28.犀川牧場
*****
日高やよぉ。
まったりのんびり、帰郷したんやわ。
電車、バスと乗り継いで、最終的にタクシーから降りたときのことやった。
「ほぇぇ、ホントになんにもないんだなー」
――って、アキラは放り投げるように言いやった。
「そうやぞ。オレんちは田舎なんやぞ」オレは悪びれることなく力強く言うて。「目新しいやろう?」
「そりゃあな。目新しいっていうか、真新しいよ」
「早速、おとんとおかんと面会や」
「おっ、おうよ、連れていけよ」
朝の仕事がはけたら手が空く。
せやさかい、頃合いを見計らって、アキラとオレは家にお邪魔したっちゅうわけや。
おかんはめっちゃ喜んでくれた、「よぅ来たねぇ、よぅ来たなぇぇ」言うて。
おとんかて不機嫌やないみたいやった、しょうもないことでへそ曲げるような人格でもないんや。
*****
昼間っから、おとんは寿司をとってくれた。
オレの隣のアキラっちは、のっけから申し訳なさそうにしてる。
せやけど、一定以上、アキラが気まずそうにするようなことはなかった。
おとんもおかんもにこにこしてるし、自分が歓迎されてることもわかったからやろうな。
「じつはなおとん、ナマモノは昨日も食べたんやわ」ってオレは正直に言うた。
「ばっ、おまっ、そんなことここで――」とアキラはびっくりしたように。
「あはははは」オレはわろた。
「性格悪いぞ」言うてから、アキラは不満げに口を尖らせて。
仲がええのはええこっちゃ。
胡麻塩頭のおとんは豪快にわろた。
「ところでや、イクミ、おまえはアキラさんのどこに惹かれたんや?」
「そりゃもう、おとん、その豊満すぎる胸に――」
「死ね死ね死ねっ」
アキラっちはオレの左の肩をぽかぽか叩いた次第――。
「人間性が、綺麗なんやよ」オレは正直に謳った。「少なくともオレがおうてきた中に、こないなコはおらへんかった」
おとんは腕組むと、満足そうにうなずきやった。
「アキラさん」
「ははっ、はいっ!」
「どうかイクミのこと、よろしくお願いしますわ。親バカや言われても、イクミはええ奴やさかい、ホンマ、どうか」
深々と、頭ぁ下げやった、おとん。
アキラは「やっ、やめてくださいっ」って手のひらをぶんぶん振った。
「あたしのほうがお世話になりっぱなしなんです。ほんとうに、お世話に……。ですから、どうか気になさらないでください」
おとんは顔を上げると、オレのことをじっと見つめてきた。
臆することなく受け止めてやると、今度はおかんが「アキラさん、お寿司、食べちゃいなさいな」――。
べつにそないにするこたないのに、アキラっちは急いた様子でぱくぱくぱくぱく食べやった、茶碗蒸しまで食べやった。
「泊まっていくんやな?」
「あかん言われてもそうさせてもらうぞぉ」
「おまえの部屋しか空いてへん」
「兄貴の部屋は?」
「めでたく物置や」
ってことは……。
「アキラっちよ。今日もおまえとオレは同じ部屋や」
「い、いいよ、それは、べつに。お父様とお母様がいいっておっしゃるなら」
なんや、堅苦しい口調で言いやったな。
おかんお気に入りの取り寄せのあんぱんを食べ終えたところで――。
「さて、晩飯までヒマやぞぅ。ゲーセンもカラオケもないさかいな。アキラはどないしたい?」
「えっと、支障がないなら、馬のところに行きたい、馬を見たいんだ」
「そんなんで、ええのん?」
「だっ、ダメか?」
「やとさ、おとん」
あかんなんてことはない。
おとんは鷹揚にわろて。
「ぜひ見たってください。ウチのコらも喜ぶやろうさかい」
おとんの言葉を受けて、アキラは目をきらきら輝かせた。
立ち上がるなり、「早く行くぞっ」とオレの左手を引っ張りやる。
べつに馬はどこにも逃げへんねんけどな。
しゃあないさかい、アキラに手を引かれることを良しとした。
