7.生徒会長
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もろもろあったんやけど、くだんの久保田さんちのダイスケさんとはわかりあうことがでけたわけや。
事実かね? 事実かな?
うん、それを受け止められへんかったちゅうだけで、ダイスケくん、ホンマのホンマは話のわかるええ奴やったんや。
「もういいぜ、イクミ――ていうか、俺にとっちゃぁ犀川のほうがしっくりくるな。ああ、犀川、俺は諦める。アキラはおまえにくれてやる」
なんとも偉そうな上からの物言いなんやが、「ホント、オレの気持ちを酌んでやってくれよ」と苦笑いまじりに言われると、そうするしかないなぁっておもた。勝ち負けなんてもうどうやかてええ。わかり合えたんならなによりや。
「オレはおまえんこと、気に入ってるぞ。わかりやすい人柄やし、なにより根性、あるさかいな」
「ありがとうとしか言いようがねーよ」
「ほなら――」
「ああ」
隣同士の席に座ったまま、お互いに手を伸ばして、グータッチした。
せやけどなぁ――って思う。
なんやオレは揉め事が嫌いやないようで、せやさかい、ダイスケと早々に話がついたことは残念であるようにすらおもた。もうちょいゴリゴリやり合いたかったんよな。アキラってヒロインを――彼女ンこと奪い合いたかった、ドラマを求めすぎかね? きっとそうなんやろう。
――ちゅうたところで、しゃあない。
そないなこと言うてたところで意味ないさかいな。
突然、頭を右手で掻いたダイスケ。
「でもなぁ犀川、目立ちすぎるのは良くないんだよ、良くないんだぜ?」
「おっとっと、ダイスケくん、そいつはどういうことや?」
「まあ待ってろよ。そのうちわかるから。オメーが望まねー展開になるよ、いろいろと――」
いろいろと?
何言いたいんかわからへんなぁとか考えつつ、オレは黒目――否、自分の白い眼を上にやって、それから鼻息漏らした。ホンマ、ダイスケのは要領えーへん物言いやったさかい、なかば悪戯っぽく、オレは首を右に左にと倒したってやな――。
「まあええわ。どないやかてええ。何かあってから選ぶ、判断する」
「つえぇんだよなぁ、オメーは、そのへん。期待したくもなるぜ」
「まずは出くわしてみるわ。それからやろ、そのあとの話は」
昼休みにあってそないな話をしてたわけやけど、そのうち、長い茶髪がえっらい綺麗な女のコが姿ぁ現した。オレの前にまでずんずんと近づいてきて――その間、その美しさからその他大勢の視線を集めたわけやけど――どうあれオレの前まで来ると声かけてきた。「うぬが犀川イクミくんかな?」って。「うぬ」? 「うぬ」ってのは言ってみれば拳王様が特定の相手を呼ぶときに使うアレか? 一般社会ではまるで使わへんアレ、か? 「うぬにはずっと会いたかったのだよ」とか、なんやおちゃらけた口調で。ナメてんか、この女子殿は。
「あなたはどなたですかぁ? 年上みたいやけどぉ?」
「良い見立てだね」綺麗な茶髪女はそないなふうに言いやる。「で、いったい、きみはどんな女が好みかな?」
「うぬ」述べてたくせに、もう「きみ」になりやったぞ。
なんや、わけわからんかたちで折れたんか?
「いや、んなこた知らへんですけど」
「私はチョウノ・ミキといいます」
「チョウノ? ミキ? 初対面やし、初耳ですよってに」
「私はきみの一つ年上です。その上で話を聞いてもらいたいのだよ、うふふ」
「まあ、敬語くらいは使いますけど」
チョウノ・ミキはオレの顔面に向けて、びしっと右手の人差し指を向けてきた。
「スカウトなのだよ、犀川イクミくん。きみを我が生徒会に迎え入れたいのだ」
当然、目わぁ、点になった。
ちょいな、いや、いささか、事情が飲み込めへんな。
「まあ、驚いたでしょ?」
「ええ、先輩、びっくりしましたぁ」
我が生徒会は粒ぞろいです。
ゆえに、きみのことも欲しーのだっ。
なんやなんぞや、言うてることがやっぱさっぱりわからへん。
チョウノ・ミキたそは「あたおか」なヒトなんかもしれへん。
「じつはね犀川くん、きみと同時に、七尾さんも欲しいと考えているのだ」
「うぬ」はホンマに消えたな。
思いつきで動くだけの刹那的な人物なんやろう。
ってか、七尾さん?
