33.風邪きラプソディ
*****
完全に風邪やっちゅう感じの日。
登校するんをやめようとは思わへんかった。
皆勤賞は逃したけど、それでもできるだけ休まへんっちゅうのは重要や。
オレにとってはそうなんや。
にしても、オレがしばしば体調崩すんはやっぱアルビノやからなんやろうか。
まあ、ええわ。
一つ立ち止まって考えてみると、クラスメイトに移すわけにはいかへんとの結論に至った。
しゃあないから、ガッコ、休むことにした。
*****
風邪っぴきやぞ。
せやから今日はガッコ行けへんぞ。
その二点をLINEで知らせた。
アキラは明らかに、必要以上に心配してくれた。
『大丈夫なのかよ?』
「大丈夫や」
『心配するなよな。放課後に寄ってやるから』
「移ると悪いから来るな言うてんねん」
『うぅっ、浮気が心配なんだっ』
ったく、なんの話やろうか。
『いつでも連絡してこい。授業中だろうが返信してやるから』
ええ奴すぎるさかい、涙が出る。
「昼休みやよな? さっちんとみゆきちは?」
『最近、それぞれ男のことで忙しいみたいなんだ』
「ほえぇ」
『そうだよ、ほえぇ、なんだ』
「まあええわ、わこた。せやけどホンマ、ウチを訪ねるとかはせーへんでええ」
『心配だって言ってるつもりなんだけどな』
「せやからこそって話や」
『了解だ。ありがとうな』
どうやらオレらはラブラブらしい。
*****
夕方、今、オレんちには、会長がおる。
なんの会長って、生徒会の会長や。
豊かな茶色い長髪にグリーンアイ、上から下までグラマラスな身体つき。
ホンマに会長が、我が家におる。
まあるいちっちゃなちゃぶ台挟んで、向かい合ってる。
「オレはかなりの風邪っぴきやさかい、来ぉへんでほしいって言うたんですけど?」
「私はきみのことが大好きだからねぇ、うふふふふ」
「あんま良くないって思います」
「なんの話かしら?」
「恋愛っていう概念を、会長は茶化しすぎです」
「自覚はアリだけど」
常に悪戯っぽいところのある会長は、もうそれだけで、異性から興味の対象とされるんやろう。
「週末、パーティーがあります」と、会長。
はぁ?
いったい、なんの話やぁ?
「私の家は没落貴族なの」
没落?
貴族?
今のニッポンにおいて、そないな立場があるんか?
「まあまあ、聞いてよ」
聞くけれども。
「没落貴族だから、家は家の復興を臨んでるわけなのだよ。取引材料が私ってわけ」
「取引材料?」
「うん。私って美人でしょ? 胸もかなりおっきぃでしょ?」
「それすなわち?」
「男のヒトなら誰もが私とエッチしたいって思うでしょ?」
まあ、そうかもな。
――で?
「私を餌に、家は立ち位置を回復するの。だけど私はそんなの嫌だって言ってるの」
なるほど。
話は理解できた。
「わかりました。パーティーとやら、オレも出席させてください」
会長は目をぱちくりさせ。
心底驚いたような表情を見せ。
「いいの?」
「のっぴきならない状況なんでしょう? せやったら」
「せやったら?」
「会長のことはそれなりに、大事やって話です」
「それなりにじゃなくて、きっちり大事にしてあげてよぅ」
会長はええ女やさかい、しょうもない男と一緒になるんは良くないように思う。
裏を返せばそれくらいしか思い入れはないんやけど、どうあれなんや頼ってもろたんやさかい、せやったら助けたらなな。
*****
郊外にある会長んちは垢抜けた屋敷やった。
立派なダンスホール、祭を祝うべく多くのヒトで賑わってる。
タキシード姿のオレはけほけほ咳してた。
やっぱ昨日今日で治るような風邪やなかったんや。
それでも、やらなあかんことはやったらなあかんねや。
会長が結婚するとか、相手はどこぞの誰やとか、場内にそないなアナウンスが流れた。
会長は、そのお相手の男とやろう、抱き合うような格好で、手を握り合いながら、ダンスしてやる。
笑顔なんや、せやさかい、何かを嫌がっているようには到底、見えへん。
せやけど「望んでのことやない」とは先達て、聞かされた。
そうである以上、そういうことなんやろう。
オレはどないなふうに行動すればええ?
