第2話 来ちゃった!
俺、マメオはなんやかんやで十八歳を迎えた。
この世界での家族は、ばあちゃん一人だ。
どうやら俺の一族は村八分的な扱いを受けているらしく、人里離れた山奥で、ばあちゃんと二人きりで暮らしている。
……まあ、前世では家族とすら会話ゼロだったし、
社会との接点も一切なかったから、
こっちの世界のほうがよほど人間らしい生活してる気がする。
そんなことを考えていたら、ちょっとだけ胸が痛んだので、現実逃避として BOOTUBE を開く。
それは、朝のルーティン──推し“りこりん”の配信を観ること。
異世界なのに前世と同じように配信は更新されてるし、
生放送も普通にある。時差どうなってんだこの世界。並行世界? 多元世界?
考察動画も観たけど、結局よく分からんので諦めた。
さて、朝ごはんの時間だ。
俺は隣の山小屋──ばあちゃんの家にノックする。
「ばあちゃん、漬物つけといたから、朝ご飯にしよ」
「おお……まめちゃん、ありがとねぇ。
まめちゃんのおかげで毎日うまいもんが食べられるよ」
冷蔵庫も保存技術もない異世界。
俺は BOOTUBE で漬物、干物、燻製、常備菜など、
保存食系を片っ端から習得した。
だがばあちゃんは最近、少しボケてきている。
動画を参考に“H-DSR”テストとやらをやったら、
認知症の可能性が高いとのこと。
「まめちゃん、ご飯はまだかい?」
……さっき食べたばっかりだよ、ばあちゃん。
俺がしっかりしないとな。
食後は、狩り→畑仕事→ランニング→推し活。
分からないことは全部 BOOTUBE に聞けばいいので、ぶっちゃけ前世よりイージーライフ。
最近では合気道と剣道まで動画で学び始めた。
魔物がいる世界だから、多少は自衛しないといけない。
そんな感じで今日も一日が終わり、寝床につく。
✡
──就寝後。
何かに吸い込まれるように、俺は夢の中に落ちていく。
「よっ、マメオー! 久しぶり!」
金髪ギャル女神・アリス様だった。
どうやらこの異世界では、
“転生者の状態をチェックする月次面談”
という制度が義務化されているらしい。
アリス様の目の下にはくっきりクマが残る。
女神ってもっと悠々自適かと思ってたけど……完全に激務顔だ。
転生から十八年。
俺はアリス様と毎月会ううち、
彼女の仕事が事務っぽいことに気付いた。
まともに社会に出たことがない俺は、
BOOTUBE で学んだ“女性スタッフのマネジメント術”を総動員し、アリス様を疲れさせないように努めていた。
「アリス様。いつも本当にご苦労さまです。
どんなにキツくても真面目にお仕事されていて……
きっと神様もアリス様の努力を評価してくださっています」
女の人は、
“努力している過程を認められると嬉しい”
──動画がそう言っていた。
するとアリス様は、ぱあっと顔を明るくする。
「もう〜! マメオだけよ、私の大変さを分かってくれるの!
神の野郎なんてさ、いつも“これやれあれやれ”って命令してくるし!
この前なんか、『お前のキャリアのためだ』って仕事増やしてきたんだから!」
ここ十八年で、アリス様の態度はガラッと変わった。
相変わらず口は悪いが、嫌悪感は消えている……気がする。
「神様って、理不尽ですよね。でも……
アリス様のことを、一応考えてはくれてると思いますよ」
頭ごなしに否定はしない。
まずは共感→そのあとにやんわりアドバイス。
──動画でそう言っていた。
「……ちょっと。あんたなんでニヤついてんのよ」
しまった。
“前世ではニート→転生後は動画で学んだマネジメント論を女神に使っている”
その事実が自分でちょっと面白くなってしまった。
「いえ、すみません。久しぶりにアリス様と話せたのが、嬉しくて……」
前世のブ男がこんなセリフ言ったら即セクハラだ。
俺は命知らずかもしれない。
「な……なに気持ち悪いこと言ってんのよ!
あんた、この前面談したキモオタと同類じゃない!」
「不快にさせて申し訳ございません」
俺の容姿は転生しても変わらなかった。
「……ちょっと言い過ぎたわ。
べ、別にそこまで謝らないでよ……
私も、その……話せて嬉しいし」
……ん?
今、デレた?
いやいや、ないない。俺にそんなフラグが立つはずない。
その後は“裸体透視アイテムで覗いてくるクソ転生者”の愚痴が一時間ほど続いた。
俺は必死に顔に疲労を出さず、
興味深そうに相槌を打ち続けた。
✡
数日後。
いつものスローライフを送っていたときだった。
山小屋のドアが、勢いよく開く。
バンッ!!
……見慣れた金髪ギャルが立っていた。
「えっ……アリス様!?」
「来ちゃった♡」
女神、まさかの現界──。




