13.物理とココロのゴミ掃除
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その日の放課後、生徒会に顔出したったんやわ、とか言うと我ながらホンマ偉そう――。
そしたら開口一番、教壇の上で姿勢良く立ってるまさに仕切り屋の会長殿から言われたんや。
「今日はゴミ拾いをしまぁす。盛大なる地域貢献でーす。せいぜいがんばりましょーっ!!」
突然のことで、正直、他人のことなんて知らんしどうでもええさかい冗談やないなって面食らった。
ご近所さんのために働くってのは尊い考え方やけど、にしたって積極的に関わらなあかんことなんかぁ?
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降って湧いたようなことやけど、「やれ」言われた以上、社会的地位にあっての部下として、やったるしかあらへんねよ。
アキラも同様や、真面目な奴さんはむしろ「がんばろうぜっ」とか勢い込んで言うてくれたんや――アホやなつくづく、オマエは。
アキラについて回るようにして、近所を周りながら。ガッコから近いところはどこもかしこも雑然としてる、こまごまごみごみした狭い道ばっかで、せやさかい、下町然としてるわけや、それはそれで、また愛らしいな、下町万歳っ――。
アキラは一生懸命に仕事をこなしやる。
近場がゴミだらけだったらイヤじゃんよ――ちゅうことらしいんやけど。
雨ぇ。
アキラはカラス色のおっきなゴミ袋を器用に破いて、合羽にしやる。
オレもそれになろうて――って感じ。
ゴミ拾いを続けながらも、アキラが「もう帰ってもいいだろ」とかなかば呆れたように言うた。
「ああ、そのセリフをめっちゃ待ってたんや。どこまで続けるんかって、不安におもてた」
「そうだよな」アキラは笑った。「ってか、足の中まで雨でずぶ濡れだ、最悪だ」
「ブラん中もパンツん中もってか?」
「ばっ、馬鹿、うるせーやいっ」
「ウチ、寄ってくかぁ?」
オレがそないなことを突拍子もなく切り出したからやろう。
せやさかい、アキラは「えっ」とか驚きやったんや。
「他意はないんやぞ。なるたけ近場でシャワー浴びて帰ればええやん? ――っちゅう話なだけで」
「とか言って、どうせおまえはスケベなことばっか考えてるんだろ? 考えてるんだろ?」
なんで二回言うたんか。
やっぱ大事なことやっちゅうんやろうか。
「べつに強要はせーへんぞぅ」
「だ、だったら」
「おうよ、来いや」
「マ、マジでなんかヤなんだけど?!」
「ゴミ掃除、めっちゃ疲れたぁ」
「それはマジ、そうだよなぁ……」
アキラは「あはは」と健全然とわろた。
「まあええわ。とりあえず、まあ来たまえよや、ふはははは」
「へ、ヘンなことしやがったら、即訴えてやるからな」
「どこに訴えるんや?」
「そ、そりゃあ、しかるべき組織にだよ、行政にだ、国際裁判所とかだっ」
「言うてろや」
「うるせーやい」
かくして、ウチに招いてやることと相成ったわけや。
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部屋に入る段でこっちにおしり向けて三つ指つくみたいにしてきちんと靴を並べたアキラには、やっぱ好感が持てた。
「は、入るぞ。お部屋にお邪魔するぞ?」
「何を大げさな」オレはわろた。「どうかすんなり入ったってくれや」
「お、おぅよ」
「どうぞ、どうぞぉ」
アキラがいよいよ踏み入り、アキラに対して「好きなとこに座れやぁ」と言うと、アキラはまずはちっこくてまぁるいちゃぶ台の前にちょこんって座りやった。
「コーヒーかぁ? それとも紅茶かぁ?」
「ここっ、紅茶が、いいんだぞっ」
「了解」
紅茶、淹れたった。
コープのティーバッグ――高いもんやあらへんのに、「うまいじゃん」とか応えるアキラはやっぱ偉い、礼儀がなってるって言える。
アキラが言うた、唐突に、なかばなんや気まずそうに、「お、男の家に無防備にあがるとか、かなりめちゃくちゃ、やっぱまずいよな」って。
「だって、何されても、しし、仕方ないもんな」
「せやったら、むしろめっちゃ、乱暴したろかぁ?」
「ふふふぅ、ふざけるな。そんなことしたら舌を噛んで死んでやるんだぞっ」
「えー、そんなにオレのことイヤなーん?」
「いいい、いや、そういうことでもないんだけど……」
「アキラは正直や。かわいいなぁ」
「う、うるさいやい」
プールとか行かへん?
