俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ。
ドパラッパ!!ズドンドンドン!ドン!!ドン!!ドン!!
演奏は神保が叩くオフビートのドラムで始まった。
ベキャベキョベキョベキョベキョ、ベキャベキャベキャ
そのドラムに合わせるのは山本光のベース、トーンを絞ったプレシジョンベースの太い音が正確なリズムを刻みメロディラインを形作る。
カカッン
照明が落とされていたステージにスポットライトが3本当たると人影が浮かび、歓声が上がる。
「ようこそぉ、紅白ぅーーーーーっ!!」
「「「キャーーーーーーッ!!!」」」
UTUMIがステージのギリギリ前に立って叫ぶと黄色い声で会場が沸いた。
今日の衣装は赤を基調にしたタイトミニのスーツだ、大きく入ったスリットが脚の長さを強調して艶かしい。
ジャーーガッガガガッ!!ジャーーガッガガ!!
ジャーーガッガガ!
M-HOTOMI、ジャー、二人の世界的ギタリストを従えて、先頭に立つUTUMI。
3人のギターが奏でる極上のハーモニーが電波を通して日本中に流れるのだ。
LaLaLa~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♪
「「「「…………………………………………………………」」」」
ドゥワァァーーーーーーーーーーーーーーッ!!
ハスキーでブルージーな声がホールを震わせ観客の心を次々と撃ち抜く。
一歩引いた位置で弾いてるHOTOMIにもビリビリと来る、UTUMIが歌い出すと驚いた客席が一瞬の静寂、次の瞬間には会場が揺れるような大歓声が上がる、
「後ろで弾いてる俺まで驚いてしまう、これは癖になるよな」
隣で弾いてるジャーさんと眼が合う、お互い同じ事を思ってるのか苦笑いだ。
LaLaLa~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♪
ジャガッガガ!
ギャアーーーーーーーーーーーーッ!!
「ハハ、凄まじい歓声じゃねえか、地球最後の日じゃねえんだから落ち着けよお前ら、俺ののバンド時代だってこれほどの歓声はなかったぞ」
右肩上がりの盛り上がり、会場の爺さん、婆さんまで腕を振る、若者は総立ちの異常事態に国営放送のスッタフが慌ててるのが目に入る。
ちょっと気分が良い、ハハ、今日はピックの滑りが最高だ、テレキャスターを持つ手に力が入る。
LaLaLa~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♪
ジャリラリ、ギャガッガガッ!
あっ、観客席に陽子ちゃんの姿が見えた、一生懸命手を振ってくれている、嬉しくてウインクで感謝を伝えた。
「キャァー、今UTUMIが私にウインクしてくれたぁ!」
「私にしたのよ!私に!キャーUTUMIさまぁ!」
「トゥンク」
「お姉様♡来て良かった、カッコ良すぎ……」
おっ、陽子ちゃんわかってくれたみたい、そんじゃ仕上げのソロパート気合い入れて頑張りますかぁ!
