14.メイドフォルムのアキラっち
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学園祭らしいんやわぁ。
開催の時期についてはいつがふさわしいのかわからへんのやけれど、近々やったるぞっちゅうことが会長殿の鶴の一言で決まったみたいなんや。
そないな無茶な物言いがなぜまかり通るとおもた次第なんやけど、容赦のないことに学園の経営者は会長のおじいちゃんらしい。
会長の口癖は「モラトリアム」――そのへんステレオタイプなんも含めて、マジどっかで、聞いた覚えがあるなぁ。
「イクミくん、イクミくん」生徒会室にて自席についている最中、そないなふうに会長に呼びかけられた。「お祭を統括することについて、きみに一肌脱いでいただきたいのだよ」
オレは真正直に「えーっ」と不満さを声として表したんやけど。
やらなかったらやらなかったで、きっと内申に関わってくるよ?
なんとも退路を断つような物言いや脅しとも言う、殊の外、おつむの出来がええんやろうな会長は、そのへん、ぜったい間違いない。
しかしや会長よ、そんなんけっこうどうやかてええんや。
内申点得るのに教師に媚びようなんて、こちとらこれっぽっちもおもてへんさかいな。
せや言うたかて、うららか極まりない女子から上目遣いで「ダメ……?」とかいじらしいところを見せられるとオレとしてはメチャクチャ弱い。
会長ホンマ、アンタはワルい女やぞ。
何やればいいんですかぁ?
――とか、溜息まじりに折れるしかないわけや。
「校舎内の清掃作業」とかてんでめんどくさそうなことを、会長はあっさり告げてきやった。
とはいえ、引き受けるって言うてしもたわけや。
年頃の女子を尊ばへんとか、それは到底、青少年とは言えへんさかいな。
女に優しくない男は男やないぞ、家訓としてそないに伝えられへんでも、そんなんカンペキ、わこてるわ。
にしても、清掃作業とな?
つくづく会長は綺麗好きなんやな、まあ、それくらいなら、せやさかい、快く、請け負うてやろうやないか。
「あ、ちなみに、きみを除いた生徒会メンバーはそれぞれ楽しみますので、てへっ」
てへっ、とは、これいかに……?
ぺろっとベロまで出してみせた会長。
なんとも酷い言いようやけど、まあ、祭ってのは堪能してなんぼや。
せやから涙飲んで「ええですよ。ゴミの処理くらい、きちっとやったります」って潔く応えたんや、ドアホの半グレがカンタンにケンカ引き受けるみたいな軽々しい勢いで。
「なお、アキラちゃんはウチで預かるからね。メイド喫茶の主力として扱うから」
呆れ返る前に、オレは興味深い事象やなっておもた。
その理由は「メイド喫茶」なる語句に終始する。
「アキラがメイドやるやなんて、それ、自分から言うたわけありませんよね?」
「それはそう、そのとおり。ふふふ、これは意地悪なのだよ」ニヤニヤと会長。「きみとカノジョは仲が良すぎるようだからねぇ」
「何をおっしゃりたいのか、ようわかりませんなぁ」
「それでよろしい。祭を取り仕切るのは、あくまでもこの私です」
んなこと言われるまでもなく、きっちりわこてるわ。
ホンマにホンマに、著しく性悪っちゅうかなんちゅうか。
ま、そのへんきっちり、憎めへん人格ではあるんやけどな――。
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学園祭当日、掃除なる作業をとっとと乱暴かつうまいこと引き継いで、アキラがいるらしい生徒会室を訪れた。
丈の長い黒いワンピースに白のひらひらエプロンとかいう見事にクラシカルなスタイル。
たしか、ヴィクトリアンなメイドとかいうんやったか。
その名にふさわしくカチッとして――るようでありながら胸元、あるいは「それ」は、今にもこぼれ落ちそうやった。
「見るなよ見るなぁっ!」叫びつつ、両手で胸隠して背中ぁ向けやった。
いや、ホンマにかわいいんや。
相変わらず、アキラの「双丘のそれぞれ」は己の顔並みにえっらい大きいんやけど――つまるところ「それ」は反則級やっちゅうことや。
「今日はひときわえっらいバインバインやないか。もはや割り切ったんか?」
「んなわけねーだろ! んなわけねーからこうして隠しているんだっ!!」
まあそうかと合点がいった。
とりあえずバインバインは今日も大正義や。
「その恰好で接客するんはマズいなぁ」
「だだっ、だろうが。おまえからも会長に言ってくれ!」
「っちゅうても、集客には役立つビジュアルっぽいらしいしなぁ」
「おぉ、おまえイクミ、本気でメチャクチャ裏切りやがったなぁっ!!」
