そんな事もあろうかと!
「うぅ、すんません、データは俺のパソコンに送ってください~」
「内海くん大丈夫?こっちでも出来るだけ対処するから心配しないで」
まぁ、別に隠してたわけじゃないのでバレても不思議じゃないのだが、昨日から俺の務めるデザイン事務所にマスコミやファンが押し掛けて来たらしい。この状態では流石に仕事にならないので丸ちゃん先輩から会社を休むようにと連絡をもらったのだ。
どうしてこうなった?アリアンティの時はこうはならなかったのに、やはりM-HOTOMIのライブ参加は不味かったか。
コツコツ騒ぎを積み重ねた結果だね、徐々に増えてるのに気づかずに限界が来て溢れた結果だ。こう言うのを自業自得と言う。コンプライアンスとは一体?
「どうですUTUMIさん、この際だからデザイン事務所を辞めてアーティスト1本でやって行くのは?」
「えぇ~、嫌ですよそんな不安定な仕事、昨日のテレビで大物タレントが借金こさえて落ちぶれてるの見たばかりなんですから」
あの人達稼ぐ額もすごいけど、借金の額も桁違いなんだよな、地道に生きれば一生分は普通に暮らせるのに馬鹿なんじゃなかろうか?
「また、タイミング悪くそんな番組を見る…」
中山さんからの電話で転職を勧められる、アミュズプロダクションとしても今の緩い契約では俺を守り切るのは難しいようだ、まぁ、パート社員みたいなもんだからな。
今のデザインの仕事はリモートでやれない事も無いが、やはり俺としてはクライアントに直接会って話をしながら仕上げていきたいのだ。
そう言えば春夏は学校で虐められないかな、陽子ちゃん副会長だし大丈夫だとは思うけど急に心配になってくる。
陽子と生徒会室でお昼を食べていると、竜太がやって来た。
「おい、春夏、お前のお姉さん大変な事になってるんだって、朝のワイドショーでやってたぞ」
「竜太、まぁね。今の状態じゃ遅かれ早かれこうなるんじゃないかとは思ってたけど、早かったなぁ」
最近のワイドショーはコンプライアンスうるさいから大丈夫かと思ってたんだけど、お兄ぃはアルバイト社員だから守りが薄かったか。
「けど、お姉さんの病気の事がそれにバレたら」
「あぁ、そっちは大丈夫よ、国の機密事項扱いだから絶対に情報の開示はしないって」
流石私の彼氏だな、すぐにそこに気づくとは感心感心。心配しなくても良いよ政府や月岡先生にはちゃんと確認取ってるから。それに実家の方はお母さんがなんとかするだろうから、大丈夫でしょ。
国家公認の偽造身分は伊達じゃ無いのよオホホ。なんかスパイみたいでカッコいいな。
「でもお姉様、お仕事しづらくなっちゃいますわ」
「まぁ、年末の紅白に出るまでは仕方ないかもしれないわね」
「「えっ、紅白出るの!」」
あれ?言ってなかったっけ。
「「聞いてないよぉ~」」
二人揃って声を上げる、お前らダチョークラブか。
ピンコ~ン♪
「は~い」
カチャ
「誰か確認もせずに開けるなんて不用心ですよ、お兄ちゃん」
「お母さん?」
ガミガミ
「大体お兄ちゃんは、昔から生き方がいい加減なんですよ、芸能活動をしている自覚が足りないんです、プライベートがバレればこうなることなんて今時の子供でもわかることですよ、今の時代特定班とか言われる人までいて怖いんですよ」
「はひっ」
「でも、家の事なら心配しなくても大丈夫です、こんな事になると思ってご近所さんには口裏あわせしてあります」
「えっ、そうなの?」
「当然です、あなたが高校の時からお母さん地道に準備していました」
「あ、それって勝手にオーディションに応募した時の」
「それが何か?」ギロリ
「いえ、ありがとうございますお母様。あれ?どんな口裏合わせ?時代が?」
「藤崎さんに子供の頃の合成写真まで作ってもらったんですよ」
「マジかぁ」
うぅ、いい歳して母親にマジ説教されるとは情けない、確かに俺の行動はちょっと無防備過ぎたかもしれない、こうなって迷惑がかかる人を想像出来てなかった。
「で、これからの事です」
母さんはトランクケースと車の鍵をずいっと押し出した。
「これは?」
「とりあえずこの騒ぎが収まるまで変装して車を変えなさい、お兄ちゃんはただでさえ目立つんですからせめてそれくらいはなさい」
「え、じゃあこの鍵って父さんの軽トラ?」
「変装の仕方はお母さんに任せなさい、別人に仕上げて見せるわ」
「うえぇ〜」
「こ、これが私ぃ」
あれ?前もこのセリフ言った覚えがあるぞ。
鏡に映る金髪美女、綺麗な事は綺麗だが確かに別人だ、長い髪をヴィックに押し込んで金髪ショートに、メイクだけでこんなにも顔つきって変わるもんなんだ、これ春夏でも俺だってわからないかもしれないな。
「で、仕上げは伊達メガネとパンツスーツよ、残念だけどしばらくは生足は封印しなさい」
「おぉ!なんでこんな事が出来るの、お母さん何者?」
「A secret makes a woman woman.よ」
あんた、絶対コナンくん好きでしょ、ベルモットかよ不二子ちゃんじゃないの。
「でもこのカッコで軽トラは似合わないと思うよ」
「あっ!」
車は結局、叔父さんの白いカローラを借りる事になった。しばらく軽トラで我慢してね。
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