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最後の剣  作者: 二口 大点
変革時代
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~呪われし運命~


 ダンカードが村に滞在して、一月あまりが経った。初めは熱心に指導を受けていたジリハマ村民達だが、その指導の厳しさにより少しずつ数を減らし、最初こそ二十人以上いた村人も、今では十二名程しかダンカードの手解きを受けない状態になっていた。


 しかしながら、結果的に半端な気持ちでやっていない精鋭に絞られたことにもなり、ダンカードは数が減ってもさほど気にせずに指導を続けている。


「……よし、今日はこれまで!」


 夕陽が空を橙色に染めた頃、ダンカードの声が村の広場に響いた。素振りをしていた村人達はその声と同時に素振りを止めて、ダンカードに一礼する。


 村人達がそれぞれの家に向かいその場を去っていく。ジリハマ村の中央広場から人が大体掃けたところで、ダンカードも踵を返そうとしたが、その動きを止めた。


 二人ほど、広場に残る者がいたためだ。


 二人は厳しい剣術の稽古に耐えてきた精鋭であるが、まだ十にも満たない少年達である。アイオンと、村長の孫であるウェイドは、その小さな体で大人が扱うものと同じぐらいの木刀を握り、夕陽に照らされながら素振りを行っている。


 その様子を見て、ダンカードは二人に近寄る。


「精が出るな、二人とも」


「当たり前だろ、おっさん! 他の奴らに負けてたまるかってんだ、なあアイオン」


「うん。僕たちは他の皆と比べて、やっぱり幼いから人一倍努力しないといけないと思うんです」


「なるほど、確かに努力は大事だが、今は休む時だ」


「どうしてですか?」


「まだ君達は剣士としての体が出来ていないんだ。今無理をすると、体を壊して、肩や肘なんかに障害を持ってしまうかもしれない。だから今はしっかり休むのも君達の重要なことなのだよ」


 ウェイドは、その話に欠伸で返答する。


「自分の体なんだし、別にどうしたっていいだろ? おっさんの話は長いっての。ま、おっさんがいる限りは練習出来そうにないし、俺帰るわ。じゃあなアイオン」


 ウェイドはそのまま、村の奥にある村長の家に向かって走り去って行った。アイオンはそれを見送ってから、ダンカードに頭を下げる。


「す、すみません師匠。僕たちのことを心配して言って下さったのに、ウェイドがあんなことを言って。どうもウェイドは口が悪くて……。でも、根っから悪い奴ではないので、どうか嫌わないで下さい」


「ふっ、私は気にしていないよ。子供は素直なのがよろしい」


 ダンカードが優しく微笑む。それを見て、申し訳なさそうにしていたアイオンも笑顔になった。


「ありがとうございます、師匠!」


「さ、もう帰りなさい。夜になると冷えるからな」


「はい、ではまた明日」


 アイオンがその場から走り去る。ダンカードはその後ろ姿を眺め、少しばかり目を右斜めに動かす。顎に手を当てて何かを悩むと、再びアイオンの去った方向を見遣った。


「似ている。だが、いやまさか……?」


 ダンカードはそう呟くと、躊躇いつつも、自分の仮宿たる家に足を向けた。


 アイオンは村外れにある自宅へと走る。そう距離はないため、数軒ほどの家々を通りすぎると、自宅が見えてきた。煙突から煙が上がっており、僅かに風に乗ってくる美味しそうな香りにアイオンの腹の虫が反応する。


「母さん、今日は何を作ってるんだろう? 野菜スープにしては匂いが濃いから、今日は父さんが獲物を捕ってきたのかな?」


 空腹からか、アイオンは夕御飯が楽しみなようで、嬉々として家に入ろうとしたが何かに気を取られたのか、ドアを開けずに家の前で立ち止まる。


 アイオンの視線は、家の近くにある森に向いていた。正確にはこちらに背を向けながら、森の中にぽつんと一人立っている、土色のローブで全身を覆い隠している怪しげな人物に釘付けになっていた。


 アイオンは怪訝な表情を作りながらも、その人物に近寄る。小枝や草を踏みしめて、土と草木の香りが充満する森に入り込み、謎の人物に近付いた。謎の人物はアイオンに気が付いたのか、アイオンと向かい合う形に動く。


「あの、何をしているんですか? 暗くなると魔物が徘徊しますから、森の中は危険ですよ」


「……汝を待っていた」


「え?」


 しわがれた声に、そして驚くべき返答に、アイオンは目を見開いた。


「一度しか言わぬゆえ、よく聴くが良い」


「い、一体あなたは何者なんですか? いきなりすぎて話がわかりません!」


「わからなくとも良い、今はただ覚えよ。汝、運命に選ばれし呪われた王子よ、汝が運命は、今不穏に色褪せておる。だが諦めてはならぬ。汝が死ぬことは世界の死であることを忘れるでないぞ」


「意味が分かりません。王子とか、世界の死であるとか、一体……?」


「汝は必ず闇の王と対峙する。汝の魂の輝きにより邪王を消し去り、世界に平和を与えるのだ。汝の運命は揺るがない、逃げ場など絶対にないことを記憶せよ」


 謎の人物は、その体を揺らめかせて、森の中に溶けて消えてゆく。アイオンは呆然とその様子を凝視する。


「忘れるな、汝の運命は決して変わらぬ。必ずや、数多の生と死に触れよう。しかし、汝には立ち止まる暇はない。後悔をするな、ただ前に進み続けよ」


 森に木霊する声だけを残し、謎の人物はその姿を消した。アイオンは周囲を見回すが、無駄なことと悟ったらしく自宅へと引き返していった。

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