*****
放牧場の柵の手前に立ってると、こっちんこと見つけたんやろう、喜び勇んでって感じで、芦毛の馬が駆けて近づいてきた。
芦毛――若いうちは灰色っぽいんやけど、年を重ねるにつれて白くなる毛色――「彼」はもう真っ白や、年寄りなんや、それもあって、ちょっと走っただけで息切らしやる。そんなんやったら慌ててこぉへんかってええのに、ゆっくり来たらええのに――ええ奴なんや。
「スゲー、まさに白馬だ」
アキラはおっかなびっくりってなふうに前に手を伸ばす、「触ってだいじょうぶか?」と訊いてきた。
オレが「だいじょうぶやよ」って答えると、鼻面をそっと撫でやった。
白馬の彼はくすぐったそうに目を細めたように見えた。
「あ、あうぅ、かわいい、かわいいぞぅ」
たまりかねたように、アキラはその頬に頬ずりしやった。
「このコは若いのか?」
「いや、ずいぶんと年寄りや」
「生産牧場なんだよな? だったらどうして?」
「引退した馬を引き取ったりもしてるんや」
「引退したら、悠々自適ってわけだな」
「そうでもないぞ。コイツはずいぶんと運がええんや」
アキラは首をくりっとかしげやった。
今度はオレが白馬の彼の顔を撫でたる。
「いくら競走馬や言うても、全部合わせたら、年間に何千頭も生まれやる。幸せなかたちで往生できる馬は少ないんや」
「じゃ、じゃあ、引退したら、どうなるんだ?」
「言わな、わからへんか?」
「いや、嘘だ、わかるよ」アキラは暗い顔をして、だけど切り替えが速く、すぐに顔をしっかり上げて。「コイツは強かったんだろ? だから、余生を引き取ってもらえたんだろ?」
それが、強いわけやなかったんやな。
現役時のあだ名は「ブロンズ・コレクター」――。
その名のとおり、「銅メダルばっかやったんやわ」、オレの頬は自然と緩んだ。
「三着ばっかりだったのか?」
「ああ。ホンマにそうやったんや。どれだけ大きなレースでも、どれだけ小さなレースでも、一生懸命走ってるんやろうけど、三着より上にはなれへんかった」
「不思議だなぁ」
「ホンマに」オレは細めた目で、その功労者を見る。「どうあれ奥ゆかしいんや。そないなとこがウケてやろ、今でもちょくちょく、熱心な競馬ファンが訪ねてくる」
つくづく素晴らしい馬なんだな。
アキラは感心したように首を縦に振り。
「今日はお日様が高いけど、馬も暑いのか?」
「寒さには強いんやけど、暑さは苦手や」
「だったらおうちに帰してやったほうがいいんじゃないのか?」
「外に出て走りたい言うんは、コイツなんやよ」
へぇ。
偉いんだな、おまえ。
何がそうなんかわからへんけど、アキラっちは愛おしそうに彼の頬に手ぇ当てやった。
「退屈やろ? 馬しかおらへんねんから」
「そんなこと」と返してきた。「すっげー楽しい。ずっとこうしていてもいいくらいだ」
やっぱ、心の優しい女のコやな。
「イクミは乗馬ができるのか?」
「まあ、そりゃあ、ガキん頃からやってたし」
「まじかーっ」
「人並みに、っちゅうだけやよ」
「いいなぁ、すごいなぁ、日高、別世界だなぁ」
「アキラっちも、乗ってみるか?」
「へっ、いいのか?」
素人を背にできる馬も、ここにはおる。
「乗ってみたい、乗ってみたい!」アキラは声弾ませた。
「そいつもちゃんとサラブレッドやさかいな。元気ええし、怖いぞぅ?」
「あ、あぅっ、だったら、やめとこうかな……」
アキラの手ぇ引いて、柵沿いを歩く。
柵の向こうで、白馬の彼はとことこついてくる。
その後、アキラはヘルメットをかぶって、鹿毛の男のコに跨った。
「ひゃあぁ、たけーっ」
言葉のわりに怖がっているところはなくって、むしろ馬上からの景色を楽しんでるみたいやった。
勘がええ。
いっさい下を見ぃへんのがええ、気持ちええ。
そのうち引馬やめて、手綱を委ねたった。
制御できてるなんてのは言いすぎやけど、歩かせることは自然とできてる。
走り出したら危ないよな?
