【短編】グランフォード家の新年会3
昼下がりの陽光を浴びて、グランフォード公爵家のパーティーは華やぎに満ちていた。
中央にそびえる大理石の噴水はきらめく水を弧を描くように放ち、降り注ぐ光を受けて虹を描き出している。その周囲をぐるりと囲むように立食のテーブルが並び、果物や焼き菓子、絢爛な銀食器に盛られた料理が彩りを添えていた。
「まぁ……綺麗」
エマは思わず小さな声を漏らした。
彼女は手持ちのドレスの中でもゆったりとしたものを選んでいた。淡い藤色の絹地は陽光に照らされ、柔らかな輝きを放つ。控えめでありながらも、その上品さは周囲の誰よりも彼女を美しく見せていた。
「お母さん、ヒールは履いてないでしょうね? 歩ける?」
隣で雪が心配そうに問いかける。
エマは明るく微笑んで答えた。
「大丈夫よ。ありがとう、雪ちゃん」
一方で、ユーリは完全に別世界に迷い込んだように目を輝かせていた。
「すごい……! 本当におとぎ話みたい……!」
シャンデリアの代わりに広がる青空、色鮮やかなドレスに身を包んだ貴婦人たち。
ユーリは目をきらきらとさせて周りを見回し、今にも駆け出してしまいそうな勢いだ。
そんな折――。
「はっはっはっ! よく来てくれたな!」
豪快な声が響き渡った。
堂々たる体躯のグランフォード公爵が現れると、その場の空気が一気に華やぐ。彼は真っ直ぐにセイルの元へ歩み寄り、遠慮もなくその肩を掴んだ。
「いやぁ、久しぶりじゃないか! エマの元気そうな顔を見られてお父様は嬉しいぞ! さぁセイル! ちょっとこっちへ来い! 話したいことが山ほどあるんだ!」
「え、あの、妻と娘たちが──」
セイルが振り返ろうとする間もなく、公爵はあっという間に彼を引っ張って行ってしまった。
「……連れてかれちゃったね」
雪が苦笑し、エマは眉を下げて微笑んだ。
取り残された母娘とユーリのもとへ、すらりとした影が近づいてきた。
「ようこそ、グランフォード家へ」
澄んだ声に振り向くと、そこにはひときわ目を引く女性が立っていた。
月光を思わせる銀糸の髪、涼やかな瞳、華やかで整った顔立ち。冷ややかに見えるその美貌とは裏腹に、表情には優しい温もりが宿っている。
「イザベラお姉様!」
エマの表情はパッと輝いた。
「元気そうで嬉しいわ、エマ。心配したのよ」
イザベラはふっと微笑み、妹の手をそっと取った。
その仕草には、凛とした気品と、深い愛情が同時に滲んでいた。