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11.ルーフトップガーデン

*****


 桃色のひらひら髪に紅茶色の瞳はえらい映える。

 かわいいなぁ、かわええなぁ。


 そんな彼女が、メメさんや。


「で、メメさんよ」

「メメたそがいいっス、メメたそがいいッス」

「せやったらメメたそ、ってか、なんで二回言うたんや?」

「大切なことだからッス」


 ああ、なるほど、やな。


「なるほど」と実際、オレは口にした。「ほなら、メメたそ」

「おっ、いいッスね、いいッスね、そのメメたそはゾクゾクしちまうッスよ」

「まずは用件を伺いたいな。我が教室まで出向いてくれて、いったいなんの用事なんや?」


 そう、今は我が1-Aの教室なんや。

 放課後も放課後、すっかり放課後、すぐ向かいの椅子に腰掛けてるメメさんもといメメたそは、腕組みをすると「うーん」と唸って首ぃ傾げた。


「本校蒲学(カマガク)について、どう思われますか?」


 むぅ、えっと――そこに何を感じろと?


「下町すぎる下町にありながら高貴な高校だというのが私の意見なのですよ」

「そうやとして、それが何か?」

「いえ、何もないのです」あっはっはと笑い飛ばした、メメたそ。


 オレはオレで「なんや、それ」と大笑い、いっぽうでかなり呆れてしもた。


「私、じつは二年生なのですよ」

「まあ、そうなんですかぁって感じやな。じつは調査済みやけど」

「イクミくんは良くないですよ。愛想と愛嬌は重要です。そのへん、もっと積極的に振り撒いたほうがよいのです」

「怠けてるわけやないんやけど、以後、気をつけます」

「良い返事です。だからまあ、良いのです」


 話を続けましょうと、メメたそは言うて。


「そんなふうにのたまう奴に限って、論点ずらしするもんなんやけど?」

「まあまあまあ、聞いてくださいッス、イクミくん」

「なんでっしゃろ?」

「きみはエッセイストだと知ったのです」

「おやまぁ、そうなん?」


 どこで知ったんやと、じゃっかんながら興味が湧いた。

 オレのエッセイを知ってるってことは……。


 メメたそはにっこり笑って、「微小な媒体における些細な作品でも、私は知る立場にあるらしいのですよ」――。


「へぇ」オレはなかば、感心してしもた。「ああ、そうか。身近に読者がおるケースもあるんやな」

「面白かったのですよ、『DKの恋愛における絶対性と排他性』、いかにも頭でっかちなタイトルですけれど、中身については興味深いものだったのです」


 おおきにです。

 オレは頭をぺこって下げてから顔を上げ、「で、メメたそは何が言いたいんや?」と率直に訊ねた。


「言わずもがな、私はすでにイクミくんのことを尊敬しています」

「物書きにでもなりたいんですかぁ?」

「最終的には、そうです」

「うっへ、貪欲」


 貪欲ではなく、強欲なのです。

 悪びれる様子なんていっさいなく、メメたそは言い切りやった、カッコええな、ったく、マジ尊敬。


「明確な予定はまだないのですけれど、私が何か書き上げた折には、赤ペン、入れてほしいのです」

「ギャラは?」

「言い値をお支払いしますです」

「冗談やよ、冗談や」オレはぶんぶんぶんと首を左右に振って否定しながら、わろたった。「オレで役に立つんやったら、つこうたってぇさ。メメたそ、めっちゃかわいいさかい、タダでうけおうたるわ」

