だった。ドラゴンが突然、洞窟の通路側に頭を向ける。アイオンは不思議そうにドラゴンの視線を追うと、通路には見慣れた人物が立っていた。その傍らには、ウェイドが立っている。


「アイオン、そこを動くな!」


 ウェイドはすがるように、その人物、ダンカードを見つめていた。ダンカードは白銀の剣を抜き放ち、ドラゴンに向ける。


 ドラゴンが吠え、ダンカードの剣が光る。


 アイオンはダンカードの姿を、自分の憧れる勇者バフェルと重ねて、その勝負の行方を見守った。

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