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最後の剣  作者: 二口 大点
変革時代
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~永遠を紡ぐ出会い~

 アイオンが六つになった頃、彼が住む村、ジリハマに一人の剣士が訪れた。その男の名はダンカード。森の近くにあるジリハマ村が魔物による被害に悩んでいたところに、偶然訪れたダンカードは、村を襲う魔物を掃討して村に平穏を与える。


 そしてジリハマ村長は彼を讃え、カストーン暦384年の花芽吹くアルアリアの月10日、村を挙げての感謝祭が行われた。


 この祭りが、アイオンとダンカードの初めての出会いになった。


 木造の家々が円を描くように並び、中央に設けられた広場にて、村民達が酒や食べ物を手に踊り歌う楽しげな盛り上がりを見せている。


 その様子を眺める壮年の男と、隣に座る老人。壮年の男、ダンカードは波打つような金髪で、肩ほどまで伸びている。深い青の目には優しい光が灯っており、柔らかな雰囲気を醸し出している。がっしりとした体躯を包む黒の鎧を纏い、足元まで伸びる砂色のマントを羽織っており、腰には二振りの剣をさしている。


 隣の老人ことジリハマ村の村長、ジボールは、長い白髭を撫でながらダンカードを見つめて息を呑む。


「いかがした?」


 優しくも重みがある声に、ジボールは老いた顔の皺を伸ばして驚く。


「ああ、いやいや、これは失礼しました。ダンカード様のあまりの迫力といいますか、雰囲気に魅せられましてな」


「私に、そのような特別人を魅せる部分などありませんよ」


「いやいや、あなた様は正に勇者様と呼べます。貫禄といいその凄まじき剣の腕といい、このアルトリア国の将軍にも勝ると、わしは思いまする」


「買いかぶり過ぎです。私など、まだまだ未熟者ゆえ……」


「また謙遜を。いや、実に素晴らしい御仁だ」


 村長は大層ダンカードが気に入ったらしく、ひたすらにその口を開き続けて、誉め殺しにしている。


 ダンカードはそれに嫌そうな顔一つせず、丁寧に応えた。そんな折り、ダンカードがジボールの言葉より早くに声を発した。


「ここは、実に緑豊かで平穏な村ですね。しかし、だからこそ魔物もまた住みやすい場所だ。何も対策を講じないのなら、きっとまたいつか魔物が村を襲うでしょう」


 ジリハマ村は森と平原に隣した田舎村である。気候も温暖で、実に住みやすく、隣接した平原には整備された道が伸びており、それは西にある王都ラインベルクまで伸びており、そのおかげかよく行商の馬車が通るため物資にも恵まれた村である。


 しかし温暖な気候のせいで魔物に襲われやすいというのも、その豊かさの代償であった。村長はそれは重々承知の上だったが、ダンカードにもの申され枯れた口元を固くした。


「それは、わかっております。今後のことを思慮するに、傭兵でも雇おうかとは考えております」


「そんな金があるのですか?」


「それは、無いわけではないが」


「もっと確実で、金も掛からない方法がありますよ?」


「ほう、それは?」


「誰かが村の若い衆、いや男であれば誰でもいい。彼らに、自衛の術を教授してやればいいのです」


 ジボールは呆気にとられたのか、ダンカードの顔を見つめながら言葉に詰まっている。


「村そのもので、この平穏を守るのですよ、村長殿。私がこの村を訪れたのも何かの縁だ、戦い方を教えることぐらいは出来ますが」


「ダンカード様がこの村に留まり、我らに手解きを? なんとありがたい。しかし、その報酬は……」


「見返りなど、求めてはいませんよ。ただ、一人の剣士としてこの村を放っておくことが出来ないのですよ」


 村長はこの言葉に小躍りするほど喜んだ。すぐさま村の若い男を集めて、その旨を伝える。しかし、男衆の大多数は喜ぶどころか、顔色を薄めた。


「戦うって、俺達がか?」

「確かに魔物を追い払う力は必要だけど……」

「ま、魔物になんか勝てっこねぇだよ」

「傭兵を雇った方がいいんじゃないか?」


 ざわめく男衆を見て、ジボールは落胆した。肩を落とし、深い溜め息を吐くと、見辛そうにダンカードを見上げる。ダンカードも困惑した眼を村長に向けた、そのときだった。


「や、やります!」


 ジボールと男衆は、その幼い声の主を捜す。その少年は男衆の中にいた。


 皆の注目を集めたのは、金髪に翡翠色の眼、白い麻着を着た、華奢という訳ではないが年相応に細い手足の少年、アイオンだった。


 ダンカードは彼を見て、少し驚いた風に目を見張った。アイオンは、真っ直ぐにダンカードを見上げている。


「剣術を習う気があるのなら、私としては嬉しいな。だが、私の指導は厳しいぞ?」


「皆のためになるのなら、僕、頑張ります!」


「頼もしいな。君こそ、この村の勇者だ」


 アイオンは照れ笑いをする。無邪気な笑みは愛らしく、ジボールはそれが微笑ましいのか、にんまりとした笑顔で髭を撫でた。


「ほれ、この村の男児たるのはアイオンだけか? この村の男は、みな男の大事な部分がないのかのう?」


 その言葉を皮切りに、徐々に男衆は自分達で村を守ることに同意し始めた。全員ではなかったが、大多数が賛同し、ダンカードに自衛の術を乞うことになる。

 

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