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17.スカートのアキラとウダウダ

*****


 そろそろ八時やって段になってピンポーン、今日もインターホンが鳴った。

 準備万端、今日も訪ねてくるのを余裕を持って待ってたさかい、すぐにスクールバッグを手にして玄関の戸を開けた。


 スカート姿のアキラが立ってた。

 真っ赤な顔で、少し俯いてやる。


 サービスやろうか?

 それともホンマのホンマで女のコをやりたくなった?


 いずれにせよ、潔いな。

 丈がいっそえっらい短いからや。

 肉感的な太ももがなんとも眩しい。

 細いだけやないふくらはぎもポイントが高い。

 長い脚やし少しばかり肌が浅黒いもんやから、余計に健康的に映る。


「な、なんかツッコミ、ないのかよ……?」

「触ってもええか?」

「ささっ、触る!? どこをだ?!」

「決まってる。脚全般。舐め回すように」

「アホかぁっ、このヘンタイめぇぇっ!!」


 ともあれ、アパート(二階)から下りて、外に出たところできっちりがっちり手ぇつないだ。

 手があったかいさかいアキラは明らかにオレより体温が高いことを知る、体質なんやろう。

 せやから触ってると、ほんのり優しい気持ちになる。


 通学路を行く。


「あー、やだなぁ。こんな格好、したことないもんなぁ」アキラは少々不安みたいや――せやけど一転、「あはは」と陽気にわろて。「いや、誰もあたしなんかに興味ないよな。そもそも考えすぎは良くないよな、あはははは」――。