どうすることが正解なんや?
けほけほ、咳が止まらへん。
情けないなぁ思いつつ、オレは美しく舞い踊る会長に、なかば羨望のまなざしを向けてた。
そのうち、フィアンセとのダンスを終えた会長が近づいてきた。
にこにこにこにこ――オレに柔和な笑顔を向けてきやる。
「綺麗だったでしょ?」
「ええ、そりゃもう」
「だけど私は彼と結婚するなんて嫌だから。彼のモノになるだなんて、嫌なんだから」
「そのへんは理解できましたけど、にしたって、その役割をオレに求めますかねぇ」
「きみはだ、イクミくん、私のことが嫌い?」
「そうやないさかい、困ってるんです」
オレは苦笑――。
オレは会長のことを抱き寄せて、その唇に乱暴にキスをくれたった。
求められたから、気前良く、舌に舌をくれたった。
ありえへん現象というか、あってはならへん話やからやろう。
せやけど周囲のニンゲンは、息を飲むようなところを見せるだけやった。
会長はうっとりな顔をして、オレの胸に頬を寄せる。
ありがとう。
彼女は確かに、そないに言うた。
*****
その後、なんやかんやで会長の政略結婚は白紙に戻ったわけで、なにせ「政略結婚」っていうお題目があるわけやからそれはそれでなかったことになったんはええことなんちゃうかなっておもたわけで――。
生徒会室におる。
テーブルの上に腰掛けてる会長が長い脚を大げさなまでに大きく組み替えやった。
せやさかい、純白の下着が見えたとか見えへんかったとか――。
「イクミくん、先日はありがとう。私は非常に助かったのだよ」
とは会長のお言葉。それはべつにええんやけど、もうちょい飛鳥井くんを活用しても良かったんちゃうかなぁって思う次第。飛鳥井くんなら飛鳥井くんで、彼は彼なりにうまくやったように思うんや。なにせ会長に惚れに惚れてるくびったけ男子やさかいな――って、事自体はうまく運んだんやさかい、それはそれで、まあ、ええーーっていうのがやっぱりの結論。
「旦那さん候補やった人物に、オレは恨まれてしまうんでしょうか?」
「えっ、そのくらいの覚悟もなかったの?」
「冗談を言いました」
「うふふ」と会長は含み笑いをし。「舌まで入れられたんだよ? 私」
「いや、まあ、入れましたけど」
感じちゃった、きゃはっ!
――と、会長はきゃぴきゃぴ笑い。
「でも」と一転、暗い表情で、会長。「ウチの家は、とにかく一発逆転を狙ってるからなぁ」――と苦笑。
難しい話やなと思う。
自らの家の再興のために血縁者を犠牲にするのも、まあ、わからん話でもない
椅子に座って前向いてるだけやのに、めまいがしてきた。
まだまだ風邪は治ってないっちゅうわけや。
なんて物持ちのええオレ、アホみたいや。
オレはすっくと立ち上がり、それから「今日はもう帰ります」って、会長に告げた。あっという間に生徒会室を後にして――追いかけてきたのはもちろんアキラっちや。
「風邪、やっぱり良くないのか?」
「らしいわ」
「――だけど、と言うより」
「なんや?」
「おまえと会長との距離が一気に縮まった気がしてるんだぞ」
「勘のええこっちゃ」
そったらアキラは後ろから飛びついてきた。
彼女らしからぬ思い切った行動や。
「許さないぞ。そんなの許さないぞっ」
オレがおまえんこと裏切るかいな。
そないなふうに、説いてやった次第――。
風邪はキツいんやけど、学ぶことはぎょうさん、あったなぁ。




