21.情報
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さっちん情報、その1――。
「イクミくんよぃ、アキラの奴はまた告られたみたいだぞぅ?」などと、髪には赤メッシュのさっちん氏。
へっ?
たぶんじゃっかん、ほんの少しは驚いた。
アキラっちはもはやオレのもんやと思い込んでたせいや。
さっちんと、それに青メッシュのみゆきちを含めた三人で一つの机を囲んでる。
穏やかかつ朗らかな昼飯時と言って間違いない。
「しかも、かなりディープに」そないなふうに、さっちんは言うた。「しかし、物にしたいんだってさ」と付け加えた。
「質問や一つだけ、ええかな、さっちん」
「おうよ、どんとこいぞだ、イクミっち」
「誰に告白されてもなびかんかったら、それはそれでそういうことやろ?」
「それはそれでそういうことなんだけど、そのたびアキラは先方に、しかも丁寧にお断りしてるから心配しているのだ」
「逆上したりはせーへんやろう? みんな大人しく、身ぃ引いてるはずや。自分で言うのもなんやけど、オレは怖いやろう?」
やっぱり「それはどうなんだけど」と――さっちん、「心配にならない?」とかなんとか。
さっちんはきみはいったい、何が言いたいんな?
「アキラっちが自分で言わないから、私はこうして話してる」とか、さっちん。
まあ、そうか。
そういうことやわなぁ。
――肝心のアキラはどこに行ったんやろうか。
まぁそのへん、今んところはどうやかてええわ。
「なあ、さっちん、とどのつまり、きみは何を言いたいんや?」――とか、一応、訊いといたろ」
「アキラの『浮気イベント』があるとするならぁ――それは興味深い話題ではないかね、イクミくんよぃ」
「さっちん、あんたは性悪すぎるぞ」
「それでもそれが私なので」
「良くないなぁ」
「まぁまぁ」
で、だ。
そう切り出してからさっちんは、「まぁ、きみが彼女のそばに常にいるなら、心配に思うこともないか」などと――。
さっちんは始終安心したような笑みを浮かべてるもんやさかい、せやったら――まあ、不安に感じることもないか。
「さっちんのこと好きやけど、さっちんは意地悪すぎやぞ」
「あっはっは。自覚してる」さっちんは鷹揚に腹を叩いて、わろてみせた。
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さっちん情報、その2――。
「おいおいおぃイクミくんよぃ、今度はアキラ、断りかねているようだぞぅ?」
へっ?
断りかねてる?
「そりゃどういうこっちゃ、さっちん」
1-A 、その教室のベランダにて。
さっちんはなんとなく不思議そうに小首かしげやって――。
「いや、大したこっちゃないよ、っていうか、きみがそんなに食いついてくるのに驚いているのだという――」
はっきり言えや、さっちん。
少々の怒気を孕んだ物言いになってしもた。
さっちんは不満げな表情を存分に浮かべたのち、皮肉るみたいにわろてみせた。
「きつい言い方だね。だったらもっとこう、羽交い絞めにでもしてればいいのに」
悪意のない言い方やった。
せやさかい、頭掻いて引くしか、「かんにんな」って謝るしかなかった。
「ヤバいんか? ヤバないんか? そこんとこだけ知りたい」
「あはは、だっさいじゃん、ブラザー」
いや、マジそのとおりでそのじつ心配なだけなんやけど。
そのへん、正直に伝えるしかなかった。
――そのうち、アキラが生徒会室に入ってきた。
さっちんと目ぇ合わせて、それからオレのほう見て――。
両肩を大仰に上下させて見せると、くすぐったそうにアキラは「にひひっ」てわろてみせた。
さっちんが「うまくできたの?」とか綺麗に訊いた、どこに行ってもたんやさっきまでの、ふざけた調子は。
「相手は元生徒会長だったんだぜ?」とか、アキラ。「だからさ、こっちとしてもきちんと話、聞いてやるつもりだったんだ」
言うてるそばから、アキラはご立腹の様相――。
「ヤらせろって顔に書いてあったから、ぶん殴って帰ってきた」
ぶん殴った?
あの、優しい優しいアキラっちが?
