【短編】グランフォード家の新年会9
「ご無沙汰しております、エドワード卿。ユーリを見つけてくださって感謝致します」
セイルは深々と頭を下げた。
エドワードは変わらぬ笑顔を浮かべたまま、セイルを一瞥する。
「伯爵がこんなところにお一人とは意外です。パーティーはお楽しみいただけていますか?」
目をそらしたくなるほどの眩い笑み。
ユーリは夢見心地のまま見惚れていたが、セイルは丁寧に答えた。
「お陰様で、良い一日を頂いております」
「エマを置いてまで楽しんでくださっているご様子を拝見できて、僕も招待した甲斐があります」
エドワードの声色は朗らかで柔らかい。が、そこに隠された棘を、感じずにいられない。
セイルは穏やかな笑みを返しつつ、わずかに眉を寄せていた。
セイルは、このエドワード・グランフォードが苦手だった。
姉のマリアベルの直情的な物言いはまだ分かりやすい。
だがエドワードの言葉は幾重にも意味を含ませ、真意を読み取るのに神経を使う。
しかも、顔立ちや所作の優雅さがエマに酷似していた。
エマと同じ顔で、同じ微笑みを浮かべながら、妹を心配する言葉を矢のように放ってくる。
その一言一句が、セイルの胸に何倍もの威力で突き刺さる。
セイルは動揺を隠しつつ、努めて冷静に返答する。
「……これから妻のもとへ向かいますが、エドワード卿もいかがですか」
「良いですね。久しぶりに妹の顔が見たいと思っていたところです。なかなか会えず、寂しい思いをしましたから」
「……それから、娘たちもご招待頂き、感謝致します」
「可愛らしいご令嬢ですね。病み上がりの妹が一人にならないよう、ご家族も招待して正解でした」
「……エドワード卿」
「エマは息災ですか?」
「はい。今は状態もよく、落ち着いています」
「安心しました。さぁ、早く向かいましょう」
微笑みを絶やさぬまま、促す声。
エドワードの口振りはいつもこんな感じだった。
セイルには解っていた。彼の言葉の裏には、はっきりとした叱責が潜んでいる。
──“病み上がりの可愛い妹を置いて、あなたは一人で何をしているのか。早く戻れ”
それが今の会話の真意。
セイルは胸中で深く息をつきながら、難解な会話の糸をどうにか繋ぎ合わせていた。