百合子の回想_幼少期2(百合子視点)
ある日の下校の途中でした。
道の先に、うずくまっている清一さんの姿が見えたのです。
具合でも悪いのかと、私は駆け寄り、声をかけました。
すると彼はハッと怯えた様子でこちらを見たかと思うと、急に走り出して行ってしまいました。
ああ、嫌がられているのにまた話しかけちゃった……。
そう思うと同時に、嫌な予感がしたのです。
彼が向かった方向には、流れの急な川があります。
近隣の者は大人に言い含められて育つので誰も近寄らないけれど、清一さんは、知らないのでは……?
私は彼を追いかけて走りました。
そして、向かった先には、川沿いを行く清一さんの姿がありました。
「そっちへ行ってはいけないわ!」
私が声をかけると、清一さんは驚いて振り返り、それと同時に足を滑らせ、彼の身体は瞬く間に川にのまれてゆきました。
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そうして、気付いたときには、私は自室の布団に寝転がり、天井を見上げておりました。
あれ、私は、何を……?
「清一さんは、無事なの!?」
私は思い出し、ばっと身体を起こそうとしました。
が、思うように起き上がらず、へなへなと崩れ落ちてしまいました。
目線を上げると、傍らで、清一さんが泣いていました。
彼は消え入りそうな声で言いました。
「百合子さん、僕が、怖くありませんか……気持ち悪く思いませんか……」
彼の透き通った瞳から大粒の涙がぽろぽろと零れる様は、なんとも美しく、宝石みたいで……。
「清一さん……、綺麗よ」
ほとんど言葉にできていなかったけど、私は嬉しくて笑っていたと思います。
清一さんはこの日から、私とお話をしてくれるようになったのでした。