「いや、絶対に目立つやろ、エロいやろ、抱きたくなるやろ」

「いっ?! いいいっ、嫌だ嫌だ嫌だっ、そんなの絶対に嫌だっ」激しく首を横に振ったのはやっぱアキラなわけや。

「せやけどさ、そのファッションは確実に目立ってんぞ」

「だからってお断りだ。スカートが短いだけで目当てにされるなんてお断りだっ」

「いや、まあそーゆーのはわかるんやけど」


 アキラが突然、「守ってくれ」とか言い出した。

 それから「あたしのことが好きなら守れよ」とか横柄に――。


 オレは目をぱちくりしばたいた。

 アキラにしては珍しい言動やなって思う。


「アキラ、おまえ――」

「ああ、はい、そうですよ。あたしは男の視線で舐められるのが嫌なんだ。でも、だからって、お前のことは嫌いじゃないんだっ」


 おおよそ、話はわこた。

 アキラが理想としている帰結――着地点も、それはもう、すごくわこた。


「おまえさ」

「なんだよ、おまえとか」

「せやからおまえさ、防御力も必要やぞ?」

「わ、わかってるよ、そんなこと。だけど……」

「だけど?」


 オレはアキラのほう向いて、首をかしげて見せた。

 アキラはぷくぅと頬を膨らませながら、ずんずん前に進もうとする。


「あっ、あたしはヴァージンなんだっ」


 おっと、いきなりなんてことをのたまいやるんや。

 そんなんあらためて言われるまでもない。

 見てたらわかる話や。


 せやさかい――。


「それはそうやろうって見当ついてるし、べつになぁんもおかしなことやないぞ」


 手をつないだまま、前を行く。

 アキラと歩調を合わせて、前を行く。

 まるで二人三脚、いっちにー、いっちにー。


「スカート自体は悪くない感触なんだ。でも、えっと、なんていうか、だからこそ――」

「なんとなくそのへんが心配やさかい、守れってわけなんやろ?」

「そ、それってダメなことなのか?」


 アキラは頭が悪いわけやない、節々で用いられる単語もいちいち正しいと言えるんや、知性ってのを感じるしな。

 そないな中にあって一生懸命に訴えてきたということは――。


「イクミはシンギュラリティって知ってるか?」

「そりゃ、なんとなくは。ああ、そのうち、きっとヒトはヒトでなくなってしまうんや。識別子はバーコードになってまうんや」


 進む。

 目標はもちろんガッコ。

 なおもアキラっちと手をつないだまま――


「ホンマに短いなぁ、スカートんことや。著しく短いぞぉ」

「だだだっ、だから頼むよ。自己責任かもしれないけど、やっぱいろいろ怖いんだ」

「任せろや言うてる。おまえに邪な視線送るような輩はメッチャクチャに殺したるぞ」

「ままま、待てよ、そいつは待ってくれよ。やりすぎはよくないぞ、よくないんだからな」


 いったいどっちなんや、アキラっちは。

 とはいえ、なんとなぁく、それでもなぁ……。


 なかば無理問答になりそうやさかい、先を紡ぐのはやめといた。


 てくてく進む。

 アキラのことを左手で連れながら、前進を続けるんや。


「あ、あのさ、イクミ。実はな? 実はだけど、あたしはおまえになら触られてもいいかもって考えているんだ」

「おぉ、言うてみれば、ぱふぱふもオッケー、やと?」


 アキラは面食らったように両の瞳をぐるぐるさせた。


「ぱふぱふはダメなんだぞ。それはもっと仲良くなってからなんだぞっ」

「もう一歩、あるいは二歩進んだらか? せやったら、ええんやな?」

「おまえはヘンタイだ、やっぱりヘンタイだっ」


 そのへんはともかくとして――。


「なあ、イクミ」

「はいな、今度はなんや?」

「おまえんとこ、日高の馬産地なんだよな?」

「じつはメチャクチャニッチな産業なんやけどな」

「やっぱ連れていって、欲しいんだ」

「なんでや?」

「だって馬ってかわいいじゃんか。触ったことないんだ」


 馬ってメチャクチャ愛おしいよな、フォルムがラブリーだよな――。

 それ以外の感想を述べられたのであれば、オレはアキラに「ふざけんな」と言って、突っかかったことやろう。

 馬を、特に競走馬を「カワイイ」とか「カッコいい」の一言で済まされるようならオレは結構怒ったりするに違いない。

 馬、ひいては生き物を扱うっていうのは、そんなに簡単な話やないんや――って、オレ、ひいては兄貴もそないなふうに叩き込まれてる。


「馬に、乗ってみたいんだ」

「そりゃええこっちゃな」

「乗ってみたいだけなんだ」

「わこてるよ。乗るだけで気持ちええんやろうってことやろ?」

「変なこと……かな?」

「抜かせ、アホ。馬にまたがることは尊いんや。やろうっていうニンゲンがいたら、誰でもウェルカムなんやよ」


 アキラがまたぎゅって、オレの左手を握ってきやった。


「もっともっと、背中を押してくれよ。あたし、がんばるし、がんばりたいから、エールが欲しいんだ」

「おまえ、もうとっくにがんばってるやん? バイトかて、めっちゃがんばってるやん?」


 アキラは照れくさそうな顔をして、顔を俯けては、なんとも言えない、曖昧な顔をした。


「って言っても、あたしは自分に自信がないからなぁ」

「オレが手伝ったる。おまえんこと、幸せにしたいさかいな」

「い、言ってろ、ばーか」


 これ以上、アキラが何を言うても聞き入れるつもりはない。

 そうである以上、アキラが自分のために物事を受け容れてくれるんやったら御の字や。


 あらためて、左のほうを、しげしげ見つめる。

 少し目線を下げたら、ミニスカから覗くアキラのポジティブで色っぽい脚に目が行く。


 はっきり言ってカンペキやな。

 上はバインバインやし、下半身のエロさにも隙はないさかい。


「な、なあ、イクミ」

「はい、こちとらイクミさんですが、まだ何か御用ですかぁ?」

「おまえは馬鹿の神様なのかもしれないけれど、いっぽうで、じつはあたしが馬鹿なのかもしれないな、って……」

「それはどういう理屈なんや?」

「とにかくあたしが馬鹿なんだ。い、異議はあるか?」

「ないけど、そんなんどうやかてええな。こちとら恋のしがいがあるとしか考えてへんさかい」


 アキラは下を向いて、悩み込むような素振りぃ見せた。


 おまえが困ったなら助けたる。

 おまえが苦しいようやったら、やっぱり助けたる。


「そんなふうに言ってくれるから、おまえとはホント、仲良くありたい――んだよなぁ……」


 守ってくれるならそれでいいんだ――とか、アキラっちはえっらい前向きで上から目線の言葉をぽーんって放り投げてきた。


 生意気やなぁっておもた。

 それでもそのへんは、やっぱかわいくてかわいくてかわいくて――。


「ああ、ダメだ、やっぱ撤回だ全部撤回だ。スカートってのは妙にすかすかするんだ」

「そりゃそうやろ。スカートなんやさい。後悔もほどほどにしといたほうがええぞ」

「だっ、だからそうじゃないんだ。慣れてないってだけなんだよ、きっと」

「ほなら堂々と登校したろうや。なにせ美男美女のおでましやぞ」

「そういうことを自分でのたまうのは良くないぞ」


 そのご意見はごもっとも。

 ニンゲン、とりあえず謙虚であるべきや。


「浮気、すんなよな?」少々の切実さを含めつつ、オレは言うたった。

「浮気だぁ?」アキラは馬鹿にするみたいにわろて見せた。


「信じてええんか?」

「えーっと……」

「えっと?」


 アキラはそっぽを向いてから、のち、オレの目を見てきた。

 そこにあったのは強い決意であるように見えた。


「初恋が成就して、それがずっと続いて、そんな男とずっと一緒にいられたら、楽しいし、幸せなことだよな」


 あまりに率直かつフツウの言葉やったから、オレはきょとんってなって、それから笑みを浮かべた。

 ホンマにフツウ、恋なんてのは徐々に距離が近付くような気がするんやけど――すなわち今の関係は、アキラとオレとが歩み寄った結果や。


 今度はオレのほうから、アキラの左手をきつく握った。


「ややっ、やめろぉ。強くするなぁぁ」

「感じてまう、とか?」

「ばばばっ、ばっきゃろぅ」


 アキラと手を繋げていることが喜ばしい。

 彼女と至近距離でコミュニケーションをとれることが嬉しすぎ。


 ガッコの敷地に入っても、手を繋いでた。

 ガッコにおいてはシンボリックであろうアキラ、そんな彼女の女のコ女のコしたファッション……やっぱ注目を集めるわけや。


「うぅぅ、やっぱなんかヤだぞ。そんなに珍しいのか?」

「珍しいし、エロいんやろう。認めろや」

「うへぇ、そうなのかよぅ……」


 アキラはむずがゆそうに身をよじって、太ももを擦り合わせた。


 左手で腰を抱いてやる。

 ひゃぁっと驚いた声を発したアキラなわけや。


 アキラは片方のほっぺを膨らませて――まるで不機嫌そうな表情。


 オレはナイトや。

 アキラっていうお姫様を守るナイト――。


 おまえに会うために生まれてきたんやぞ。

 オレはそないなふうに、アキラに言いたい。


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