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12.来年の祭の日に思いを馳せ――からの、「アイ」の確かめ合い

*****


 六月も終わりに近づいて――。


 放課後、アキラとぶらぶら帰路を行きながら、オレはスマホに目ぇ落としてたんや。

 いいかげんな感じでまだまだなじみがない界隈のこと、調べてた。

 楽しいことを探してたっちゅうわけや。


 ――最中にあって、とある事実を知って。


「うわぁっ!!」って、オレは素っ頓狂な声ぇ上げた。

「ぬわあっ!!」って左隣を進んでるアキラは心底びっくりして目を白黒させてることやろう。「ななな、なんだよいきなり。どうしたんだよ?!」


 オレは黙ったままでいる。

 悔しさゆえ、や。


「イ、イクミ、マジ、どうしたんだよ?!」

「いや、近所の六郷神社か? お祭りあったんやん?」

「それ、今月の始めのことだよ。おまえが引っ越してきたばっかの頃のことだ」


 それはそうなんやけど。

 オレは画像検索かけて、その様子を閲覧する。


「ぬえぇぇぇ、めっちゃ楽しそうやんか。境内まで長いんやな。そこまでのあいだずっと出店(でみせ)あるとか、天国すぎるやろ」

「まあそうだな。めちゃくちゃ賑わいはするよ。インチキくさい接客するケバブ屋のトルコ人? は、もはや有名人なんだ」

「アキラは毎年行ってるんか?」

「去年はさっちんとみゆきちと行ったなぁ」

「今年は? 行かへんかったんか?」

「行こう行こうっていつもうるさいみゆきちが、それはもう風邪っぴきだったからな」


 一人でも欠けるようなら行かない。

 三人の結束力を感じた次第や。


「ああああぁ、行きたかったなぁ」

「お祭、好きなのか?」

「そりゃあな。だって、めちゃんこ楽しいやん?」

「めちゃんこは死語だ。ともかくあたしは、じつはあんまり好きじゃないんだよ、だって人込みとかよ」

「わかった。どさくさに紛れておさわりされてまうからやろ?」


 アキラは「まるで、そのとおりなんだよ……」と沈んだ声で言うて、とほほとでも言わんばかりに俯いた。「嘆かわしいよ、お祭ってのは」ということらしい。「気持ち悪いんだよ、男って。ホント、嫌いだ」とまで言い放ちやった。心の傷は確かなもんらしいわ。「エエ、エロいんだろ、あたしは、だから痴漢に遭うとか言うんだろ?」、まったくもってそのとおり、自覚してんのは自意識過剰でも嫌味でもなんでもなく、ただただ、かわいそうや。


