定期検診
兄が姉になって早いもので1ヶ月が過ぎた、今日は予約していた健診の日なのでまたもや長野赤十字病院に来ていた、TS病に詳しい医師が月岡先生しかいないからだ。調べたらTS病はその症例の少なさから大学病院で何人か研究してる人はいるが、普通の病院で詳しい医師は滅多にいないらしい、だからこの長野に月岡先生が居たのは凄くラッキーな事だったのだ。
前回作った診察券を心臓血管外科(TS病は患者が圧倒的少数派なので月岡先生は普段はこの心臓血管外科に勤めているのだ)の受付に出すと、血液検査のためにまた採血させられた、これ毎回やるんだろうか?別に心臓は悪くないと思うが。
見た目は美人姉妹?なので、心臓血管外科の待合室で変な誤解をされたのか隣に座ってるおばあちゃんに、若いのに大変ねぇ頑張ってねと飴ちゃんを2つもらった、ひょっとして大阪の出身の方だろうか。
採血を終え再度待合室で待っているとモニターに自分の番号が表示されたので診察室に入る。
「やあ、内海さん調子はどうですか」
担当医の月岡先生が兄に明るく声をかけて来た。
「いやー、この一ヶ月大変でしたよ、もう男にも女にもモッテモテですよ!」
兄の軽い言葉に思わず引っ叩きそうになる。
「お兄ぃ、先生は身体の調子を聞いてるんだって、誰がモテ自慢してんのよ」
「あぁ、そういう。ん~、先週生理が来た時は大変でしたね、こうドパァっと」
兄がアホなジェスチャーをしながら話すと、月岡先生がポンと手を叩く。
「そうか、その年齢だと生理がまだありますよね、症例が少ないので失念していました、すみませんでした」
そう言えば前の患者は高齢のおばあちゃんだと言ってたもんな。
「大丈夫ですよ先生、ちょっとビックリしたけど妹がいたのですぐに対処出来たんで」
「私の方が焦ったわよ、朝っぱらからギャーギャー血便が出たって騒ぐんだもん」
まさか自分の兄のお◯んちょをまじまじと見る事になろうとは、気分はまるで介護士のようだった、毛が薄くて見やすかったが本当にチンコ無くなってた。
「はは、男の時は生理なんてありませんからね、でもこれで内海さんは子供も作れる身体になった事が証明されましたね」
「「子供!」」
兄と声を揃えて驚く、そりゃそうか。でも兄が子供を産める事に実感は全然湧かない、そもそもセックスが出来るのか?
兄は心はまだ男のままでホモじゃないぞ。
「先生、子供を作るって男の生チンコをこの穴に突っ込むって事ですよね」
ストレートだな!兄が自分の股を指さして質問する。
お兄ぃ、仮にもお医者さんに質問するんだからもうちょっとオブラートに包んだ柔らかい言葉使えよ、こっちはこれでも花も恥じらう女子高生なんだぞ、隣で聞いてて凄く恥ずかしいわ。
せめてチンコじゃなくてお上品にオチンポと言いなさいよ、ん、あんまり変わってないか?
「そう言う事になりますね、でもそういう行為に抵抗がお有りなら、人工受精と言う方法もありますよ」
「「あ~」」
処女受胎、それだけ聞くとマリア様みたいだね、宗教起こそうか。
「でも、ちょっと女の身体でのセックスには少し興味あるなぁ、入れたことはあっても、入れられたことはないですから」
そうだよね、普通はどっちかしか経験出来ないから比べられないもんね、男と女どっちが気持ち良いんだろう。ん?
「そうですか、両方を実体験できる人なんて世界中探しても滅多にいませんよ、頑張ってください」
「お兄ぃ、経験あったんだ」
「あ」
私の言葉に目を逸らし吹けない口笛を吹く真似をする兄、相手は誰や?後で絶対聞き出しちゃる。
「でも内海さんは希少な症例ですから、経験したら是非とも詳しいお話しを聞かせていただけますか」
凄く真面目な顔で言ってるけど、それセクハラだからね。
好奇心混じりのキラキラした目の月岡先生をジト目で睨む、私の視線に気づいたのか目を逸らされた。
「ゴホン、そう言えば、親御さんへのご報告はどうでした、吃驚されてたでしょう」
「「あ……」」
兄と顔を見合わせる、ヤバい、この一月間忙しくてまだ実家に言ってなかった。
月岡先生、そんな残念な子を見るような目をしないでください、私は悪くありませんよ全部兄が悪いんです。
血液検査の結果も問題なかったのでこの日の診察は前回より早く終わった、性別が変わっただけで身体はやっぱり健康らしい。
でも先生たっての希望で定期的に検査を受ける事にはなった、医療費は難病指定されている珍しい症例のため国から全額出してもらえるらしい、やったね。
ヴァボボボ
で、病院の帰り道、私達はそのまま実家に向かって車を走らせている、遅ればせながら両親に兄の性別が変わった事を報告するためだ、正直言って気が重い。
流石に電話で済ませられるような案件では無い、それに兄が姉になってからもう1ヶ月も経ってしまっている、もうこれ以上先送りする訳にはいかないだろう。
「もう、お兄ぃがだらだらと後回しにするからだよ」
「しょうがないだろ、本当に忙しかったんだから」
「丸山さんや陽子とは遊びに行ってたじゃない」
「あれは二人が何度も誘ってくるから」
ヴァボボ
「で、なんて説明するの?お父さんは良いとしても、お母さんは泣くかもよ、いや、お兄ぃのそのスカート姿なんて見たらお母さん絶対泣くね」
「もう行くのやめるか!!」
「そう言う訳にはいかないでしょ、一生母さん達に会わないつもり!」
「うぐ」
グボボボ
お兄ぃ、行きたくないのはわかるけど、もうちょっとスピード出せ、後ろの車にめっちゃ煽られてるぞ。
あぁ、気が重い。
気が重くとも所詮は隣の市だ、車なら1時間もかからず到着してしまう、だが心の準備は出来た気がする。
実家の玄関を前に二人してゴクリと唾を飲む。
ガラガラッ
「「ただいま~!」」
私達は開き直って実家の玄関を勢いよく開けた。
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