なんてビビったことも言いやらへん。
ただただ楽しそうに、アキラは前だけ向いてやる。
まあ、仮に鹿毛のコが暴れて振り落とされるようなことがあっても、自己責任や。
――って、オレはおもてる、ちょいヒドい話かもしれへんけどな。
――と、約一名、オレと同じくらいの年恰好の男子が近付いてきた。
短く刈り上げたヘアスタイルに、着古した感のある紺色のツナギ姿。
背がちっこくて細身の彼は、オレの隣に並ぶと、馬に乗ってる――馬の上のアキラを見やる。
そう、彼女んことを優しい目で眺めやる。
「おかえりなさい、おぼっちゃん」
おぼっちゃんはやめろって、いっつも言うてる。
「スゴいですね。彼女、馬に乗るのは初めてですよね?」
「そのとおりなんやわ。どうやら才能があるらしいわ」
「あのコは振り落としませんし、安心です」
あのコ――アキラが乗ってる鹿毛の彼は、元競走馬や。
なんとかかんとか御して、アキラが戻ってきた。
額に汗ぇ浮かべて、「うあぁぁぁ、メッチャ楽しい。乗馬って楽しいんだなぁ」って声ぇ弾ませた。
「まあ下りろ。そろそろ下りろ」
「えーっ、もう少しくらい、いいだろ?」
「このコ、長く走らせるには脚が悪いんやよ」
アキラはびっくりしたような顔をした。
「えっ、えっ、そうなのか?」
「左の前脚が良くないんや。それで引退したんやよ」
だ、だったらすぐ下りるっ。
物分かりのいい彼女はそない言うた限りやけど、オレの隣の男のコ――大野くん――は、「ゆっくりでいいですよ」と抜群に人懐こい笑みを浮かべた。
初の乗馬とはホンマに思えへんくらい、アキラっちはスムーズに下馬しやった。
ごめんなさい、ごめんなさい。
そないなふうに繰り返して、大野くんに頭ぁ下げやった。
「いいんです。このコはヒトを乗せるのがとても好きなコですから」
「なんていうんですか? 名前です」ってアキラは訊きやった。
「ダッシュです。ココイチダッシュ号です」
いい名前ですねっ。
アキラは語尾跳ねでニコってわろて。
重ねてにこりとわろた大野くんが、手綱引いて、ダッシュくんを導きやる。
オレもついていく次第やけど、アキラに関していうとダッシュくんのすぐ後ろを歩きやる。
オレは感心した。
フツウ、蹴られると思わへんかぁ?