ああ、アキラんことか。
そのアキラさん、今、席外してるけど。
「カノジョはバイトで忙しいはずッス」
「家業、すなわちお弁当屋さんのことだね?」
「はぁ。よくご存知っスね」
「任せたまえ、つつがなく調べておるのだ」
でも、きみたちにまざってほしいんだ。
それが生徒会長チョウノ・ミキの言葉やった。
「よーするにだ」と生徒会長。「きみには七尾さんのことを説得してほしいと言っているわけなのだ」
「オレは参加したってええッス。せやけどアキラはどないかなぁ」
「それでもなんとかしてほしいんだなぁ」
「じつは協力するつもりは微塵もあらへんッス」
「うっわ、そこまで言っちゃう? 言い切っちゃう?」
「ただ、何かの果てに変な方向に転ばんとも限らへん」
「期待していい?」
オレは肩をすくめて、それから「あははっ」と無意味に明るくわろたった。
「まあ、乞うご期待ってことで。がんばります、会長、美人やさかい」
「そんなこと言っちゃう? スケベくんがスケベくんを暴露してどーするの?」
「チョウノ・ミキってのは?」
「きみが想像してるとおりのチョウノ・ミキだぞよ?」
なるほど。
蝶野ミキっちゅうわけやな。
*****
放課後、ついてまわる格好でアキラに続くのがつねのことになってて――アキラは面倒そうな顔して面倒そうな言葉吐くんやけど、オレんこと、そこまで嫌ってるっちゅうわけでもなさそうや。家に引っ込んで――今日は割烹着姿な、そないな調子で店に出てくると、早速愛らしく愛想良く接客、弁当屋の仕事、始めやった。しっかりしてやる。しっかりやりやる。ええこっちゃ、尊いな。一種のサービス業である以上、なるたけ、相手んことはええ気分にさせたらな、な?
客がはけたところで、アキラは表に立ってるオレに向かって、「イクミぃ、イクミ―っ」と呼びかけてきた。半分寝かけてたオレはなかばぱたぱた走ってアキラに近づいた。
なんだろ? 生徒会長に呼び出されたんだ、生徒会に入らないかって勧誘されたんだ。
そか、アキラよ、なるほー、会長はホンマ、実際に動いてらっしゃるんか。
会長はあわせてオレんことを誘ってるのも言うたらしい。
オレは店舗の窓口の並びの壁に背中ぁ預けて、アキラと会話する。
「生徒会なんかに引き入れるなんてどないなつもりなんやろうな。ま、アキラと一緒やったらやってもええんやけど」
「そそそっ、そういう軽はずみな発言は良くないんだぞ、き、きっときっと良くないんだぞっ」
「オレはさアキラ、オレはアキラんこと、もっと独り占めにしたいんやわ」
「な、なななななっ!」アキラは明らかに取り乱してる。「ななっ、何を言ってるんだ、おまえは?!」
まだまだ人生は長い。
やったことが間違いだったとしても、じゅうぶんに取り返す時間はある。
――ま、アキラについて回ってるうちは恋愛っちゅうもんについて痛い目見るとは思えへんねんけど。
「才女らしいな、蝶野会長は」
「まあそうだな。だって二年生に上がったばっかなのに会長に選出されたんだからな。別格なんだ」
「華、あるしな」
「そうなんだよ。スゴいよな」
オレは顎に右手をやって少し考えてから「オレ、やっぱ生徒会やってみるわ。せやさかい、アキラもやろうや」――。
「むむっ、やっぱって、なんでそうなるんだよ」
「なんか一緒にやってみようや。そういうの、あってもええやろ?」
「わ、悪かないかもしれないけど……」
「やってみようや」
うっ、うぅぅぅ、ぅ……っ。
要領を得ないうめき声を発したかと思うと、アキラは俯き、口をつぐんだんや。
「ええやん、べつに。同じくらいの年のガキどもの集まりなんやさかい」
するとアキラは顔を上げて、止むを得なさそうに笑って。
「おまえって、ホントにヘンな奴だよな」
簡単に単純に、褒め言葉やって受け取った。
続けざまに目を白黒させながら「あ、あぅっ、やっぱどうしよう」とか言うたのは、彼女一流のかわいさや。




