母の決意
私がお腹を痛めて産み、25年間も大事に大事に育てた息子が突然女になって現れた。
私、夢を見てるのかしら、やっぱりモニタリング、木村拓哉君来ないかしら、来たらサイン貰うのに。
目の前で笑いながら夫と話す息子だった女性、よく見れば25年も男だったせいか、とても綺麗な容姿をしているのに立ち振る舞いは何処となく男っぽい、自分の息子がタイトスカートを着ているかと思うと思わず涙ぐんでしまうわ。
昔はそんなスカートを履くような子じゃなかった、いつもお母さん、お母さんと甘えてくる可愛い子だった、学生の頃は毎年バレンタインにいっぱいチョコをもらって来る自慢の息子、私が風邪をひいた時にはお粥さんを作ってくれて大丈夫と言ってくれた息子、中学の時に私が勝手に応募した芸能事務所のオーディションに合格しちゃうほど可愛い子だったのだ。
結局、芸能の道には興味がなかったようで行かなかったけれど。最近のアイドルは普通に30代がいっぱい居るし、今からでも……。
そんな息子が、こんな綺麗な娘になって。
ん……春夏、あんたお兄ちゃんに女として負けてるわよ、ウエスト太くなってきてるわ、しっかり鍛えなさい。
女は可愛いだけじゃ男に舐められるわよ。
あ、駄目だわ。娘として認識したら色々我慢出来なくなって来た。
私はスクッとソファーから立ち上がると口を開いた。
「お兄ちゃん!女になったのなら脚を広げて座らない!それと笑うなら手でさりげなく口を隠す!」
「母さんがいきなり復活した!」
「あと、服は足りてるの?そんな安っぽいスーツじゃ全然駄目よ、春夏じゃ体型合わないからお母さんの若い頃の服をお兄ちゃんにあげるわ」
「えぇ~、ちょっとお母さん、それ私が前から欲しかったやつ」
「あんた全然背伸びないじゃない」
「グサッ」
胸を押さえてうずくまる春夏、それと胸のサイズもね。
「お兄ちゃん、ちょっとお立ちなさい」
「ハイっ!」
立ち上がった息子?いやもう娘か、その周りをグルリと1周してつま先から頭の天辺まで見渡してチェックする。
背は私とあまり変わらないのね、長いサラサラの髪、この長さに伸ばすのには結構時間がかかるわよね、性別が変わると伸びるものなのかしら?
それに胸も私が若い頃と同じくらいにある、鍛えたように細いウエスト、魅力的なヒップ、そしてスラリと伸びる長い脚、完璧じゃない、素晴らしいわ。
こんな綺麗な娘が男のようなガサツな所作をしてるなんて許せないわね。
「はい、脚は開かない!手は体の前、顎を引く、口はポカンと開けない!」
「ハイっ!」
そうそう、女は姿勢だけでも綺麗に見せる事が出来るのよ、これは鍛えがいがあるわね。
「お母さんが本気だ、怖っ!」
春夏は少し甘やかし過ぎたわね、今からでも間に合うかしら。
お兄ちゃん、そんなにビクビクしないでも大丈夫よ、お母さんがどこに出しても恥ずかしくない娘に完璧に仕上げてあげるから~。
ヴァボボ
「お母さん、怖かったね」
「あぁ。でももともと、ああ言う所はあったぞ、学生の頃は俺毎朝服装チェックされてたし」
「ウソ、私そんなのされてないよ」
「俺の時で飽きちゃったんじゃない」
「それはそれで少しショックだな、私は期待されてないみたい」
「春夏はそのままで十分可愛いからだろ」
「え、そ、そう?そうかなエヘヘ」
車の後部座席に突っ込んだお母さんの服を見る、お母さん美人だったから結構いい服持ってんだよな、ちょっと狙ってたのにお兄ぃに取られちゃった。
お母さんの淑女講座が長引きそうだったけど、私は明日学校もあるし、兄も会社がある、それを理由に今日はなんとか帰る事が出来たのだが週末にはまた来いと言われた、週末って明後日じゃん、私は行かないからお兄ぃだけで行ってきてよね。
「あ、お兄ぃ、俺って言うの禁止されたでしょ、わ・た・し!」
「えぇ!そんなすぐに直せるかよ」
ヴァボボ
「母さん、飯は?」
「台所の棚に買い置きのカップ麺があるでしょ、私は今、服のお直しで忙しいの!勝手に食べててください」
まったく、あの子ったら私よりさらにウエスト細いんだもの、週末には間に合わせないと。
新しい服も必要よね、忙しくなるわ。
「あぁ!会社に布の在庫あったかしら!!」
ズルルッル
「はぁ、やれやれ、まるで昔に戻ったようだな、あいつらがいなくなって、やっと二人でゆっくり出来ると思ってたのに」
補足
母、秋江の容姿は峰不二子がモデル、現在53歳、ハーレー(ストリートボブ)に乗っていて昔はアパレル系で働いていた。
父、敏夫は秋江の8つ上の61歳、建設会社の社長だが現在はあまり仕事はしていない。最近ちょっと太ってきたのを気にしている。
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