そないなふうに訊いたると、「いや、ダッシュくんは賢いだろ。蹴とばしたり、絶対にしないだろ」――と、確信を得ているような物言いやった。
実際、蹴りませんよって応えたのは大野くん。
彼はいつやかてにこにこ笑いやる。
アキラっちも大野くんのことが気に入ったんか、彼の隣に並びながらにこにこ話しかけやる。
ちょい嫉妬。
せやけど、大野くんは極端なまでに、ええ奴やさかいなぁ。
ダッシュくんを馬房に帰した大野くんが、詰め所に戻ってきた。
丁寧で、かつ手際良く、リンゴ、剥いてくれた。
馬連中にくれてやるやつに違いないんやけど、ウチはええもん、彼らにくれてやってる。
いただきまーす言うて、早速しゃくしゃく食べ始めたアキラっち。
うまいうまい食べるんやから、かわいいとしか評価のしようがないんやわ。
「大野くんは相変わらずか? 楽しくやってるんか?」
「おぼっちゃん、それは当然です」
「おぼっちゃんはやめてろってば」
「でも、事実ですから」大野くんは悪戯っぽく、ぺろって舌ぁ出してみせた。「おぼっちゃんは順調ですか? 東京はいいところですか? 僕からしたら想像もつきませんけれど」
「わりとええところやわ。早速、生涯の伴侶とも巡り会えたし」
麦茶を飲んでいたアキラがげほげほむせた。
わっかりやすいリアクションやなぁ。
「でもです、おぼっちゃん」大野くんは言う。「やっぱりご両親は、あなたに牧場を継いでほしいはずなんです」
「そうかね」オレは苦笑し、肩ぁすくめた。「まあ、本気でそない言われたら、考えなあかんねんけど」
「ぜひ、考えて差し上げてください。僕もそうあることを望んでいます」
オレは苦笑いを深める。
「大野くんは? 競馬学校、行くんか?」
「行きたいです。騎手になるのは、やっぱり夢ですから」
「競馬学校?」むせてた状態から復帰したアキラっちが、くりっと首ぃかしげやった。「そんな学校があるのか?」
「JRAの騎手になりたいとか、厩務員になりたいとか、そういうニンゲンはそこに行くんや」
「キュームイン?」
「馬の世話する職業な」
ほぇぇ。
アキラは感心したように目ぇ丸くしやった。
「スゴいんだな。物凄く程度の高い専門学校みたいなもんか。でも、大野くんなら余裕なんだろうな」
「アキラさん、僕はそんなことはないだろうって思っています」
「そうなのか?」
「厳しい世界ですから」
ちゅうたかて、まあ、大野くんならなぁ……。
「大野くん、あたしはまた来るぞ。絶対に来るぞ。ダッシュくん、もはやお気に入りなんだ」
「ええ。待ってます。ダッシュもきっと、待ってます」
*****
その日の夜、アキラっちとそれぞれシングルサイズの布団に入りながら――。
お互いに背ぇ向け合ってるのはなんでかっていうと、今はその態勢が楽やからや。
そのうち、寝返り打って、自然と向き合うかたちになるやろう。
「いいじゃん、おぼっちゃんよ」左隣のアキラはおかしそうにわろた。「あたしはいいぞ。牧場の息子に嫁いだって」
「オレもその職には魅力を感じへんわけやないよ。馬はメチャクチャ好きやさかいな」
「だったらどうして継がないんだ? シャル兄もだ。シャル兄は馬が嫌いなのか?」
「いんや。オレ以上に好きかもしれへん」
「だったら、どうしてなんだ?」
その理由はたった一言、あるいはたった一人の存在に尽きる。
「大野くんや」
「大野くんが、どうかしたか?」
「なにより牧場が好きなコなんよ」
「えっ、競馬学校がどうとか、騎手がどうとか言ってたじゃないかよ」
「いや、牧場で育成に関わりたいんや。それはずっと変わってへん」
「じゃあ、じつのところは――」
「ああ。この牧場を、ずっと続けたいんや」
優しい気持ちになって、オレはつい、口元に笑み浮かべた。
「兄貴よりもオレよりも、誰より馬を愛してるんが大野くんなんや。いくらウチの牧場や言うても、そんな彼を差し置いて、軽々しく継ぐなんて言えへんわ、言えへんやろ?」
「そりゃあまあ、たしかにそうだな」アキラは納得してくれたようやった。「お父さんは、どう考えてるんだ?」
「おとんはもうわかってる。兄貴とオレが出てったもんやから、暗黙の了解みたな感じで、みんなみんな、理解してる」
