年末のご予定は?
「内海さん、紅白歌合戦に出てみませんか?」
「えぇ!興味ないですよ」
うん、家は年末には紅白見ないからね。最後ちゃんと見たのっていつだったかな。
「まぁ、昔と違って今は若者のTV離れが進んでますからね、おかげで国営放送さんから是非話題のUTUMIさんをと頭下げられまして」
視聴率稼ぎに必死だな国営放送、でも去年は確か視聴率が20%ちょいだったかな、あれ?2部の話だっけ?
「お正月は、お姉ちゃんも私も実家でのんびりする予定なので駄目です」
「そこを何とか!」
中山さんが頭を床に擦り付けて土下座の姿勢をとる、おりょ、今回は随分と頑張るな?
でも残念だけど、お正月は譲れないな、今年はお年玉も期待出来そうだし、お母さんも張り切って料理を作るだろう。
孤独のグルメを見ながら角上魚類で買ってきたお刺身を食べてまったりするのだ。
あと、お年取りは実家が須坂なので鮭なのだ、陽子の家は鰤だと言っていた、同じ長野でも家によって違うのは面白いよね。
「あ、でもあの番組って大晦日だから、お正月は大丈夫なんじゃない」
あ、お兄ぃの馬鹿、何土下座されたくらいでなに絆されてるのよ。甘々だよ。
「けど、お姉ちゃん、あの番組は段取り悪いから出演者発表やリハーサルやらで、何回も時間取られて大変らしいよ、和田明子は喧嘩売ってくるらしいし」
「うぇ、そうなんだ、じゃあ嫌だな」
「そこは私が交渉してリハーサルだけで何とかしましょう、是非とも!」
なんか、いつにない必死さだな、どう言う事?
「いや、内海さん達の年代の若い人には実感湧かないと思いますが、私のような年代の者にとっては紅白歌合戦と言うのは特別な意味を持つ番組でして」
「「はぁ?」」
「若い頃はそれこそ必死の思いで局に頼み込んで、我が社所属の歌手をねじ込んだものです、それが当時の歌手にとってステータスのようなものでしたので、それなのに今や…」
まぁ、家もお父さんなんかは途中でチラチラとチャンネル変えて見てるもんね、昭和の人には何か特別な思いがあるのかもしれないね。サザエさんみたいなもんかな。
「近年では区別のつかない韓国のグループや下手くそな口パクアイドル団体ばかりで、本物と呼べる若手の歌手がいません、演歌は歌唱力はあるだろうけど若者には馴染みがなくて見向きもされない、本当に悔しい思いです」
ここで中山さんがガバリともう一度頭を下げる、うん、今日は熱い男だね。
「私は内海さんのような、本物のアーティストを日本中に見せつけてやりたいんです!どうかどうかご協力を!」
「「え~~っ」」
バンッ!!
「話は全て聞かせてもらったわ!春夏、年末の家族団欒は諦めなさい!」
「「お、お母さん」」
いきなり玄関のドアを開けてツカツカとアパートの部屋に入ってくるお母さん、手にはハンガーに掛かった派手な服を持っている。またか、もうタンスいっぱいで入んないよ。
しかし、ずっとドアの外で話聞いてたのかな?お父さんの意見は聞かなくていいの?
「中山さん、あなたの熱い思いは伝わったわ、私もジャニー◯があんな事になって寂しい思いをしていたの、良いわ!私の自慢の娘を好きなようにお使いなさいな、日本中にこの娘の魅力を見せつけておやりなさい!」
「お、お母様、ありがとうございます!このご恩はキムタクグッズで絶対にお返し致します」
「サイン付きでお願いしますわ」
中山さんがお母さんの手を熱く握る。
「でも、サッちゃんみたいな舞台セットのような衣装はダメよ、私がカッコいいのを用意します!」
うわぁ、お母さんも昭和の人だった。でも小林幸子はもう何年も紅白出てないぞ。
まぁ、あれが好きで紅白見てた人も多いから、なんとも言えないけどね。
「えぇ、今年の紅白って誰が出るんだ?クリーピーナッツは出る?」
お兄ぃは本当にマイペースだな。
あれ、お母さんがお兄ぃの所に。
「で、お姉ちゃんは、なんでそんなダサいジャージ姿なのかしら?」ズゴゴ
「私の用意した服はどうしたのかしらね〜」ズイ
「こ、これはですねお母様……」
あぁ、ジャージ姿だからスーパーで身バレしなかったのかぁ。
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