「たぶん、『誰かさん』のおかげで、あたしは変に強くなっちゃったんだ」
気まずそうに、でもどことなく得意げに、アキラはその分厚い胸を張って、「わっはっは」と笑ってみせやった。
それから一転、少し目を伏せ――。
「ヤバかったよ、マジ。おまえと出会ってなけりゃ、あたしはどこまでヤバかったんだって話だよ。断るってことを覚えて良かったよ……」
まあなんとなく、なるほー。
そのへん、ちゃんとわかってくれてはいるんか。
「ホンマ、おまえはお人好しがすぎるさかいなぁ」
「ホント、そうだよ。男が怖いって教えてくれたのは間違いなく、おまえだ」今度はアキラは気まずそうに笑って――。「でなけりゃ、大事なモンを簡単に失うところだった。……ありがとうな?」
殊勝やな、かわいいやっちゃな。
ホンマ、かわいいやっちゃな。
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さっちん情報、その3――。
今日も1-A、その教室のベランダ――好天のもとにて。
いわくさっちん、「なんだかなんとかさん? っていう三年生の男子がイクミくんのこと、呼び出してこいってさ」――。
「悪さ働いた覚えはないんやけど?」
「向こうに覚えはあるんでしょぉ」
まあ、そういうことなんやろうな。
どう考えたかて、アキラ絡みのことやろう。
そう確信させてくれるほど、奴さんはセクシィや。
「たぶん、向こうさんはオレんこと、まともに見たことないんやろうな」
「ほぅ、どうしてそう?」
「だってや、さっちん」言うて、オレは彼女に顔をぐいって近づけた。「このオレんこと目の当たりにして、ケンカ売ろうなんてフツウ思うかぁ?」
さっちんは肩ぁすくめてみせると、「思わないだろうね」言うて悪戯っぽくわろた。
さっちんは「だってイクミくん、デンジャラスすぎるもん」言うて、今度はおっきくわろた。
アルビノと一言で言えばそこまで聞こえは悪くないんかも。
せやけど実際のオレは、真っ白な髪に真っ白な肌、おまけに瞳の色まで白いっちゅう脅威のバケモノや。
「さっちん、調整できる?」
「調整、とは?」
「オレが関わるとややこしいってこと」
「それを言ってこい、って?」
「ガリガリ君、ご馳走したるわ」
「安いね。でもま、悪くないか」
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さっちん情報、その4――。
いろいろ面倒なことが全部片付いた夜の次の日、翌朝、さっちんがアパート、訪ねてきやったんや。
うわぁ朝っぱらから美人さんのさっちんやぁ。
そないなふうにびっくりして、せやけど部屋にスムーズに招き入れたった。
うまいコーヒーくらいは出したろうって考えた、完全にコーヒーメーカーの仕事やけど。
丸くて小さなちゃぶ台――の前にぺちゃんて座ったさっちんの背中は、えろう小さく見えた。
「どないしてんな、さっちん」
「どないもしてへんわよ、イクミっち」
「へんな大阪弁使いなや。ホンマ、いったい、どういう――」
「乱暴……されかけちった」
洒落にならんこと言うたさかい、オレは慌てて正面に回り込んで、さっちんの顔、伺った。
さっちんは目に涙浮かべてた。
「それは、いろいろ、そういうことなんか?」
「アキラのことはややこしいんだ」ぽろぽろぽろぽろ、さっちんは涙こぼしやる。「でもこのたびのはほら、きっと私が魅力的すぎるから、さ……」
「何されたんさ?」
「何もされてないよ、ただ、レイプの一歩手前だったんだ。無茶するよね」
カッとなった。
何を失うことになってもええ。
全部壊すことになったとしても、さっちんに嫌な思いさせたアホどもはぶち殺したろうって心に決めて家を飛び出した。
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オレ情報、その1――。
さっちんのことを監禁したらしい「連中」のことは揃って半殺しにしたった。
殺しはせーへんかった、殺したるつもりやったんやから、殺し損ねたとも言う。
停学が七日で済んだんは、ぜんぶ兄貴のおかげや。
「オレの弟が悪さを働くはずがない。そうである以上、あなたがたが悪党なんですよ。ですから言うことを聞いてもらえませんか? そうしていただければ、こちらとしても、悪くはしませんから」――。
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さっちん情報、その5――。
自宅アパートの一室にて、オレはさっちんに土下座かましてた。
「なんで土下座?」
「話してもらえたから、おおきにな、って」
「誰もやり返してほしいだなんて言ってない」
「わかってる」
「むしろ、イクミっちが、たとえば退学になったりしてたら、私はアキラっちに合わせる顔がなかった」
「それもわこてる」
オレはなおもでこを床にこすりつけて詫びる。
「とにかく、迷惑かけた。ごめん。さっちん」
「……怖かったんだ」
「うん、うん」
「怖かった……よぅ!」
ぺちゃんと座ってた体勢から前に倒れるようにして寄りかかってきたさっちんのことを、オレは強く抱きしめた。
ごめんごめん、ホンマにごめん。
そないなふうに繰り返して言うと、さっちんはわんわん泣きだした。
その性格からして神経も太いもんやと予想してた彼女――の背中は、驚くほどにか細かった。
「さっちん、さっちん? ごめんな、ごめんっ」
「わあぁぁんっ、わぁぁぁぁんっ!!」
こないにデカい声で泣く女のコは初めてや。
その責任がオレにあるんやと思うと、オレのほうかて泣きたくなった。
ごめんな、さっちん。
きみんこと、愛おしいから、どうかどうか、許してほしい。