まあ、やったろうや。
オレがそないなふうに言うたら、アキラは「嫌だ嫌だ嫌だっ、もう嫌だ、限界だっ!!」とか首を激しく左右に振りやった。
「せやったら、なんでいまだにそないな服装なんや?」
「そ、それは……」
「女のコ、やりたいからちゃうんか?」
「そ、そんなことはないんだぞ? 決してそんなことはないんだぞ?」
「ともあれ、バインバインやしなぁ、めっちゃデカいしなぁ」
「ままっ、また言いやがったな。それ以上言うなら殺してやるぞ、おまえのことをスリーパーホールドで締め殺してやるぞっ!!」
スリーパーホールドも悪ぅないけど――まあ、やってみようや。
オレは軽い調子でそないに言うた。
「……くれんのかよ?」
「あん?」
「守ってくれんのかよって言ったんだ!!」
「その点は任せろや」
「ほ、ホントか?」
「任せろ言うたぞ。いたずらにおまえに触れるような男がおったら、オレはそいつにブチ食らわしたる」
アキラは逡巡するような顔をみせたんやけど、曖昧な顔をしながらも「わかった。頼むよ……」とかっちゅう殊勝な返事を寄越したわけや。
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アキラの色っぽさ、あるいはイヤラシサに露骨な目線を送る男子どもは少なくないように見えたんやけど、面倒な事態には至らんかった。そのうちアキラも給仕係に乗り気になったみたいで、機嫌よう接客してるように映った。さすがは老舗の弁当屋の看板娘。コミュニケーションの匙加減は心得てるし、せやから接客についても文句のつけようがなかった。ハイなクォリティが保たれてるっちゅうこっちゃ。
メイド喫茶の営業が終わり、関係者で教室の机を後ろに押しやってから、掃除を始めた。メイド姿のままのアキラも加わってる。「うふふ、うふふ」とか、なにやらご機嫌な様子。どうやらええ仕事ができたって実感してるらしい。そこに間違いはないなぁ、アキラはようやった。本人からすれば精一杯、がんばったに違いないんや。「疲れたけど、充実感があるよ」というのがその言葉、本音。そういうことならメッチャ喜ばしいに、違いないな。
「アキラはホンマに偉かったよ」
「よせやい、イクミ。あたしはとことん照れてやるぞっ」
アキラはメイド服のままや。
得意げな彼女のことは尊重したろうって思う、ホンマ、ようやり切ったな、アキラ。
「学園祭って楽しいんだな」
「表にゃあ、まだ出店がえっらいあるわ」
「ホントか?! たこ焼きはあるのか!? 食べたいぞっ!!」
「一緒に行くか?」
「おう、行くぞ。タコパーだ、タコパ―だっ」
わかりやすい人格、性格やなって、つくづく思った。
着替えてくると言って、アキラはどこぞに姿を消した。
そのうちやってきたのは、一転、蝶野生徒会長やった。
「やったね。アキラちゃんは見事にメイドをやり遂げました」
「案外、器用なんですよ。そないなふうに思います」
「来年はもっともっとエッチなカッコをしてもらいます」
「それはまあ、会長の手腕次第ちゃうかな?」
オレは肩をすくめてみせた。
「これから出店を一通り回ったうえで、帰るッスよ」
「アキラちゃんのこと、自宅に連れ込むの?」
「そうは言わないッスけど」
「セーフセックスでお願いね?」
「そのつもりッス、今んところは」
「仲良くしようよ、これからも」
「せやさかい、そのつもりッス」
楽しみだね、ホントこの先、楽しみなんだ、ドキドキする。
そんなふうに言う会長とグータッチした、何が楽しみなんか、詳しいところはわからへんし訊かへんけど。
とはいえどうあれ、蝶野会長はホンマ、じつにわかりやすい人物や。
気持ちのええ人格やと言うこともできる。
たぶん、めっちゃモテることやろう。
目を見張るほど、チチかてデカいしな。
閑話休題。
アキラが教室の隅に設けられた衝立の向こうから出てきやった。
オレと会長のことを順繰りに見て、それから不思議そうに首をかしげやった。
「なんだよ、会長とデキてんのか?」とは突拍子もない一言。
「そうだよっ」と元気よう言うて、オレの左腕を胸に抱いた会長。
アキラは瞬間沸騰湯沸かし器みたいに顔を真っ赤にして、「死ね死ね死んじゃえっ!!」って叫ぶと走って出てった。もちろん背中を追うたわけやけど、「待ちぃや、アキラっち」って呼びかけたんやけど、「うるさいやいっ、ついてくるな!!」とか憎らしげに言われてしもた。
アキラっちは照れ屋がすぎるから、応用とか融通とかが利かへんねや。
不器用な女性は、もうそれだけでかわいい、愛おしい。
真理やろ?