ガッガガギャギャ!ギャガッガガ!ズダダダダダダ
ピック弾きからスラップに切り替えてリズムを奏でる、HOTOMIさんの作ったリフが最高に心地良い、やっぱ天才だなこの人。
国営放送ホールが熱狂の渦に包まれる少し前、その頃長野の実家では。
「お母さん、緑のたぬき食べて良い〜」
「ちょっと春香、お兄ちゃんの出番終わってから食べなさいよ」
「母さん、お酒もう一本飲んで良い?」
「あんた達、自分の家族が全国放送に出てるんだから大人しく観てなさい!」
「えぇ〜、だってさっきの椿坂とakbのダンスの方が凄かったじゃん、超カッチョ良かった」
「だからって、あんたダンスが終わったらすぐにお湯沸かしに言ったでしょ」
「私、お兄ぃの曲は家でちょっ中聞いてるもん、よっこいしょーいち」
春夏が箸を咥えながらおっさんぽい声を出してこたつに腰を下ろす、手には緑のたぬき、夕飯は豪華だったし、年越しそばはこれで良い。
「どれどれ、おっ、お兄ぃ、気合い入ってるねぇ、凄い上手いじゃん、あっ陽子が映った!ライン送ちゃろ」ポチポチ
「う〜ん、スカートはもう3cmは短い方が良かったかしら、そうそう、その見えそうで見えない動き良いわよ、色っぽいわぁ〜」
「お前達、この歌聴いてそんな感想なの?お父さんちょっとあいつの歌に感動して泣きそうなんだけど」
父親の敏夫が呆れたように口を開く。
「「だって、お兄ちゃんだもの」」
ねぇ〜などと言いながら秋江と春夏の声が揃う、変な信頼感がそこにはあった。
「ま、それもそっか」
実に平和な内海家である。
ダンスも無い歌とギターだけのパフォーマンス、絵面だけならフォークシンガーの弾き語りだ、だがUTUMIの抜群の歌唱力とビジュアルが華を添えて、決して地味な印象にはならないから不思議だ、むしろ歌に集中させられズブズブと世界に引き込まれて行く。
スタッフルームでモニターを見上げる中山が呟く。
「良い、いいぞ、日本、いや、世界中にUTUMIを見せつけてやる」
ステージ裏では夏元が。
「くくく、今日はまた凄い迫力だな、これは次に歌う奴が大変だぞ、ブーイングすら有り得るぞ」
3本のギターが奏でる厚みのある豪華なサウンド、それを上回るUTUMIの歌声に会場中が酔いしれる、最後列の席にまで余裕で届く生声、おそらくマイク無しでも全然大丈夫なオペラ歌手並みの声量。
久しく忘れていた本物の歌唱力に魅せられた観客は、開始1曲目のオープニングだけですでに満足感を得てしまった。
アーティストやアイドルが売れるには、一番に顔が良い、スタイルが良い、歌が上手い、楽器が出来る、性格が良い、この中のどれかひとつでも当てはまるならそこそこは売れる、全部が当てはまるならそれはとても売れる。
だがそれはチャンスを掴む場が与えられた者がタイミングよく実力を発揮した場合に限り、常識外れに爆発的に人気が出る。
そしてそのタイミングを掴むには、本人より周りの力が関係する、UTUMIの場合まず家族が協力的な事、会社の人間関係が良好な事、力のあるマネージャー、世界的ギタリストに気に入られる、超有名な作曲家に気に入られる、海外の有名アーティストに気に入られツアーに誘われる、敏腕プロデューサーがつく、今ここ。
これだけの条件を味方につける幸運。
これで人気が出なかったら、一体誰が何をやったら売れるのか世に問いたい。
しかもこいつが1年前には男性だったと言うのだから、世の中はタイミングと運が何より大事な事なのだろう。
オープニングダンスで椿坂の松田達がダンスで若年層をTVに惹きつけたおかげで、演奏開始時で視聴率は28%を超えていた、さらにUTUMIの歌が始まるとグングン上がり、現代では異常とも言える60%を超える勢いだ。
今の日本の総人口は1億2319万人、それに今はネットが発達している、海外を加えれば最低でも約7000万人はこの日UTUMIの歌に魅了された事になる。
ジャガガン♪
「サンキュー!コォーハァーーク!チュッ!」
UTUMIがウインクと共に放った投げキッスに会場の若い女性が黄色い声を上げる。
ドゥワァァーーーーーーーーーーーーーーッ!!
「「「ウギャーーーーーーーッ!UTUMIお姉様ぁ!」」」
演奏を終え、メンバー全員とグータッチしてステージを去るUTUMI、アンコールを求めるように拍手が鳴り止まない。
次に歌う白組の&TEAMのメンバーはオロオロとステージ裏でゾンビのように彷徨っていた。無理もない。
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次話は12月31日に。




