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最後の剣  作者: 二口 大点
変革時代
1/88

~伝説の鼓動~

 その晩は、酷い嵐だった。風が木製の家に容赦なく吹き付ける。家の中にはその衝撃が伝わり、ガタガタと家全体が揺れるほどのものだ。


 天井に吊るされた弱々しい灯火の蝋燭を入れたランプは、かろうじてこの家の内部を橙色に照らす。家に住まう夫婦はベッドに固まり、皺だらけの老婆が狭い家の中を慌ただしく動き回る。


「もう少しだ、頑張れ!」


 ベッドの上で力む女性。彼女は苦痛に顔を歪ませ、その手を夫である男性が握り締めて励まし続けている。そうしていると、老婆が少し古びた桶に産湯を入れて持ってきた。


「おどき。男は出産現場には邪魔なだけだよ」


 男は妻から引き剥がされ、老婆が代わりに女の横に立った。


「さあアメリア、あと少しだ。根性見せな!」


「か、母さん、アメリアは大丈夫なのか? 子供は!?」


「五月蝿いね! ダイン、あんたは黙って神様でも悪魔でも、その辺のネズミでもいいから手を合わせて拝んでな!」


 アメリアが苦し気に呻くと、その直後に産声が上がった。その声を聴いて、ダインが老婆を押し退けてアメリアに近寄る。


「う、産まれた、産まれたぞアメリア! 男の子だぞ、それもな、とんでもなく可愛いぞ!」


「いきなり親バカ爆発させてどうすんだい。でも、よく頑張ったね」


 老婆が産湯に赤ん坊を入れる。それを見て、アメリアは力なく微笑んだ。


「私の……赤ちゃん」


「ああ、僕らの子だよ」


 二人の親に微笑まれながら、赤ん坊は泣き止んだ。老婆はやれやれ、と呟きながらも、手の中にいる小さな赤ん坊を見て、頬がほころぶ。


「あなた、この子の名前は決めているの?」


「もちろんさ。この子の名前は、アイオンにしようと思う。きっと誠実で、優しい子になってくれるよ」


「良い名前ね。ね、アイオン?」


 アイオンは、名前を呼ばれると大人しくなった。その様子からか、ダインは嬉しそうに笑う。


「気に入ったか? 全く、可愛いなあ」


「あなたったら……。ほら、声を大きくするから」


 アイオンが再び泣き出し、ダインは慌てふためいた。老婆はアイオンを腕の中であやす。


「なにやってんだい。本当にどうしようもない父親だね」


 嵐の晩に、幸福の声が響いた。

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