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最後の剣  作者: 二口 大点
変革時代
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~好奇心は身を滅ぼす~

 森を震撼させる恐ろしい魔物が現れ、それはすぐに村に知れ渡ることになった。


 ジリハマ村の中央広場で集会が行われる。ジボールが、村人を前にして咳払いをした。


「えー、皆も知っておるものは知っておるかもしれんが、先日狩りに出たダインが、我が村を包むウルドの森の中でドラゴンを目撃したそうじゃ」


 村人達は一斉にざわめいた。怯えるもの、興奮するもの、泣きわめくもので広場は騒然とした。ジボールも収拾がつけられないのか、声を荒げながら、静まれ、と叫ぶ。


 一向に収拾のつかない村人を静めたのは、ダンカードの一喝だった。


「静まれ!!」


 圧倒的な迫力に、空気が震える。村人の混乱も一瞬で正気に戻す声に、その場にいたアイオンは身震いする。


「こちらから手出ししない限りは、安全だ。ドラゴンはその辺の魔物とは知恵も力も違う。自分の敵だと認識しない限りは何事も起こらん」


 村人は半信半疑といった様子だったが、最終的にはダンカードの言葉を信じた。結局、その日は森の奥へは入らない、ということだけが決められた。


 アイオンは自宅にて、ベッドに腰掛けながらバフェルの本を読む。ドラゴンのくだりを読んでから、窓の外を見遣る。


「ドラゴン、かあ……」


 アイオンの目が輝く。彼の尊敬する勇者バフェルが敵わないと称した、伝説の魔物、ドラゴン。アイオンはどうしようもなく見たいという様子で、落ち着きなく体を動かす。


「おい、アイオン」


 窓の外に突然現れたウェイドに、アイオンは珍妙な声を出して体を浮かせた。それを見てウェイドがばか笑いする。


「なんだよ、その変な声? まぁいいや。実はな兄弟、話があるんだよ」


「……話って、ドラゴンについて?」


 ウェイドは身軽な動作で、窓からアイオンの部屋に入り込むと、アイオンの鼻先に指を突き付けた。


「さすがだぜ。今ウルドの森にはよ、魔物がドラゴン以外いないらしいんだ。なんでいないかって父ちゃんに説明されたけど、難しくてよく判んなかった。でも、他に魔物がいないならドラゴンまで一直線だぜ」


「ドラゴンまで一直線って、どうするつもり?」


「決まってんだろ、見に行こうぜ。滅多に姿を見せない魔物なんだろ? 今見とかないと損だぜ」


 アイオンは、呆れたようにウェイドを見つめる。ウェイドは昔から短絡的で、よく無茶を言う子供だ。それに付き合ってきたアイオンは毎回痛い目を見てきたために、ウェイドの無謀な発言には頭を悩ませてきた。


 今も、アイオンはウェイドに何とも言葉が出ない。もちろん、呆れたゆえに、言葉が紡げないのだ。


 しかしアイオンはウェイドの話を嘲笑しつつも、戸惑いを見せていた。ドラゴンを見たい、というのは、アイオンも考えていたことだ。それがどんなに馬鹿げていて、危険極まりない行為だと理解していても、アイオンはまだ六つ。とても理性で自分を抑えられる年ではなかった。


 それでも、アイオンは好奇心を振り払って、理性をもってウェイドに注意する。


「いつもの悪戯程度ならまだしも、今度はまずいよ。だってドラゴンだよ? 見るっていっても、もしドラゴンの機嫌を損ねたら、大変なことになるよ?」


「問題ないって! なぁ、見るだけならいいだろ?  頼む、一生のお願いだアイオン! 付き合ってくれよ、な?」


 少しばかり、アイオンは悩んだ。だが思考はもう固まっていたらしく、アイオンは何度聴いたか分からない一生のお願いを、渋々了承した。


 渋々、といっても、アイオンはウェイドに対してはそういう態度でいたが、ウェイドの視界から外れると、むずかゆそうに笑んだ。アイオン自身もドラゴンが見たかったために、邪心による行動でもあった。


 二人は早速、まだ日が高い内に行動を開始した。二人で森に入り込むと、鳥や獣の鳴き声一つない森に、アイオンは動揺する。


 一応人の出入りはあるため、草が踏まれて道が出来ている。その道をなぞるように進むが、アイオンはすっかり森の異様な雰囲気に呑まれていた。


 アイオンは、好奇心などすぐに喪失していた。アイオンの肌を刺すのは、どこからか発せられる凶悪な威圧感。平和に浸って生きていたアイオンにとって、それは激しく恐怖心を刺激する。


 怯えるアイオンなど気に止めず、ウェイドは奥を目指して歩き続ける。引き返す気はまるでないらしい。


「ウェイド、やっぱり帰ろうよ。怖いよ……」


「怖がりだなぁ、何も魔物もいないし、怖いことなんかないって!」


 ウェイドは、森の異常に全く気付いていないらしい。ウェイドに連れられ、アイオンは更に森の奥へと進むと、今まであったはずの道が途絶えた。村人は、森の奥へは進まない。道が途絶えるということは、アイオンとウェイドは森の中頃まで来た、とういことを意味していた。


 それ以上先は完全に魔物の領域であり、人間が入り込むのは死を意味する。草花を踏んで、森の奥へと行こうとするウェイドを、アイオンは呼び止める。


「や、止めようよウェイド。これ以上は本当に危険だよ!」


「おまえなぁ、ここまで来といて、今更なにをーー」


 ウェイドの声を遮るように、森全体を揺るがす轟音が響き渡る。その音が何なのか理解したアイオンは、顔面を蒼白にした。


「声……?」


 アイオンは声の元を探す。森の木々の隙間から見えた洞窟から声が聴こえることに気付き、洞窟を凝視する。


 さすがにウェイドも空気を震わせるほどの咆哮に驚いたのか、少しばかりたじろいでいる。だがウェイドは洞窟に足を進めた。アイオンはそれを止めるが、ウェイドは聞く耳持たず、結局ウェイドにつられてアイオンは轟声響く洞窟へと入っていった。

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