「かわいいとか平然と言うあたり、それは気持ちが悪いことなのです」


 まったくそのとおりやろうからせやさかい、オレは「そのとおりやな」と言葉に出して、自分の発言を恥じたんや。


「ところで、です」メメたそは話を進めるらしい。「ぶっちゃけ、イクミくんはアキラちゃんのこと、どう思っているのですか?」

「またいきなりの質問やな――が、まあええわ。言われるまでもないわ。好きやよ、メッチャ愛してる」

「すなわち愛とは?」指摘するようにメメたそ。「あなたは美しいです、イクミくん。そんなあなたにのろけ話ばかりさせる彼女の魅力とは?」

「まず一つ、正直に言うたる。身体つきがエロすぎるさかい、そこに惹かれた」

「うんうん、薄汚い動機ですけれど、まさに正直で良きかな――と思いますです」

「せやけど、それは二の次やって気づいた。その精神性が、アキラはかわいい」

「これまたそうおっしゃると思ったですよ。ビンゴ、ですね」メメたそはフフってわろた。「異議なしです」とか言うて、ふふってわろた。


 幾何の間。

 オレらは無意味に笑い合った。


「さて、それでは話がついたところで、屋上に参りましょーか」

「屋上?」と訊ねた。「先輩よぉ、何があるんですかぁ?」

「行ってみればわかりますです」


 メメたそはにっこり、わろた。



*****


 屋上――校舎の屋上には会長にネモちゃん、それに飛鳥井くんがおって、その三人は揃って肉体労働に従事してた。まさに泥臭い仕事や。一言で言うと、土いじりしてやる。メメたそいわく、「ルーフトップガーデン計画なのです」とのこと。「計画っていうか、すでにずいぶんと出来上がっているのですけれど」とのこと。


 オレは「屋上かて学園の持ち物やろう? ええんか? こない勝手にして」と当然のことを訊ねた。すると、「そのへん話をつけてしまうあたりが、会長のスゴいところなのです」ってことやった。ああ、なるほど、そのとおりやとすると、会長のバイタリティには平伏するしかあらへんな。


「こういうことができるから――あるいはこういうことを思いつくから、会長はみんなから慕われているのです」

「それはわこたけど、事実、そうなん?」

「そうなのですよ」


 まあ、つくづく否定のしようがないな。


「私はあなたと仲良くしたいのですよ、イクミくん」

「赤ペンの話からして、それはもうわかったんやけど?」

「作家先生になりたいなぁ」

「なれるやろ」

「おやおやおや? あなたに私の何がわかると?」

「そりゃ、そーやな」


 オレは悪戯っぽく微笑んで、肩をすくめてみせて――。


 それからすぐに、庭仕事にまざったわけやけど。


 会長はえっらい喜んでくれた。

 なんやったら呼びつけてもらっても良かったのに、それをせんかったあたり、奥ゆかしい人物なんやろうか。


 話しかけてもネモちゃん、いや、ごつい彼女はネモさんやな――は、なぁんも応えてくれへんかった。

 いっぽうで、飛鳥井くんは意外と社交的やった。

 いったん、姿を消したかと思うと、パピコをみんなの分、こうてきてくれた、ホンマ、ええやっちゃなぁ。


 突っ立ったまま、みんなでちうちうパピコをすすりながら――。


「ほんとうは野菜とかも作りたかったんだけどねぇ。さすがに手間がかかるから。高校生の手には余るのだ」


 そんなふうに言った会長に、オレは「野菜作ってどないするんです?」と訊ねた。


「それはだイクミくん、当然だ、スープカレーの具材にするのだよ」


 ほえぇ、スープカレー。

 しかしなぜ、スープカレー?


「私、ホント、北国の食文化がだーいすきなのだよ」会長はにこにこ笑った。


 そか。

 せやったら、オレと気が合うかもしれへんな――いや、きっと合うんやろう。


 ルーフトップガーデンの工事は順調。

 完成したあかつきには生徒会メンバーみんなで弁当を広げるんやって、会長から聞かされた。


 ヒトを楽しませてやろうって意気込みが、会長からは感じられる。

 そのへん、偉いし、かわいらしいな。


 ホンマ、さすが生徒会長、モラトリアムを謳うのであれば、まごうことなきで、かくあるべし。


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