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誰がために鐘は鳴る

冬は陽が落ちるのが早い、すぐに夜がやってくる、その所為で毎日が短く感じるものだ。


ジャガガン♪


「お、今の感じ」


HOTOMIさんを見れば親指を立ててニヤリと笑う、HOTOMIさんが笑うとちょっと怖いのは内緒だ。


「か、完成したぁ!」


うん、毎日が短く感じるのは冬の所為じゃない、毎日が充実し過ぎてるんだ。



紅白で演奏する曲がようやく完成した、これ以上はもう弄りようがないぐらいの出来だと思う、しかし大ベテランのギタリストが2人も居るのに俺のソロパートが多くない?

ともかく、ベースの光さんもやり切った顔してるし、ドラムの神保さんも優しく微笑んでいる。


「ハッはぁ!いいじゃんUTUMI!最高だよ」


バンバンと俺の肩を叩くジャーさんがウザい。

女の身体をバンバン叩くな、痛えんだよ。


「じゃあ、本番はこれで行く、今の感じを忘れるなよ、特にUTUMI」


「えぇ~、何で私だけ!」


「お前のギターが一番安定感が無いんだよ、毎日弾け!」


HOTOMIさんやジャーさんみたいに何十年も弾いてる奴と一緒にされてもなぁ、芸歴何年違うと思ってるんだ。

こちとら芸歴半年に満たないんだぞ。


「仕事があるから無理ぃ」


「お前いい加減仕事辞めれば、その方が儲かるぞ」


HOTOMIさんが呆れたように言ってくる、ふふふ、俺はお小遣い制だから金の為に仕事はしないぜ。


「いやですよ、こんな不安定でヤクザな商売」


「はは、確かに実際この仕事ヤクザは寄ってくるけどな」


「マジですか、ジャーさん」


「ああいう連中は金持ってる人間には寄ってくるんだよ、芸能界なんて世間知らずが多いからな、すぐ騙される、それで人生踏み外す奴も居るってだけだ、だからUTUMIも隙を見せるんじゃねぇぞ」


「「怖っ!」」


光さんと声が被った。








古びた喫茶店の一番奥の席に腰を下ろす二人の中年男。


「では中山さんは、ソロでアイドルを作りたいと」


「う~ん、アイドルにこだわるつもりは無いんですよ、とにかく本物を見せつけてやりたいんですよ本物の歌を」


中山は手にしていたカップを机に置くと仕切り直しとばかりに口を開いた。


「夏元さん、ご協力いただけませんかね」


対面に座る夏元(67)は掛けていた眼鏡の位置を中指で直すと、中山を睨む。


「本物ねぇ、私には自分のプロデュースするグループがあるんですがね」


「でも、そろそろ限界を感じておられるんじゃ」


「くっ、今の時代は多様性が必要なんです、そうなるとファンを増やすにはグループの人数を増やすしか…」


夏元もソロではなく数で攻めるのは、個人の魅力不足を感じている為だ。人間本当の事を指摘されると心にくるものだ。


「でも代替わりすると初期メンバーの人気は超えられない、先細りですね」


「それは…」


「で、次々と新しいグループをデビューさせると」


夏元がガタンと音を立てて立ち上がり声を上げる。


「UTUMIだって!!」


「夏元さん、私は別に短命でも構わないんですよ、私も経験上、人が輝ける時間は長くないのは知っています、でもこの世の中にアイドルの可能性を見せる事が出来れば、50年先まで語り継がれる存在になれればいい」


夏元が眉間に皺を寄せる、短く太くか、UTUMIには何か秘密があるのか?

アミュズ中山、この人は今の芸能界の流れを変えようとしているのか?


「中山さん、貴方……」


見つめ合う二人、お互いこの世界では敏腕で知られる存在だ、多くの言葉はいらない。


夏元は思う、確かにUTUMIにはそれが出来る可能性はある。歌だけで観客を黙らせる歌唱力、M-HOTOMIが認めるほどのギターテクニック、まさに久しぶりに芸能界に現れた本物、10年で忘れられる事なく40年50年と残る歌を今の私が作る、私の曲をUTUMIが歌う姿を想像して背筋がゾクリとした、顔がにやける。


「いいでしょう、NHKにプロデューサーとして参加しましょう、これでもプロデュースにはちょっと自信があるんですよ、ついでに紅白では私のグループも協力させますよ、グループの何人かにUTUMIの大ファンも居ますしね」


「感謝します」


夏元もこの業界では知らぬ者がいないほどの男だ、伊達に45年もこの仕事をやっていない、1985年に小泉明日子に何てったてアイドルを作詞、88年には美空HIBARIの名曲、川の流れを作詞、おワンコクラブの立ち上げにもその名を連ねた、2000年代には入ってからはakb48のプロデュースを手掛け、実に4000曲を超える楽曲を作っている化物だ。


そんな男がUTUMIの為に動く。


中山の伸ばした手を、夏元が握ると二人してニヤリと笑う。

この取引現場に居合わせたマスターは、ずっと我関せずでコーヒーカップを磨いていた。



カラ〜ン♪


店を出て歩き始める夏元だが、さっきから顔がニヤけっぱなしだ、たまらず声を上げる。


「あはははは、まるで紅白がUTUMIの為の番組じゃないか!これは傑作だ、はははは」


夏元の楽しげな笑い声が、冬のビル街にこだまする。

感想や★★★は作者のモチベーションの向上に繋がります。是非お願いいたします。

次話は11月25日となります。

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