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最後の剣  作者: 二口 大点
力と仲間
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~第一歩~

 アイオンがウェイドのことを思い出したのは、ティラの一言だった。


「アイオン団長は、お一人で旅をなさっていたんですか?」


「いや、三人だよ。剣の師匠と、幼馴染みの――。あぁあ! そうだった。ウェイドのことをすっかり忘れてた!」


 仲間にその場にいるように言うと、アイオンは駆け足で宿に戻った。そして部屋に入ると、ウェイドはじっとりとした視線をアイオンに向ける。


「よう、アイオン。お仲間はどうしたよ?」


「ご、ごめん。ウェイドの紹介もしなくちゃならないのを忘れてたよ。二日酔いは治った?」


「楽にはなった。回復したら、覚えてろよ」


 ウェイドは体を重そうにして立ち上がると、のそのそと歩き出した。アイオンもそれに続く。


 酒場に着くと、アイオンは仲間にウェイドのことを紹介した。各々挨拶を済ませて、ウェイドとアイオンは席に着いた。


「さて、団長殿。わしらは主に魔物と戦う訳じゃが、まずは初依頼達成を目指すとして、何から手を付けるのかね」


「そうですね。皆の実力を確かめるためにも、複数体が標的の依頼が良いかもしれません」


「えー? 危険だし、簡単そうな依頼だけでよくない?」


「そうよ。報酬が良くて簡単そうな依頼を選ぶべきだわ」


「わ、私は団長の決めたことなら、どんなことでも……」


「おいおい、雑魚なんてつまんねぇだろ。やっぱりドラゴンなりと戦いてぇな!」


 各々が自分の意見を言い出すと、単体で楽な依頼がいい、というのが二人。団長に賛同するのも二人。いきなり難易度の高い依頼を受けようという一人に分かれた。


 アイオンはまず、即座にウェイドの意見を却下する。それにはウェイド以外全員が賛同した。


「なんだよ、ちまちまと弱い奴等と戦ってどうすんだよ。実力つけるなら大物とだな――」


「若い発想だのう。ウェイドだったな。何事も下積みがなければいかん。剣の基礎もなっとらんのに、剣聖と呼ばれることはあるか? 答えは、そんなことはあり得ん、ということだ」


 ウェイドは納得していないのか、むくれ顔で椅子に深く腰掛けた。しかし意見としては理解したのか、反論はせずに黙りこむ。


「単純に、傭兵家業はお金が掛かるものよ。だから給金の良い仕事を選べばいいのよ。命の危険もなるべくないやつをね」


「いいねー。まずは簡単なのから始めることが一番だよ。ね、大将」


「こやつらの邪な考えは好かんが、言っておることは正しい部分もある。金はともかく、今は下積みの時よ。なるべくならこの傭兵団の力量に合わせたものを選びぬくべきじゃ」


 アイオンはティラに目を移す。


「ティラはどう思う?」


「わ、私ですか? えと、あの、初めの内は単体複数構わず、どんな依頼でも受けてみたらいかがでしょうか? 相手は魔物だし、常に依頼内容通りとは限りません。だから、どんな事態にも対応出来るように修練を重ねることが肝要なのではないかと……」


 アイオンは腕を組んだ。全員の視線がアイオンに集まり、その裁断を待っている。少し間をおいて、アイオンは口を開いた。


「全員の意見を纏めて、結論を出すとこうなるよ。受ける依頼は複数体が相手のものにする。単体の比べて給金もある程度あるし、群れの魔物は単体で相手にすればそう強くないだろうしね。


群れならばリーダー格もいるはずだ。そいつは普通の個体よりも手強いだろうから、腕を上げるにはいい相手になる。それに、こういう依頼なら味方同士の連携も必要になるから、その練習にもなると思うんだけど、どうだろう」


 ゴンドルは力強く頷いて、それに賛成の意を表した。ティラは弱々しくも首を縦に振って、賛同してくれた。


「相手がわんさかいる依頼なら嫌よ? 複数たって、限度はあるからね」


「その限度は?」


「そうねぇ、十体くらいまでなら相手してもいいわよ。あたし以外のお仲間が、大体相手に出来る数だろうしね」


「ミーシャちゃんってば、自分が戦わないで済むくらいならいいって言ってるよ。ちなみにねぇ、俺は別に大将の意見でいいと思うなぁ」


 ミーシャがラッセントを睨んだ。ラッセントは、怖い怖い、と呟いて、視線を逸らす。


「話は纏まったみてぇだな! ほれ、お前さんらが欲しい依頼だよ」


 店主がアイオン達のテーブルに、一枚の紙切れを叩き付けた。それには依頼内容等が書いており、これが依頼書なのだとアイオンは悟る。


 ウェイドが依頼書を手に取って、内容に一通り目を通してから内容を自己流に読み上げる。


「依頼者がいるのはバッフルト。ここラインベルクから北にある町だってよ。近隣の山々に、近頃魔物の群れが巣を作ってしまったらしい。これを退治してもらいたいそうだぜ」


 ミーシャが嫌そうな顔をした。ラッセントも苦笑いをする。


「ちょっと、確かに場所については何も言わなかったけど、いきなり山に登れっての!?」


「うへぇ、魔物の巣にたどり着く前に倒れちゃいそう」


「わがまま言うなって。ここにはこれよりも簡単な任務はねえぞ! それに、魔物相手にするってのはこういうことさ。人の住まねぇ土地に、奴らは住み着くんだからな」


 自然すらも敵になる。それが魔物専門の傭兵が最初に受ける洗礼であった。アイオンは静かに拳を握り締め、まだ見ぬ敵を見るように遠くを見つめる。


 これが、第一歩だ――。


 アイオンは記憶の底にいる、魔族を思い浮かべた。圧倒的な力を持つ彼らに対抗する力を得るため、アイオンは力を求めた。


 そして今、その力を求める旅が始まる。

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