「そうかぁ。そういうことだったのかぁ」アキラっちの声が近くなった、寝返り打って、こっち向いたんやろう。「優しいんだな、シャル兄はもちろん、イクミ、おまえも」
クサいセリフを照れなく言いやるとは。
アキラっちよ、おまえは成長したな。
「大野くんもじつはわこてるんさ。せやから誰よりも時間かけて、誰よりも働いてる。べつに牧場が大きくならへんかったってええんや。食い扶持は大切やけど、最低限でええんやよ」
「立派だなぁ」
「ホンマ、ええコやさかい、どないなコミュニティーに入ってもうまくやる思うんやけどな。彼が望むなら、その望みを尊重したるっちゅうのが人情ってもんやろ」
オレも寝返り打った。
電気消した暗闇の中にあっても、見つめ合ってるのがわかる。
そのうち照れたように、アキラが向こうに寝返り打ちやった。
オレは身体寄せて、後ろから抱き締めたった。
「ぎゃーっ!」そないなふうに、アキラは悲鳴上げた。「やめろやめろ、離せ離せぇぇっ!」
首筋の匂い嗅ぐみたいにして鼻と唇を近づけて、乱暴にTシャツん中に下から右手突っ込んだった。
「ややっ、やだぁ、やめろやめろやめろぉっ」
「いや、挟まれてるさかい、手ぇ抜こうにも抜けへん」
「挟まれてるとかっ」
「めっちゃ挟んでるやろ」
「挟んでるとかっ」
実際アキラっちはオレん右手、がっちり「谷間」でホールドしてくれてるんやけど。
「き、来て、良かったぞ」
「どこにや?」
「ここに、だ」
まあ、そうやろうな。
オレの周りのニンゲンは、素敵な奴ばっかやさかいな。
「大野くんは、あたしたちと同じ、高校生なのか?」
「いんや、中学卒業してからは、ずっと住み込み」
「スゴいなぁ、偉いなぁ」
「ええ奴にはええ奴が寄ってくる。きっとええ嫁さん、もらいやるさ」
だよな。
アキラは穏やかな口振りでそない言いやって。
「――で、だ、イクミ、いいかげん手、引っ込めろよ、怒るぞ」
「お断りや。今日はこのまま寝たるんや」
「むぅぅ……」
「おやすみや、眠いぞ」
「わかったよ。仕方ないってことにしてやる」
観念したように息を吐いた、アキラっち。
アキラの肌はあったかい、ヒトより少し、体温が高いんかもな。
オレが眠るって段になって、アキラの静かな寝息が聞こえてきた。
寝入ったのは、同じタイミングやったんやろう。
*****
翌朝、早めに実家を後にすることにした。
べつに急ぎの旅やないさかいゆっくりでも良かったんやけど、いたところで何かするわけがあるんでもないしな。
長居してまうと、離れるのが寂しいってことにもなりかねへんってのもある。
最寄りの駅まで送ってくれるっておとんは言うてくれたんやけど、来た時と同様、タクシーでの移動を選んだ。
おとんには「贅沢するな」って叱られたけど、「じつは稼ぎがあるんや」って告げると、感心された。
家の前。
「シャルは? 元気なんか?」
「知らへんのん? LINEは?」
「返事はしてくれるんやが、あいつはしんどくてもしんどいなんて言わへんやろう?」
それはそうや、親父殿、あんたの言うとおり。
「せやけどまあ、機嫌ようやってるみたいやよ。ええ会社にええ給料。さすが、兄貴やなって」
「俺の息子なんや。当然や」
親父は胸張ってみせやった。
痩せ型の人物やけど、胸板の厚さは結構ある。
オレの丈夫な身体も、きっとおとん譲りなんや。
オレは「大野くんよぃ」と声かけた。
大野くんは「はいっ」って元気良く返事しやった。
「ウチのコらんこと、頼むな? ホンマに頼む」
「おぼっちゃんが……シャルさんとイクミさんが誰より優しいのは知っています。だからこそ――任せていただいているんですから、僕は精一杯、がんばります」
大野くんのこと、抱き締めたる。
土と草の匂いばっかする。
このコにならだ丈夫、大事な牧場、任せられる。
タクシーに乗り込む前に、振り返ったアキラっちが親父らに「ありがとう!」って大きく両手を振りやった、おっきな声で「また来ます!!」って伝えやった。
タクシーは進む。
「いい環境で、おまえは育ったんだな」
「そういうこっちゃ」
「ああ。間違いないぞ。おまえはイイヤツだからな」
こっちを見て、にひひってわろた、アキラ。
照れへんで言うあたり、かなり珍しい。
オレと彼女との距離は、また一歩、近づいたんかな?
そうであると思ってるし、そうに違いないとも考えてる――。




