月刊スクリーン
お兄ぃが主題歌を歌う、福山雅春様が出演なさる映画、えっ主演はキムタクなの、は撮影は全て終わりクランクアップ状態になったがここから編集やら予告編が作られるらしい。
予告編が世間様に流れる時期になると、その主題歌を歌うお兄ぃにもインタビューやらのお仕事が入ってくる、今日も日曜だというのにいそいそと新幹線に乗り込んで行った。
お兄ぃ、福山雅春様に会う機会があったらちゃんとサインもらってくるんだぞ、春夏ちゃんへって書いてもらうの忘れんなよ。
アミュズプロダクションの1室。
風間翔子29歳、月刊スクリーンに入って5年目の編集者だ。
今日は新作映画の主題歌をあの菅野洋子が作ったと言うので取材のため、この会社を訪れている。
菅野洋子と言えばジャパニメーションブームの中、今や世界中に熱狂的なファンを持つ売れっ子作曲家、その彼女が自ら指名した新人歌手に主題歌を書き下ろしたとなればウチの雑誌としても取材せざるを得ない。
調べてみればこの新人、デビューしてまだ2曲目、しかしデビュー曲はあの世界的ギタリストM-HOTOMIが作詞作曲をし、レコーディングでは大絶賛されたと言うのだ。
まさに今アミュズの一推しアーティストと言えるだろう。
時計を見れば後5分で10時、もうじきこの部屋に菅野洋子とその新人歌手がやってくる、あ、ちょっと緊張してきた。メガネを拭きつつ同行したカメラマンを見れば、随分と念入りにカメラのチェックをしている?
何よ伝説のツインギターって、なんか興奮してない?
カチャ
「すみません、お待たせしまして」
部屋にスーツ姿の中年男性が入ってくる、あ、この人ってアミュズで有名な。
「アミュズの中山です、本日はウチの新人の取材よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ取材を受けてもらってありがとうございます」
中山さんと名刺交換を終えると、部屋の中に二人の女性が仲良さげに入って来る、それを見た瞬間私は雷に打たれたような気持ちになった。
なんて綺麗な、長い黒髪が風に靡いて揺れる、黒い細身のパンツと白いブラウス、シンプルなのに良く似合っている、何その長い脚。あ、目が会った。
「菅野洋子です、よろしくね」
「初めましてUTUMIです。今日のインタビューよろしくお願いします。いや〜、最近の編集さんはこんな綺麗な方がなさってるんですね、嬉しくなっちゃうな、どうです、この後お食事でも」
「は、はぁ、月刊スクリーンの風間翔子ですよろしくお願いします」
UTUMIにいきなり握手して距離を詰められる、いや、あんたの方が途轍もなく綺麗だよ、手柔らかいな、そして良い匂いするぅ。おいカメラマン、まだ挨拶しただけだからそんなにパシャパシャ撮らなくて良いよ、さてはお前UTUMIの事知ってたな、先に教えろよ。
菅野洋子さんは前に合同で取材したこともあって、どんな人物かは大体わかっている、あれだけ売れてるのにとても気さくなおばちゃんだ、こう言うタイプは話がしやすいのでこっちも楽だ。
しかし、この前に座る女性UTUMIは厄介かも。
可愛いだけのアイドルとは違って同性の私から見ても色気を感じるのに、凄く気やすい、いやこの熱い目は私を口説いてる、何で?えっ、もしかしてそっちの人!
「翔子さんはもうこのお仕事長いんですか?」
考え事をしてたらUTUMIに先に喋らせてしまった、やばっ、インタビュアーなのに。
「は、はい、もう5年になります」
「じゃあ、もうベテランですね、凄いなぁ、私なんかまだペーペーで、翔子さんみたいな出来る女の人って好きだな、あ、お酒はお飲みになられますか、私日本酒が大好きで…」
やっぱり口説かれてる、しかももう名前呼び、待ってちょっと頭がついていかない、心臓がドキドキする、私は今日ここに何しにきたんだっけ、しっかり私ぃ気合いを入れろ!
「そうなんですか。え〜、菅野さん、今回主題歌を作られてご苦労されたことは…」
強引に話を変えた私に、菅野さんは苦笑いを浮かべる、UTUMIは何でガッカリした顔してるの!
「今回の曲は本当にすぐに出来たんだよ、それこそUTUMIとここで初めて会ったその日にね」
「それは、どういった?」
「UTUMIと出会った時に曲が降りてきたんだよ、そこからは二人で夢中になって作り上げた、私達の最高傑作と言ってもいいね」
「二人で?菅野さんが一人で作ったのでなく?」
「クレジットを見ればわかるけど、今回は作詞作曲をUTUMIと共同でやったんだよ」
「いや、ほとんどが菅野さんですよ、私なんか一緒にギター弾いてただけですよ、ハハハ」
どう言うこと?だってあの菅野洋子と共同制作って、新人なんでしょ、あり得ないんですけど。
「ではUTUMIさんと本当に?」
UTUMIがポンと手を叩く。
「そうだ、じゃあ翔子さん、今日は私ギター持ってきてるから聞いてみます?菅野さんもキーボード持ってきてますよね」
「良いね、UTUMIとやるのは楽しいからね、大歓迎だよ」
「「はぁ!」」
UTUMIがギターケースから白いギターを取り出すと、中山さんが菅野さんのキーボードを持ってきてセッティングを始めた、本当に生歌聴けちゃうの。
このとんでもない展開、ちょっとカメラしっかり撮りなさいよ!ピンボケだったらクビにするわよ。
LaLaLa~~~~~~~~~~~~~♪
ギャギャリン!!
「…………………………」
「どう、凄くブルージィーでイカす曲だったでしょ、あの映画の雰囲気にも合ってる、やっぱUTUMIとのジャムは最高よね」
「菅野さんちょっとテンポ早かったですよ、あれだけ私に文句言っといて自分は…」
「…………………………」
どうしよう感動で声が出ない、こんなの生で聞かされたらマジで泣けるわ、視界が滲んでまともに見れない。
おかげでこの後のインタビューはグダグダで、自分でも何を聞いたか良く覚えていない。悔しぃ〜〜〜〜〜!
あぁ、駄目だ、私UTUMIのファンになっちゃった。
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