表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/112

【短編】グランフォード家の新年会9

「ご無沙汰しております、エドワード卿。ユーリを見つけてくださって感謝致します」


 セイルは深々と頭を下げた。

 エドワードは変わらぬ笑顔を浮かべたまま、セイルを一瞥する。


「伯爵がこんなところにお一人とは意外です。パーティーはお楽しみいただけていますか?」


 目をそらしたくなるほどの(まばゆ)い笑み。

 ユーリは夢見心地のまま見惚れていたが、セイルは丁寧に答えた。


「お陰様で、良い一日を頂いております」


「エマを置いてまで楽しんでくださっているご様子を拝見できて、僕も招待した甲斐があります」


 エドワードの声色は朗らかで柔らかい。が、そこに隠された棘を、感じずにいられない。

 セイルは穏やかな笑みを返しつつ、わずかに眉を寄せていた。


 セイルは、このエドワード・グランフォードが苦手だった。


 姉のマリアベルの直情的な物言いはまだ分かりやすい。

 だがエドワードの言葉は幾重にも意味を含ませ、真意を読み取るのに神経を使う。

 しかも、顔立ちや所作の優雅さがエマに酷似していた。

 エマと同じ顔で、同じ微笑みを浮かべながら、妹を心配する言葉を矢のように放ってくる。

 その一言一句が、セイルの胸に何倍もの威力で突き刺さる。


 セイルは動揺を隠しつつ、努めて冷静に返答する。


「……これから妻のもとへ向かいますが、エドワード卿もいかがですか」


「良いですね。久しぶりに妹の顔が見たいと思っていたところです。なかなか会えず、寂しい思いをしましたから」


「……それから、娘たちもご招待頂き、感謝致します」


「可愛らしいご令嬢ですね。病み上がりの妹が一人にならないよう、ご家族も招待して正解でした」


「……エドワード卿」


「エマは息災ですか?」


「はい。今は状態もよく、落ち着いています」


「安心しました。さぁ、早く向かいましょう」


 微笑みを絶やさぬまま、促す声。

 エドワードの口振りはいつもこんな感じだった。


 セイルには解っていた。彼の言葉の裏には、はっきりとした叱責が潜んでいる。


 ──“病み上がりの可愛い妹を置いて、あなたは一人で何をしているのか。早く戻れ”

 それが今の会話の真意。


 セイルは胸中で深く息をつきながら、難解な会話の糸をどうにか繋ぎ合わせていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