 どうあれ、今年は出遅れた。

 来年は絶対行こうって決めた。

 当然や、アキラんこと連れてったる。

 男が(アク)でもオレが守ったったら済む話や。


「にしても、最近蒸し暑いんよな。これが東京なんかぁ?」

「あたしは東京しか知らないけど、きっとそういうことなんじゃないのか?」


 なおも道中、歩きながら、オレは顎に右手をやった。

 べつにどうでもええっちゃええんやけど、アキラが相手やさかい、打ち明けたろうおもた。


「なあ、アキラ」

「なんだよ、あらたまって」

「オレの実家な? 北海道なんやわ」

「……へっ?」アキラは心底意外そうな顔しやった。「えっ、えっ? 待てよ、だったらその大阪弁はなんちゃっての偽物だってのか?」

「いや、親父の親父が大阪出身なんやわ。その親父の親父から代々受け継いだのが当該大阪弁」

「え、えぇっと、よくわからないぞ?」

「大阪弁についてはネイティブに近いやろうってことや」


 今度はアキラが顎に手をあてて、「うーん」と考える素振りを見せやった。


「やっぱよくわかんないな。手の内、明かしてくれよ、っていうか、明かせよ」


 オレはうふふとおふざけで笑って。


「もっと仲良うなったら教えたるわ」

「もっと仲良くなる余地があるのか?」

「オレはあると思うなぁ」

「あたしも、まあ、ないとは言わないけど……」


 で、だよ。

 アキラは胸の内の空気を入れ替えるようにしてそう口にして。


「イクミはどうするつもりなんだ?」

「また、ざっくりな問い掛けやな。未来についての質問か?」

「そうだ。そのとおりだ」

「大学は行きたいなぁ」

「だったら、あたしとは合わないなぁ、反りが合わないってやつだぞ」

「ってぇと?」


 あたしは高校出たら実家を、弁当屋を継ぐつもりだから。

 ふふふのふ、いつだって潔いのがアキラなんや。


「ああ、ホンマにそういうことならオレが(あるじ)を請け負ったるわ」

「なっ、なななななっ?!」

「いや、前にも言うたやろ? おまえと一緒なら、何をやるのも悪くないって」

「おぉっ、おまえぇ、弁当屋を軽んじてるだろ? ばっ、馬鹿にしてるだろ?」

「そんなことないんやってば。そんなんアキラは知ってるやろ?」


 アキラは「むむむぅ」と難しげな声を出して、それから「それはわかったし、わかってるけどよ」とまるで悔しげに言った。


「弁当屋、ええやん? お客さんの喜ぶ顔を身近に見ることができるんやさかい。尊い生業ぞ、それは」

「尊い尊いって、おまえはいちいち考え方がおやじくさいよな。めちゃくちゃ派手な見た目のくせにさ」

「外見は関係ないやろぉ。そもそもアルビノなんはどうしようもないわ。目ん玉白っぽいんまで気色悪いかぁ?」

「あぅ、ごめん……」などと、きっと咄嗟に正直にアキラ。「でも、ほんとにホントに、あたしが弁当屋続けたいって言ったら付き合ってくれるのか……?」

「オレはおまえに惚れてるさかいな」

「いいっ、言ってろ、馬鹿っ」


 雨が降ってきた。

 アキラはずぼらなところがあるさかい、念のための傘すらめったに持参せぇへん。


 せやから、オレが差した傘の内に導いてやった。

 肩を抱きよせるようにして、中に入れたった。


「らっ、乱暴だぞ」


 オレは傘を左手に持ち替えて。

 二人で一緒に傘の恩恵にあずかって。


「し、しりとりでもしようぜ」

「しりとり?」

「いいから、しりとりだっ、するんだっ」


 高確率で、それはアキラの照れ隠しやったんやろう。



*****


 疲れるようなことなんてなぁんもしてへんのに、家に帰ったらバタンキュー(いわゆる死語)――やった。

 むにゃむにゃ起きたらなんとまあもう二十一時、起き抜けやのにめっちゃ腹減ってた。


 この時間ならまだアキラの弁当屋が営業してるはずや。

 さっきまで一緒におった気がするんやけど、また会いたくなったもんやさかい、また会いに行くことにした。


 最近、じつは日常的に身体にダルさぁ感じてる。

 涼しい北国から、じめじめ暑苦しい東京に越してきたわけやから、フィジカルもメンタルもイマイチ順応できてないんやろう。

 とにかく、なんやぁ、疲れ気味。

 そのへん解決する術はないもんやろうかと、とりあえず肉体は助け船を求めやる。


 アキラが看板娘を担ってる「七尾の弁当」に到着、家から徒歩で五分ほどやさかい、コスパとタイパに基づいた利便性についてはサイコーやとしか言えへん。


「なんだよ。またあたしのことが恋しくなったのか?」


 アキラは朗らかにわろてくれた。

 そないなこと言うたら前は照れまくりやったんやから、アキラについて得も言われぬ成長を感じた。


 オレのしぼんでしもてる様子は、すぐにアキラの知るところになったらしい。


「ホント、どうしたんだよ? おまえ、なんだかめちゃつらそうだぞ?」

「言ってみれば、夏バテなんかなぁ……って、思ったり」


 元気が出るメニューはないかぁ?

 とか、当てずっぽうも当てずっぽうで、オレはそないなふうに訊ねた。


「あるんだな、これが」アキラはテキパキ即答。「バテたときはやっぱ、うなぎだよ」

「うなぎがあるんか?」

「老舗の弁当屋を舐めるなよな」


 アキラはえっへん、その分厚いムネを自慢げに張ってみせた。


「おまえにはいろいろと世話になってる――ような気がするからな。一匹分の値段でごちそうしてやるよ」

「そない言うってことは、二匹以上入ってんのをくれんのか?」

「そういうことだ」


 アキラは大きく頷いた。


「じいちゃん、うなぎダブル!!」

「あいよ!!」


 そないなやり取りがあって。


「最近は北国も暑いって聞いたんだけど?」

「こっちのは別格や。いや、マジ夏バテなんやろう」

「おまえ、ひ弱そうだしな」

「あちこち白いからか? せやけど実際、そうなんかもな」


 前からなんとなく言おうと思ってたんだけど……。

 アキラはそう前置きして。


「ホント、男とこんなふうにこれだけしゃべることなんてなかったんだ。ヘンな感じだよ」

「オレの愛は伝わってるかぁ?」

「それはまあ、なんとなく……」

「マジ、来年はお祭、行こな?」

「だっ、だからわかってるよ、それくらい」


 気づいたら炭の匂いが漂ってきて。

 まもなくして発泡スチロールの器に入った品物が目の前に。

 大ぶりのうなぎ二匹分がきちんときっかり白飯の上にのってやる、それはもううまそうや。


「うへぇ、けっこう本格的な感じやんかぁ」

「当然だろ? ちゃんとしたうなぎなんだから」


 素晴らしいな。

 オレはそないなふうに感心し。


「ほなら、今日はもう帰るわぁ」

「だっ、大丈夫か? 家まで帰れるか?」

「そこまで不調そうに見えるかぁ?」

「うん。ホントなんか、危なっかしい感じだ」

「それでも、オレはなるたけ皆勤賞を続けるんや」


 オレがそないに言うと、「皆勤賞? なんか理由でもあるのか?」と訊ねられた。


「たとえばウチの親父は仕事、ただの一日も休んだことがないんやわ」

「そりゃすっげ。立派な話だなぁ」

「せやろ? せやさかい、オレかてがんばらなあかん」

「あ、明日も迎えに来て、くれるのか……?」

「当然」と、オレは言い切った。


 アキラはどぎまぎした様子で、「わ、わかったよ」と言い――。


「おう。待ってろや」

「って、ち、違うんだ。言いたいことは、じつは違うんだ」

「何が違うんや?」

「今決めた、すぐ決めた。明日はあたしが迎えに行ってやるから、家で待ってろよ、な……?」


 オレは目を丸くして、さらにはぱちくりさせて。


「ええのん?」

「い、いいよ。持ちつ持たれつくらいが、きっといいんだ」


 つい頬が緩んだ。


「ほなら頼むわ、アキラっち」

「うん、任せろっ」


 しっかりとした、勢いのある言葉やった。

 ほっぺた桃色やし、照れ屋のくせに、がんばって言うてくれたんや。


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