オレはそんなふうに問いかけた。
「プール?」
「そや。イチャコラするプールや」
「イイ、イチャコラだぁ?!」
「目下、暑いやん?」
「そうだけど。でもプールとか、ジムでいつも一緒だろ?」
「そうやけど、ジムだけやとスポーティーなアキラしか見れへんしさ」
「なっ、なななななっ」目を白黒させるアキラ。「ギ、ギリなんだぞ? スポーティーなあたしで、ギリなんだぞ?!」
ふははと鷹揚にわろたオレは、「エロガキが何をほざきやる」とさらにわろた。
「ええぇっ、エロガキだとぅ?!」
「そうや、エロいガキや」
アキラは両腕伸ばしてくると、ちゃぶ台挟んだ向かいにいるオレの肩をぽかぽか叩いた。
かわいすぎて、いいかげん、マジで鼻血出そうや。
「まずはお誘いしただけや。ゆっくり考えてくれや」
「それはまあ、わかるんだけど……。ある意味、それにまつわる事象として、だな」低い語気のとおり、アキラは難しい顔しやった。「ガッコのプールの授業、やめてくれないかなぁ」となおも暗い声で言うた挙句、「いや、マジで」と念押し、溜息までつきやった。
「そりゃわかるわ」
「だろ?」
「どうやかてエロいもんな」
「みなまで言うなっ」
せやけどさ、思うんや。
オレはそないなふうに切り出した。
「あらたまってなんだよ?」
「オレって色素薄いさかいめっちゃ目立つけどさ、そのじつ、中身は大したことないねんぞ?」
「い、いきなり話が逸れたぞ? ってか、ホントのところはそうなのか?」
「うん。オレはそないなふうに思ってる」
「あ、あっ、あたしの意見は違うぞ」
「ってぇと?」
アキラは「えぇっと、えぇっと」とか要領の得ない「どもり」をくり返して――。
「お、おまえはいい奴じゃんか。おまえはあたしのこと、けっこう、助けてくれてる、ってだけじゃあ、勇気にはならないか……?」
救われたなぁっておもた。
アキラは自分が知らんうちに、相手のことを幸せにしやるんや。
アキラは慌てたみたいにしてカップ――紅茶んこと口にしやった。
あまりに勢いよう飲みやったさかい、すぐに「熱い熱いっ」言うてぎゅっと目ぇつむりやった。
それから出したベロを両手で大げさにあおぎやってから――。
「な、なあ、イクミ」
「なんや?」
「あたし、北海道には憧れがあるんだ。だからそのうち――」
「連れてってくれってか?」
「う、うん、そうだ、そうなんだ、案内しろっ」
オッケーやな。
それは間違いないんやけど。
「なあ、アキラ、おまえ」
「な、なんだよ」
「ホンマ、心配になる。なんでぽっと出のオレに懐いてくれるんや?」
「ななっ、懐くとかっ」
「なあ、つくづく、なんでなんや?」
「そ、そりゃあ」アキラは言いづらそうにしたものの――。「そりゃあ、なんだこう、こう、なんだろう……」
もうそれだけで十分やった。
「ありがとうな、メッチャ愛してる」
「ややっ、やめろぉっ、そんなセリフ、簡単に吐くなぁっ」
両手で顔、覆ってしもた、アキラ。
オレは右手伸ばして、アキラの頭をくしゃくしゃ撫でたった。
アキラは不機嫌そうな顔して、「むぅぅ」とか喉の奥鳴らしやった。
「守ったるさかいな、一生、絶対に」
オレがそないなふうに宣言、あるいは断言すると、顔を真っ赤にしてから「あ、ああ、そうしてくれ、ホント、絶対だぞ?」とか言うたアキラ。
背筋がゾクゾクした。
胸の内側がぞわぞわってなった。
愛って言葉――概念は確かに存在するんやなって、えっらい心の奥んトコから実感できた。
「いいかげん、シャワー、借りるぞ。着替えは貸せよな」
「ノーブラのノーパンかぁ?」
「そそ、そうだよ、悪いか?」
「ちゃんと家まで送ったるさかいな、お姫様抱っこで」
アキラは頬を染め、立ち上がった。
「女一人の世話を焼けないなんて、男としてどうかと思うんだ」
「おぉぉ、ダイバーシティな世にあってあるまじきお言葉」
「でで、でもっ、そういうことだろ?」
「オレは守ったるって言うたんや」
顔をぷいっと背けると、シャワールームに向かったアキラ。
「覗くのは厳禁だからなっ」
「わこてるよ。やらへんわ。なにせオレは紳士やさかいな」
「嘘つけっ」
「あはははは」
アキラと同じ空間で息を吸えることが、なんやメッチャ、楽しかった。




